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認知症を改善する睡眠パターン [医療小文]

レム睡眠の増加で認知機能が改善?

ヒトの睡眠は、大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠という2つの状態を交互に繰り返している。

睡眠中に急速な眼球運動が見られることからRapid Eye Movement(REM)と呼ばれるレム睡眠では脳の一部が活動を維持しており、夢を見やすく、心拍や呼吸は不規則である。

一方、ノンレム睡眠では心肺や呼吸は落ち着き、デルタ波(徐波)が検出される。

いわゆる深い睡眠とされるノンレム睡眠に比べて、浅い眠りとされるレム睡眠に対する理解はあまり深まっていない。

第12回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(7月5~7日)で筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)主任研究者で准教授の林悠氏は、以前に同氏らの研究班が明らかにしたレム睡眠を制御する神経細胞群についてあらためて解説するとともに、それらを介してレム睡眠を増加させる新しいアプローチ法がパーキンソン病(PD)に伴うレム睡眠行動障害(RBD)や認知機能の改善に寄与する可能性について言及した。

加齢に伴いレム睡眠も減少する

林氏は「デルタ波が発生することで、脳内で神経伝達がされにくくなり、感覚入力が遮断されて結果的に眠りが深くなる。

脳波=脳の神経細胞から出る弱い周期性の電流。
人間の脳波は、アルファ波、ベータ波、シータ波、デルタ波の四つに分けられる。
デルタ波は、脳波が最も遅い状態。

顕在意識が働いていない状態で、深い眠りについている状態、または、無意識の状態です。

また記憶の定着や、ホルモン分泌、脳内の老廃物除去に関わることが分かってきた」と説明した。

加齢に伴い、総睡眠時間とともにノンレム睡眠は減少することが知られているが、同氏が紹介した過去の報告によると、1晩の睡眠に占めるレム睡眠の割合も新生児の50%から、19〜30歳の若年成人で22%に、高齢者で約14%に減少し、その度合いはノンレム睡眠を大きく上回っている。

同氏は「加齢とともに深いノンレム睡眠だけでなく、レム睡眠も減少している。同様の睡眠の質の変化は、認知症や糖尿病の患者、あるいは睡眠薬の服用によっても起こっている」と述べた。

レム睡眠が睡眠の質を左右する

レム睡眠の役割に着目した林氏らの研究班は、過去の報告からレム睡眠とノンレム睡眠の切り替えに関与する神経細胞群が脳幹のpons(橋)に存在すると考え、マウスを用いて神経細胞の遺伝子プロファイリングを行った。

結果、同氏らはAtoh1陽性の神経細胞群において、覚醒の促進およびレム睡眠の抑制に関わる神経細胞群を同定し、得られた知見を基に、レム睡眠を遺伝学的に阻害できるマウスの作製に成功した。

このレム睡眠制御マウスを用いて、同氏らはレム睡眠の阻害がノンレム睡眠に及ぼす影響について検討した。

結果、「レム睡眠を10分間阻害しただけではノンレム睡眠中のデルタ波に影響は認められなかったが、長時間にわたり阻害したところ、デルタ波は次第に弱まった」と同氏。

加えて、レム睡眠を阻害しない自然な状態においてもレム睡眠が長いほど直後のノンレム睡眠中のデルタ波が強まる(正の相関)ことを確認したが、覚醒時間とデルタ波との間にはそのような強い相関は認められなかったという。

これらの結果を踏まえ、同氏は、

「レム睡眠がノンレム睡眠の前にあることによってノンレム睡眠中のデルタ波を強め、記憶の定着や脳の発達に貢献している可能性がある」との見解を示した。

RBD発症の神経メカニズムの手がかりを得る

現在、林氏らは、パーキンソン病(PD)の原因の1つと考えられている蛋白質、αシヌクレインの橋への影響について研究を行っている。

αシヌクレインは、睡眠中に突然叫び声を上げたり、激しく動き回ったりする睡眠行動障害(RBD). RBDなど、他の睡眠関連障害の原因とも指摘されている。

同氏らは、マウスの橋において同定した、レム睡眠の制御に重要な神経細胞群がαシヌクレインを蓄積しやすく、損傷を受けることでRBDなどの睡眠関連症状を引き起こしている可能性がある点を指摘した。

αシヌクレインの研究は現在も継続中だが、同氏は「加齢やαシヌクレインの蓄積によってレム睡眠を促進する神経細胞群の機能が低下し、それがノンレム睡眠中のデルタ波を弱め、睡眠が断片化し、RBDなどの睡眠関連症状が出現、結果的に認知機能の低下にも寄与しているのではないか」と考察。

最後に、同氏は、

「レム睡眠を増加させるアプローチ法が発見できれば、認知機能の改善が可能になると考えられる」と展望し、発表を締めくくった。
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