PSAをしのぐ前立腺がんマーカー [医療小文]
PSAのがん特異性を凌駕する検査法を開発
前立腺がん。
いま、世界中で急増中の高齢者のがん。
生存率の最も長いがん。
したがって患者数の最も多いがん。
PSA(前立腺特異抗原)値は、その前立腺がんの腫瘍マーカー。
高血圧患者の血圧ように、糖尿病患者の血糖値、のように、前立腺患者にとって切っても切れない検査値である。
それだけにいろいろと問題も指摘もされている。
最近配信の医学専門紙『Medical Tribune』で以下のような記事を読んだ。
前立腺がんに特異的な糖鎖構造変化を伴うPSAの定量化に成功
前立腺がんでは、前立腺特異抗原(PSA)検査に基づく過剰な診断や治療が問題となっており、これらを是正する新たなバイオマーカーが求められている。
そのような中、PSA分子上の糖鎖構造変化に着目した研究が進められている。
弘前大学泌尿器科学講座の米山徹氏、同講座教授の大山力氏らの研究グループが、PSA糖鎖修飾異性体による前立腺がん診断の有効性について、第2回Liquid Biopsy(液体生検)研究会(1月20日)で報告した。
PSA分子上の糖鎖の違いを高感度に定量するPSA-Gi検査法を開発
前立腺組織に特異的な糖蛋白質であるPSAの血清濃度を測定するPSA検査の導入により、前立腺がんの早期診断が可能となった。
しかし、血清PSA値が4.0~10ng/mLのグレーゾーンと呼ばれる濃度域での偽陽性例が非常に多く、過剰診断による不要な生検の施行や医療費の増加が問題となっている。
また前立腺がんでは、積極的な治療が不要な症例は少なくないが、PSA検査ではその評価ができないため、本来は監視療法の対象となる症例への過剰治療も問題となっている。
これらのことから、前立腺がんにより特異的かつ術前に悪性度の予測が可能なバイオマーカーが求められている。
そこで米山氏らは、これらの課題を解決するためにPSAのがん性糖鎖変異に注目し、研究を進めているという。
PSAは、分子当たり1本のN型糖鎖による修飾を受けている。
正常血清と前立腺がん患者の血清中のPSAでは、その糖鎖構造が大きく異なることが明らかになっている。
同氏らは、この糖鎖の違いを高感度に定量化できるPSA糖鎖修飾異性体(PSA-Gi)検査法を開発した。
同法では、糖鎖と親和性が高いレクチンを利用し、血清中のPSA-GiのLacdiNAc構造に特異的に反応するレクチンであるノダフジレクチンと抗PSA抗体でPSA-Giを捕らえる「レクチン-抗PSA抗体サンドイッチアッセイ法」により、PSA-Giを高感度に定量化できる。
レクチンと糖鎖の親和性は、各レクチン特有の反応温度に依存しているため、現在汎用されている臨床検査装置では特異的な高感度検出が困難であった。
PSA-Gi検査法では、表面プラズモン励起増強蛍光分光法を基盤とした超高感度自動免疫測定装置(コニカミノルタ社試作)を用いることで、PSA-Giの高感度検出(最小検出感度10pg/mL)に成功した。
約40%の針生検を回避
米山氏らが同検査法を用いて、2008~17年に同大学病院泌尿器科を受診した前立腺肥大症および前立腺がん患者528例の生検時血清からPSA-Gi値を測定したところ、前立腺がん患者の血清で有意に高値を示した。
次にROC解析を行ったところ、現在広く用いられている総PSA(total PSA)検査や遊離型/総PSA(F/T)検査による曲線下面積(AUC)をはるかに上回る診断精度を示した。
同氏は「PSA-Gi検査法は、従来法よりも正確に前立腺がんを検出できることが分かった」と報告。
さらに、PSA-Giは既存のPSAより陰性診断率が高く、約40%の針生検を回避できることを示唆した。
今後は超音波、MRIなど他のモダリティーとPSA-Giを組み合わせた検査法の有用性についても検討を進めるという。
悪性度が高い前立腺がんの術前予測も可能
さらに米山氏らは、病理組織学的な悪性度(グリソンスコア;GS)の指標とPSA-Giとの関連についても検討。悪性度が高くなるほどPSA-Gi値が高くなることも明らかとなった。
PSA-Giの前立腺生検GS7以上のがんの予測に関するROC解析では、GS7以上の悪性度が高い前立腺がんを術前に予測できる可能性が示唆された。
また間接的比較ではあるが、PSA-Giはシングルマーカーとして、既に米食品医薬品局(FDA)がPSA以外の前立腺がんのマーカーとして承認している血清検査であるProstate Health Index(PHI)、および前立腺がん遺伝子3と同等のがん特異度、陰性診断率を示した。
PSA-Giと臨床危険因子を組み合わせた総合的評価法を確立することで、精度の高い悪性度予測の実現が期待されるという。
同氏は「2020年度までにPSA-Giの上市を目指しており、ハイスループット自動免疫測定装置および測定用試薬の開発を2018年度中に完了させたい。
2019年度には薬事申請に向けて研究会を立ち上げ、複数施設での臨床評価を行う計画である」と展望した。(髙田あや)
前立腺がん。
いま、世界中で急増中の高齢者のがん。
生存率の最も長いがん。
したがって患者数の最も多いがん。
PSA(前立腺特異抗原)値は、その前立腺がんの腫瘍マーカー。
高血圧患者の血圧ように、糖尿病患者の血糖値、のように、前立腺患者にとって切っても切れない検査値である。
それだけにいろいろと問題も指摘もされている。
最近配信の医学専門紙『Medical Tribune』で以下のような記事を読んだ。
前立腺がんに特異的な糖鎖構造変化を伴うPSAの定量化に成功
前立腺がんでは、前立腺特異抗原(PSA)検査に基づく過剰な診断や治療が問題となっており、これらを是正する新たなバイオマーカーが求められている。
そのような中、PSA分子上の糖鎖構造変化に着目した研究が進められている。
弘前大学泌尿器科学講座の米山徹氏、同講座教授の大山力氏らの研究グループが、PSA糖鎖修飾異性体による前立腺がん診断の有効性について、第2回Liquid Biopsy(液体生検)研究会(1月20日)で報告した。
PSA分子上の糖鎖の違いを高感度に定量するPSA-Gi検査法を開発
前立腺組織に特異的な糖蛋白質であるPSAの血清濃度を測定するPSA検査の導入により、前立腺がんの早期診断が可能となった。
しかし、血清PSA値が4.0~10ng/mLのグレーゾーンと呼ばれる濃度域での偽陽性例が非常に多く、過剰診断による不要な生検の施行や医療費の増加が問題となっている。
また前立腺がんでは、積極的な治療が不要な症例は少なくないが、PSA検査ではその評価ができないため、本来は監視療法の対象となる症例への過剰治療も問題となっている。
これらのことから、前立腺がんにより特異的かつ術前に悪性度の予測が可能なバイオマーカーが求められている。
そこで米山氏らは、これらの課題を解決するためにPSAのがん性糖鎖変異に注目し、研究を進めているという。
PSAは、分子当たり1本のN型糖鎖による修飾を受けている。
正常血清と前立腺がん患者の血清中のPSAでは、その糖鎖構造が大きく異なることが明らかになっている。
同氏らは、この糖鎖の違いを高感度に定量化できるPSA糖鎖修飾異性体(PSA-Gi)検査法を開発した。
同法では、糖鎖と親和性が高いレクチンを利用し、血清中のPSA-GiのLacdiNAc構造に特異的に反応するレクチンであるノダフジレクチンと抗PSA抗体でPSA-Giを捕らえる「レクチン-抗PSA抗体サンドイッチアッセイ法」により、PSA-Giを高感度に定量化できる。
レクチンと糖鎖の親和性は、各レクチン特有の反応温度に依存しているため、現在汎用されている臨床検査装置では特異的な高感度検出が困難であった。
PSA-Gi検査法では、表面プラズモン励起増強蛍光分光法を基盤とした超高感度自動免疫測定装置(コニカミノルタ社試作)を用いることで、PSA-Giの高感度検出(最小検出感度10pg/mL)に成功した。
約40%の針生検を回避
米山氏らが同検査法を用いて、2008~17年に同大学病院泌尿器科を受診した前立腺肥大症および前立腺がん患者528例の生検時血清からPSA-Gi値を測定したところ、前立腺がん患者の血清で有意に高値を示した。
次にROC解析を行ったところ、現在広く用いられている総PSA(total PSA)検査や遊離型/総PSA(F/T)検査による曲線下面積(AUC)をはるかに上回る診断精度を示した。
同氏は「PSA-Gi検査法は、従来法よりも正確に前立腺がんを検出できることが分かった」と報告。
さらに、PSA-Giは既存のPSAより陰性診断率が高く、約40%の針生検を回避できることを示唆した。
今後は超音波、MRIなど他のモダリティーとPSA-Giを組み合わせた検査法の有用性についても検討を進めるという。
悪性度が高い前立腺がんの術前予測も可能
さらに米山氏らは、病理組織学的な悪性度(グリソンスコア;GS)の指標とPSA-Giとの関連についても検討。悪性度が高くなるほどPSA-Gi値が高くなることも明らかとなった。
PSA-Giの前立腺生検GS7以上のがんの予測に関するROC解析では、GS7以上の悪性度が高い前立腺がんを術前に予測できる可能性が示唆された。
また間接的比較ではあるが、PSA-Giはシングルマーカーとして、既に米食品医薬品局(FDA)がPSA以外の前立腺がんのマーカーとして承認している血清検査であるProstate Health Index(PHI)、および前立腺がん遺伝子3と同等のがん特異度、陰性診断率を示した。
PSA-Giと臨床危険因子を組み合わせた総合的評価法を確立することで、精度の高い悪性度予測の実現が期待されるという。
同氏は「2020年度までにPSA-Giの上市を目指しており、ハイスループット自動免疫測定装置および測定用試薬の開発を2018年度中に完了させたい。
2019年度には薬事申請に向けて研究会を立ち上げ、複数施設での臨床評価を行う計画である」と展望した。(髙田あや)