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鎌倉以来の誤解 [それ、ウソです]

それ、ウソです(37)

 鎌倉以来の誤解

 しょうかち【消渇】①古く淋病(りんびょう)をいう語。②のどがかわき尿の出ない病気。かちの病。=三省堂『大辞林』
 しょうかち【消渇】①のどがかわいて小便が出なくなる病気。かちのやまい。②婦人の淋病。=小学館『大辞泉』


 これらはまあ必ずしもウソではない。

 だが決して本当とはいえない。

 漢方で、消渇──水がたくさん小便となって「消」え、のどが激しく「渇(かわ)」く病気──といえば「糖尿病」のことである。

 漢方の書物に記載された「消渇」の説明をいくつかマゴ引きしてみよう。

「男子の消渇では小便が多く一斗も飲み一斗も尿をする」=『金匱要略(きんきようりゃく)』。

「(消渇の症状は)のどが渇き、水を多く飲み、尿が頻回で、麩片(ふへん)に似て甜(あま)い」=『古今録験(ここんろくけん)』。

「消渇になると、膿(うみ)をもった腫(は)れものが生じる」=『諸病源候論(しょびょうげんこうろん)』。

 ─といったふうで、これらはみな糖尿病が進行したときの特徴的な症状である。

 だから『広辞苑』が、

「消渇 ①糖尿病。かちの病」とまず糖尿病を挙げたのは、さすがだが、そのあとに「②婦人の淋菌感染症の俗称」と続くのは、どうしたことか?

 糖尿病の研究・治療で知られた、故二宮陸雄先生の解説は、こうである。

「日本においては、平安時代に書かれた『医心方(いしんほう)』が中国の文献を引用して消渇を論じ、鎌倉時代に書かれた『万安方(よろずあんぽう)』も消渇を記載した。

 この頃から消渇は、淋病を指すように誤用され、室町時代には淋病を消渇として、本当の糖尿病は飲水病として記載した」(岩波書店『インシュリン物語』あとがき)。

 つまり、消渇=淋病は、鎌倉時代以来の誤解というわけだ。

 ところで、糖尿病という病名は、尿中に糖が排泄(はいせつ)される現象によるが、病気の本態は、糖を処理するホルモン(インスリン)の働きが低下し、血液中の糖の濃度(血糖値)が高くなることだ。

 血糖値の高い状態が長く続いていると、細い血管が詰まって、目(糖尿病網膜症)や腎臓(糖尿病性腎症)が侵され、手足の指先が腐る(糖尿病性えそ)。

 糖尿病の三大合併症である。

 さらに太い血管でも動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞にもなりやすい。

 しかし、血糖値が常に正常にコントロールされていれば、そうした最悪の結末を防ぐことができる。

 血糖のコントロールは「一に食事、二に運動、三、四がなくて五に薬」といわれる。

 栄養のバランスのとれた食事の腹七分目を守り、自分に合った適切な運動を習慣的に続けること。

 それが糖尿病を防ぎ・治すいちばんの心がけだ。

 なお、国連が定めた「世界糖尿病デー」の11月14日は、インスリンの発見者、フレデリック・バンティングの誕生日である。

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