ピロリ菌と胃がん [それ、ウソです]
それ、ウソです(75)
ピロリ菌と胃がん
─この菌によって胃潰瘍、胃がんが起こるというのはもう定説になっているのでしょうか?
下山 いや、そんなことはありません。
この菌がいるからといって、胃潰瘍にはなりません。胃がんにもなりません。
たしかに胃炎にはなりますが、胃潰瘍や胃がんができるという実験は、まだ、誰も報告していません。(下山孝・兵庫医科大学第四内科教授。「ピロリ菌の正体と殺菌法」=『壮快』1994年8月号「名医に聞く」)
ヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)が、オーストラリアの研究者らによって発見されたのは1983年。
10年たったこのころ、この新顔細菌の作用がいろいろわかってきて、そのうえ日本人には感染者がとても多いということもあり、たとえば、
「僕の名前はピロリ 胃潰瘍の原因だぞ」(『AERA』1994年3月28日号)とか、
「ヘリコバクター・ピロリ 胃の中の“ありふれた”細菌 胃がんに関連か 患者に高い感染率」(『朝日新聞』1994年4月4日夕刊)
─といった報道がにぎやかに行われていた。
当方もその尻馬に乗って、当時、日本で最も先進的な研究者として知られた教授を訪ねて、まずいちばん気になることを聞いて、返ってきたのが、上掲の言葉だった。
いま、同じ質問をすれば当然、真逆の答えが返ってくるだろう。
これ、時代が変わると、ホント(と思われていたこと)がウソになる一例である。
以下、ピロリ菌に関する現代医学の定説と現状を要約してみる。
現在、日本のピロリ菌感染者は約6000万人(50歳以上では約7割が感染)。
ピロリ菌に感染すると、ほぼ100%の人に「ヘリコバクター・ピロリ胃炎」という慢性胃炎の一種が生じ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のもとになる。
慢性胃炎が長く続いて萎縮性胃炎に変わると、その一部から胃がんが発生してくる。
ピロリ菌に感染している人が必ずしもみな胃がんになるわけではないが、遺伝性のスキルス胃がんなどを除き、ほとんどすべての胃がんの人はピロリ菌に感染しているという。
国立国際医療センターの研究チームは、ピロリ菌に感染した1246人と感染していない280人を、8年間追跡調査した。
結果、感染者では約3%に胃がんが発生したが、非感染者ではゼロだったと報告している。
ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムを解明した畠山昌則・東京大教授(病因・病理学)は、「胃がんの99%はピロリ菌感染が原因です」と明言している。
がんは、生活習慣病由来(喫煙→肺がん・喉頭がんその他、高脂肪食→大腸がん、紫外線→皮膚がんなど)と、感染症由来(肝炎ウイルス→肝臓がん、ヒトパピローマウイルス→子宮頸がん)に大別される。
胃がんは従来、前者に分類されていたが、いまは後者に変わった。
「ピロリ菌は煙草なみの発がん物質」とは、WHO(世界保健機構)のことば。
日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のため、胃の粘膜にピロリ菌がいる人は全員、薬で除菌することを勧めている。
学会の提言を受けて、
まず2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者のピロリ菌の除菌治療が公的医療保険の適用となり、
2010年にはピロリ菌が原因の胃MALTリンパ腫と特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、内視鏡治療でがんを取り去った早期胃がんの再発防止─と対象が広がり、
2013年からは慢性胃炎もピロリ菌の除菌が保険でできるようになった。
ヘリコバクター・ピロリ胃炎であるかどうかを医療機関でチェックし、陽性とわかったら除菌を行うことをお勧めしたい。
無症状の若い人たちでは、胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを完全に抑えることができる。
中高年ではすでに前がん状態に進んでいる場合もあり、除菌後も定期的にフォローする必要がある。
「除菌後も必ず胃がん検診を受け続けます」と一筆とってから、治療を始める専門医もいる。
「これらを徹底すれば、10年後の日本で胃がんで亡くなる人は激減しているはずです」と、除菌の効果を臨床的に実証した浅香正博・北海道大学特任教授。
なお、食塩は胃粘膜のバリアーを侵し、ピロリ菌の毒素がしみ込みやすくなる。
胃がん予防には、塩分の取りすぎにも注意したい。
ピロリ菌と胃がん
─この菌によって胃潰瘍、胃がんが起こるというのはもう定説になっているのでしょうか?
下山 いや、そんなことはありません。
この菌がいるからといって、胃潰瘍にはなりません。胃がんにもなりません。
たしかに胃炎にはなりますが、胃潰瘍や胃がんができるという実験は、まだ、誰も報告していません。(下山孝・兵庫医科大学第四内科教授。「ピロリ菌の正体と殺菌法」=『壮快』1994年8月号「名医に聞く」)
ヘリコバクター・ピロリ(通称ピロリ菌)が、オーストラリアの研究者らによって発見されたのは1983年。
10年たったこのころ、この新顔細菌の作用がいろいろわかってきて、そのうえ日本人には感染者がとても多いということもあり、たとえば、
「僕の名前はピロリ 胃潰瘍の原因だぞ」(『AERA』1994年3月28日号)とか、
「ヘリコバクター・ピロリ 胃の中の“ありふれた”細菌 胃がんに関連か 患者に高い感染率」(『朝日新聞』1994年4月4日夕刊)
─といった報道がにぎやかに行われていた。
当方もその尻馬に乗って、当時、日本で最も先進的な研究者として知られた教授を訪ねて、まずいちばん気になることを聞いて、返ってきたのが、上掲の言葉だった。
いま、同じ質問をすれば当然、真逆の答えが返ってくるだろう。
これ、時代が変わると、ホント(と思われていたこと)がウソになる一例である。
以下、ピロリ菌に関する現代医学の定説と現状を要約してみる。
現在、日本のピロリ菌感染者は約6000万人(50歳以上では約7割が感染)。
ピロリ菌に感染すると、ほぼ100%の人に「ヘリコバクター・ピロリ胃炎」という慢性胃炎の一種が生じ、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のもとになる。
慢性胃炎が長く続いて萎縮性胃炎に変わると、その一部から胃がんが発生してくる。
ピロリ菌に感染している人が必ずしもみな胃がんになるわけではないが、遺伝性のスキルス胃がんなどを除き、ほとんどすべての胃がんの人はピロリ菌に感染しているという。
国立国際医療センターの研究チームは、ピロリ菌に感染した1246人と感染していない280人を、8年間追跡調査した。
結果、感染者では約3%に胃がんが発生したが、非感染者ではゼロだったと報告している。
ピロリ菌が胃がんを引き起こすメカニズムを解明した畠山昌則・東京大教授(病因・病理学)は、「胃がんの99%はピロリ菌感染が原因です」と明言している。
がんは、生活習慣病由来(喫煙→肺がん・喉頭がんその他、高脂肪食→大腸がん、紫外線→皮膚がんなど)と、感染症由来(肝炎ウイルス→肝臓がん、ヒトパピローマウイルス→子宮頸がん)に大別される。
胃がんは従来、前者に分類されていたが、いまは後者に変わった。
「ピロリ菌は煙草なみの発がん物質」とは、WHO(世界保健機構)のことば。
日本ヘリコバクター学会は、胃がん予防のため、胃の粘膜にピロリ菌がいる人は全員、薬で除菌することを勧めている。
学会の提言を受けて、
まず2000年に胃潰瘍・十二指腸潰瘍の患者のピロリ菌の除菌治療が公的医療保険の適用となり、
2010年にはピロリ菌が原因の胃MALTリンパ腫と特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、内視鏡治療でがんを取り去った早期胃がんの再発防止─と対象が広がり、
2013年からは慢性胃炎もピロリ菌の除菌が保険でできるようになった。
ヘリコバクター・ピロリ胃炎であるかどうかを医療機関でチェックし、陽性とわかったら除菌を行うことをお勧めしたい。
無症状の若い人たちでは、胃がん、胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを完全に抑えることができる。
中高年ではすでに前がん状態に進んでいる場合もあり、除菌後も定期的にフォローする必要がある。
「除菌後も必ず胃がん検診を受け続けます」と一筆とってから、治療を始める専門医もいる。
「これらを徹底すれば、10年後の日本で胃がんで亡くなる人は激減しているはずです」と、除菌の効果を臨床的に実証した浅香正博・北海道大学特任教授。
なお、食塩は胃粘膜のバリアーを侵し、ピロリ菌の毒素がしみ込みやすくなる。
胃がん予防には、塩分の取りすぎにも注意したい。
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