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痛風の痛い思い違い  [それ、ウソです]

 それ、ウソです(2)

 痛風の痛い思い違い


 江戸は蔵前の札差屋、伊勢屋の婆さまが、湯治に行っていた箱根から戻ってきた。  店の前で駕籠をおりた、彼女の後ろに立つ修験者姿の男に目をやって、 「おっかさん、そちらのお方は?」と、伊勢屋のあるじがたずねた。 「箱根で、このお方にご祈祷をしていただいたら、痛風が治りましたのでね。お連れしましたよ」(テレビ朝日「暴れん坊将軍Ⅲ」)


 この老母の台詞には大きなウソがある。なにか?

 それは「痛風が祈祷で治った」ということだろう─と思う人が多いだろうが、それよりももっと大きなウソは「老母の痛風」である。

 女性が痛風を発症することは、絶対ない─と言ってもいいくらい少ない。

「男の痛風、女のリウマチ」といわれるが、関節リウマチの患者の男女比が1:3か4である(女性のほうが男性よりも3~4倍多い)のに対して、痛風のそれは50:1(男性が女性の50倍多い)、痛風患者の98%以上は男なのである。

 まして、江戸時代に痛風になる日本人なんて、男女を問わず皆無に近かった。

 証人は、あのベルツだ。

 明治の日本に西洋医学を伝えたドイツ人医学者──東大医学部の横手の大樹の下にでんと鎮座しているでっかい銅像の主──が、

「日本人には痛風なし」と断定的に言い切っている。

 むろん、それはベルツの言い過ぎだが、それほど昔の日本ではまれな病気だったのだ。

 だから昭和34年、痛風治療のパイオニア、御巫清允(みかなぎ・きよのぶ)虎の門病院整形外科部長(のち自治医大教授、東京女子医大痛風リウマチセンター所長)が、「痛風の110症例」という臨床報告を発表したとき、日本の医学界はまずその「症例数の多さ」に驚いたのである。

 明治以来、日本の医学文献上に示された痛風は、そのときまでわずか80例に過ぎなかった。

「暴れん坊将軍」の脚本家は、伊勢屋の婆さまの病気を、「神経痛」にでもしておけばよかったのである。

 痛風は、血液中に尿酸という物質が異常に多くふえる「高尿酸血症」がベースとなって発症する。

 尿酸の結晶が手足の関節(足の親指が最も多い)に沈着すると、痛風発作と呼ばれる激痛を引き起こす。

 しかし、この痛風発作は、何の治療もしなくても1週間もすれば治まる。

 適切な治療を行えばもっと早く軽快するが、放っておいても時期がくれば痛みは自然に鎮まる。

 そのタイミングさえ合えば、祈祷でも治る(治ったようにみえる)のである。

 だが、痛風の基盤にある高尿酸血症──これは、祈祷では絶対に治らない。
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