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急性膵炎の原因 [医学・医療・雑感小文]

急性膵炎の原因は胆石4割、飲酒3割、デパケン、ACE阻害薬も!
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正

 吉本芸人の初代M-1王者の兄弟漫才コンビの兄の中川剛氏や、チュートリアル福田氏、大木ひびき氏も急性膵炎を起こしたと報道がありました。

 チュートリアル福田氏は毎日ビール1.5L、焼酎をロックで3杯飲んでいたとのことです。

 膵炎で体重は60kgから45kgに減ったとのこと。

 急性膵炎は小生、自分で治療することはありませんが、コモンな疾患ですし以前から気になっていた総説でしたのでまとめてみました。

 この数年で急性膵炎の治療はかなり変わったようです。

 1. 毎日ビール1.5L or ワイン1本 or ウイスキー200mL、5年で慢性膵炎

 急性膵炎のうち、30%はアルコールが原因です。

 アルコールによる膵炎は1日4~5 drinksを5年以上飲んでいる人に多いそうです。

 アルコール1drinkとはアルコール換算14gのことで、ビール350mL、ワイン150mL、ウイスキー45mLぐらいです。

 ということは、「膵炎を起こすのが1日4~5 drinksを5年」ですから、毎日ビール1.5L or ワイン750mL or ウイスキー200mLくらいを5年間飲むということでしょうか。

 森鷗外の『独逸日記』を読むと鴎外は、ビールは1.5Lが限界とのことでしたが同僚のドイツ人たちは10~11Lくらい平気で飲むと驚いています。

 ベルリンで鷗外が下宿していた部屋が現在、マリーエン通りに保存されており外壁にでかでかと「鷗外」と漢字で書いてあります。

 鷗外は、この下宿の娘が頻繁に鷗外の部屋にやって来てベッドに座り長々と話し込んでいくのに耐えかねて下宿を替えています。

 鷗外はこの下宿からすぐ近くのCharite病院に通っていたのです。

 ここはコッホやウィルヒョウがいたところです。

 Charite病院は現在もあります。敷地内にベルリン医学史博物館があり法医学の特別展示をやっていました。

 この辺りからベルリンの行政中枢に至るモルトケ橋は、独ソ戦の際の激戦地です。

 鷗外はベルリンに到着した日に日本公使館を訪ねています。

 青木周蔵公使から「学問とは書を読むのみをいふにあらず。欧州人の思想はいかに、その生活はいかに、その礼儀はいかに、これだに善く観ば、洋行の手柄は十分ならむといはれぬ。」とあり青木公使なかなか良いことを言うなあと感心します。

 鷗外はベルリン市内を散策し、「遠く望めばブランデンブルグ門を隔てて緑樹枝をさし交はしたる中より半天に浮かび出でたる凱旋塔(Siegessaeule、ジーゲスゾイレ)の神女の像」とあります。

 金色の女神が頂上に立つジーゲスゾイレ(勝利の円柱)は現在もあり明治10年代に鷗外はこれを目にしていたのだなあと感動します。

 鷗外はライプチヒ大学にも留学しています。

 ライプチヒに、鷗外も訪れたアウエルバッハ酒場(Auerbachs Keller)が今でもあります。

 ここはゲーテの『ファウスト』の中で「ライプチヒなるアウエルバハの穴倉」として出てくる舞台です。

 ファウストはもし「時間よ止まれ。おまえは美しい!」と叫べるほど充実した人生の時間があれば命を取られてもよいと独り言を言います。

 それを聞き付けた悪魔メフィストフェレスがファウストにありとあらゆる楽しみや恋愛を経験させるのです。

 しかしファウストは最終的にかんがい工事の最中、「人の役に立つことをする時が一番充実している」と気付くのです。気が付いた瞬間に「時間よ止まれ。おまえは美しい、Verweile doch du bist so schoen、フェアヴァイレ ドッホ ドゥ ビストゥ ゾー シェーン」と叫びその瞬間にメフィストフェレスに命を奪われるのです。

 130年前、明治19年1月、鷗外は友人の井上とこのアウエルバッハ酒場を訪れ『独逸日記』に「ギョオテのファウストFaustを訳するに漢詩体を以てせば如何かと語りあひ...」と記しました。

 小生、ウエートレス(フロイライン)に「森鷗外の...」と一言言ったら、森鷗外、井上、悪魔メフィストフェレスを描いた壁画の前に連れて行ってくれました。

 ビールと旬のアスパラガスをおいしく頂きました。

 そういえば「ギョエテ(Goethe)とは俺のことかとゲーテ言い」という川柳があります。

 2.たまの過飲で急性膵炎は起こさない

「へー」と思ったのは、たまの過飲では急性膵炎は起こさないというのです。

 酒飲みでは膵炎の生涯リスクは2~5%で女性より男性に多く、たいてい慢性膵炎があって急性増悪(フレア)を起こします。

 以前、知り合いの医師がアルコール性肝硬変の患者さんのアナムネを取っていて「俺の飲酒量の方がよっぽど多い」とぼやいていました。

 ただなぜアルコールが膵炎を起こすのかよく分からないようです。

 機序はアルコールの直接の毒性、免疫関与などではとのことです。

 意外に基本的なことが分かっていないんだなあと思いました。

 3.アル中の診断はCAGE : Cut、Annoy、Guilty、Eye openerの4つ

 アルコールによる膵炎は30%ですが、慢性膵炎があって急性フレアを起こします。

 アルコール中毒かどうかは次のCAGEの質問をするのだそうです。

 要するに、「人に迷惑をかけて罪悪感を感じつつ、分かっちゃいるけどやめられない」と朝酒を飲むのがアル中です。

【アル中は病歴と次のCAGE質問で診断】

 ① アルコールをCutすべきと思ったか?

 ② 「酒を断て」と他人を煩わせた(Annoy)か?

 ③ 飲酒について罪悪感(Guilty)を感じたか?

 ④ 二日酔いをさますために朝酒(Eye opener)を飲むか?

 民謡『会津磐梯山』で小原庄助さんが「朝寝朝酒朝湯が大好きでそれで身上潰した」とありますが、「朝酒(eye opener)って、アル中のキーワード」だったのかあと驚きました。

 Cut、Annoy、Guilty、Eye openerでCAGEです。

4.急性膵炎の原因は胆石4割、アルコール3割、デパケン、ACE阻害薬も

 急性膵炎の原因は胆石が40%、アルコールが30%で、この2つが最も多いそうです。胆石による膵炎の診断は、膵炎に胆石・胆泥の合併、肝酵素異常によります。

 内視鏡エコーで小さな胆囊結石、胆管結石も分かります。

 画像上、総胆管結石(choledocholithiasis)であれば内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は妥当です。

 膵臓の偽性囊胞や被包化壊死(WON;walled-off pancreatic necrosis)では内視鏡下エコーをプラットホームにして最小侵襲手術が行われます。

 ただERCP自体が膵炎の原因になるのだそうで、急性膵炎の5~10%に上るそうです。

 ERCP後に膵炎が起こるのです。

 だから不必要なERCPはやるなとのことです。

 ERCPによる膵炎症状はNSAID坐剤や一時的な膵管stent留置で治まります。

「へー」と思ったのは、心肺バイパスを行った患者で膵虚血を起こし膵炎を起こすことがあるというのです。膵炎の5~10%だそうです。

 その他、膵炎の1%未満ですが外傷もあります。鈍的外傷、穿通外傷で起こるのです。

 特に脊椎を横断する膵臓中部で起こります。

 さらにウイルスや寄生虫による感染も膵炎を起こします(1%未満)。

 ウイルスではCMV、Mumps、EBVがあります。

 寄生虫ではascaris (回虫)、clonorchis (肝吸虫:第一中間宿主マメタニシ、第二中間宿主コイ科、ワカサギなどの生食で胆管炎、岡山、琵琶湖、八郎潟、利根川)があります。

 以前、東京から来た腹痛の観光客に腹部エコーを当てたら肝臓内に石灰化性の隔壁が幾つもありました。

「あのー、もしかして山梨のご出身ですか?」と聞いたところ、「えっ、なんで分かるんですか?」とひどく驚かれました。

 昔、山梨の笛吹川流域は日本住血吸虫の流行地でした。

「確かに13歳の時、日本住血吸虫で入院しました」とのことでした。

 隣にいたナースに「先生すごい!」と尊敬されました。まるで刑事コロンボになった気分でした。えっへん。

 また小生、知らなかったのですが、薬剤による膵炎が5%未満であるというのです。特に多いのアザチオプリン(商品名イムラン、アザニン)、メルカプトプリン水和物(ロイケリン)、ジダノシン(抗HIV薬:ヴァイデックス)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、ACE阻害薬だというのです。

 なおGLP-1受容体刺激薬(インクレチン製剤:ビクトーザ、バイエッタ)が膵炎を起こすデータはないそうです。

 デパケンやACE阻害薬による膵炎なんて小生今まで考えたこともありませんでした。

 ただ薬剤性膵炎はたいてい軽症だそうです。

 また薬剤による膵炎の診断は難しいとのことです。

 義父がくも膜下出血の術後にデパケンを内服していました。

 脳外科の外来で「デパケンはまだありますか?」と聞かれてついうっかり正直に「あーる、ある。馬にくれるほどある」と答えて義母に「余計なこと言わないで!」と怒られていました。

 そういえばこの間のサラリーマン川柳の2位が

「ちがうだろ!」妻が言うならそうだろう  でした。痛いほどよく分かります。

 ノーメイク、会社入れぬ顔認証  も感動でした。

 以前のサラリーマン川柳

 定年後、犬もいやがる5度目の散歩  も心に残る名作です。

5.中性脂肪>1,000mg/dLで膵炎起こす。1,000以上は下げよ

 また高中性脂肪血症による急性膵炎が2~5%あります。

 診断は空腹時TG 1,000mg/dL超によります。以前、N Engl J Med(2007; 357: 1009-1017)に高中性脂肪血症の総説がありました。

 この高中性脂肪血症総説のポイントは、次の3点です。

 ・中性脂肪1,000~1,500mg/dL以上は膵炎を起こすのでフィブラートなどで治療

 ・家族歴に早期冠動脈疾患(男性55歳前、女性60歳前)あればTG下げよ

 ・数百の中性脂肪血症を治療することの善しあしは不明

 というわけで、これを読んでから小生は、家族歴に早期冠動脈疾患がない限り1,000mg/dL未満のTGは放置しています。

 LDLは必ずしっかり下げなければいけませんが、中性脂肪はよいのです。

6.IgG4関連疾患による自己免疫膵炎がある

 この総説に日本の信州大学発のIgG4関連疾患による自己免疫膵炎も取り上げられていて感動でした。

 自己免疫膵炎の頻度はごく少なく、1%未満ですがType1とType2があります。

 Type1がIgG4関連です。先日CTで上腸間膜動脈周辺の肥厚がありIgG4関連後腹膜線維症疑いで紹介した患者さんがいました。

 自己免疫膵炎Type1は閉塞性黄疸、血清IgG4高値、ステロイドに反応し全身疾患で唾液腺、腎臓が侵されます。

 一方、Type2は若年者で急性膵炎の発症があり、IgG4は低値、ステロイドに反応しますが全身疾患ではなく膵臓のみ侵されます。

 なお以前はOddi括約筋不全や、膵管癒合不全(pancreas divisum)が膵炎を起こすのではといわれていたのですが最近は懐疑的だそうです。

7.肥満、喫煙、糖尿病は膵炎のリスク

 なお病的肥満、喫煙、糖尿病も膵炎の危険因子です。

 2型糖尿病は急性膵炎リスクが2~3倍になります。

 また肥満と糖尿病は慢性膵炎、膵がんの危険因子でもあります。

 肥満と糖尿病は改善しなければいけません。

 先日神戸での日本整形外科学会学術総会で鈴木大地スポーツ庁長官の特別講演がありました。

 長官は毎日朝、13階の長官室まで階段を歩いているのだそうです。

 そういえば聖路加国際病院の故・日野原重明先生も6階の院長室まで歩かれていました。

 昔、日経新聞に鈴木大地選手がエッセーで泳法の極意を数百字の中に実に単純明快に書いていて感動しました。

 まるで宮本武蔵の秘伝書、『五輪書』みたいだと思いました。

 一流選手は、極意中の極意を明快に言語化できる人たちなんだなあと思いました。

 長女が5歳のころ、有名なピアノの先生に教わったところその直後から劇的に奏法が改善したのを見て大変驚きました。

 それまで子供のピアノの先生なんて誰に付いたって同じだと小生思っていたのですが、そのとき初めて、「良き師を選ぶことがいかに重要か」がよく分かりました。

 次男は小学生のころ、下田の水泳教室で国体選手にたまたまマンツーマンで教わりましたが(参加者が他にいなかった)、今でも4種目で実にきれいな泳ぎ方をします。

 日本の教員で体育以外スポーツ経験なしが中学で45.9%、高校で40.9%なのだそうです。

 鈴木長官は、東京都で中学に外部指導員を入れテニスやサッカーの指導をさせるようにし、これにより生徒が都大会上位に入るようになったそうです。

 長官には指導者の重要性が分かっているのでしょう。

 また日本の中学、高校の部活動時間があまりに長過ぎるので、平日は2時間に制限、土曜日は休ませるそうです。

 高校球児は日本全国で16万~17万人いるのですが試合に出られるのは5万人にすぎないそうです。

 試合に出られぬ生徒の中に必ずや他の競技なら花開く生徒がいるはずだというのです。

 そこで「JAPAN RISING STAR PROJECT、みてろよ、自分。」と称して異種競技からの人材発掘を始めたそうです。

 例えば飛び込み競技で日本はオリンピックでメダルを取ったことが一度もありません。

 飛び込み競技では泳力は全く関係がなくほとんど体操競技です。

 そこで体操選手をリクルートして飛び込み競技をさせたところ、上位入賞者が出てきたというのです。

 日本整形外科学会で鈴木長官が「週2回以上運動している方は挙手してください」と言ったところ、8割位の方が手を挙げたのには驚きました。

 整形外科医は意識が高いんだなあと思いました。

 日本の成人の週1回以上のスポーツ実施率は51.5%、60歳代は58.4%、70歳代は71.3%で暇な老人ほど高くなります。

 問題は特に現役世代の20~50歳代でスポーツ実施率が低いことです。

 日本人は毎日平均6,800~6,900歩、歩いているのですがFUN+WALK PROJECTといって、普段より+1,000歩の運動を勧めたいというのです。

 毎日8,000歩歩けばほとんどの生活習慣病が防げるのです。

 アサヒ飲料や高島屋をはじめとして「スポーツエールカンパニー認定」といって通勤時、一駅前で降りて歩くなどの運動を勧めています。

 また今までオリンピックを契機に国民のスポーツが盛んになった国はなんとないのだそうです。

 2019年の世界ラグビー、2020年の東京オリンピックをスポーツの国民的普及の切っかけにしたいと熱い思いを長官は語ってくださいました。

 遺伝子変異、遺伝子polymorphismで急性、慢性膵炎を起こすことがあります。

例えば
・cationic trypsinogen(PRSS1)
・serine protease inhibitor Kazal type1(SPINK1)
・cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)
・chymotrypsin C・Calcium-sensing receptor・claudin-2(claudin-2はアルコールと相乗的に働く)
などです。
 なお遺伝子polymorphismには2種類あります。

① SNP(スニップ):single nucleotide polymorphism 、1カ所の塩基が別の塩基に変わったもの

② microsatellite polymorphism: 2~4個の塩基の配列が数回から数十回繰り返す

8.急性膵炎は腹痛必須、lipase/amylaseが正常上限の3倍以上、画像で膵腫脹

 急性膵炎診断には3徴候があり次の通りです。

 ① 腹痛(常にある。consistent)
 ② lipaseまたはamylaseが正常上限の最低3倍以上
 ③ CT、MRIで急性膵炎の所見:特に診断に有用
 あいまいな腹痛や、amylaseやlipaseの軽度上昇で急性/慢性膵炎と診断するなとのことです。
 
 中等度、重症膵炎は全身/局所合併症から診断します。

 全身合併症とは呼吸、心臓血管、腎障害。またそれまでの合併症増悪、例えばCOPD、心不全、慢性肝疾患の増悪などのことです。

 一方、局所合併症には膵周囲の液貯留、偽性囊胞、膵壊死・膵周囲壊死(sterileまたはinfected)などです。

 臓器不全が48時間以上継続すると予後が悪くなります。膵炎の全体の死亡率は2%ですが臓器不全が持続すると死亡率は30%にもなります。臓器不全持続と感染性膵壊死が合併すると死亡率は最も高いとのことです。

9.要注意は60歳以上、BMI≧30、Ht>44%、BUN>20mg/dL、Cr>1.8mg/dL、SIRS(+)

 急性膵炎の予後悪化因子は次のようなものがあります。

 ① 60歳以上
 ② 合併症の存在(Charlson comorbidity index 2点以上)
 ③ 肥満(BMI 30以上)
 ④ 長期アルコール過飲

 最も有用な検査値はBUN上昇、Cr上昇、Ht上昇で輸液後も改善なければ要注意です。要するに血液濃縮(hemoconcentration)があるのが危険ということです。

 特にHt 44%超、BUN 20mg/dL超、Cr 1.8mg /dL超は要注意です。

 危険因子の高齢、BMI高値、合併症の存在、SIRSの存在に注意です。急性膵炎の予後悪化要因は3rd spaceと血管容積の喪失による血液濃縮とazotemia(BUN上昇)なのです。

 十分な輸液にもかかわらず最初の48~72時間で、Ht上昇、BUN上昇、Cr上昇、SIRS継続、CTで膵臓あるいは周辺の壊死の存在は重症膵炎への進展を意味します。

 SIRSは下記の2つ以上の存在ですが急性膵炎ではたいてい存在します。

 ① 体温36度以下または38度以上
 ② 脈拍90/分以上
 ③ 呼吸20/分以上、またはPCO2 32mmHg未満
 ④ 白血球4,000/mm3以下または1万2,000以上

10.amylaseとlipase値に予後予測価値はない!

 意外だったのは、amylaseとlipaseには予後予測価値はないということです。

 小生、amylase値こそ予後を決定するのかと思っていました。CTは早期ではまだはっきりせず病態を過小評価することがあります。

 Scoring systemが幾つかありAPACHE Ⅱ、APACHE-O、Glasgow、Harmless Acute Pancreatitits Score、Japanese Severity Score、PANC3、 POP、BISAPなどがあります。

 しかしいずれも偽陽性率が高く(多くの膵炎患者は実際には軽症で終わる)、ルーチンには使われていないとのことです。

11.発症24時間以内に200~500mL/時間、計2.5~4Lの輸液を!24時間以後は意味なし

 急性膵炎の予後悪化要因は3rd space、血管容積の喪失による血液濃縮とazotemia(BUN高値)です。最初の24時間での積極的輸液は死亡率を減少させます。

 発症後、特に最初の12~24時間の輸液が重要であり24時間以後は意味がないのだそうです。

 晶質液(crystalloid)を200~500mL/時間または5~10mL/kg/時間で投与し最初の24時間で2,500~4,000mLの輸液を行います。

 なお炎症マーカー低下には生食より乳酸リンゲルが優れていたというトライアルがあるそうです。

 輸液量が適切かは、心肺モニター、時間尿量、BUN、Htをモニターします。ただし輸液過剰には注意します。

 なお輸液治療の推奨はRCTでなく専門家の意見(expert opinion)によるものであり、輸液量については患者個々で合わせる(tailor)必要があります。

 エビデンスレベルはRCTがレベルA、専門科の意見は最低ランクのEです。いずれにしても大量輸液は最初の24時間以内にしておくことが無難です。

12.軽症膵炎は痛み治まる前に経口低脂肪食OK、経鼻空腸より経鼻胃管を

「へー」と思ったのは、軽症急性膵炎では激痛、悪心嘔吐、イレウスがなければ、入院後すぐ低脂肪食を開始してよいのだそうです。

 軽症膵炎で臓器不全や膵壊死がなければ、痛みが完全に治まる前に経口摂取を開始してよいのです。

 Clear-liquid diet(清澄流動食)から徐々に固形食に上げていくよりも、低脂肪食や固形食で開始した方が安全で入院日数も短縮できるというのです。

 急性膵炎患者に対するTPN(中心静脈栄養)はリスクが高く高価で腸管栄養と比較して劣ることが知られているとのことです。

 膵炎ではありませんが、家内が大学病院で長女を出産したときのことです。

 新米助産婦さんがベッドサイドにやってきて、キチッと計量したミルクを、「今日はこれだけ飲ませてください」と置いていきました。

 一方、長男、次男は産科医院で出産したのですが、ベテラン助産婦さんがミルクを「好きなだけ飲ませてください」とドカンと置いていったのには笑ってしまいました。

 だけど別にどうってこともありませんでした。まあ、人間なんてそんなものなのでしょう。

 摂食で膵分泌を最小限にするには経鼻空腸チューブがベストではありますがRCT、メタ解析では経鼻胃管、経鼻十二指腸管で問題ないそうです。

 というわけで、膵炎ではTPNや腸管栄養に代わって単純な胃管に取って代わりました。成分栄養(elemental diet)が優れているのかは分かっていません。

 壊死性膵炎の死亡率は高いのですが予防的抗菌薬の利点はないそうです。

 壊死性膵炎に感染合併が疑われたとき以外、抗菌薬投与は推奨しません。

 ERCPは胆石による膵炎で行います。画像上、総胆管結石(choledocholithiasis)であればERCPは妥当です。

 膵臓の偽性囊胞やWONでは内視鏡下エコーをプラットホームにして最小侵襲手術が行われます。

 13.被包化膵壊死は感染、管腔圧迫なければ治療不要、4週待って経皮ドレナージ

 急性の膵周囲液貯留は治療不要です。

 有症状の偽性囊胞は基本的に内視鏡的に可能です。

 壊死性膵炎には膵臓壊死と膵周囲脂肪壊死がありますが初期には壊死組織は液体と固体の混合です。

 4週ほどたつと壊死はより液状になり被包化しWONとなります。

 壊死が感染性でなければ、周囲管腔(胃、十二指腸、胆管)の閉塞がない限りWONの治療は不要だというのです。

 ただし壊死部の感染は治療対象ですが最初の2週間ではまれです。ふつうmonomicrobial(単一菌)で、グラム陰性桿菌、腸球菌、グラム陽性菌(staphylococcusなど)がありますが薬剤耐性菌が増えています。

 壊死組織が感染すると発熱、白血球増加、腹痛増強が出現します。

 CTで壊死組織内にエアが見られることもあります。

 壊死組織感染では広域抗菌薬を開始し穿刺培養は不要とのことです(なんで?)。

 現在、外科的治療は極力最低4週は被包化を待ちます。

 これにより壊死組織が軟化して液状になり被包化してドレナージ、デブリドマンが容易になり死亡リスクが低下します。

 患者の状態が安定していれば外科的治療はたいてい遅らせられるというのです。

 不安定な場合は経皮的ドレナージで十分なことが多いそうです。

 壊死性膵炎の60%は非侵襲的治療が可能で死亡リスクは少ないとのこと。

 壊死性膵炎には伝統的な開腹壊死組織切除よりもstep-up approachの方が成績が良いそうです。

 すなわち

① 抗菌薬
② 経皮的ドレナージ
③ 数週待って最小侵襲デブリドマン
です。

 最小侵襲デブリドマンには経皮的、内視鏡、腹腔鏡、後腹膜経由などのアプローチがあります。感染壊死の少数は抗菌薬のみで治療できるかもしれないそうです。

14.急性膵炎後2~3割は慢性膵炎になる。禁酒、禁煙!

 急性膵炎後、20~30%で膵臓のendocrine、exocrine機能低下が起こり3分の1から2分の1は慢性膵炎になります。

 その危険因子は最初の膵炎の程度、壊死の程度、膵炎の原因によります。特に長期のアルコール過飲と喫煙は慢性膵炎への移行を劇的に促進します。禁酒でリスクは大きく減少します。

15.胆石膵炎は最初の入院時に胆摘やれ!

 胆石膵炎では胆囊摘出は胆石による膵炎を予防します。

 胆摘が数週遅れると再発は30%まで高まるそうです。

 最初の入院時に胆摘を行うことで胆石関連の合併症は、退院後25~30日で胆摘を行うよりも75%減少するというのです。

 ただし重症膵炎や壊死性膵炎の場合は、状態が回復してからの胆摘が望ましいそうです。

 手術が無理なら内視鏡的に胆管のsphincterotomyでも膵炎は減らせますが再発をゼロにはできません。

 それではN Engl J Med(2016; 375: 1972-1981) 急性膵炎総説の最重要点10の反復です。

• 毎日ビール1.5L or ワイン1本 or ウイスキー200mL、5年で慢性膵炎
• 急性膵炎の原因は胆石4割、アルコール3割、デパケン、ACE阻害薬も
• 中性脂肪>1,000mg/dLで膵炎起こす。1,000mg/dL以上は下げよ
• IgG4関連疾患による自己免疫膵炎がある
• 急性膵炎は腹痛必須、lipase/amylaseが正常上限の3倍以上、画像で膵腫脹
• 要注意は60歳以上、BMI≧30、Ht>44%、BUN>20mg/dL、Cr>1.8mg/dL、SIRS(+)
• 発症24時間以内に200~500mL/時間、計2.5~4Lの輸液を! 24時間以後は意味なし
• 軽症膵炎は痛み治まる前に経口低脂肪食OK、経鼻空腸より経鼻胃管を
• 被包化膵壊死は感染、管腔圧迫なければ治療不要、4週待って経皮ドレナージ
• 胆石膵炎は最初の入院時に胆摘やれ!

医学紙「Medical Tribune」 より
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