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心房細動と認知症 [医学・医療・雑感小文]

 心房細動(AF)も認知症リスクの一つ

 全身をめぐってきた血液(静脈血)を心臓に受け入れる心房が細かくふるえる心房細動は、長嶋茂雄さんなどを冒した心原性脳塞栓症の原因として知られている。

 この心房細動が認知症をもたらすことがあるという。

 世界の認知症患者は2010年に3,560万人、2030年には6,570万人、2050年には1億1,540万人に上ると推測されている。

 認知症では多くの危険因子が報告されているが、心房細動(AF)もリスクの1つと考えられるようになってきた。

 欧州不整脈学会(EHRA)、米国不整脈学会(HRS)、アジア太平洋不整脈学会(APHRS)、ラテンアメリカ不整脈学会(LAHTS)の「不整脈と認知機能の専門家コンセンサス:ベストプラクティスは何ですか?」が発表された。

 コンセンサスのポイント:AF患者における認知機能障害の予防措置を勧告

 このコンセンサスでは、脳卒中の既往があるAF患者を対象としたメタ解析研究2件が取り上げられた。

 1件は2011年にKwokらが行った7件の研究のメタ解析で、AFを有する患者では認知症のオッズ比(OR)が2.43(95%CI 1.70~3.46、P<0.001、I2=10%)であった。

 オッズ比(Odds ratio)=、ある事象の起こりやすさを2群で比較して示す統計学的な尺度。

 もう1件は2013年にKalantarianらが行った7つの研究のメタ解析で、AFを有する患者では認知機能障害と認知症の相対リスク(RR)が2.70(95%CI 1.82~4.00、I2=32.3%、P=0.18)であった。

 一方、脳卒中の既往がないAF患者を対象としたメタ解析は、2012年にSantangeliらの研究を取り上げており、AFのハザード比(HR)は1.42(95%CI 1.17~1.72、P<0.001)だった。同コンセンサスではこれらの研究以外にも多くの報告を紹介している。

 ハザード比(Hezard Ratio、略してHR)=統計学用語。臨床試験などで使用する相対的な危険度を客観的に比較する方法。

 また、AFにおける認知機能低下の可能性がある複数の機序を提示している

 さらにワルファリンによる治療では、プロトロンビン時間国際基準比(PT-INR)が至適範囲内にある時間(TTR)と認知症新規発症リスクがUカーブの関連を呈し、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)は低いTTRより認知症新規発症が少ないという報告を紹介している。

 最後に「AF患者における認知機能障害を予防するための措置に関する勧告」が示されている。
 
 無症候性脳梗塞や脳卒中の発症がアルツハイマー病発症を加速

 かつては、たばこを吸うと認知症が予防できるといわれていた。

 多くの医師が医局や病棟、場合によっては外来で喫煙していた。

 ところが、1998年、認知症やアルツハイマー病の発症が喫煙で約2倍になることが報告された。

 その後、多くの大規模研究の結果、喫煙で認知症が増加することが報告されている。

 2017年に発表された認知症の予防・治療・ケアに関する60ページにわたるレビューでは、潜在的に修正可能なリスクは35%で、全体の寄与リスクとして高年期の喫煙は5%と、中年期の難聴9%、小児期の教育期間の短さ8%に次いで3番目の高さであった。

 喫煙による認知症の相対リスク(RR)は1.6だった。

 AFに関しても、1997年に報告されたRotterdam研究では性、年齢を調整した多変量回帰分析の結果、AFがあると認知症と認知機能低下のORが、それぞれ2.3と1.7になることが示された。

 血管性認知症ではAFとの関連はなかったが、女性特に75歳未満の女性、さらに脳卒中を伴うアルツハイマー病で有意な関連を示した。

 2011年に報告されたACT研究でも、AFでは全認知症のHRが1.38、特にアルツハイマー病ではHR 1.50であった。

  「心原性認知症」という用語がある。

 心不全があると、神経細胞、脳血管内皮細胞、ペリサイト、アストロサイト、細胞外マトリックスなどの機能的統合体neurovascular unitにおいて、アミロイド斑や神経原線維変化を来すアミロイドβ蛋白やタウ蛋白のクリアランスが低下することが示唆されている。

 AFによる無症候性脳梗塞の存在、低いTTRによる微小脳出血などの脳卒中の関与だけでなく、心血管危険因子の存在がneurovascular unitでのアミロイドβ蛋白やタウ蛋白のクリアランス低下を来す可能性も考えられる時代になった。

 脳梗塞を来さなくてもAFはアルツハイマー病の新規発症を増加させ、無症候性脳梗塞や脳卒中の発症がアルツハイマー病発症を加速するようである。

 AF患者の対応では、脳卒中予防、QOLの向上を考えなければならないが、健康寿命の延伸のためには、「AFでは認知症予防もお忘れなく」というメッセージも重要だ。
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