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「グルテンフリー」の健康障害 [医療小文]

「グルテンフリー」はかえって健康に悪いかも

 プロテニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチさんやモデルのミランダ・カーさんら、海外アスリートや有名モデルが実践していることで話題になった「グルテンフリー」。

最近はテレビや雑誌などでも盛んに紹介され、「健康的な食事法」とうたわれて日本でも広まりつつあるようです。

 グルテンフリー(Gluten Free)直訳すると「グルテンなし」。「グルテン」とは、小麦などに含まれるたんぱく質=小麦タンパク のこと。

 つまり、グルテンフリーとは、「小麦たんぱくを食べない」、もしくは「小麦たんぱくを食べない」こと。ポイントは、あくまでもグルテンのみ。糖質ダイエットや炭水化物ダイエットとは根本的に違います。

 元々は小麦の中に含まれるタンパク質に、アレルギー反応や腸の炎症を起こしてしまう人のための食事法ですが、効果が不明なまま、減量や美肌、疲労回復によいとうたわれています。

 そもそもグルテンとは何か、そしてグルテンフリーは万人にメリットがあるのか。詳しく知られていないグルテンフリーについて検証します。

 グルテンフリーが本当に必要な人とは

 グルテンは、小麦やライ麦、大麦などの穀物から生成されるタンパク質で、小麦粉などに水を加えてこねることで生成されます。

 パン生地の粘りや、スパゲティのモチモチ感はグルテンによるもの。

 日本の伝統的な食品であるお麩(ふ)もグルテンの食感を利用した食品です。

 グルテンはどちらかというと消化酵素の作用で分解されにくいタンパク質で、十分に消化しきれなかったグルテンによって、消化管内で炎症反応やアレルギー反応を起こす人がいることが知られています。

 グルテン関連障害と呼ばれており、3タイプに分けられます。

<セリアック病>

 小麦などに含まれるグルテンにより発症する自己免疫疾患です。

 消化が十分にされないままのグルテンがペプチド(アミノ酸が複数個つながった状態)のまま小腸粘膜に吸収され、それを異物と認識する免疫反応によって炎症を引き起こし、消化吸収に重要な小腸粘膜を損傷してしまいます。

 栄養を十分に吸収できなくなるため、体重減少、貧血、慢性疲労といった症状を起こします。

 症状だけでなく、小腸の細胞などを検査して診断されます。有病率はヨーロッパでは0.7%ほど、アメリカでは0.4~1%ほどと推定されていますが、日本を含むアジアでは比較的少ないと考えられています。

 今のところ有効な薬物療法などがないため、セリアック病の人にとってグルテンフリーは健康的な生活を送るために不可欠なものです。

<小麦アレルギー>

 小麦アレルギーは、小麦に含まれるタンパク質(主にグルテン)に対して過剰な免疫反応を起こすもので、食べてすぐにじんましんや呼吸器系の症状、アナフィラキシーショックなどを引き起こすことがあります。

 小麦やグルテンの除去が必要かどうかは、専門医が負荷試験などをして判断します。

 日本人の小麦アレルギー有病率は0.1~0.2%ほどと推定されています。

<非セリアックグルテン過敏症>

 セリアック病や小麦アレルギーではないのに、グルテンの入った食べものをとると体に不調が起こり、グルテンフリーで改善することが確認できるものを「非セリアックグルテン過敏症」としています。

 最近の報告では、非セリアックグルテン過敏症とされる患者に対し、グルテン感受性を調べたところ、グルテンによる特別な症状が表れた人は16%しかいなかったことが明らかになりました。

 グルテンの有無が分からない食事をした患者に、実際にはグルテンは入っていないのに、不快な症状がみられたことが確認されており、実際の患者数は予想より少ないのではないかと考えられています。

 今後、グルテンが体によくないというイメージが一般に広がると、心理的な影響で、小麦製品を食べると体の不調をおぼえる人が増えるかもしれません。

 大半の人はグルテンフリーをすべきでない

 では、これらグルテン関連障害ではない大半の人にとって、グルテンフリーに健康効果はあるのでしょうか。

 小麦は小麦粉としてパンやスパゲティー、粉ものの原料だけでなく、加工食品にも幅広く利用されており、私たちの食生活を支える重要な穀物です。

 小麦や小麦由来のグルテンを全く含まない食事をするためには、大きな手間や費用もかかるため、健康上明らかにメリットがある場合にのみグルテンフリーが勧められるべきです。

 結論から言うと、グルテン関連障害ではない人がグルテンフリーを実践しても、健康効果があるという科学的根拠はありません。

 それどころか、健康リスクを高める可能性さえあります。

 2017年に英国医師会雑誌に掲載された研究では、セリアック病の診断を受けた人を除き、長期にわたってグルテンを多く摂取していた人と、少なく摂取していた人の間で、心筋梗塞(こうそく)などの冠動脈疾患の発症率に差がないことが明らかにされました。

 一方、グルテンを避けることで、冠動脈疾患のリスクを低くする全粒穀物の摂取量が少なくなる可能性が示され、「セリアック病でない人にはグルテンフリーを勧めるべきでない」と結論付けています。

 その他にもインターネットでは、ダイエットに美肌、集中力アップや精神症状の改善など、本当にさまざまな効果がうたわれていますが、信頼ある報告は見当たりませんでした。

 グルテンフリーを実践している人は、そうでない人に比べて食物繊維摂取量が少なく、亜鉛やマグネシウムなど不足しがちなミネラルの豊富な全粒穀物の摂取量も少なくなりやすい、という傾向があるようです。

 全粒穀物は、ダイエットに効果があることが複数の研究で示されていますし、美肌を維持するためにも栄養バランスの良い食事は不可欠ですから、偏った食事になりやすいグルテンフリーはお勧めできません。

 セリアック病など特別な理由がないかぎり、グルテンフリーは必要ないと考えてよいでしょう。

 悪いものを食べているという不安が、実際に体の変調に結びつくことはあります。「ノセボ効果」といいいます。

 原因の分からない消化管の不調がある場合には、消化器内科など信頼できる医療機関を受診してほしいと思います。(成田崇信 / 管理栄養士)
    
 ノセボ効果=体に悪いものを食べたかもしれないという思い込みや心理的負荷などが原因で、無害なものを食べたのにもかかわらず、身体症状など有害な副作用が引き起こされること。

 有用な作用の場合にはプラセボ効果と呼ぶ。 
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