酒に関する雑考 [「ヘルシーエッセイ」再録]
「One's Life」という健康総合ニュースサイトの片隅の小さな欄に毎週1本、「健康常識ウソホント」というタイトルの拙文を寄稿している。
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿の再利用である。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます。
ヘルシーエッセイ(19)
酒に関する雑考
兼好法師という人は、よくよく酒嫌いだったに違いない。
『徒然草』を開いてみると、
「友とするにわろき者」の一は、「酒を好む人」であり、また別の段にはえんえんと酒の悪口を書きつらねて、「百薬の長とはいへど、万の病は酒よりこそ起れ」ときめつけている。
まあ、そう指弾されても仕方のないようなところが、酒―というよりは、酒を好む人の一部(例外的一部) ―にあるのは確かなことだ。
ついでながら、酒は百薬の長という成句の出典は『前漢書』の「食貨志」だとかで、その原文は、
「それ、塩食は肴の将、酒は百薬の長なり」というものだそうだが、酒はともかく、塩食(食塩のとり過ぎ)が、高血圧の原因をつくる“百毒の長”であるのは、いまや常識である。
古言を現代の目で見直すと問題がある例の一つだろう。
(注・前漢書=中国の正史の一。食貨志=食と貨幣についての章)
ま、しかし、なんのかのといっても、酒が男の人生に不可欠のものであるのは、厚生省の「日本人の心の健康調査」をみても明らかである。
それによれば、男性のストレス解消法の第1位は「酒」で、女性のそれは「おしゃべり」である。
例の酒嫌いの法師でさえ、
「近づかまほしき人の、上戸にてひしひしと馴れぬる、またうれし」(かねて近づきになりたいと思っていた人が上戸で、酒を酌み交わし、急に親密に打ちとけるのは、うれしいことである)─と、酒の効用の一面を認めているくらいだ。
男と女が惚れあったら、抱き合うなり、なんなりしたらよろしいが、男心に男が惚れたからって、そんなことするのはバッチイから、かわりに酒を酌み交わす。
酒は男と男のセックスである。
だから、飲み過ぎてはならぬとわかっていても、つい飲み過ぎてしまう愉快な酒があり、またときには無理しても飲まねばならぬつらい酒もある。
そこで、です。
酒は飲んでも、悪酔い、二日酔いはしたくない、という通俗的柔弱な健康志向をおもちの諸兄に、京都府立医大の研究報告をゴ紹介しよう。
昔から酔いざましには柿がよいといわれているが、そのことを科学的に証明するために、京都府立医大の小方重男教授らは、ウサギを使って対照実験をした。
ウサギを二つのグループにわけて、一つのグループには柿の実のジュース(熟した富有柿を果皮ごとすりつぶしてガーゼでしぼった液)を、別のグループには砂糖水(柿の実ジュースと同量の糖分を含有)を飲ませ、その前後に10%濃度のアルコールを飲ませた。
そして、ウサギの血液の中の、アルコールやアセトアルデヒト(体内でアルコールが変化した有害な物質)の濃度の移り変わりを調べた。
すると、柿の実のジュースを、アルコールよりも30分前に飲ませたグループでは、血中のアルコールやアセトアルデヒドのふえ方が少なく、またそれが消失する時間も早かった。
つまり、酔い方が軽くて、早くさめた。
ところが、アルコールを飲ませて60分後に柿の実ジュースを与えたグループでは、同じ条件で砂糖水を与えたグループとの差が、ほとんど見られなかった。
このことから、悪酔い防止の目的で柿を食べるのなら、酒を飲んでからよりも、飲む前のほうが効果的だということがわかった。
なぜ、柿にそんな効果があるのか?
それは柿に含まれているタンニンによるアルコール吸収抑制と、ビタミンB2、ビタミンC、糖類によるアルコールの代謝促進のせいである。
それなら、お茶、コーヒー、ココア、あるいはミカン、リンゴ、レモンなどにも、ほぼ同様の物質が含まれているのだから、同じような効果が期待できるはずだ。
悪酔い・二日酔い防止には、酒を飲む前にミカンを食べて、酒のあとでお茶を飲むこと―おタメシください。
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿の再利用である。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます。
ヘルシーエッセイ(19)
酒に関する雑考
兼好法師という人は、よくよく酒嫌いだったに違いない。
『徒然草』を開いてみると、
「友とするにわろき者」の一は、「酒を好む人」であり、また別の段にはえんえんと酒の悪口を書きつらねて、「百薬の長とはいへど、万の病は酒よりこそ起れ」ときめつけている。
まあ、そう指弾されても仕方のないようなところが、酒―というよりは、酒を好む人の一部(例外的一部) ―にあるのは確かなことだ。
ついでながら、酒は百薬の長という成句の出典は『前漢書』の「食貨志」だとかで、その原文は、
「それ、塩食は肴の将、酒は百薬の長なり」というものだそうだが、酒はともかく、塩食(食塩のとり過ぎ)が、高血圧の原因をつくる“百毒の長”であるのは、いまや常識である。
古言を現代の目で見直すと問題がある例の一つだろう。
(注・前漢書=中国の正史の一。食貨志=食と貨幣についての章)
ま、しかし、なんのかのといっても、酒が男の人生に不可欠のものであるのは、厚生省の「日本人の心の健康調査」をみても明らかである。
それによれば、男性のストレス解消法の第1位は「酒」で、女性のそれは「おしゃべり」である。
例の酒嫌いの法師でさえ、
「近づかまほしき人の、上戸にてひしひしと馴れぬる、またうれし」(かねて近づきになりたいと思っていた人が上戸で、酒を酌み交わし、急に親密に打ちとけるのは、うれしいことである)─と、酒の効用の一面を認めているくらいだ。
男と女が惚れあったら、抱き合うなり、なんなりしたらよろしいが、男心に男が惚れたからって、そんなことするのはバッチイから、かわりに酒を酌み交わす。
酒は男と男のセックスである。
だから、飲み過ぎてはならぬとわかっていても、つい飲み過ぎてしまう愉快な酒があり、またときには無理しても飲まねばならぬつらい酒もある。
そこで、です。
酒は飲んでも、悪酔い、二日酔いはしたくない、という通俗的柔弱な健康志向をおもちの諸兄に、京都府立医大の研究報告をゴ紹介しよう。
昔から酔いざましには柿がよいといわれているが、そのことを科学的に証明するために、京都府立医大の小方重男教授らは、ウサギを使って対照実験をした。
ウサギを二つのグループにわけて、一つのグループには柿の実のジュース(熟した富有柿を果皮ごとすりつぶしてガーゼでしぼった液)を、別のグループには砂糖水(柿の実ジュースと同量の糖分を含有)を飲ませ、その前後に10%濃度のアルコールを飲ませた。
そして、ウサギの血液の中の、アルコールやアセトアルデヒト(体内でアルコールが変化した有害な物質)の濃度の移り変わりを調べた。
すると、柿の実のジュースを、アルコールよりも30分前に飲ませたグループでは、血中のアルコールやアセトアルデヒドのふえ方が少なく、またそれが消失する時間も早かった。
つまり、酔い方が軽くて、早くさめた。
ところが、アルコールを飲ませて60分後に柿の実ジュースを与えたグループでは、同じ条件で砂糖水を与えたグループとの差が、ほとんど見られなかった。
このことから、悪酔い防止の目的で柿を食べるのなら、酒を飲んでからよりも、飲む前のほうが効果的だということがわかった。
なぜ、柿にそんな効果があるのか?
それは柿に含まれているタンニンによるアルコール吸収抑制と、ビタミンB2、ビタミンC、糖類によるアルコールの代謝促進のせいである。
それなら、お茶、コーヒー、ココア、あるいはミカン、リンゴ、レモンなどにも、ほぼ同様の物質が含まれているのだから、同じような効果が期待できるはずだ。
悪酔い・二日酔い防止には、酒を飲む前にミカンを食べて、酒のあとでお茶を飲むこと―おタメシください。
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