捲土重来 [雑感小文]
捲土重来
古い話をする。
太平洋戦争の緒戦、日本軍の攻勢に敵し得ずフィリピンから撤退するとき、米軍最高司令官ダグラス・マッカーサーは、
「アイ・シャル・リターン」と言い残した。
同じような台詞を吐いた人がいる。
無敵の王者だったモハメド・アリだ。
何回目かのタイトル防衛戦に敗れて、リングを去るとき、
「アイ・ウィル・リターン」と言った。
なぜ、マッカーサーは「シャル」で、アリは「ウィル」なのか?
マッカーサーが「戻ってくる」のは、この戦争の当然の帰結だから単純未来の「shall」で、
アリが戻ってくるには、強い意志とトレーニングが必要だから、意志未来の「will」なのだろう。 そんなように思っていた。
あるとき、ある用件で英語の専門家とメールのやりとりをしたついでに、本当はどうなのか? と聞いてみた。
以下はそれに対する、大八木広人・元拓殖大学教授のレクチャーだ。
「shallとwillの違いは、昔から日本人を悩ませている用法の一つで、I が主語の平叙文では、shallは単純未来で、willは意志未来と、われわれは教わりました。
しかし、アメリカ英語が世界を席巻するようになり、いまはshallはほとんど使われなくなっています」
「いま、アメリカ英語では、どんな場合でもwillを使うようになっています。
たぶん、短縮形でI'll...という言い方が多くなったからでしょう。
さて、そこでマッカーサーのshallと、アリのwillの違いですが、一つは時代とキャラクターの違いかもしれません。
ちょっと古いですが、shallは話し手の強い意志を表すことがあります。
willよりも語勢が強いのです。
で、マッカーサーは〈私は必ず戻ってくる〉と宣言し、アリは〈おれは戻ってくるサ〉と言い放ったのでしょう。
もしアリが〈アイ・シャル・リターン〉と言ったとしたら、彼に似合わぬ古くさい台詞に、笑いが起こったかもしれません」
なるほど、なるほど。
これも言葉が時代と共に変わる一例なのだろう。
──というところで、
この春、残念ながら受験を失敗した君へ。
この夏、甲子園で惜敗した君たちへ。
来春、来夏、必ず戻ってくることを期待します。
日本語には──いや、もとは唐の詩人の詩句だそうだが──捲土重来(けんどちょうらい)という言葉もある。
いまどきのコトバに訳せば、リベンジ、だ。
こつこつ、がんばれ!
古い話をする。
太平洋戦争の緒戦、日本軍の攻勢に敵し得ずフィリピンから撤退するとき、米軍最高司令官ダグラス・マッカーサーは、
「アイ・シャル・リターン」と言い残した。
同じような台詞を吐いた人がいる。
無敵の王者だったモハメド・アリだ。
何回目かのタイトル防衛戦に敗れて、リングを去るとき、
「アイ・ウィル・リターン」と言った。
なぜ、マッカーサーは「シャル」で、アリは「ウィル」なのか?
マッカーサーが「戻ってくる」のは、この戦争の当然の帰結だから単純未来の「shall」で、
アリが戻ってくるには、強い意志とトレーニングが必要だから、意志未来の「will」なのだろう。 そんなように思っていた。
あるとき、ある用件で英語の専門家とメールのやりとりをしたついでに、本当はどうなのか? と聞いてみた。
以下はそれに対する、大八木広人・元拓殖大学教授のレクチャーだ。
「shallとwillの違いは、昔から日本人を悩ませている用法の一つで、I が主語の平叙文では、shallは単純未来で、willは意志未来と、われわれは教わりました。
しかし、アメリカ英語が世界を席巻するようになり、いまはshallはほとんど使われなくなっています」
「いま、アメリカ英語では、どんな場合でもwillを使うようになっています。
たぶん、短縮形でI'll...という言い方が多くなったからでしょう。
さて、そこでマッカーサーのshallと、アリのwillの違いですが、一つは時代とキャラクターの違いかもしれません。
ちょっと古いですが、shallは話し手の強い意志を表すことがあります。
willよりも語勢が強いのです。
で、マッカーサーは〈私は必ず戻ってくる〉と宣言し、アリは〈おれは戻ってくるサ〉と言い放ったのでしょう。
もしアリが〈アイ・シャル・リターン〉と言ったとしたら、彼に似合わぬ古くさい台詞に、笑いが起こったかもしれません」
なるほど、なるほど。
これも言葉が時代と共に変わる一例なのだろう。
──というところで、
この春、残念ながら受験を失敗した君へ。
この夏、甲子園で惜敗した君たちへ。
来春、来夏、必ず戻ってくることを期待します。
日本語には──いや、もとは唐の詩人の詩句だそうだが──捲土重来(けんどちょうらい)という言葉もある。
いまどきのコトバに訳せば、リベンジ、だ。
こつこつ、がんばれ!
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