タバコ雑感 [「ヘルシーエッセイ」再録]
「One's Life」という健康総合ニュースサイトの片隅の小さな欄に毎週1本、「健康常識ウソホント」というタイトルの拙文を寄稿している。
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿の再利用である。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます。
ヘルシーエッセイ(5)
タバコ雑感
タバコを1日25本吸う人は11人に1人が肺がんで死んでいる―と、平山雄・国立がんセンター疫学部長がいっている。
12万人余の日本人を16年間継続観察したデータだそうだ。
平山先生はさらにこうもいっている。
1日50本以上の人は7人に1人が肺ガンで死んでいるが、吸わない人のそれは107人で1人に過ぎない。
なぁんだ、1日50本以上もタバコを吸って、7人のうち6人は大丈夫なのか、
それならオレだって・・・とタカをくくり、そのくせ一方では確率何百万分の1(どころか、何億分の1)の宝くじを買ったりする。
肺ガンにはならないだろう。
宝くじには当たるかもしれない、と思っているわけだ。
ずいぶんノー天気、気楽なものであるが、案外こういう人間のほうが長生きするのかもれしれない。
もちろん、こう言ったからとて、タバコの弁護をしているのではない。
こんなことはいまや常識だけれど、タバコはなにも肺ガンの原因になりやすいだけではない。
喉頭、口腔、食堂、膀胱、子宮などのガンも、喫煙者は非喫煙者の何倍も多いというし、脳卒中や心臓病もタバコがその要因の大きな一つになっている。
先ごろ、パリにあるインポテンツ調査研究センターの3人の学者が、英国の医学専門誌『ランセット』に発表した研究レポートによれば、インポテンツの8割はペニスの中の血管の機能低下によるものであり、これは常習的な喫煙や脂肪分の多い食事と密接な関係がるという。
これも別段意外なことではない。
とっくに証明されているようにニコチンは血管毒、神経毒だからだ。
それにしても、インポテンツ調査研究センターなんて、いかにもパリならではの感じであるが、これはまた別の話になる。
ピェール・ルイスというフランスの小説家が、ギリシャ文明と近代文明とを快楽(彼によれば唯一の価値あるもの)の視点から比較して、近代人は新しい快楽をたった一つしか発明していない、それはタバコだ―といっている。
そのほかのことでギリシャ人が享受していた快楽を、われわれが全く失わずに保有していると仮定して、さてわれわれが彼らにまさっているのは、少々の紫煙の量のみだというのである。
このユニークな学説?を、アルべール・ティボーデは、名著『小説の美学』の冒頭に引用して、こんなふうに述べている。
「私はピェール・ルイスはもう一つの新しい快楽、もしくは快適な時間つぶしを忘れていたことを指摘しよう。
しかも、小説家である人間がそれを忘れているのは心外だ。
つまり私のいうのは小説の読書である。
ギリシャ人は煙草も吸わず、小説も読まなかった。
彼等は時間を快くつぶさせる、この二つの方法を全く知らなかったのだ。(生島遼一訳)」
なるほど、だからこそ、おもしろい小説を読みながら、タバコに火をつけて一服くゆらすときの快感―あれはつまり快楽の二乗であるわけだとナットクしたしだいだが、そこにもう一つ、ギリシャ人も知っていた快楽(むろん、酒のことである)が加わると、もういうことはない。
たとえば、『越乃寒梅』などという酒のさかずきをゆっくり口に運びながら池波正太郎や藤沢周平を読む。
ビヤン・シャンブレ(飲みごろ)の赤ワインのグラスを傾けながら丸谷才一のページをめくる・・・というように酒と作家の間にも相性みたいなものがあるのではないか。
思いつきでいえば、野坂昭如には焼酎が合いそうだし。
吉行淳之介にはブランデー、開高健にはウイスキー、川上宗薫にはビール、赤川次郎にはキリン・レモン・・・というように。
また話がずれたが、先日、科学万博を見物に行った人から『中南梅』というタバコをもらった。
中国館で売っている(270円だった、と)そのタバコは、新品種のタバコの葉から有害物質をへらし、薬草をブレンドした「安全タバコ」で、高血圧や心臓病、気管支炎に効くのだそうな。
一服やってみて、これは日本たばこ産業株式会社の思わぬ伏敵ではないかと思った。
つまり、こんなまずいものを吸うくらいならと、タバコそのものをやめる人がふえるのではあるまいか?
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿の再利用である。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます。
ヘルシーエッセイ(5)
タバコ雑感
タバコを1日25本吸う人は11人に1人が肺がんで死んでいる―と、平山雄・国立がんセンター疫学部長がいっている。
12万人余の日本人を16年間継続観察したデータだそうだ。
平山先生はさらにこうもいっている。
1日50本以上の人は7人に1人が肺ガンで死んでいるが、吸わない人のそれは107人で1人に過ぎない。
なぁんだ、1日50本以上もタバコを吸って、7人のうち6人は大丈夫なのか、
それならオレだって・・・とタカをくくり、そのくせ一方では確率何百万分の1(どころか、何億分の1)の宝くじを買ったりする。
肺ガンにはならないだろう。
宝くじには当たるかもしれない、と思っているわけだ。
ずいぶんノー天気、気楽なものであるが、案外こういう人間のほうが長生きするのかもれしれない。
もちろん、こう言ったからとて、タバコの弁護をしているのではない。
こんなことはいまや常識だけれど、タバコはなにも肺ガンの原因になりやすいだけではない。
喉頭、口腔、食堂、膀胱、子宮などのガンも、喫煙者は非喫煙者の何倍も多いというし、脳卒中や心臓病もタバコがその要因の大きな一つになっている。
先ごろ、パリにあるインポテンツ調査研究センターの3人の学者が、英国の医学専門誌『ランセット』に発表した研究レポートによれば、インポテンツの8割はペニスの中の血管の機能低下によるものであり、これは常習的な喫煙や脂肪分の多い食事と密接な関係がるという。
これも別段意外なことではない。
とっくに証明されているようにニコチンは血管毒、神経毒だからだ。
それにしても、インポテンツ調査研究センターなんて、いかにもパリならではの感じであるが、これはまた別の話になる。
ピェール・ルイスというフランスの小説家が、ギリシャ文明と近代文明とを快楽(彼によれば唯一の価値あるもの)の視点から比較して、近代人は新しい快楽をたった一つしか発明していない、それはタバコだ―といっている。
そのほかのことでギリシャ人が享受していた快楽を、われわれが全く失わずに保有していると仮定して、さてわれわれが彼らにまさっているのは、少々の紫煙の量のみだというのである。
このユニークな学説?を、アルべール・ティボーデは、名著『小説の美学』の冒頭に引用して、こんなふうに述べている。
「私はピェール・ルイスはもう一つの新しい快楽、もしくは快適な時間つぶしを忘れていたことを指摘しよう。
しかも、小説家である人間がそれを忘れているのは心外だ。
つまり私のいうのは小説の読書である。
ギリシャ人は煙草も吸わず、小説も読まなかった。
彼等は時間を快くつぶさせる、この二つの方法を全く知らなかったのだ。(生島遼一訳)」
なるほど、だからこそ、おもしろい小説を読みながら、タバコに火をつけて一服くゆらすときの快感―あれはつまり快楽の二乗であるわけだとナットクしたしだいだが、そこにもう一つ、ギリシャ人も知っていた快楽(むろん、酒のことである)が加わると、もういうことはない。
たとえば、『越乃寒梅』などという酒のさかずきをゆっくり口に運びながら池波正太郎や藤沢周平を読む。
ビヤン・シャンブレ(飲みごろ)の赤ワインのグラスを傾けながら丸谷才一のページをめくる・・・というように酒と作家の間にも相性みたいなものがあるのではないか。
思いつきでいえば、野坂昭如には焼酎が合いそうだし。
吉行淳之介にはブランデー、開高健にはウイスキー、川上宗薫にはビール、赤川次郎にはキリン・レモン・・・というように。
また話がずれたが、先日、科学万博を見物に行った人から『中南梅』というタバコをもらった。
中国館で売っている(270円だった、と)そのタバコは、新品種のタバコの葉から有害物質をへらし、薬草をブレンドした「安全タバコ」で、高血圧や心臓病、気管支炎に効くのだそうな。
一服やってみて、これは日本たばこ産業株式会社の思わぬ伏敵ではないかと思った。
つまり、こんなまずいものを吸うくらいならと、タバコそのものをやめる人がふえるのではあるまいか?
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