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首の動脈を切る!? [それ、ウソです]

それ、ウソです(91)

 首の動脈を切る!?

 最初の発作は五年前で、あやうく命を落とすところでした。心筋梗塞を起こしていたのです。救急車で心臓外科のある病院に運ばれ、特別治療室でカテーテル(治療用の細い管)による手術を受けました。首の部分の動脈を切って、心臓の冠動脈までカテーテルを入れ、ニトロの溶液を二四時間流し込んで詰まったものを溶かしました。(『壮快』1996年5月号)

 牛乳にきな粉を溶かす「きな粉ドリンク」の健康効果を称揚する読者の体験談の一節である。

 Kさん(誌面では実名=78歳)は、きな粉ドリンクで狭心症の発作が起こりにくくなったというオドロキの効果を話している。

 ほんとかな? 思わず指先にツバをつけて眉にぬってみたくもなるが、ま、それはこのさいどうでもいいことにしよう。

 どうでもよくないのは、「首の部分の動脈を切って、心臓の冠動脈までカテーテルを入れ…」である。

 首の部分の動脈って、頸動脈だろう。人体の急所ですよ。そんなところを切ったらどうなるか、子どもでもわかることじゃないか。

 これは、首の「動脈」ではなく「静脈」に、「切る」のではなく「針を刺し」、カテーテルを挿入する「スワンガンツカテーテル」のことをいっているのだろう。

 類似の医療行為による事故例がある。

「動脈に傷 患者死亡  北里大学病院(相模原市)で2013年8月、医師が60代の患者の首にカテーテルを通す際に誤って動脈を傷つけるなどして、その後患者が死亡していたことが19日、わかった。病院が発表した。
 ――中略――
 30歳の病棟医と28歳の研修医がカテーテルを首の静脈に挿入する際、準備として試験的に刺す針を過って動脈に2回刺した。―以下略」(朝日新聞2015年1月19日夕刊)。

 針を刺しそこなっただけでもこうなのだ。

 しつこくてわるいけど、「首の動脈を切って…」はいけません。

 スワンガンツカテーテルとは、心筋梗塞や心不全などの患者の心機能を連続的に測定するために使用する医療機器だ。スワン氏とガンツ氏が発明したのでそう呼ばれる。

 首や腕、鎖骨下などの静脈からカテーテルを挿入し、右心(心臓の右側)を経て肺動脈内に留置、肺動脈圧(肺動脈の血圧)や心拍出量(心臓から11分間に拍出される血液の量)などを測定する。

 心血管系疾患の重症患者の術前、術中、そして術後管理になくてはならないモニタリングデバイスとされている。

 心筋梗塞は、冠動脈内での血栓形成(血液の塊ができる)が原因なので、カテーテルを冠動脈内に挿入し、血栓溶解剤のウロキナーゼ(ニトロではない)を注入する方法が行われたこともある。

 現在、心筋梗塞の治療は、心臓カテーテルによる血管内治療(冠動脈インターベンション=PCI)が主流になっている。

 手首、腕、太ももの付け根の動脈からカテーテルを挿入し、冠動脈の狭窄部分を確認、血管が詰まっていたら、ただちに血栓で詰まった血管を開く治療を始める。

 PCIには、最初に開発されたバルーン拡張術(カテーテルの先端についた風船をふくらませて血管を拡張する方法)や、動脈硬化切除術(血管の中にたまったアテロームをレーザーなどで削り取る方法)などがあるが、いま最も普及しているのは、血管の狭窄部分に金網状のステント(筒)を置く「冠動脈内ステント留置術」である。

 ある日突然、激しい胸の痛みを感じたら、一刻も早く病院へ! 

 生きて病院にたどり着けさえすれば、心筋梗塞の95%は命が助かる。

(株)ORTIC のHp「それ、ウソです」を再録。
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