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牛乳で暑さに強くなる [健康短信]

運動直後の牛乳で暑さに強くなる
能勢博 / 信州大学教授

梅雨が明けると、いよいよ本格的な夏の到来です。

私が子どもの頃は、ヒマワリが咲いて、青空に入道雲が出て、どこかからセミの鳴き声が聞こえると、もう体がムズムズしたものです。

学校の授業もうわの空で、終業式の日に学校から渡される薄っぺらなワークブックは「勉強はしなくてよい」という免罪符だと思っていたし、夏休みは永遠に続くとさえ感じられました。

でも最近は、ニュースで「熱中症に注意」「水分を取るのを忘れずに」と連発されます。

子どもでさえ、ついつい外に出るのがおっくうになるでしょうし、大人の私たちならなおさらです。

でも大丈夫、朝夕の涼しい時間帯(気温25℃以下)にインターバル速歩をすれば、本格的な夏が来ても「今年の夏は、去年に比べて過ごしやすい」と感じるようになります。

そして夏を恐れるより、子どもの頃のようにむしろ楽しんでやろう、という気持ちになります。そのコツをお教えしましょう。

暑さに強い体とは

私たちの体温は37℃付近に調節されています。

ここでいう体温とは体の中心の温度で、厳密に言えば脳の温度です。

この体温がわずか0.1℃上昇しただけで、私たちは暑いと感じ、皮膚の血流を増やし、皮膚表面から熱を放散させようとします。

あるいは、汗をかいて皮膚表面から蒸発させ、体温が上がり過ぎないように調節します。

すなわち皮膚の血管が広がりやすく血流が増えやすい人、汗をかきやすい人ほど、暑さに強いといえるのです。

運動直後の乳製品摂取がカギ

ではどのようにすれば、皮膚の血管が広がりやすく、汗をかきやすい体になるのでしょうか。

答えは簡単。

30~60分間インターバル速歩をした直後に、糖質や乳たんぱく質を多く含む乳製品を取ればよいのです。

例えば、牛乳ならコップ1~2杯です。牛乳の苦手な人はヨーグルト、チーズなどでも効果があります。

ただ、乳製品は一般に糖分の含有量が少ないので、一緒にクラッカー、蜂蜜、ジャムなどを摂取することをおすすめします。

糖質から合成されるエネルギー源が、運動により減って不足すると、筋肉が分解されてエネルギー源として使われ、筋力が弱くなってしまうからです。

1回の摂取量は糖質30g、乳たんぱく質10gを目安にしてください(病気にかかっている人は主治医に確認してください)。

これを1~2週間続ければ、グッと暑さに強い体になります。

次に、インターバル速歩の後に乳製品を取ると、暑さに強い体になる仕組みを解説しましょう。

それはズバリ、血液量が増えるからです。

通常、運動習慣のない人の血液量は、体重の7%と言われます。

一方、マラソン選手はその倍近くの血液量があります。

血液量が多くなると、多くの血液が心臓に戻ってきますから、心臓は多くの血液を皮膚に流すことができます。

皮膚に多くの血液が流れれば、当然、汗を作る汗腺にも、汗の原料となる水分、電解質が行き渡り、汗をよくかけるのです。

血液量が増えるわけ

ではなぜ、運動をすると血液量が増加し、さらに運動直後の乳製品の摂取がそれを促すのでしょうか。

インターバル速歩のように本人が「ややきつい」と感じる運動の直後には、肝臓でアルブミンというたんぱく質の合成が進みます。

そのタイミングで乳たんぱく質をとると、それはアルブミンの原料となり、ますます合成が促されます。

合成されたアルブミンは血液中に放出されますが、分子量が大きい、つまり分子のサイズが大きくて、血管の壁を越えて外に出ていきにくいのです。

結果、血液の浸透圧が上昇して、血管外から水分を引き込み、血液量が増加します。

ごく簡単に言うと、アルブミンの増加で血管内の血液が「濃い」状態になり、それを適正な薄さに戻すために、血管外から水分が入ってくる、そのため血液の量が増える、という仕組みです。

若年者が5日間運動トレーニングをして、糖質60g、乳たんぱく質20gを摂取した場合、乳製品を取らなかったグループに比べて、血漿(けっしょう)量、血漿アルブミン量が著しく増加しています。

血漿は、赤血球、白血球、血小板を除いた血液中の液体成分のことで、これが増えているということは血管外から水分が引き込まれたということを示します。

暑さに強い人は汗をかく量は少ない?

余談ですが周囲を見渡してみると、汗っかきの人ってちょっと肥えていて、運動もしない……。

暑がりで、真夏になると冷房をガンガンかけるタイプが多いような気がします。

一方、運動習慣のある人は筋肉質、痩せ形。あまり汗をかかないので着ているTシャツも乾燥していて、どちらかというと冷房が嫌いなタイプです。

だから「汗をかきやすくなることは、必ずしも暑さに強い体になることではないのでは」と思われるかもしれません。

しかし、それは誤解です。

暑さに弱い人は、「暑い」と意識するまで体温が上昇しないと、皮膚の血管が拡張しません。

体温の上昇が進んだ分、かく汗も多くなります。

すなわち、「暑い、暑い」と言いながら汗をかいているのです。

そして、肌と下着の間の汗が「蒸れ感」を引き起こし、ますます冷房をつけたくなるのです。

一方、暑さに強い人は、体温が少し上がるだけで皮膚の血管が広がり、大量の血液を体の表面に流すことができます。

すなわち、このような人は「暑い」と意識する前に、熱を放散して体温が下がります。

そしてたとえ汗をかいたとしても、体温が上昇していない分、うっすら皮膚表面をぬらす程度です。

さあ、「インターバル速歩」と「牛乳」で快適な夏を過ごしませんか。

「毎日新聞 医療プレミア」より。
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