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神様とファイト [医学・医療・雑感小文]

神様とファイト

「私が今、侵されている病気の名前、病名は......ガンです」

 1993年9月6日、日本テレビのホールで行われた緊急記者会見。

 人気絶頂のキャスター、逸見政孝さんは、心中の煩悶を断ち切るようにきっぱりとそう言った。

 そして、東京女子医大消化器病センターに入院、10日後の9月16日、同センター所長・羽生富士夫教授らによる13時間にも及ぶ大手術を受けた。

 術後、一時は歩行訓練を行い、好物のたこ焼きを食べるなど順調な回復ぶりが見られた。

 が、10月23日、腸閉塞を起こし、以後は絶対安静、絶食(栄養点滴)、抗がん剤投与...と続くなか病状は急速に悪化、12月25日、死去した。

 たちまち、その手術に対する否定的言説が巻き起こった。

 そのころ教授に面接取材する機会があった。

 本題の話が終わった後、ぶしつけとは思ったが、聞いてみた。

「(逸見さんを)救えると信じておられましたか?」

「当たり前だ!」

ものすごい形相だった。

 自著「胃の手術を受ける方、受けた方へ」(主婦の友社)の中で教授は、こう述べている。

「私はよく、大手術を前にした患者さんに、『手術は100%救命をめざし、最善を尽くします。でも、その先は神様が決めること。自分は絶対に助かる側に入っていると信じるしかありません』と話します。

 医者と話し合った結果、『よーし、この病気と徹底的に闘ってやる、絶対に勝ってみせる!』というファイトがわけば、もう治療の行程の何分の一かを通過したようなものだと思います」

 うーん、神様と患者のファイトが頼りなのか?

 消化器外科の名医として知られた人の言葉は、あるいは多くの医師が思うことであり、医学・医療の限界を告知する言葉であり、生命の本質に触れる言葉でもあるだろう。

 そのうえで、教授はこう書いている。

「残念ながら胃ガンは、手術以外の治療法で根治可能なガンとは発生も性質も全く異なるものなので、現段階では〈切除〉以外に根治療法はありません。

 切除以外の治療法に飛びつく前に、ほかにいくつか病院を受診して複数の医者の意見も聞いてください。

 切除で治る段階だったものを、みすみす時期を逸し悪化させる例が少なくないからです」

 これは胃がんに限った話ではない。

 手術や抗がん剤や放射線を避けて、ほかの治療法に頼り、致命的な逆効果を招いてしまった。

 長年、絶えることなく聞く話である。

 そのもとにあるのはたぶん、その人が過去に見聞きした、がん治療への不信感だろう。

 だが現代医学は確実に進歩している。

 先入観にとらわれず、固定観念に縛られず、専門医を受診しよう。
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