方丈記どたばた記 [雑感小文]
古本&.流布本
昨日はちょっとアセった。
朝、いつものように新聞一面のコラムの名言に感銘。
そこに引用された一節を、貧しい書架から引っ張り出した原典のなかに探したが、見つからなかったのだ。
折々のことば:154 鷲田清一
命は天運にまかせて、惜(をし)まず、いとはず。身は浮雲になずらへて、頼まず、まだしとせず。 鴨長明
少しでも長生きしたいとは思わないし、人生を厭(いと)って死に急ごうとも思わない。何かに寄りかかりたいとも、何かが足りないとも思わない。一生の楽しみは「うたたねの枕の上」に極まる。こう言い切れたのは、生死も日々の努力もみな泡沫(うたかた)のようなものだという認識から。そんな地点にときに立ち戻って、自らの来し方をふり返ってみたい。「方丈記」(角川文庫版)から。 (朝日新聞2015年9月5日)
一生の楽しみは「うたたねの枕の上」に極まる。
とは、なんとウレシイことを言うてくださったものではないか。
ぜひ、たどたどしい拾い読みながら、原文をちょこっと味わってみたいものだ。
そう思ったのだが、どこにもそんな文言は見当たらないのである。
えっ! えっ! なんでだよ!
わずか20ページばかりの紙面をいったりきたり、しまいには一行ずつ指でたどりながら探したのだが、ダメ。
そんなバカな!
ようやく気がついて、「解説」のページを開いて、疑問氷解。
「方丈記の諸本は、まず内容の分量によって、広本と略本とに分けられる。略本系統(最簡略本・延徳本・長享本)と称せられる諸本は、本書所収のような広本系統の本文といちじるしく内容を異にしている。
―略―
広本は古本系統と流布本系統に二大別される。前者に属するものとしては、まず本書の底本とした大福光寺蔵本(国宝)が代表としてあげられる。―略―」(『日本古典文学大系』岩波書店)。
―というわけである。
つまり、鷲田先生が引用された「角川文庫版」は、どうやら別の古本系統の一書か、流布本系統の一書なのだろう。
さて、どうする。
困ったときのネット頼み。
「命は天運にまかせて、惜しまず、いとはず」
と、Googleサマにお伺いを立てたら、すぐさまご出現くださった。
方丈記 流布本による補充
「方丈記第二段追加
おほかた、世をのがれ、身を捨てしより、恨みもなく、恐れもなし。命は天運にまかせて、惜まず、いとはず。身を浮雲になずらへて、頼まず、まだしとせず。一期の楽しみは、うたたねの枕の上にきはまり、生涯の望みは、をりをりの美景に残れり。」
ああ、どこのどなたかは存じませぬが、ありがとうございます!
「古本」大福光寺蔵本の「二」の末段、
「財(たから)あればおそれ多く、貧(まずし)ければうらみ切なり。人を頼めば、身、他の有なり。人をはぐくめば、心、恩愛につかはる。世にしたがへば、身くるし。したがはねば、狂せるに似たり。いづれの所を占めて、いかなるわざをしてか、しばしもこの身を宿し、たまゆらも心を休むべき。」
―に、この一節がつづくのだろう。
なるほど「流布本」らしいなにやら俗耳に入りやすい味のあることばではある。
いや、ベンキョーになりました。
昨日はちょっとアセった。
朝、いつものように新聞一面のコラムの名言に感銘。
そこに引用された一節を、貧しい書架から引っ張り出した原典のなかに探したが、見つからなかったのだ。
折々のことば:154 鷲田清一
命は天運にまかせて、惜(をし)まず、いとはず。身は浮雲になずらへて、頼まず、まだしとせず。 鴨長明
少しでも長生きしたいとは思わないし、人生を厭(いと)って死に急ごうとも思わない。何かに寄りかかりたいとも、何かが足りないとも思わない。一生の楽しみは「うたたねの枕の上」に極まる。こう言い切れたのは、生死も日々の努力もみな泡沫(うたかた)のようなものだという認識から。そんな地点にときに立ち戻って、自らの来し方をふり返ってみたい。「方丈記」(角川文庫版)から。 (朝日新聞2015年9月5日)
一生の楽しみは「うたたねの枕の上」に極まる。
とは、なんとウレシイことを言うてくださったものではないか。
ぜひ、たどたどしい拾い読みながら、原文をちょこっと味わってみたいものだ。
そう思ったのだが、どこにもそんな文言は見当たらないのである。
えっ! えっ! なんでだよ!
わずか20ページばかりの紙面をいったりきたり、しまいには一行ずつ指でたどりながら探したのだが、ダメ。
そんなバカな!
ようやく気がついて、「解説」のページを開いて、疑問氷解。
「方丈記の諸本は、まず内容の分量によって、広本と略本とに分けられる。略本系統(最簡略本・延徳本・長享本)と称せられる諸本は、本書所収のような広本系統の本文といちじるしく内容を異にしている。
―略―
広本は古本系統と流布本系統に二大別される。前者に属するものとしては、まず本書の底本とした大福光寺蔵本(国宝)が代表としてあげられる。―略―」(『日本古典文学大系』岩波書店)。
―というわけである。
つまり、鷲田先生が引用された「角川文庫版」は、どうやら別の古本系統の一書か、流布本系統の一書なのだろう。
さて、どうする。
困ったときのネット頼み。
「命は天運にまかせて、惜しまず、いとはず」
と、Googleサマにお伺いを立てたら、すぐさまご出現くださった。
方丈記 流布本による補充
「方丈記第二段追加
おほかた、世をのがれ、身を捨てしより、恨みもなく、恐れもなし。命は天運にまかせて、惜まず、いとはず。身を浮雲になずらへて、頼まず、まだしとせず。一期の楽しみは、うたたねの枕の上にきはまり、生涯の望みは、をりをりの美景に残れり。」
ああ、どこのどなたかは存じませぬが、ありがとうございます!
「古本」大福光寺蔵本の「二」の末段、
「財(たから)あればおそれ多く、貧(まずし)ければうらみ切なり。人を頼めば、身、他の有なり。人をはぐくめば、心、恩愛につかはる。世にしたがへば、身くるし。したがはねば、狂せるに似たり。いづれの所を占めて、いかなるわざをしてか、しばしもこの身を宿し、たまゆらも心を休むべき。」
―に、この一節がつづくのだろう。
なるほど「流布本」らしいなにやら俗耳に入りやすい味のあることばではある。
いや、ベンキョーになりました。
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