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耳あかとわきがの話 [医学・医療・雑感小文]

耳あかとわきがの話

文筆家の七つ道具の一つに「耳かき」を挙げたのは、故吉行淳之介氏だ。

頭の中で思考が足踏みしたり、ぐるぐる回りして、さっぱり前へ進まないようなときには、耳あかの掃除のような小さな手動作が、セルモーターの役目をすることがあると、なにかに書いていられた。

耳あかは、外耳道の皮膚の表皮がはがれたものや、耳垢(じこう)腺や汗腺の分泌物、ほこりなどが混じってできる。

乾燥した耳あか(乾型耳垢)と湿った耳あか(湿型耳垢)がある。

日本人の約8割は乾型だが、白人や黒人はほとんど湿型である。

乾型か湿型かは、同じ遺伝子のたった一つの塩基変化によって決定することを、2005年、長崎大学の研究チーム(医歯薬学総合研究科・新川詔夫教授)が世界で初めて突き止めた。

日本人の湿型は「縄文系」、乾型は大陸から渡来した「弥生系」と考えられるという。

湿型(ねっとり耳あか)は腋臭症(わきが)を合併する。

それについて、その一人である自分の体験を旧著(『専門医が教える 自分で治せる半病気』=1983年刊)に記したことがある。下はその冒頭の一節。

 むかし、あちこちスベったりコロんだりしたあげく、どうにか大学なるモノにもぐり込むことができて、九州のはじっこの島から上京したときの話―。

 途中、中国地方のある都市で鈍行列車を下りて、伯母(父親の姉)の家に一晩泊めてもらい、さて翌朝、出立まぎわのことだ。

 伯母がおれに小さな茶色の瓶をくれて、こういった。

「これでときどき腋の下を拭きンさい。わきがは遺伝やけェ、しかたがないけぇのう」

 このとき、伯母のこのことばによって、おれは自分の体臭が相当強烈なものであるらしいことと、世の中にはバカにつけるクスリはないが、わきがにつける薬はあるということの、二つの事実を知ったのである。─以下略。

長崎大グループの研究によると、耳垢型を決定する遺伝子は、薬剤耐性の遺伝子ABCC11と同じものである。

その「ABCC11遺伝子たんぱく質」が、どのような薬剤の代謝にかかわるのか、湿型耳垢と乾型耳垢とではどう異なるのか―がわかると、その薬剤に対する感受性の相違(早くいえば薬の効き目のちがい)を、薬をつかう前に知ることができる。個人化医療の実現が可能になるわけだ。

また、自分の話になるが、16年前に前立腺がんが発覚したとき、予後はあまりよくないといわれた。

なのに、よい医師に出会えて、薬がじつによく効いて、まだ普通に元気に生きていられる。

この薬との相性のよさに、もしかしたら、このネトネト耳あか体質も関係しているのかもしれない。

ネトネト耳あかの耳掃除には耳かきよりも綿棒が、カサカサ耳あかには耳かきのほうが適している。

だが耳の穴がかゆいときにかく(えもいわれぬ快感!)のは、耳かきに限る。

マッチ棒やヘアピンを用いるのはやめたほうがよい。きめが細かく感じやすい皮膚を傷つけて外耳道炎を起こすことがある。

耳あかがたまり過ぎて固まると、耳が詰まって聴こえが悪くなる。

ちゃんと病名がついていて、耳垢症とか耳垢栓塞というそうだ。

耳鼻科を訪ねると、耳垢水(グリセリンと重曹の混合液)をたらして、取り出してくれる。スコーンとして気持ちいいものらしい。
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