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脳は時なり [医療小文]

 冬場に脳卒中が多発するのはよく知られているが、夏も油断できないと、脳卒中の権威、山口武典・日本脳卒中協会理事長(国立循環器病研究センター名誉総長)が警告している。

 夏に突然死、急性死が多発するのは、汗を多くかくため血液の粘稠度(ねんちゅうど=粘って濃くなる度合い)が増すためと、過労になりがちなためだろう。

 脳卒中には、脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血と、三つの病型がある。

 脳内の血管が破れる脳出血と血管が詰まる脳梗塞は、生活習慣病をバックにして起こる兄弟のような関係の病気だが、クモ膜下出血は、生活習慣とは直接の関係はなく、もともと脳の中にあったコブ(脳動脈瘤)が破裂する病気だ。

 昔の日本人の脳卒中といえば、たいてい脳出血(当時は脳溢血といった)だったが、今は脳梗塞が7割を占める。

 夏場の発症が多いのも脳梗塞のほうだ。

 高齢者は、温度に対する適応能力が下がるが、循環器系にその影響が現れやすい。

 夏の暑さで発汗し、脱水状態が起き、血液が濃縮されると、血管が詰まりやすくなり、脳梗塞を招きやすい。

 また、血液の量も減るため、毛細血管を含む微小血管の領域では局所的な虚血(血液不足)が起こりやすくなる。

 例えば、炎天下でのゴルフの後にクラブハウスで倒れた例、夏風邪で寝込んでしまったが、単身赴任でほとんど食事がとれず、脱水を生じ発症した例など、夏の脳梗塞は脱水が引き金になったケースが多い。

 夏はなるべく多く水分をとったほうがよい。

 人は寝ているときにも汗をかくが、夏の夜は汗の量が増えるので、翌朝、脳梗塞を起こしやすい。

 夜中にトイレに起きたくないからと、夜は水を飲むのをひかえる人が多いようだが、夏場は「夜寝る前にコップ一杯、朝起きたら一杯飲みなさい」と、山口先生。

 脳卒中の予防は、まず正しい生活習慣だ。

 食べすぎ、(酒の)飲みすぎ、(たばこの)吸いすぎ、働きすぎ(のストレス)、怠けすぎ(の運動不足)の「五すぎ」が重なると、高血圧、糖尿病、脂質異常症(血液中の悪玉コレステロールのLDLと、中性脂肪が異常に多く、善玉のHDLが少ない状態)などを招いて脳卒中になりやすい。

 脳梗塞の発症を防ぐには、前ぶれのTIA(一過性脳虚血発作)を見逃さず、きちんと対処すること。

 TIAとは、脳の血液循環が一時的に悪くなったために起こる、軽い脳梗塞のような症状だ。

 いちばん多い症状は、顔面を含む体の片側の運動障害だ。

 手足に力が入らない、片側の顔面や手足のしびれ感、ろれつが回りにくくなる...といった症状が出るが、たいていは十数分以内、長くても24時間以内に自然に回復する。

 そこで安心してはいけない。

 TIAは脳梗塞が起りかけている警戒警報なのだ。すぐ循環器内科を受診しよう。

 万一、脳梗塞で倒れたら、一刻も早く脳卒中センター機能をもつ病院へ─。

 脳梗塞の治癒率を飛躍的に高めた薬、t-PAは、発症後4時間以内に投与しなければ効果が期待できない。

 Brain is time(脳は時なり)─アメリカの脳卒中キャンペーンの標語だ。
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