1日3回 フラミンゴ! [医学・医療・雑感小文]
平成養生訓22
1日3回 フラミンゴ!
突然ですが、ちょっと立っていただけますか。
ハイ、ありがとうございます。
そしたら両手を腰にあてて、片方の足を上げます。
いえ、それほど高くなく、少し浮かすくらいで結構です。
目は開いたままでけっこうです。
そして、そのままどれくらいもつか、時計の秒針で測ってください。
これ、「開眼片脚起立」といって、体のバランス能力をみる医学的テストです。
15秒以上できたらOK。
あなたは、お若いデス!
では、続いてもう一つ。
こんどは椅子に腰掛けてください。
あ、その前に、椅子から3㍍先になにか目印をつけてください。
ハイ、椅子に腰掛けて、合図と共に立ち上がり、3㍍歩き、目印のところでターン、椅子に戻って再び腰掛けてください。
何秒かかりましたか? 11秒以内だったら合格です。
これもやはりバランス能力(動的バランス能力)と、それに加えて歩行能力、筋力をみるテストで、「3㍍タイムド・アップ・アンド・ゴー・テスト(略して3mTUG)」といいます。
話は変わるようで変わらないのですが、血液の循環にかかわる心臓や血管などを「循環器」、呼吸にかかわる肺や気管支などを「呼吸器」、消化にかかわる胃や腸などを「消化器」と呼ぶように、体の動きにかかわる手足、骨、関節などを「運動器」と呼びます。
ほかの器官と違って、運動器は、自分の意志で動かしたり、鍛えたりすることができます。
使わないとすぐ衰えるし、無理をすると故障してしまいます。
年をとると、バランス能力や歩行能力が低下し、ふらふらして転びやすくなったり、歩くのに杖が要るようになったりもします。
日本整形外科学会は、高齢者にみられるそうした状態を病気として認め、「運動器不安定症」と名づけました。
06年4月のことですから、まだほとんど知られていない、日本発の新しい疾患概念(病気についての考え方)です。
じつはさっきのテストは、運動器不安定症を見分けるためのもので、開眼片脚起立で10秒間立っていることができず、3mTUGが20秒以上かかるようだと、運動器不安定症と判定されます。
運動器不安定症の一番の問題は、転倒しやすくなることから、外出したくないという気持ちが生まれ、「閉じこもり」になってしまうことです。
外出頻度が週1回以下の閉じこもり状態の高齢者を、東京都老人総合研究所が、2年間、追跡調査したところ、そうでない高齢者に比べて、心や体の働きの低下が目立ち、寝たきりになりやすく、死亡率が2倍強だったと報告しています。
歩くときにふらふらして不安を感じるようになったら、まずは整形外科を受診しましょう。「運動器不安定症」と診断されたら、薬や温熱療法、リハビリなどを健康保険で受けることができます。
運動器不安定症を防ぐ最も簡単で効果的な方法は、「ダイナミックフラミンゴ療法」です。
やり方は、開眼片脚起立と同じで、左右1分間ずつ行います。
体がグラグラしてバランスがうまくとれなかったら、最初は壁などに片手をついて行うといいでしょう。
わずか1分間の片脚起立で、骨には約1時間歩いたのと同じくらいの負荷がかかり、1日3回3ヵ月続けた人では、6割以上の人が太ももの付け根の骨密度が上昇したそうです。
骨だけではなく、股関節や腰、背中周辺の筋肉も鍛えられるので、腰痛の改善にも役立つといわれます。
40~80歳代の女性100人を対象にした研究では、ダイナミックフラミンゴ療法を半年間継続した組と、行わなかった組では、半年後の平均開眼片脚起立時間が、前者は65秒だったのに対し、後者は34秒と2倍近い差ができ、半年間の転倒回数も、行わなかった組のほうが3倍以上も多かったということです。
さぁ、朝・昼・晩とフラミンゴになろう。おもしろいですヨ。
<(株)心美寿有夢のPR誌『絆』24号=2007年12月発行=より再録>
●追記
日本整形外科学会が「運動器不安定症」という病名を決めたのは、前記のように2006年でした。
次いで08年、高齢で移動が不自由な状態を「ロコモティブシンドローム(運動器症候群、ロコモ)」と名づけて発表しました。
運動器不安定症とロコモとの違いは、前者は保険収載された「疾患概念(病名)」で、後者は運動器の機能が低下し、バランスや歩行の能力が落ち、寝たきりや要介護になるリスクが高い「状態」ということです。
現在、「要介護」になる原因の2割はロコモで、脳卒中と同率だが、当事者の危機感が薄く事前に見つけにくい。
「メタボリックシンドロームの<メタボ>と同じように、ロコモも広く知られるようになってほしい」
―と、「早めに自覚し予防と受診」を呼びかけるプレスセミナーで、講師の先生が話しました。
じつはこのとき、小生はすでに両耳失聴状態だったので、会場での録音を後日、テープ起こしをしてもらい、記事にしたことを憶えています。
●さらにひとこと追記。
ロコモとも共通する点の多い用語、「フレイル」は、日本老年医学会の命名です。
フレイルのもとは、「虚弱」を意味する英語の「frailty」で、健康と病気の中間的な段階。
高齢になって筋力が衰える現象を「サルコペニア」といい、さらに生活機能が全般的に低くなると、フレイルとなる─ということです。
75歳以上の多くはこの段階を得て要介護状態に陥ると、同学会は、予防に取り組む提言を発表しました。
1日3回 フラミンゴ!
突然ですが、ちょっと立っていただけますか。
ハイ、ありがとうございます。
そしたら両手を腰にあてて、片方の足を上げます。
いえ、それほど高くなく、少し浮かすくらいで結構です。
目は開いたままでけっこうです。
そして、そのままどれくらいもつか、時計の秒針で測ってください。
これ、「開眼片脚起立」といって、体のバランス能力をみる医学的テストです。
15秒以上できたらOK。
あなたは、お若いデス!
では、続いてもう一つ。
こんどは椅子に腰掛けてください。
あ、その前に、椅子から3㍍先になにか目印をつけてください。
ハイ、椅子に腰掛けて、合図と共に立ち上がり、3㍍歩き、目印のところでターン、椅子に戻って再び腰掛けてください。
何秒かかりましたか? 11秒以内だったら合格です。
これもやはりバランス能力(動的バランス能力)と、それに加えて歩行能力、筋力をみるテストで、「3㍍タイムド・アップ・アンド・ゴー・テスト(略して3mTUG)」といいます。
話は変わるようで変わらないのですが、血液の循環にかかわる心臓や血管などを「循環器」、呼吸にかかわる肺や気管支などを「呼吸器」、消化にかかわる胃や腸などを「消化器」と呼ぶように、体の動きにかかわる手足、骨、関節などを「運動器」と呼びます。
ほかの器官と違って、運動器は、自分の意志で動かしたり、鍛えたりすることができます。
使わないとすぐ衰えるし、無理をすると故障してしまいます。
年をとると、バランス能力や歩行能力が低下し、ふらふらして転びやすくなったり、歩くのに杖が要るようになったりもします。
日本整形外科学会は、高齢者にみられるそうした状態を病気として認め、「運動器不安定症」と名づけました。
06年4月のことですから、まだほとんど知られていない、日本発の新しい疾患概念(病気についての考え方)です。
じつはさっきのテストは、運動器不安定症を見分けるためのもので、開眼片脚起立で10秒間立っていることができず、3mTUGが20秒以上かかるようだと、運動器不安定症と判定されます。
運動器不安定症の一番の問題は、転倒しやすくなることから、外出したくないという気持ちが生まれ、「閉じこもり」になってしまうことです。
外出頻度が週1回以下の閉じこもり状態の高齢者を、東京都老人総合研究所が、2年間、追跡調査したところ、そうでない高齢者に比べて、心や体の働きの低下が目立ち、寝たきりになりやすく、死亡率が2倍強だったと報告しています。
歩くときにふらふらして不安を感じるようになったら、まずは整形外科を受診しましょう。「運動器不安定症」と診断されたら、薬や温熱療法、リハビリなどを健康保険で受けることができます。
運動器不安定症を防ぐ最も簡単で効果的な方法は、「ダイナミックフラミンゴ療法」です。
やり方は、開眼片脚起立と同じで、左右1分間ずつ行います。
体がグラグラしてバランスがうまくとれなかったら、最初は壁などに片手をついて行うといいでしょう。
わずか1分間の片脚起立で、骨には約1時間歩いたのと同じくらいの負荷がかかり、1日3回3ヵ月続けた人では、6割以上の人が太ももの付け根の骨密度が上昇したそうです。
骨だけではなく、股関節や腰、背中周辺の筋肉も鍛えられるので、腰痛の改善にも役立つといわれます。
40~80歳代の女性100人を対象にした研究では、ダイナミックフラミンゴ療法を半年間継続した組と、行わなかった組では、半年後の平均開眼片脚起立時間が、前者は65秒だったのに対し、後者は34秒と2倍近い差ができ、半年間の転倒回数も、行わなかった組のほうが3倍以上も多かったということです。
さぁ、朝・昼・晩とフラミンゴになろう。おもしろいですヨ。
<(株)心美寿有夢のPR誌『絆』24号=2007年12月発行=より再録>
●追記
日本整形外科学会が「運動器不安定症」という病名を決めたのは、前記のように2006年でした。
次いで08年、高齢で移動が不自由な状態を「ロコモティブシンドローム(運動器症候群、ロコモ)」と名づけて発表しました。
運動器不安定症とロコモとの違いは、前者は保険収載された「疾患概念(病名)」で、後者は運動器の機能が低下し、バランスや歩行の能力が落ち、寝たきりや要介護になるリスクが高い「状態」ということです。
現在、「要介護」になる原因の2割はロコモで、脳卒中と同率だが、当事者の危機感が薄く事前に見つけにくい。
「メタボリックシンドロームの<メタボ>と同じように、ロコモも広く知られるようになってほしい」
―と、「早めに自覚し予防と受診」を呼びかけるプレスセミナーで、講師の先生が話しました。
じつはこのとき、小生はすでに両耳失聴状態だったので、会場での録音を後日、テープ起こしをしてもらい、記事にしたことを憶えています。
●さらにひとこと追記。
ロコモとも共通する点の多い用語、「フレイル」は、日本老年医学会の命名です。
フレイルのもとは、「虚弱」を意味する英語の「frailty」で、健康と病気の中間的な段階。
高齢になって筋力が衰える現象を「サルコペニア」といい、さらに生活機能が全般的に低くなると、フレイルとなる─ということです。
75歳以上の多くはこの段階を得て要介護状態に陥ると、同学会は、予防に取り組む提言を発表しました。
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