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「脂肪の常識」の変転  [医学・医療・雑感小文]

「脂肪の常識」の変転 

◎マリリンとマーガリン

マリリン・モンローの新婚旅行は日本だった。

1954(昭和29)年の2月1日~25日。夫のジョー・ディマジオや同行のフランク・オドウル監督らとともに東京、福岡、岩国、大阪、奈良などの各地を訪ねた。

最初の1週間と離日前の5日間は東京・帝国ホテルに宿泊。

のちに総料理長となる村上信夫さん(故人)は、美容と健康に気を使う人気女優の徹底した食生活管理にとことんつき合った。

油はすべてマーガリン、肉はヒツジの背肉。

「モンローの来日が契機となって、日本にダイエットという考え方が定着したと言えるかもしれません」

と、村上さんは自著で振り返っている。

そう、そうだった。

バターよりもマーガリンのほうが「体にいい」といわれ始めたのは、あのころだった。「コレステロール」なる耳慣れないコトバの解説付きで─。

動物性脂肪のバターは、血液中のコレステロールをふやし、動脈硬化を促進し、心臓病の発症率を高める。

反対に、植物性脂肪のマーガリンはコレステロールを下げて、心臓病を予防する、と。

以来、植物油信奉の風潮は長く時代を支配しつづけた。

厚生省(現・厚生労働省)が1985年に策定した「健康づくりのための食生活指針」にも、「動物性の脂肪より植物性の油を多めに」とある。

植物油の主成分(脂肪酸)は、リノール酸、α-リノレン酸、オレイン酸などだが、リノール酸が多いことが最上の要素とされ、「リノール酸リッチ」を謳うサフラワー(紅花)油が大いにもてはやされた。


◎リノール酸衰退

ところが、いま、リノール酸はすっかり影をひそめ、マーガリンは体によくない、といわれるようになっている。

リノール酸を摂り過ぎると、血栓ができやすく、心臓病や脳卒中のリスクが高くなる。がんの発症もふえる。アレルギー反応性も高まる─というようなことが、疫学調査や動物実験でわかってきたからである。

マーガリンは、リノール酸リッチのうえ、液体の植物油を固体にするときにできる「トランス脂肪酸」というさらに厄介な代物が加わる。

トランス脂肪酸には、悪玉コレステロールをふやす働きがあり、大量に摂りつづけると、動脈硬化や心臓病につながる。

2003年、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)の合同専門家会議は、「1日の総エネルギー摂取量に占めるトランス脂肪酸の比率を1%未満に」と勧告した。

そして現在、欧米諸国、シンガポール、韓国などでは、食品中のトランス脂肪酸の含有量の規制や表示の義務化が行われている。

日本では、「外国と比べて摂取量が少なく、健康への影響は小さい」とされていたが、若者や女性に高摂取層があることが判明し、消費者庁が11年、含有量表示の指針を発表した。


◎EPA・DHA全盛

そうした一連の風潮のなかで代わって登場したのが、α-リノレン酸、オレイン酸と魚油に多く含まれるEPA、DHAである。

かつてはリノール酸リッチを売り物にした紅花油も、いまは「品種改良によりオレイン酸が豊富です」と、ぬかりはない。

オレイン酸の豊富な植物油といえば、なんといってもオリーブ油だが、これにもなんやらかんやらあって、「ニセ物だらけのエキストラバージンオリーブオイル」という記事を読んだこともある。

むろん、本物の最高品質のオリーブ油だからといって、それさえ使っていれば万全ということはない。

食べ物や栄養が健康や病気に与える影響を誇大に信奉する「フードファディズム」は、賢く避けたい。

新しい「食生活指針」も、先の「植物油を多めに」を訂正するかたちで、「動物、植物、魚由来の脂肪をバランスよくとりましょう」と勧めている。
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