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薬の飲み方・新常識 [医学・医療・雑感小文]

薬の飲み方・新常識

「水またはぬるま湯で服用してください」

たいていの─いや、ほとんどすべての─薬の説明書にはそう書いてある。

それくらいだれでも知っている。常識だ。

だが、くすりの適正使用協議会の「くすりの服用に関する実態調査」を見ると、そうでないのみ方をする人が、よくある=27%、ときどきある=40%と、7割に近い。

最も多いのは日本茶=52%、スポーツドリンク=30%、コーヒー=17%、紅茶=10%の順。

「水やぬるま湯以外の飲み物でくすりを服用するのは、くすりの吸収が遅くなったり、効き目が弱くなることがあります」と、同協議会はコメントしている。

しかし、数ある薬のなかには水やぬるま湯以外のもので服用してもいっこうに差し支えない薬も多いし、酒でのむように指示されてある薬や、お茶でのんだほうがよく効く薬もある。

反対に、熱めの湯でのむと効き目がなくなる薬があり、牛乳でのむようにすすめられる薬があるかと思うと、牛乳でのむと効かなくなる薬もある。

薬を水で飲むと、薬は胃の中で水に溶け、吸収されやすい形になる。

水なしでのむと、胃の中で薬は溶けにくく、薬の効き目が遅くなったり、低下したりする。

そうした水のはたらきはお茶でも得られるのだから、たいていの薬はお茶で飲んでもいいわけだ。

一昔前までは「貧血用の鉄剤は、お茶で飲むな」といわれた。鉄分がお茶に含まれるタンニンとくっついて、体に吸収されなくなるという理由だった。

だが、それは無用の心配であることがわかった(別のブログ「なんやらかんやら日録」の「お茶は薬、鉄剤禁忌はウソ。」に詳述)。

漢方の風邪・頭痛薬の川芎茶調散(せんきゅうちょうちょうさん)は、9種類の成分生薬の一つとして茶葉が配合されてあるのだが、葉の配合は薬事法に抵触するので、日本で製造された川芎茶調散からは茶葉は除かれている。

本来の効果を得るためには、薬名にも示されてあるようにせめてお茶でのむべきだ(茶調=茶湯で服用の意)。

八味地黄丸(はちみじおうがん)や当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、酒で服用したほうが、よく効き、胃もいためない。

胃をいためる薬は、西洋薬にも多い。 インドメタシンなど、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAD)をのむと、胃が痛くなる人は、牛乳でのんでみるとよい。

インドメタシンのプロドラッグ(副作用を低減する薬)のインドメタシンファルネシルは牛乳と一緒にのむと吸収がよくなり、効き目もよくなる。

反対に、テトラサイクリン系抗生物質、骨粗しょう症の薬のビスホスホネート製剤、爪水虫の薬のグリセオフルビンなどは、牛乳でのんではいけない。

薬と牛乳のカルシウムがキレート(強く結びついた化合物)をつくり、体に吸収されにくくなる。

降圧薬のカルシウム拮抗剤は、グレープフルーツジュースと一緒にのんではいけない。

グレープフルーツジュースの渋みの成分が、肝臓にある薬物代謝酵素のはたらきを抑え、薬の効果が強く出て血圧が下がり過ぎてしまうのだという。

ふしぎなことにオレンジジュースでのんだときは、なにも起こらない。

塩化リゾチームなどの消炎酵素といわれるものは、体温以上の温度では活性を失うので、40℃以下の水でのむこととされている。

塩化リゾチームは、昔から多くの風邪薬の成分として用いられてきたが、有効性が確認できないことがわかり、製造販売を行ってきた各社は、2016年3月、販売中止と回収を発表した。

風邪薬は、体を温めたほうがよいと、熱い白湯をフーフーしながらのまされたものだが、もともと効かない薬をさらに効かなくするのみ方をしていたわけだ。

─てなわけで、「薬は水または白湯で─」という常識は、半分ウソである。

でも、水でのめばいいものを、わざわざジュースやお茶でのむこともあるまい。
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