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運命と食事 [医学・医療・雑感小文]

文学や歴史に見る「運命と食事の関係」

丁宗鐵 / 日本薬科大学学長

 美しくなりたい、若く見られたい--。

 美容のためにサプリメントを使っている人も多いのではないでしょうか。

 サプリメントは健康維持のために栄養を補う食品ですが、摂取する側の期待は、美容にもつながっています。

 食べることで美しくなりたい、自分を変えたいと考える原点は、いったいどこからきているのか。

 文学や歴史の中にその背景やヒントがあるように、私には思えます。

 人相見が予言した光源氏の運命

 漢方には、目で体の状態を見る「望診」という伝統的な診察法があるのですが、「観相」も長い歴史があります。

 観相は人相見(にんそうみ)とも呼ばれ、その人の顔や容貌を見て、性格や運命などを判断するものです。

 日本の古典の中には、そんな場面が描かれています。

 源氏物語の第一帖桐壺では、幼少から聡明(そうめい)で美男子だった光源氏の将来を気にした帝(みかど)が、内密に高麗人の人相見に、観相に行かせます。

 素性などはなにも伝えず、光源氏の顔を見せると、人相見はたいそう驚き、「この子は国の帝王になる高貴な相をしている」と言い当てます。

 しかし、「帝王になると国が乱れるかもしれない」と予言します。

 その報告を聞いた帝は、光源氏を自分の後継ぎにしないと決め、我が子の身に危険が及ばぬよう、源氏の姓を与えて平民にするのです。

 当時の貴族は、人相見に子どもの顔を見せて、将来の運命を決めていました。

 観相家や人相見は、この子はこんな人生を歩むと予言し、言い当てるのが技量だったのです。

 人相と運命に食がかかわっている

 日本の観相では、運命は決められたもので変えられない、と考えられていました。

 しかし、江戸時代の中期ごろになると、これを覆す観相家が現れます。

 一目見ただけで、ぴたりと当たると評判になった水野南北です。

 南北は自身の経験と数多くの観相の実践から、人の一生は運命で決まるのではなく、食事から吉凶が起きていると気づきます。

 そして、運命はその人の努力で変えられるものであり、そのためには食事が最も大切であると主張したのです。

「食べて美しくなりたい」は運命を変えたい表れ?

 酒浸りのすさんだ生活をしていると、肌は荒れて顔つきは貧相になったり、険しくなったりします。

 これは市井の人にも納得のいくことでした。

 また、「運命は変えられる」ということが、人々の希望になったのです。

 「命を養う根本は食であり、暴飲暴食を慎むことで人相も運命もよくなる」--。

 南北が主張したことは、望診をしていた当時の漢方医も知っていたでしょう。

 また、漢方の養生や摂養を観相に取り入れたとも考えられます。

 その後、南北の観相の考え方を基盤にして、影響を受けた石塚左玄や桜沢如一が玄米食による食事法を提唱します。

 食事で運命が変えられるなら、食事で病気を予防したり、治したりできるのではないか。

 それにはどんな食事が体によいのか。

 しだいにそう考えられるようになり、食事と美容も結び付くようになったのではないでしょうか。

 最近人気のハトムギは、食品であり医薬品

 最近は、肌によいとされるハトムギが人気のようです。

 私が子どものころ、ハトムギはあちらこちらの野原によく生えていました。

 植物に詳しい人は、採取したハトムギをお茶にしたり、ちょっとした皮膚病に使ったりして民間療法に活用したものです。

 厚生労働省が定めた食薬区分の中で、食品と医薬品の両方に入っているものは、甘草(かんぞう)や高麗人参(ニンジン)が知られていますが、ハトムギもその一つです。

 医薬品として扱う場合は「薏苡仁」、または読みがなの「ヨクイニン」と表記されます。

 漢方では、いぼ取りの生薬として伝統的に使われてきました。抗炎症作用や抗腫瘍作用などが認められています。

 また、保水作用があって皮膚がしっとりするため、医薬部外品や化粧品にもよく使われています。

 丁宗鐵日本薬科大学学長
てい・むねてつ 1947年東京生まれ。医学博士。横浜市立大学医学部卒業。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本薬科大学学長、百済診療所院長。


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