昔の名前で……!? [それ、ウソです]
それ、ウソです(89)
昔の名前で……!?
禾本科植物の花粉による《乾草の風邪》はフランスでは五月に特に多いが、一方ブタクサの類や菊科の花粉による《秋の風邪》は米国で九月に見られる。(エミール・デュオ著『気候と人間』奥田穣 岡本雅典 神山恵三共訳=白水社・文庫クセジュ)
一読、えッ、それって花粉症のことじゃないの? と思った人が多いだろう。
そう、そのとおりだけど、この本の発行は1955年8月5日。
当時の日本には「花粉症」という名の病気はなかった。
♪京都にいるときゃ 忍と呼ばれたの…ではないが、《乾草の風邪》も《秋の風邪》も花粉症の“昔の名前”である。
「禾本科(かほんか)」も古い用語で、今は「イネ(稲)科」と呼ばれている。
乾草や秋の「風邪」もおかしい(たぶん誤訳?)。
正しくは「枯草熱」で、英国の医師ジョン・ブロストックが最初に報告した病気である。
スコットランドの牧草地帯の村医者だった彼の診療所には、毎年、初夏のころになると、体が熱っぽく、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、涙目などを訴える患者がやってきた。
患者はみな農夫だった。
ブロストックは、そうした症状が干し草への接触によって発症することに気づいた。
そして9年間かけて集めた28の症例を「Hay fever(ヘイ フィーバー=枯草熱)」と名づけて発表した。1819年のことである。
その後、同様の症状は、花粉やカビ類を吸入しても起こり、干し草に接触して起こる症状も、原因は干し草に繁殖したカビであり、アレルギー性疾患の一種であることがわかった。
ある物質に対する人間の体の異常な過敏反応を、ギリシャ語の「アロス(allos=変わった)」と「エルゴ(ergon=作用)」をくっつけて、「アレルギー(allergia)」と命名したのは、オーストリアの小児科医クレメンス・V・ピルケ。1906年である。
一方、こちら日本で初めて花粉症が見つかったのは1961年、東大・物療内科の荒木英斉医師による「ブタクサ花粉症」で、ついで64年、東京医科歯科大・耳鼻咽喉科の斎藤洋三医師が「スギ花粉症」を報告した。
しかし当時の患者数はまだ微々たるものだった。
だから1955年発行の『広辞苑』第一版に「花粉症」の項目がないのは当然だが、69年発行の第二版にも76年の同補訂版にも、ない。
「枯草熱」も第一版にはなく、第二版から載っている。
花粉症患者がいきなりどっとふえて社会問題になったのは、70年代末から80年代初めだった。
で、83年発行の第三版にようやく「花粉症」がデビューした。
いまや国民の30%、ざっと4000万人が花粉症に悩まされ、その7割をスギ花粉症が占める。これは日本だけではない。
ブロストックは28症例を集めるのに9年かかったが、いま英国の枯草熱(アレルギー性鼻炎)の患者は人口の24%だという。
ところで、このごろ、くしゃみ、鼻水、よく出るのは、朝晩の冷えのせい?
いや、もしかしたら、それ、秋の花粉症かもしれない。
秋の花粉症の原因は、たいていブタクサやヨモギだが、季節はずれのスギ花粉症もあり得る。
猛暑の夏のあとは、10月から11月にかけて杉の木の花が一部開花する「狂い咲き」があるからだ。
「敏感な人は秋のうちからスギ花粉症を警戒したほうがいい」と耳鼻科医は呼びかけている。
昔の名前で……!?
禾本科植物の花粉による《乾草の風邪》はフランスでは五月に特に多いが、一方ブタクサの類や菊科の花粉による《秋の風邪》は米国で九月に見られる。(エミール・デュオ著『気候と人間』奥田穣 岡本雅典 神山恵三共訳=白水社・文庫クセジュ)
一読、えッ、それって花粉症のことじゃないの? と思った人が多いだろう。
そう、そのとおりだけど、この本の発行は1955年8月5日。
当時の日本には「花粉症」という名の病気はなかった。
♪京都にいるときゃ 忍と呼ばれたの…ではないが、《乾草の風邪》も《秋の風邪》も花粉症の“昔の名前”である。
「禾本科(かほんか)」も古い用語で、今は「イネ(稲)科」と呼ばれている。
乾草や秋の「風邪」もおかしい(たぶん誤訳?)。
正しくは「枯草熱」で、英国の医師ジョン・ブロストックが最初に報告した病気である。
スコットランドの牧草地帯の村医者だった彼の診療所には、毎年、初夏のころになると、体が熱っぽく、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、涙目などを訴える患者がやってきた。
患者はみな農夫だった。
ブロストックは、そうした症状が干し草への接触によって発症することに気づいた。
そして9年間かけて集めた28の症例を「Hay fever(ヘイ フィーバー=枯草熱)」と名づけて発表した。1819年のことである。
その後、同様の症状は、花粉やカビ類を吸入しても起こり、干し草に接触して起こる症状も、原因は干し草に繁殖したカビであり、アレルギー性疾患の一種であることがわかった。
ある物質に対する人間の体の異常な過敏反応を、ギリシャ語の「アロス(allos=変わった)」と「エルゴ(ergon=作用)」をくっつけて、「アレルギー(allergia)」と命名したのは、オーストリアの小児科医クレメンス・V・ピルケ。1906年である。
一方、こちら日本で初めて花粉症が見つかったのは1961年、東大・物療内科の荒木英斉医師による「ブタクサ花粉症」で、ついで64年、東京医科歯科大・耳鼻咽喉科の斎藤洋三医師が「スギ花粉症」を報告した。
しかし当時の患者数はまだ微々たるものだった。
だから1955年発行の『広辞苑』第一版に「花粉症」の項目がないのは当然だが、69年発行の第二版にも76年の同補訂版にも、ない。
「枯草熱」も第一版にはなく、第二版から載っている。
花粉症患者がいきなりどっとふえて社会問題になったのは、70年代末から80年代初めだった。
で、83年発行の第三版にようやく「花粉症」がデビューした。
いまや国民の30%、ざっと4000万人が花粉症に悩まされ、その7割をスギ花粉症が占める。これは日本だけではない。
ブロストックは28症例を集めるのに9年かかったが、いま英国の枯草熱(アレルギー性鼻炎)の患者は人口の24%だという。
ところで、このごろ、くしゃみ、鼻水、よく出るのは、朝晩の冷えのせい?
いや、もしかしたら、それ、秋の花粉症かもしれない。
秋の花粉症の原因は、たいていブタクサやヨモギだが、季節はずれのスギ花粉症もあり得る。
猛暑の夏のあとは、10月から11月にかけて杉の木の花が一部開花する「狂い咲き」があるからだ。
「敏感な人は秋のうちからスギ花粉症を警戒したほうがいい」と耳鼻科医は呼びかけている。
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