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スポーツは体にわるい [医学・医療・雑感小文]

「スポーツは体にわるい」はホントか?  

絶好の運動日和がつづいている。

にわかスポーツマンがどっとふえる季節だが、はまり過ぎちゃいけませんよ。

過激な運動のあとには免疫力が低下し、感染症にかかりやすいことがわかっているからだ。

アスリートが意外に風邪を引きやすかったり、だいじな試合の前に体調を崩したりしがちなのは、よく聞く話である。

なぜか? 

運動免疫学の専門家の説明は、こうだ。

激しい運動のあと、血液中の物質を測ると、「IgG値」と「NK細胞」の活性度が低下し、「インターロイキン6」がふえている。

IgGは、体内に侵入した抗原(病原体やウイルス・細菌など)に対する抗体として働く5種類の免疫グロブリン(Ig)のうちいちばん多いグロブリン(単純たんぱく質)だ。

NK(ナチュラルキラー)細胞は、白血球の一種のリンパ球の15~20%を占める細胞。

体のおまわりさんのようなもので、体内をいつもくまなくパトロールして、がん細胞の芽やさまざまなウイルスに感染した細胞をやっつけている。

NK活性が低下すると、感染症やがんにかかりやすくなる。

インターロイキン6(IL-6)は、免疫にかかわるたんぱく質=サイトカインの一種。免疫を抑制し、炎症を引き起こすので炎症性サイトカインと呼ばれる。

通常の状態ではIL-6はほとんど検出されないが、フルマラソンのあとの血液中では約100倍もふえることがあり、関節リウマチ患者の関節液中には著しく増加する。

IL-6の激増は、生体が酷使されていることの証拠といえる。

過激な運動のあとで生じるこうした血中物質の変動によって、免疫のはたらきが数時間から数日、一過性に低下した状態を「オープンウィンドウ」と呼ぶ。

感染症などに「窓を開けた」状態というわけだ。

実際、マラソンのあと参加選手の多くに風邪の症状がみられたり、感染症にかかるリスクが高まったりすることは、内外の研究報告でも確かめられている。

そうした過激な運動を長く続けていると、当然、寿命にも影響する。

こんな調査研究がある。

体育学部をもつある国立大学の卒業生の110年間の死亡者のなかから、生年と没年の明白な3113人を抽出し(戦死・戦病死、事故死などを除き)、体育系、文科系、理科系に分けてそれぞれの平均寿命を算出した。

結果、体育系=60.6歳、文科系=66.8歳、理科系=66.1歳だった。

「直接の死因についての資料はなかったが、体に重い負荷のかかる激しい運動を、長期にわたって続けた体育系卒業者が、他のグループに比べて短命なのは明らか」と、調査を行った研究者は話している。

なぜ、激しい運動が寿命を縮めるのか。

「ひとことでいってしまえば、運動によって酸素の消費量が増え、それにつれて体内に『活性酸素』と呼ばれる猛烈な毒が発生し、生体を傷つけることと、運動がストレスになることである」

基礎運動科学が専門の加藤邦彦・理愽(東京大学理学部)は、著書『スポーツは体にわるい』(カッパサイエンス=光文社)にそう記している。

同書には、運動量の増大によって生じる活性酸素が、老化・短命を促進すること、スポーツがストレスであること―が、多くの研究実験をもとに詳しく明快に説かれている。

過激な運動が健康長寿の妨害因子であることに異論を差しはさむ余地はないようだ。

反面、適度な運動が、免疫力を高め、感染症のリスクを減弱し、生活習慣病を防ぎ、健康寿命を延ばす大きな要因であることも事実である。

では、「適度な運動」とは?

自分が出せる最大限の力(最大運動強度)の半分ぐらいの「ニコニコペース」が、よい。

それだったら血液中に疲労物質がふえてこないので、らくらく続けられる。

楽しく体を動かすと、エンドルフィンという快感ホルモンが脳内から分泌され、NK細胞の活性が上がる。

健康のための運動は無理せず楽しくやるに限る。

なお、「ニコニコペース」の運動は「荒川方式(アラカワメソッド)」と呼ばれ、WHO(世界保健機構)が推奨している。

これについては次回に─。
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