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背骨の混同 [それ、ウソです]

 それ、ウソです(87)

 背骨の混同 

 歩いていると急に左足の膝上が痛くなり、歩くのが困難になりました。整形外科でMRI検査をしたところ、脊椎間狭窄症と分かりました。(中尾寿和「患者の気持ち」=毎日新聞2014年9月7日)

 春先から腰痛がひどくて─略─2人の先生(医師)に診てもらったら、「椎間板ヘルニア」との診断。
 ちょうどその時、米国から専門医の福井康之先生が戻ってきて、「念のために診てもらおう」と訪ねたのが、運命の出会いでした。
 診察室に一緒にいた女房が「えっ、違うんですか」ってびっくり。
 「椎間板ヘルニアではありません。脊椎管狭窄症です」。(みの もんた『我が道』=スポーツニツポン2014年9月21日)

 中尾さんの「脊椎間狭窄症」は、明らかな誤表記。

 医師が告げた正しい病名「脊柱管狭窄症」の、「脊柱」を「脊椎」、「管」を「間」と聞き違えたのだろう。

 その誤表記が、本文だけではなく、ゴ丁寧に表題にも使われている。

 手記のマチガイに気づくどころか、そのマチガイ用語をわざわざ選んで見出しにし、それがそのままデスクの目も校閲記者の目もすんなり通過したようなのだ。

 「再思三省」を掲げる、充実した校閲部で知られる毎日新聞らしからぬミスである。

 まさか、投書欄だからと、軽視したわけではないだろうが。

 みのさんの「脊椎管狭窄症」はわりあいよくみられる誤用。

 正しくはむろん「脊柱管狭窄症」である。

 「脊柱」と「脊椎」。どう違うのか?

 脊柱はひらたくいえば「背骨」のこと。

 解剖学の本はこう説明している。

 「脊柱は椎骨の集まったものである。

 椎骨は元来、脊椎骨(略して脊椎)ともいわれ、脊椎動物(ヤツメウナギから人間まで)の名前の起源となった。

 脊椎を脊柱と混用する人があるが、それは誤りであり、脊椎は脊柱を構成する一個一個の骨をさしている。」(三井但夫著『新版 人体解剖学入門』=創元医学新書)

 ─なので、

 「脊椎 ①脊柱に同じ。②椎骨に同じ」という『広辞苑』の語釈の①は、ウソといわねばならない。

 同じ混同を犯している辞典も少なくないが、定義どおりの正しい説明をしている辞典もある。

 「脊椎 脊柱をなす骨。脊椎骨」=『大辞泉』。

 「脊椎 脊柱を形成している個々の骨をさし、会話にも文章にも使われる、やや専門的な漢語」=『日本語 語感の辞典』。

 ─というところで、「脊柱管狭窄症」の話。

 脊柱管とは、脊柱(背骨)の後ろのほうを上から下へ通っている、手の親指くらいの太さの管である。

 その中を脊髄(脳と体の各部を連絡する中枢神経)が走っている。

 ところが、脊柱管がいろいろな原因で狭くなって、脊髄から枝分かれする神経の根もと(神経根)や神経周囲の血管を圧迫するために起こる病気が、脊柱管狭窄症である。

 なかで最も多いのが、腰の馬尾神経が圧迫される「腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)」である。

 歩いていると、腰がだんだん痛くなり、足がしびれて、もつれる。

 しまいには足全体が痛くなって歩けなくなる。

 立ち止まって、しゃがんだり、腰かけたりして、腰を丸くして休むと症状が消えて楽になるのだが、腰を上げて歩き始めるとまた同じ症状が出て、歩けなくなる。

 この「間欠跛行(かんけつはこう)」と呼ばれる歩行障害がいちばんの症状である。

 ふつうの腰痛は、腰を前に曲げると、痛い。脊柱管狭窄症は、痛くない。

 楽になる。脊柱管の狭窄がすこし広がるからだ。腰を反らすと痛い。

 軽症のばあいは薬やコルセットなどの保存的療法、中等症以上の人には手術が勧められる。

 みのさんのような完全治癒例が多い。

 水前寺清子さん、高田純次さん、鳥越俊太郎さんなどもそうだった。
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