疲れをためない“脳疲労”のリセット術 [医療小文]
最新の研究で、疲労の正体が明らかになってきています。
その鍵は、脳の自律神経にありました。
さらに、実際の疲労と、自覚する疲労感にズレが生じる「自覚なき疲労」の存在に警鐘が鳴らされています。
疲労の正体を知り、疲れをためない生活にシフトチェンジしましょう。
あなたは疲れをためやすい人? 疲労が「たまる」原因をチェック!
以下の項目で当てはまると思うものがいくつありますか?
□健康には自信がある
□残業しても、やりがいのある仕事がしたい
□仕事が生きがいだ
□ストレス解消法は、激しい運動やアウトドアだ
□仕事は休息せずに一気に集中して片づけたい
□忙しい時期は睡眠時間を削る
□疲労回復に栄養ドリンクやサプリメントなどをよく利用している
チェックが多い人ほど、疲労がたまりやすく、疲れがとれにくくなっている可能性が高いと考えられます。
運動後の疲れも、仕事の疲れもメカニズムは同じ
かつて、運動による疲労は「乳酸」のせいとされていましたが、近年、疲労の原因は別にあることがわかってきました。
運動中は、心拍や血圧などを保つために、脳の視床下部にある自律神経が働きます。
自律神経の神経細胞が働くと活性酸素が生じ、それが神経細胞を酸化させてさびつかせます。
すると、運動のパフォーマンスが低下するなど、疲労が目に見えて、現れてきます。
一方のデスクワークは、主にパソコンを使った作業なので、脳のある一定の回路だけを連続して使うことになります。
すると、その部分の神経細胞に活性酸素が多く生じ、その結果、頭が働かないなどの疲労感を感じるようになります。
このように、身体的、精神的に作業効率が低下する現象が「疲労」だと言われています。
つまり、運動後の疲れも、仕事の疲れも、「疲れた」と感じるしくみは「脳」にあるのです。
疲れの原因は脳細胞の機能低下
疲労因子(FF)の発見で「疲労」の測定が可能に
仕事や運動など「疲れること」をすると、脳の神経細胞や、内臓や感覚器など脳以外の臓器に活性酸素が発生します。
細胞がさびついて機能が低下すると、疲労因子となるたんぱく質「ファティーグ・ファクター(FF)」が誘発されます。
この疲労因子(FF)を健康なマウスに与えると、動きが悪くなるという研究結果があります。
つまり、疲労因子(FF)が血液中に増加するほど「疲労がたまった」状態になり、それだけでパフォーマンスが落ちるということです。
このことから、血液中の疲労因子(FF)を調べることで、近年「疲労」を計測できるようになりました。
疲労を回復させる物質も発見
脳は、疲労因子(FF)を抑制する疲労回復因子「ファティーグ・リカバー・ファクター(FR)」もつくり出します。
疲労因子(FF)が発生すると、疲労回復因子(FR)も活性化、化学反応を起こして疲労因子(FF)の性質を中和し、抑制するように働きます。
心身に負荷をかけずリラックスして過ごす時間、とりわけ睡眠中には、疲労回復因子(FR)が優位に働きます。
しかし、睡眠時間を削って仕事や遊びに行ったりして休養が十分に取れていないと、疲労回復因子(FR)の働きが追いつかなくなります。
それは、疲労回復因子(FR)は、疲労因子(FF)が出てからでないと発生せず、あらかじめ発生させておくことができないからです。
そのため、疲労するごとに、こまめに回復する必要があるということです。
達成感でマスキングされる疲労とは
仕事や家事で忙しいときほど、達成感から「疲れも吹き飛ぶ」などと言うことがあります。
しかし、これは実際に疲労が回復しているわけではありません。
やりがいのある仕事や、スポーツで好成績を残すなど、実際の疲労と自覚される疲労感にズレが生じるのは、疲労を感情が覆い隠して(マスキング)しまうことが原因です。
休日に友人と過ごす、趣味に熱中する、スポーツで汗をかくことなどは気持ちを前向きにしますが、疲労因子も増加します。
楽しい時間=休養と考えると、疲労回復因子の働きが追いつかず、疲れがたまってしまうので注意しましょう。
栄養ドリンクでは疲労はとれない
また、疲労を回復するために栄養ドリンクやサプリメントを利用している人もいますが、これらの多くには、気分を高揚させたり、眠気を覚醒させるような成分が含まれています。
そのため、脳が疲労感というアラームを発してもいても、一時的にはマスキングされてしまい、仕事を続けることになるのです。ドリンクで回復していると思い込んでいるところ、さらに無自覚のうちに疲労をため込んでいるので、危険な行為といえます。
正しい回復方法で疲労を予防する
疲労はため込まずにこまめにリセットを
疲労はたまればたまるほど回復に時間がかかります。
ベストなパフォーマンスを保ち、重度な病気を引き起こさないためにも、疲労をため込まないことが大切です。
疲労をリセットする(FFを抑制したり、FRを働かせたりするための)方法を、いくつか紹介しますので、できることから取り入れてみましょう。
<今日からできる疲労のリセット術>
○1日に数回、一人きりになる時間をつくる
仕事中も、合間に休憩をとってトイレの個室に入るなどして一人になる時間をつくり、人間関係の気疲れから回復する時間をもちましょう。
○運動は軽いストレッチやウォーキング
マラソンなど激しい運動は、酸素を多く使うぶん、活性酸素も多く発生させます。
軽い運動なら疲労をためず、血行がよくなるので、おすすめです。
○仕事は作業を細かく変えて、そのつど休憩をとる
「飽きた」と感じたら、疲労がたまり始めたサイン。別の作業をして、ひとつの神経回路を連続して使いすぎないようにしましょう。
○鶏むね肉やサバ、イワシなどを食べる
いくつかの研究によると、鶏むね肉に含まれるイミダゾールジペプチドに抗疲労効果があると言われています。
また、サバやイワシなどに多く含まれるn-3系脂肪酸は、摂取量が少ないと疲労につながると考えられています。
○紫外線をブロックする
紫外線は皮膚の細胞で活性酸素を生み、疲労因子(FF)の増加につながります。
夏はもちろん、冬でも直射日光を避け、日焼け止めを使いましょう。
○睡眠時間を削らない
十分な睡眠は疲労回復に直接的な効果があります。
ただし、睡眠の質が悪いと回復につながらないので、いびきや睡眠時無呼吸などの異常があったり、いくら寝ても回復しなかったりする場合は、専門のクリニックを受診しましょう。
長く続く強い疲労感は病気の可能性も
長時間眠ったり、たっぷり休養をとっても疲労感が抜けない場合、慢性疲労症候群や突発性慢性疲労、肝臓やすい臓などの病気が原因の可能性があります。
病的な疲労は、専門医の治療が必要になります。
内科や心療内科などで慢性疲労症候群の治療を行っている医療機関を調べて受診してみましょう。
監修:柳澤裕之(東京慈恵会医科大学 疲労医科学研究センター長)
「みんなの健康ライブラリー」2018年2月掲載より (C)保健同人社
その鍵は、脳の自律神経にありました。
さらに、実際の疲労と、自覚する疲労感にズレが生じる「自覚なき疲労」の存在に警鐘が鳴らされています。
疲労の正体を知り、疲れをためない生活にシフトチェンジしましょう。
あなたは疲れをためやすい人? 疲労が「たまる」原因をチェック!
以下の項目で当てはまると思うものがいくつありますか?
□健康には自信がある
□残業しても、やりがいのある仕事がしたい
□仕事が生きがいだ
□ストレス解消法は、激しい運動やアウトドアだ
□仕事は休息せずに一気に集中して片づけたい
□忙しい時期は睡眠時間を削る
□疲労回復に栄養ドリンクやサプリメントなどをよく利用している
チェックが多い人ほど、疲労がたまりやすく、疲れがとれにくくなっている可能性が高いと考えられます。
運動後の疲れも、仕事の疲れもメカニズムは同じ
かつて、運動による疲労は「乳酸」のせいとされていましたが、近年、疲労の原因は別にあることがわかってきました。
運動中は、心拍や血圧などを保つために、脳の視床下部にある自律神経が働きます。
自律神経の神経細胞が働くと活性酸素が生じ、それが神経細胞を酸化させてさびつかせます。
すると、運動のパフォーマンスが低下するなど、疲労が目に見えて、現れてきます。
一方のデスクワークは、主にパソコンを使った作業なので、脳のある一定の回路だけを連続して使うことになります。
すると、その部分の神経細胞に活性酸素が多く生じ、その結果、頭が働かないなどの疲労感を感じるようになります。
このように、身体的、精神的に作業効率が低下する現象が「疲労」だと言われています。
つまり、運動後の疲れも、仕事の疲れも、「疲れた」と感じるしくみは「脳」にあるのです。
疲れの原因は脳細胞の機能低下
疲労因子(FF)の発見で「疲労」の測定が可能に
仕事や運動など「疲れること」をすると、脳の神経細胞や、内臓や感覚器など脳以外の臓器に活性酸素が発生します。
細胞がさびついて機能が低下すると、疲労因子となるたんぱく質「ファティーグ・ファクター(FF)」が誘発されます。
この疲労因子(FF)を健康なマウスに与えると、動きが悪くなるという研究結果があります。
つまり、疲労因子(FF)が血液中に増加するほど「疲労がたまった」状態になり、それだけでパフォーマンスが落ちるということです。
このことから、血液中の疲労因子(FF)を調べることで、近年「疲労」を計測できるようになりました。
疲労を回復させる物質も発見
脳は、疲労因子(FF)を抑制する疲労回復因子「ファティーグ・リカバー・ファクター(FR)」もつくり出します。
疲労因子(FF)が発生すると、疲労回復因子(FR)も活性化、化学反応を起こして疲労因子(FF)の性質を中和し、抑制するように働きます。
心身に負荷をかけずリラックスして過ごす時間、とりわけ睡眠中には、疲労回復因子(FR)が優位に働きます。
しかし、睡眠時間を削って仕事や遊びに行ったりして休養が十分に取れていないと、疲労回復因子(FR)の働きが追いつかなくなります。
それは、疲労回復因子(FR)は、疲労因子(FF)が出てからでないと発生せず、あらかじめ発生させておくことができないからです。
そのため、疲労するごとに、こまめに回復する必要があるということです。
達成感でマスキングされる疲労とは
仕事や家事で忙しいときほど、達成感から「疲れも吹き飛ぶ」などと言うことがあります。
しかし、これは実際に疲労が回復しているわけではありません。
やりがいのある仕事や、スポーツで好成績を残すなど、実際の疲労と自覚される疲労感にズレが生じるのは、疲労を感情が覆い隠して(マスキング)しまうことが原因です。
休日に友人と過ごす、趣味に熱中する、スポーツで汗をかくことなどは気持ちを前向きにしますが、疲労因子も増加します。
楽しい時間=休養と考えると、疲労回復因子の働きが追いつかず、疲れがたまってしまうので注意しましょう。
栄養ドリンクでは疲労はとれない
また、疲労を回復するために栄養ドリンクやサプリメントを利用している人もいますが、これらの多くには、気分を高揚させたり、眠気を覚醒させるような成分が含まれています。
そのため、脳が疲労感というアラームを発してもいても、一時的にはマスキングされてしまい、仕事を続けることになるのです。ドリンクで回復していると思い込んでいるところ、さらに無自覚のうちに疲労をため込んでいるので、危険な行為といえます。
正しい回復方法で疲労を予防する
疲労はため込まずにこまめにリセットを
疲労はたまればたまるほど回復に時間がかかります。
ベストなパフォーマンスを保ち、重度な病気を引き起こさないためにも、疲労をため込まないことが大切です。
疲労をリセットする(FFを抑制したり、FRを働かせたりするための)方法を、いくつか紹介しますので、できることから取り入れてみましょう。
<今日からできる疲労のリセット術>
○1日に数回、一人きりになる時間をつくる
仕事中も、合間に休憩をとってトイレの個室に入るなどして一人になる時間をつくり、人間関係の気疲れから回復する時間をもちましょう。
○運動は軽いストレッチやウォーキング
マラソンなど激しい運動は、酸素を多く使うぶん、活性酸素も多く発生させます。
軽い運動なら疲労をためず、血行がよくなるので、おすすめです。
○仕事は作業を細かく変えて、そのつど休憩をとる
「飽きた」と感じたら、疲労がたまり始めたサイン。別の作業をして、ひとつの神経回路を連続して使いすぎないようにしましょう。
○鶏むね肉やサバ、イワシなどを食べる
いくつかの研究によると、鶏むね肉に含まれるイミダゾールジペプチドに抗疲労効果があると言われています。
また、サバやイワシなどに多く含まれるn-3系脂肪酸は、摂取量が少ないと疲労につながると考えられています。
○紫外線をブロックする
紫外線は皮膚の細胞で活性酸素を生み、疲労因子(FF)の増加につながります。
夏はもちろん、冬でも直射日光を避け、日焼け止めを使いましょう。
○睡眠時間を削らない
十分な睡眠は疲労回復に直接的な効果があります。
ただし、睡眠の質が悪いと回復につながらないので、いびきや睡眠時無呼吸などの異常があったり、いくら寝ても回復しなかったりする場合は、専門のクリニックを受診しましょう。
長く続く強い疲労感は病気の可能性も
長時間眠ったり、たっぷり休養をとっても疲労感が抜けない場合、慢性疲労症候群や突発性慢性疲労、肝臓やすい臓などの病気が原因の可能性があります。
病的な疲労は、専門医の治療が必要になります。
内科や心療内科などで慢性疲労症候群の治療を行っている医療機関を調べて受診してみましょう。
監修:柳澤裕之(東京慈恵会医科大学 疲労医科学研究センター長)
「みんなの健康ライブラリー」2018年2月掲載より (C)保健同人社
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