「管」違い [それ、ウソです]
それ、ウソです(46)
「管」違い
同じような症状の病気に脊柱間狭窄症があります。(「どうしました」=朝日新聞2002年2月17日)
「200㍍も歩くと足がしびれて痛み、動けない。脚の血管が詰まっていると言われ、血管を広げる手術を勧められました」という73歳の男性の相談に対する、専門医の「答」の一部である。
重箱の隅を楊枝でほじくるような指摘だが、「脊柱間狭窄症」の「間」は「管」の誤植である。
正しくは「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」だ。
印刷物に誤植(校正のミス)はつきものなので、昔のへっぽこ編集者は校正ミスをやらかすと、よく言ったものだ。
「朝日新聞や岩波文庫にだって誤植はある」
バカな言い訳は、朝日新聞や岩波文庫の校正者に対する、逆説的な評価だった。
その朝日の誤植、珍しいな、と思い、記事を切り抜いておいた。
脊柱管狭窄症は、先年、みのもんたさんの入院手術でいっぺんに有名になった。
脊柱管とは、脊柱(背骨)の後ろのほうを上から下へ通っている、手の親指ぐらいの太さの管だ。
その中に脊髄(脳と体の各部を連絡する神経組織)が入っている。
脊柱管がいろいろな原因(多くは加齢)で狭くなって、神経根(脊髄から枝分かれする神経の根元)や神経周囲の血管を圧迫するために起こる病気が、脊柱管狭窄症である。
歩いていると、腰がだんだん痛くなり、脚がしびれて、もつれる。立ち止まって、しゃがんだり、腰かけたりして、腰を丸くして休むと、楽になる。
が、腰を上げて歩き始めると、また同じ症状が出て歩けなくなる。
この間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれる歩行障害が、脊柱管狭窄症のいちばんの症状だ。
これとほとんど同じような症状が出る病気が、ほかにもいくつかある。
なかで最も代表的な一つが、「閉塞性動脈硬化症(ASO)」で、「脚の血管が詰まっている」と言われた73歳男性の病気は、これだ。
動脈硬化が進んで、血栓などで血管が塞がり、血流が妨げられる病気で、足の動脈でよく起こる。
足の筋肉や神経が緊張し、歩いていると、足の裏やふくらはぎ、太もも、お尻などに痛みが生じ、歩き続けることができない。
しばらく休むと回復し、歩き始めるとまた痛くなる。
この間欠性跛行の症状は、脊柱管狭窄症と全く同じだ。
違うのは、姿勢性要素で、脊柱管狭窄症は、前かがみになると脊柱管が広がるので楽になるし、歩行器を使って前傾姿勢になれば、かなり長く歩ける。自転車も大丈夫だ。
しかし、ASOは、血管が詰まっているのだから、姿勢とは関係ない。
歩行器や自転車でも、痛くなる。
一方、同じ足の血管でも、動脈ではなく、静脈が詰まる「深部静脈血栓症」では、歩いているときはなんでもなく、立ち止まると痛くなる。
ASOと同じように、動脈が慢性的に詰まってくる病気に「閉塞性血栓血管炎」(別名バージャー病)がある。
日本では脱疽(だっそ)とか壊疽(えそ)と呼ばれ、江戸時代から知られていた。
主に若い男性の手足の血管が詰まって、強い痛みが起こり、潰瘍ができ、壊死する難病だが、1970年代から急速に減ってきた。
逆に、ASOは非常に増えている。
脊柱管狭窄症で死ぬようなことはないが、ASOが進行し、壊疽になると、患部を切断しなければならず、死に至る例も少なくない。
ASOの人は必ず糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙といった危険因子を持っている。
壊疽を防ぐには、一にも二にも早期発見・早期治療だ。
足が冷たい、しびれる……というようなときは、すぐさま血管外科へ。
「管」違い
同じような症状の病気に脊柱間狭窄症があります。(「どうしました」=朝日新聞2002年2月17日)
「200㍍も歩くと足がしびれて痛み、動けない。脚の血管が詰まっていると言われ、血管を広げる手術を勧められました」という73歳の男性の相談に対する、専門医の「答」の一部である。
重箱の隅を楊枝でほじくるような指摘だが、「脊柱間狭窄症」の「間」は「管」の誤植である。
正しくは「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」だ。
印刷物に誤植(校正のミス)はつきものなので、昔のへっぽこ編集者は校正ミスをやらかすと、よく言ったものだ。
「朝日新聞や岩波文庫にだって誤植はある」
バカな言い訳は、朝日新聞や岩波文庫の校正者に対する、逆説的な評価だった。
その朝日の誤植、珍しいな、と思い、記事を切り抜いておいた。
脊柱管狭窄症は、先年、みのもんたさんの入院手術でいっぺんに有名になった。
脊柱管とは、脊柱(背骨)の後ろのほうを上から下へ通っている、手の親指ぐらいの太さの管だ。
その中に脊髄(脳と体の各部を連絡する神経組織)が入っている。
脊柱管がいろいろな原因(多くは加齢)で狭くなって、神経根(脊髄から枝分かれする神経の根元)や神経周囲の血管を圧迫するために起こる病気が、脊柱管狭窄症である。
歩いていると、腰がだんだん痛くなり、脚がしびれて、もつれる。立ち止まって、しゃがんだり、腰かけたりして、腰を丸くして休むと、楽になる。
が、腰を上げて歩き始めると、また同じ症状が出て歩けなくなる。
この間欠性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれる歩行障害が、脊柱管狭窄症のいちばんの症状だ。
これとほとんど同じような症状が出る病気が、ほかにもいくつかある。
なかで最も代表的な一つが、「閉塞性動脈硬化症(ASO)」で、「脚の血管が詰まっている」と言われた73歳男性の病気は、これだ。
動脈硬化が進んで、血栓などで血管が塞がり、血流が妨げられる病気で、足の動脈でよく起こる。
足の筋肉や神経が緊張し、歩いていると、足の裏やふくらはぎ、太もも、お尻などに痛みが生じ、歩き続けることができない。
しばらく休むと回復し、歩き始めるとまた痛くなる。
この間欠性跛行の症状は、脊柱管狭窄症と全く同じだ。
違うのは、姿勢性要素で、脊柱管狭窄症は、前かがみになると脊柱管が広がるので楽になるし、歩行器を使って前傾姿勢になれば、かなり長く歩ける。自転車も大丈夫だ。
しかし、ASOは、血管が詰まっているのだから、姿勢とは関係ない。
歩行器や自転車でも、痛くなる。
一方、同じ足の血管でも、動脈ではなく、静脈が詰まる「深部静脈血栓症」では、歩いているときはなんでもなく、立ち止まると痛くなる。
ASOと同じように、動脈が慢性的に詰まってくる病気に「閉塞性血栓血管炎」(別名バージャー病)がある。
日本では脱疽(だっそ)とか壊疽(えそ)と呼ばれ、江戸時代から知られていた。
主に若い男性の手足の血管が詰まって、強い痛みが起こり、潰瘍ができ、壊死する難病だが、1970年代から急速に減ってきた。
逆に、ASOは非常に増えている。
脊柱管狭窄症で死ぬようなことはないが、ASOが進行し、壊疽になると、患部を切断しなければならず、死に至る例も少なくない。
ASOの人は必ず糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙といった危険因子を持っている。
壊疽を防ぐには、一にも二にも早期発見・早期治療だ。
足が冷たい、しびれる……というようなときは、すぐさま血管外科へ。
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