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テストステロン [医療小文]

 テストステロンで男らしさと健やかさを保て!

 人生100年時代において、いかに健康寿命を延ばすかが重視されている。

 ところが、男性における多くの疾患の診療アウトカムは女性より不良だ。

 最近ではメンズヘルスという言葉も生まれているが、いかにして男性の健康を守っていけばよいか。

 順天堂大学泌尿器外科学の堀江重郎教授は、第12回日本性差医学・医療学会(1月19~20日)でさまざまな疫学データを紹介、テストステロンをキーワードに男性の健康について考察した。

 男らしさとは「冒険」「社会性」「競争」!

 ヒトの体の基本形は、女性だといわれている。

 そこから男性へと変化する一次性徴(母胎内での性器の発現)、二次性徴(思春期から成人男性への発育)は、男性の精巣(睾丸)と副腎で作られたテストステロンに促される。

 テストステロンは「男らしさ」をつかさどるホルモンといえるだろう。

 一方、女性でも卵巣、脂肪や副腎からテストステロンは産生されており、生殖年齢における女性ではエストロゲンの10倍以上のテストステロンが、体内で働いているといわれている。

 堀江教授は、男らしさの側面からテストステロンをひもとくと、その働きは3つのキーワードに表せると言う。

 ①狩猟、旅、新しいことへのチャレンジに関わる「冒険」

 ②仲間、家族、他人との関わり、縄張りに関わる「社会性」

 ③ギャンブル、ゲーム、スポーツ、仕事などにおける達成感や順位へのこだわりに関わる「競争」ーー。

 リスクもチャレンジも大好きなテストステロン

 ここで堀江教授は、ニューギニアの先住民における検討を紹介した。

 対象となる先住民は、家を出て狩猟に出かける道筋でテストステロン値が上昇し、獲物を仕留めるとその値はピークに達した。

 上昇の度合いは出発時に比べて有意であった。

 その後徐々にテストステロン値は低下するものの、帰宅するまで高値を示していた。

 一方で、獲物を仕留め損ねると、一気にテストステロン値は低下し、出発時よりもさらに低い値になった。

 「獲物を得ようとするとテストステロン値が上がり、かつ獲物を得るとさらにテストステロン値が上がる。

 『冒険』に関わる男らしさを示すデータだ」と教授は述べた。

 その延長で、リスクを取る行為、チャレンジする行為においてもテストステロン値は上昇する。

 報酬系をつかさどる脳の線状体のアクティビティとテストステロン値は相関することが明らかにされている。

 はつらつとし、利他の精神で社会貢献に努め、公明正大であることは、テストステロンの働き②の「社会性」に当たる。

 堀江教授が紹介した2009年に行われた二重盲検ランダム化比較試験によると、プラセボを投与した群に対して、テストステロンを投与した群で社会貢献度が高値を示した。

 なお、この試験の対象は女性であったと、教授は説明を加えた。

 前述の通り、テストステロンは女性にとっても重要なホルモンだが、分泌量の性差はどれほどなのだろうか。

 ある疫学データでは、活性のある量を唾液で見ると、男性は30歳代では幅広く正規分布しているのに対し、女性は対数変換すると正規分布するという結果であった。

 しかし、「女性の中にも本当の意味での"男勝り"な人がいる。実のところ、女性においてもとりわけ閉経後にはテストステロンが重要になる」と教授は付言した。

 認知機能の向上にも関わるテストステロン

 テストステロンは、身体のさまざまな組織や機能に関与する。骨、筋肉、血液、性機能、血管、脂質代謝などへの影響が知られているが、ここで堀江教授は、テストステロンの認知機能への影響を示した研究を紹介した。

 モリス水迷路※を用いた実験で、テストステロン値が低い老化モデルマウスにテストステロン投与を行うと、正常モデルほどではないが、泳ぐ回数を重ねるごとに島にたどり着く時間が短縮し、認知機能の向上による学習効果が認められた。

 ※モリス水迷路=マウス実験用の装置。水を張ったバケツの中に、陸地を作製。マウスは本能的に陸地を求めて泳ぐことから、バケツに入れてから陸地にたどり着くまでの時間を計り、そこから認知機能を計測する。

 テストステロン減少によるデメリットは多い

 堀江教授は、テストステロン低下による影響についても言及した。

 テストステロンが減少すると集中力が低下する、人間関係がおっくうになる、眠りが浅くなる、痛みを感じやすくなるなど、社会活動に支障を来す原因ともなりうることが分かっている。

 テストステロン値低下を促す原因の1つがストレスだ。テストステロンは男性の場合ほとんどが精巣でつくられているが、ストレスによって視床下部から抑制的な指令が出る。

 また、テストステロンの分泌は加齢とともに減少する。

「統計上の平均値は確かに低下しているが、テストステロン値の低下と加齢の関係にはかなり個人差があるのではないか」と教授は述べる。

 コホート研究では、テストステロン値が低いほど早期に死亡するという傾向が明らかにされている。また、他の研究でも、テストステロン値が低くなるにつれて心血管死亡率、がん死亡率が高くなることが報告されている。 

 それだけではない。フレイル、うつ、排尿障害、筋肉量の低下、認知症、転倒など、テストステロンの減少が及ぼす悪影響ついてはさまざまな報告が明らかにしている。

 教授らによる研究でも、テストステロン値が低い患者では転倒リスクが上昇することや、腎機能の低下するスピードが上昇する、すなわち臓器障害が進展するということが示された。

  テストステロンをキーワードに男性の健康を解説した教授は、最後に、

「最近では、ウィメンズヘルスに呼応する形でメンズヘルスという言葉が使用され、男性の健康が注目されるようになってきている。

 テストステロンはメンズヘルスのバイオマーカーとしても有用なため、テストステロン値を測り、活用することが求められる。

 また、テストステロンはジェンダー、セックスいずれの男性性にも関連している。社会的にも生物的にも、男性はテストステロンをなるべく多く保つことが望ましいのではないか」と締めくくった。

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