運命と食事 [医学・医療・雑感小文]
文学や歴史に見る「運命と食事の関係」
丁宗鐵 / 日本薬科大学学長
美しくなりたい、若く見られたい--。
美容のためにサプリメントを使っている人も多いのではないでしょうか。
サプリメントは健康維持のために栄養を補う食品ですが、摂取する側の期待は、美容にもつながっています。
食べることで美しくなりたい、自分を変えたいと考える原点は、いったいどこからきているのか。
文学や歴史の中にその背景やヒントがあるように、私には思えます。
人相見が予言した光源氏の運命
漢方には、目で体の状態を見る「望診」という伝統的な診察法があるのですが、「観相」も長い歴史があります。
観相は人相見(にんそうみ)とも呼ばれ、その人の顔や容貌を見て、性格や運命などを判断するものです。
日本の古典の中には、そんな場面が描かれています。
源氏物語の第一帖桐壺では、幼少から聡明(そうめい)で美男子だった光源氏の将来を気にした帝(みかど)が、内密に高麗人の人相見に、観相に行かせます。
素性などはなにも伝えず、光源氏の顔を見せると、人相見はたいそう驚き、「この子は国の帝王になる高貴な相をしている」と言い当てます。
しかし、「帝王になると国が乱れるかもしれない」と予言します。
その報告を聞いた帝は、光源氏を自分の後継ぎにしないと決め、我が子の身に危険が及ばぬよう、源氏の姓を与えて平民にするのです。
当時の貴族は、人相見に子どもの顔を見せて、将来の運命を決めていました。
観相家や人相見は、この子はこんな人生を歩むと予言し、言い当てるのが技量だったのです。
人相と運命に食がかかわっている
日本の観相では、運命は決められたもので変えられない、と考えられていました。
しかし、江戸時代の中期ごろになると、これを覆す観相家が現れます。
一目見ただけで、ぴたりと当たると評判になった水野南北です。
南北は自身の経験と数多くの観相の実践から、人の一生は運命で決まるのではなく、食事から吉凶が起きていると気づきます。
そして、運命はその人の努力で変えられるものであり、そのためには食事が最も大切であると主張したのです。
「食べて美しくなりたい」は運命を変えたい表れ?
酒浸りのすさんだ生活をしていると、肌は荒れて顔つきは貧相になったり、険しくなったりします。
これは市井の人にも納得のいくことでした。
また、「運命は変えられる」ということが、人々の希望になったのです。
「命を養う根本は食であり、暴飲暴食を慎むことで人相も運命もよくなる」--。
南北が主張したことは、望診をしていた当時の漢方医も知っていたでしょう。
また、漢方の養生や摂養を観相に取り入れたとも考えられます。
その後、南北の観相の考え方を基盤にして、影響を受けた石塚左玄や桜沢如一が玄米食による食事法を提唱します。
食事で運命が変えられるなら、食事で病気を予防したり、治したりできるのではないか。
それにはどんな食事が体によいのか。
しだいにそう考えられるようになり、食事と美容も結び付くようになったのではないでしょうか。
最近人気のハトムギは、食品であり医薬品
最近は、肌によいとされるハトムギが人気のようです。
私が子どものころ、ハトムギはあちらこちらの野原によく生えていました。
植物に詳しい人は、採取したハトムギをお茶にしたり、ちょっとした皮膚病に使ったりして民間療法に活用したものです。
厚生労働省が定めた食薬区分の中で、食品と医薬品の両方に入っているものは、甘草(かんぞう)や高麗人参(ニンジン)が知られていますが、ハトムギもその一つです。
医薬品として扱う場合は「薏苡仁」、または読みがなの「ヨクイニン」と表記されます。
漢方では、いぼ取りの生薬として伝統的に使われてきました。抗炎症作用や抗腫瘍作用などが認められています。
また、保水作用があって皮膚がしっとりするため、医薬部外品や化粧品にもよく使われています。
丁宗鐵日本薬科大学学長
てい・むねてつ 1947年東京生まれ。医学博士。横浜市立大学医学部卒業。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本薬科大学学長、百済診療所院長。
丁宗鐵 / 日本薬科大学学長
美しくなりたい、若く見られたい--。
美容のためにサプリメントを使っている人も多いのではないでしょうか。
サプリメントは健康維持のために栄養を補う食品ですが、摂取する側の期待は、美容にもつながっています。
食べることで美しくなりたい、自分を変えたいと考える原点は、いったいどこからきているのか。
文学や歴史の中にその背景やヒントがあるように、私には思えます。
人相見が予言した光源氏の運命
漢方には、目で体の状態を見る「望診」という伝統的な診察法があるのですが、「観相」も長い歴史があります。
観相は人相見(にんそうみ)とも呼ばれ、その人の顔や容貌を見て、性格や運命などを判断するものです。
日本の古典の中には、そんな場面が描かれています。
源氏物語の第一帖桐壺では、幼少から聡明(そうめい)で美男子だった光源氏の将来を気にした帝(みかど)が、内密に高麗人の人相見に、観相に行かせます。
素性などはなにも伝えず、光源氏の顔を見せると、人相見はたいそう驚き、「この子は国の帝王になる高貴な相をしている」と言い当てます。
しかし、「帝王になると国が乱れるかもしれない」と予言します。
その報告を聞いた帝は、光源氏を自分の後継ぎにしないと決め、我が子の身に危険が及ばぬよう、源氏の姓を与えて平民にするのです。
当時の貴族は、人相見に子どもの顔を見せて、将来の運命を決めていました。
観相家や人相見は、この子はこんな人生を歩むと予言し、言い当てるのが技量だったのです。
人相と運命に食がかかわっている
日本の観相では、運命は決められたもので変えられない、と考えられていました。
しかし、江戸時代の中期ごろになると、これを覆す観相家が現れます。
一目見ただけで、ぴたりと当たると評判になった水野南北です。
南北は自身の経験と数多くの観相の実践から、人の一生は運命で決まるのではなく、食事から吉凶が起きていると気づきます。
そして、運命はその人の努力で変えられるものであり、そのためには食事が最も大切であると主張したのです。
「食べて美しくなりたい」は運命を変えたい表れ?
酒浸りのすさんだ生活をしていると、肌は荒れて顔つきは貧相になったり、険しくなったりします。
これは市井の人にも納得のいくことでした。
また、「運命は変えられる」ということが、人々の希望になったのです。
「命を養う根本は食であり、暴飲暴食を慎むことで人相も運命もよくなる」--。
南北が主張したことは、望診をしていた当時の漢方医も知っていたでしょう。
また、漢方の養生や摂養を観相に取り入れたとも考えられます。
その後、南北の観相の考え方を基盤にして、影響を受けた石塚左玄や桜沢如一が玄米食による食事法を提唱します。
食事で運命が変えられるなら、食事で病気を予防したり、治したりできるのではないか。
それにはどんな食事が体によいのか。
しだいにそう考えられるようになり、食事と美容も結び付くようになったのではないでしょうか。
最近人気のハトムギは、食品であり医薬品
最近は、肌によいとされるハトムギが人気のようです。
私が子どものころ、ハトムギはあちらこちらの野原によく生えていました。
植物に詳しい人は、採取したハトムギをお茶にしたり、ちょっとした皮膚病に使ったりして民間療法に活用したものです。
厚生労働省が定めた食薬区分の中で、食品と医薬品の両方に入っているものは、甘草(かんぞう)や高麗人参(ニンジン)が知られていますが、ハトムギもその一つです。
医薬品として扱う場合は「薏苡仁」、または読みがなの「ヨクイニン」と表記されます。
漢方では、いぼ取りの生薬として伝統的に使われてきました。抗炎症作用や抗腫瘍作用などが認められています。
また、保水作用があって皮膚がしっとりするため、医薬部外品や化粧品にもよく使われています。
丁宗鐵日本薬科大学学長
てい・むねてつ 1947年東京生まれ。医学博士。横浜市立大学医学部卒業。日本東洋医学会漢方専門医・指導医。日本薬科大学学長、百済診療所院長。
えっ、歯から腹へ? [医学・医療・雑感小文]
口腔内の歯周病菌が大腸がん発生に関与
横浜市立大学肝胆膵消化器病学内視鏡センター診療講師の日暮琢磨氏らは、大腸がん患者の患部組織と唾液から口腔常在菌の一種であるFusobacterium nucleatum(F. nucleatum)を分離、解析したところ、患者の4割以上でがん組織と唾液に共通する菌株が存在したことをGut(2018年6月22日オンライン版)で報告した。
Fusobacterium nucleatumは口腔に常在するグラム陰性嫌気性菌。
同氏は「この結果から、大腸がん組織中のF. nucleatumが口腔内に由来することが示唆された」と述べている。
口腔内のF. nucleatumが大腸がん組織へ移行
近年、大腸がんの病態や予後にF. nucleatumが悪影響を及ぼすという報告が増え、注目されている。
しかし、これまでヒトの腸内からF. nucleatumが検出されることは少なく、大腸がん組織におけるF. nucleatumの感染経路は不明だった。
日暮氏らは、F. nucleatumが口腔内環境において優先菌種であることに着目し、口腔内に存在するF. nucleatumが大腸がん組織へ移行しているとの仮説を立てて検証を行った。
同氏らは、大腸内視鏡検査で大腸がんと診断された84例のうち、1カ月以内の抗菌薬使用歴がないなどの条件を満たした患者14例(男性10例、女性4例、平均年齢69.4歳)を対象に、内視鏡を用いて採取した大腸がん組織および唾液検体からFusobacterium選択培地を用いて計1,351コロニーを分離、特異的プライマーポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で361のF. nucleatumを検出した。
その結果、8例で大腸がん組織および唾液の両方からF. nucleatumが検出された。
さらに、これら8例から分離されたF. nucleatumをarbitrarily primed PCR(AP-PCR)法を用いて菌株レベルで解析したところ、6例において大腸がん組織および唾液の両方から同一菌株が検出された。
以上から、同氏は「F. nucleatumは健康人の多くが口腔内に保有する常在菌の一種であり、歯周病の悪化にも関与することが報告されており、近年では大腸がん悪化への関与が強く疑われることも報告されている。
今回の研究の結果、口腔内と大腸がん組織におけるF. nucleatumの菌株が一致したことから、口腔内のF. nucleatumが大腸がん組織に移行、感染していることが示唆された」と結論した。
さらに「詳細な移行・感染ルートの解明は今後の課題であるが、今回得られた知見により、口腔内や腸内の細菌を調べることで大腸がんの簡便な診断法を開発できる可能性や、口腔内、腸内細菌を制御することが大腸がんの治療や予防につながる可能性が示唆された。
今後は分子生物学的手法も取り入れて、より多くの大腸がん患者を対象に研究を進めて行く予定だ」と展望した。(大江 円)
「MedicalTribune」2018年6月29日
横浜市立大学肝胆膵消化器病学内視鏡センター診療講師の日暮琢磨氏らは、大腸がん患者の患部組織と唾液から口腔常在菌の一種であるFusobacterium nucleatum(F. nucleatum)を分離、解析したところ、患者の4割以上でがん組織と唾液に共通する菌株が存在したことをGut(2018年6月22日オンライン版)で報告した。
Fusobacterium nucleatumは口腔に常在するグラム陰性嫌気性菌。
同氏は「この結果から、大腸がん組織中のF. nucleatumが口腔内に由来することが示唆された」と述べている。
口腔内のF. nucleatumが大腸がん組織へ移行
近年、大腸がんの病態や予後にF. nucleatumが悪影響を及ぼすという報告が増え、注目されている。
しかし、これまでヒトの腸内からF. nucleatumが検出されることは少なく、大腸がん組織におけるF. nucleatumの感染経路は不明だった。
日暮氏らは、F. nucleatumが口腔内環境において優先菌種であることに着目し、口腔内に存在するF. nucleatumが大腸がん組織へ移行しているとの仮説を立てて検証を行った。
同氏らは、大腸内視鏡検査で大腸がんと診断された84例のうち、1カ月以内の抗菌薬使用歴がないなどの条件を満たした患者14例(男性10例、女性4例、平均年齢69.4歳)を対象に、内視鏡を用いて採取した大腸がん組織および唾液検体からFusobacterium選択培地を用いて計1,351コロニーを分離、特異的プライマーポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で361のF. nucleatumを検出した。
その結果、8例で大腸がん組織および唾液の両方からF. nucleatumが検出された。
さらに、これら8例から分離されたF. nucleatumをarbitrarily primed PCR(AP-PCR)法を用いて菌株レベルで解析したところ、6例において大腸がん組織および唾液の両方から同一菌株が検出された。
以上から、同氏は「F. nucleatumは健康人の多くが口腔内に保有する常在菌の一種であり、歯周病の悪化にも関与することが報告されており、近年では大腸がん悪化への関与が強く疑われることも報告されている。
今回の研究の結果、口腔内と大腸がん組織におけるF. nucleatumの菌株が一致したことから、口腔内のF. nucleatumが大腸がん組織に移行、感染していることが示唆された」と結論した。
さらに「詳細な移行・感染ルートの解明は今後の課題であるが、今回得られた知見により、口腔内や腸内の細菌を調べることで大腸がんの簡便な診断法を開発できる可能性や、口腔内、腸内細菌を制御することが大腸がんの治療や予防につながる可能性が示唆された。
今後は分子生物学的手法も取り入れて、より多くの大腸がん患者を対象に研究を進めて行く予定だ」と展望した。(大江 円)
「MedicalTribune」2018年6月29日
急性膵炎の原因 [医学・医療・雑感小文]
急性膵炎の原因は胆石4割、飲酒3割、デパケン、ACE阻害薬も!
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
吉本芸人の初代M-1王者の兄弟漫才コンビの兄の中川剛氏や、チュートリアル福田氏、大木ひびき氏も急性膵炎を起こしたと報道がありました。
チュートリアル福田氏は毎日ビール1.5L、焼酎をロックで3杯飲んでいたとのことです。
膵炎で体重は60kgから45kgに減ったとのこと。
急性膵炎は小生、自分で治療することはありませんが、コモンな疾患ですし以前から気になっていた総説でしたのでまとめてみました。
この数年で急性膵炎の治療はかなり変わったようです。
1. 毎日ビール1.5L or ワイン1本 or ウイスキー200mL、5年で慢性膵炎
急性膵炎のうち、30%はアルコールが原因です。
アルコールによる膵炎は1日4~5 drinksを5年以上飲んでいる人に多いそうです。
アルコール1drinkとはアルコール換算14gのことで、ビール350mL、ワイン150mL、ウイスキー45mLぐらいです。
ということは、「膵炎を起こすのが1日4~5 drinksを5年」ですから、毎日ビール1.5L or ワイン750mL or ウイスキー200mLくらいを5年間飲むということでしょうか。
森鷗外の『独逸日記』を読むと鴎外は、ビールは1.5Lが限界とのことでしたが同僚のドイツ人たちは10~11Lくらい平気で飲むと驚いています。
ベルリンで鷗外が下宿していた部屋が現在、マリーエン通りに保存されており外壁にでかでかと「鷗外」と漢字で書いてあります。
鷗外は、この下宿の娘が頻繁に鷗外の部屋にやって来てベッドに座り長々と話し込んでいくのに耐えかねて下宿を替えています。
鷗外はこの下宿からすぐ近くのCharite病院に通っていたのです。
ここはコッホやウィルヒョウがいたところです。
Charite病院は現在もあります。敷地内にベルリン医学史博物館があり法医学の特別展示をやっていました。
この辺りからベルリンの行政中枢に至るモルトケ橋は、独ソ戦の際の激戦地です。
鷗外はベルリンに到着した日に日本公使館を訪ねています。
青木周蔵公使から「学問とは書を読むのみをいふにあらず。欧州人の思想はいかに、その生活はいかに、その礼儀はいかに、これだに善く観ば、洋行の手柄は十分ならむといはれぬ。」とあり青木公使なかなか良いことを言うなあと感心します。
鷗外はベルリン市内を散策し、「遠く望めばブランデンブルグ門を隔てて緑樹枝をさし交はしたる中より半天に浮かび出でたる凱旋塔(Siegessaeule、ジーゲスゾイレ)の神女の像」とあります。
金色の女神が頂上に立つジーゲスゾイレ(勝利の円柱)は現在もあり明治10年代に鷗外はこれを目にしていたのだなあと感動します。
鷗外はライプチヒ大学にも留学しています。
ライプチヒに、鷗外も訪れたアウエルバッハ酒場(Auerbachs Keller)が今でもあります。
ここはゲーテの『ファウスト』の中で「ライプチヒなるアウエルバハの穴倉」として出てくる舞台です。
ファウストはもし「時間よ止まれ。おまえは美しい!」と叫べるほど充実した人生の時間があれば命を取られてもよいと独り言を言います。
それを聞き付けた悪魔メフィストフェレスがファウストにありとあらゆる楽しみや恋愛を経験させるのです。
しかしファウストは最終的にかんがい工事の最中、「人の役に立つことをする時が一番充実している」と気付くのです。気が付いた瞬間に「時間よ止まれ。おまえは美しい、Verweile doch du bist so schoen、フェアヴァイレ ドッホ ドゥ ビストゥ ゾー シェーン」と叫びその瞬間にメフィストフェレスに命を奪われるのです。
130年前、明治19年1月、鷗外は友人の井上とこのアウエルバッハ酒場を訪れ『独逸日記』に「ギョオテのファウストFaustを訳するに漢詩体を以てせば如何かと語りあひ...」と記しました。
小生、ウエートレス(フロイライン)に「森鷗外の...」と一言言ったら、森鷗外、井上、悪魔メフィストフェレスを描いた壁画の前に連れて行ってくれました。
ビールと旬のアスパラガスをおいしく頂きました。
そういえば「ギョエテ(Goethe)とは俺のことかとゲーテ言い」という川柳があります。
2.たまの過飲で急性膵炎は起こさない
「へー」と思ったのは、たまの過飲では急性膵炎は起こさないというのです。
酒飲みでは膵炎の生涯リスクは2~5%で女性より男性に多く、たいてい慢性膵炎があって急性増悪(フレア)を起こします。
以前、知り合いの医師がアルコール性肝硬変の患者さんのアナムネを取っていて「俺の飲酒量の方がよっぽど多い」とぼやいていました。
ただなぜアルコールが膵炎を起こすのかよく分からないようです。
機序はアルコールの直接の毒性、免疫関与などではとのことです。
意外に基本的なことが分かっていないんだなあと思いました。
3.アル中の診断はCAGE : Cut、Annoy、Guilty、Eye openerの4つ
アルコールによる膵炎は30%ですが、慢性膵炎があって急性フレアを起こします。
アルコール中毒かどうかは次のCAGEの質問をするのだそうです。
要するに、「人に迷惑をかけて罪悪感を感じつつ、分かっちゃいるけどやめられない」と朝酒を飲むのがアル中です。
【アル中は病歴と次のCAGE質問で診断】
① アルコールをCutすべきと思ったか?
② 「酒を断て」と他人を煩わせた(Annoy)か?
③ 飲酒について罪悪感(Guilty)を感じたか?
④ 二日酔いをさますために朝酒(Eye opener)を飲むか?
民謡『会津磐梯山』で小原庄助さんが「朝寝朝酒朝湯が大好きでそれで身上潰した」とありますが、「朝酒(eye opener)って、アル中のキーワード」だったのかあと驚きました。
Cut、Annoy、Guilty、Eye openerでCAGEです。
4.急性膵炎の原因は胆石4割、アルコール3割、デパケン、ACE阻害薬も
急性膵炎の原因は胆石が40%、アルコールが30%で、この2つが最も多いそうです。胆石による膵炎の診断は、膵炎に胆石・胆泥の合併、肝酵素異常によります。
内視鏡エコーで小さな胆囊結石、胆管結石も分かります。
画像上、総胆管結石(choledocholithiasis)であれば内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は妥当です。
膵臓の偽性囊胞や被包化壊死(WON;walled-off pancreatic necrosis)では内視鏡下エコーをプラットホームにして最小侵襲手術が行われます。
ただERCP自体が膵炎の原因になるのだそうで、急性膵炎の5~10%に上るそうです。
ERCP後に膵炎が起こるのです。
だから不必要なERCPはやるなとのことです。
ERCPによる膵炎症状はNSAID坐剤や一時的な膵管stent留置で治まります。
「へー」と思ったのは、心肺バイパスを行った患者で膵虚血を起こし膵炎を起こすことがあるというのです。膵炎の5~10%だそうです。
その他、膵炎の1%未満ですが外傷もあります。鈍的外傷、穿通外傷で起こるのです。
特に脊椎を横断する膵臓中部で起こります。
さらにウイルスや寄生虫による感染も膵炎を起こします(1%未満)。
ウイルスではCMV、Mumps、EBVがあります。
寄生虫ではascaris (回虫)、clonorchis (肝吸虫:第一中間宿主マメタニシ、第二中間宿主コイ科、ワカサギなどの生食で胆管炎、岡山、琵琶湖、八郎潟、利根川)があります。
以前、東京から来た腹痛の観光客に腹部エコーを当てたら肝臓内に石灰化性の隔壁が幾つもありました。
「あのー、もしかして山梨のご出身ですか?」と聞いたところ、「えっ、なんで分かるんですか?」とひどく驚かれました。
昔、山梨の笛吹川流域は日本住血吸虫の流行地でした。
「確かに13歳の時、日本住血吸虫で入院しました」とのことでした。
隣にいたナースに「先生すごい!」と尊敬されました。まるで刑事コロンボになった気分でした。えっへん。
また小生、知らなかったのですが、薬剤による膵炎が5%未満であるというのです。特に多いのアザチオプリン(商品名イムラン、アザニン)、メルカプトプリン水和物(ロイケリン)、ジダノシン(抗HIV薬:ヴァイデックス)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、ACE阻害薬だというのです。
なおGLP-1受容体刺激薬(インクレチン製剤:ビクトーザ、バイエッタ)が膵炎を起こすデータはないそうです。
デパケンやACE阻害薬による膵炎なんて小生今まで考えたこともありませんでした。
ただ薬剤性膵炎はたいてい軽症だそうです。
また薬剤による膵炎の診断は難しいとのことです。
義父がくも膜下出血の術後にデパケンを内服していました。
脳外科の外来で「デパケンはまだありますか?」と聞かれてついうっかり正直に「あーる、ある。馬にくれるほどある」と答えて義母に「余計なこと言わないで!」と怒られていました。
そういえばこの間のサラリーマン川柳の2位が
「ちがうだろ!」妻が言うならそうだろう でした。痛いほどよく分かります。
ノーメイク、会社入れぬ顔認証 も感動でした。
以前のサラリーマン川柳
定年後、犬もいやがる5度目の散歩 も心に残る名作です。
5.中性脂肪>1,000mg/dLで膵炎起こす。1,000以上は下げよ
また高中性脂肪血症による急性膵炎が2~5%あります。
診断は空腹時TG 1,000mg/dL超によります。以前、N Engl J Med(2007; 357: 1009-1017)に高中性脂肪血症の総説がありました。
この高中性脂肪血症総説のポイントは、次の3点です。
・中性脂肪1,000~1,500mg/dL以上は膵炎を起こすのでフィブラートなどで治療
・家族歴に早期冠動脈疾患(男性55歳前、女性60歳前)あればTG下げよ
・数百の中性脂肪血症を治療することの善しあしは不明
というわけで、これを読んでから小生は、家族歴に早期冠動脈疾患がない限り1,000mg/dL未満のTGは放置しています。
LDLは必ずしっかり下げなければいけませんが、中性脂肪はよいのです。
6.IgG4関連疾患による自己免疫膵炎がある
この総説に日本の信州大学発のIgG4関連疾患による自己免疫膵炎も取り上げられていて感動でした。
自己免疫膵炎の頻度はごく少なく、1%未満ですがType1とType2があります。
Type1がIgG4関連です。先日CTで上腸間膜動脈周辺の肥厚がありIgG4関連後腹膜線維症疑いで紹介した患者さんがいました。
自己免疫膵炎Type1は閉塞性黄疸、血清IgG4高値、ステロイドに反応し全身疾患で唾液腺、腎臓が侵されます。
一方、Type2は若年者で急性膵炎の発症があり、IgG4は低値、ステロイドに反応しますが全身疾患ではなく膵臓のみ侵されます。
なお以前はOddi括約筋不全や、膵管癒合不全(pancreas divisum)が膵炎を起こすのではといわれていたのですが最近は懐疑的だそうです。
7.肥満、喫煙、糖尿病は膵炎のリスク
なお病的肥満、喫煙、糖尿病も膵炎の危険因子です。
2型糖尿病は急性膵炎リスクが2~3倍になります。
また肥満と糖尿病は慢性膵炎、膵がんの危険因子でもあります。
肥満と糖尿病は改善しなければいけません。
先日神戸での日本整形外科学会学術総会で鈴木大地スポーツ庁長官の特別講演がありました。
長官は毎日朝、13階の長官室まで階段を歩いているのだそうです。
そういえば聖路加国際病院の故・日野原重明先生も6階の院長室まで歩かれていました。
昔、日経新聞に鈴木大地選手がエッセーで泳法の極意を数百字の中に実に単純明快に書いていて感動しました。
まるで宮本武蔵の秘伝書、『五輪書』みたいだと思いました。
一流選手は、極意中の極意を明快に言語化できる人たちなんだなあと思いました。
長女が5歳のころ、有名なピアノの先生に教わったところその直後から劇的に奏法が改善したのを見て大変驚きました。
それまで子供のピアノの先生なんて誰に付いたって同じだと小生思っていたのですが、そのとき初めて、「良き師を選ぶことがいかに重要か」がよく分かりました。
次男は小学生のころ、下田の水泳教室で国体選手にたまたまマンツーマンで教わりましたが(参加者が他にいなかった)、今でも4種目で実にきれいな泳ぎ方をします。
日本の教員で体育以外スポーツ経験なしが中学で45.9%、高校で40.9%なのだそうです。
鈴木長官は、東京都で中学に外部指導員を入れテニスやサッカーの指導をさせるようにし、これにより生徒が都大会上位に入るようになったそうです。
長官には指導者の重要性が分かっているのでしょう。
また日本の中学、高校の部活動時間があまりに長過ぎるので、平日は2時間に制限、土曜日は休ませるそうです。
高校球児は日本全国で16万~17万人いるのですが試合に出られるのは5万人にすぎないそうです。
試合に出られぬ生徒の中に必ずや他の競技なら花開く生徒がいるはずだというのです。
そこで「JAPAN RISING STAR PROJECT、みてろよ、自分。」と称して異種競技からの人材発掘を始めたそうです。
例えば飛び込み競技で日本はオリンピックでメダルを取ったことが一度もありません。
飛び込み競技では泳力は全く関係がなくほとんど体操競技です。
そこで体操選手をリクルートして飛び込み競技をさせたところ、上位入賞者が出てきたというのです。
日本整形外科学会で鈴木長官が「週2回以上運動している方は挙手してください」と言ったところ、8割位の方が手を挙げたのには驚きました。
整形外科医は意識が高いんだなあと思いました。
日本の成人の週1回以上のスポーツ実施率は51.5%、60歳代は58.4%、70歳代は71.3%で暇な老人ほど高くなります。
問題は特に現役世代の20~50歳代でスポーツ実施率が低いことです。
日本人は毎日平均6,800~6,900歩、歩いているのですがFUN+WALK PROJECTといって、普段より+1,000歩の運動を勧めたいというのです。
毎日8,000歩歩けばほとんどの生活習慣病が防げるのです。
アサヒ飲料や高島屋をはじめとして「スポーツエールカンパニー認定」といって通勤時、一駅前で降りて歩くなどの運動を勧めています。
また今までオリンピックを契機に国民のスポーツが盛んになった国はなんとないのだそうです。
2019年の世界ラグビー、2020年の東京オリンピックをスポーツの国民的普及の切っかけにしたいと熱い思いを長官は語ってくださいました。
遺伝子変異、遺伝子polymorphismで急性、慢性膵炎を起こすことがあります。
例えば
・cationic trypsinogen(PRSS1)
・serine protease inhibitor Kazal type1(SPINK1)
・cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)
・chymotrypsin C・Calcium-sensing receptor・claudin-2(claudin-2はアルコールと相乗的に働く)
などです。
なお遺伝子polymorphismには2種類あります。
① SNP(スニップ):single nucleotide polymorphism 、1カ所の塩基が別の塩基に変わったもの
② microsatellite polymorphism: 2~4個の塩基の配列が数回から数十回繰り返す
8.急性膵炎は腹痛必須、lipase/amylaseが正常上限の3倍以上、画像で膵腫脹
急性膵炎診断には3徴候があり次の通りです。
① 腹痛(常にある。consistent)
② lipaseまたはamylaseが正常上限の最低3倍以上
③ CT、MRIで急性膵炎の所見:特に診断に有用
あいまいな腹痛や、amylaseやlipaseの軽度上昇で急性/慢性膵炎と診断するなとのことです。
中等度、重症膵炎は全身/局所合併症から診断します。
全身合併症とは呼吸、心臓血管、腎障害。またそれまでの合併症増悪、例えばCOPD、心不全、慢性肝疾患の増悪などのことです。
一方、局所合併症には膵周囲の液貯留、偽性囊胞、膵壊死・膵周囲壊死(sterileまたはinfected)などです。
臓器不全が48時間以上継続すると予後が悪くなります。膵炎の全体の死亡率は2%ですが臓器不全が持続すると死亡率は30%にもなります。臓器不全持続と感染性膵壊死が合併すると死亡率は最も高いとのことです。
9.要注意は60歳以上、BMI≧30、Ht>44%、BUN>20mg/dL、Cr>1.8mg/dL、SIRS(+)
急性膵炎の予後悪化因子は次のようなものがあります。
① 60歳以上
② 合併症の存在(Charlson comorbidity index 2点以上)
③ 肥満(BMI 30以上)
④ 長期アルコール過飲
最も有用な検査値はBUN上昇、Cr上昇、Ht上昇で輸液後も改善なければ要注意です。要するに血液濃縮(hemoconcentration)があるのが危険ということです。
特にHt 44%超、BUN 20mg/dL超、Cr 1.8mg /dL超は要注意です。
危険因子の高齢、BMI高値、合併症の存在、SIRSの存在に注意です。急性膵炎の予後悪化要因は3rd spaceと血管容積の喪失による血液濃縮とazotemia(BUN上昇)なのです。
十分な輸液にもかかわらず最初の48~72時間で、Ht上昇、BUN上昇、Cr上昇、SIRS継続、CTで膵臓あるいは周辺の壊死の存在は重症膵炎への進展を意味します。
SIRSは下記の2つ以上の存在ですが急性膵炎ではたいてい存在します。
① 体温36度以下または38度以上
② 脈拍90/分以上
③ 呼吸20/分以上、またはPCO2 32mmHg未満
④ 白血球4,000/mm3以下または1万2,000以上
10.amylaseとlipase値に予後予測価値はない!
意外だったのは、amylaseとlipaseには予後予測価値はないということです。
小生、amylase値こそ予後を決定するのかと思っていました。CTは早期ではまだはっきりせず病態を過小評価することがあります。
Scoring systemが幾つかありAPACHE Ⅱ、APACHE-O、Glasgow、Harmless Acute Pancreatitits Score、Japanese Severity Score、PANC3、 POP、BISAPなどがあります。
しかしいずれも偽陽性率が高く(多くの膵炎患者は実際には軽症で終わる)、ルーチンには使われていないとのことです。
11.発症24時間以内に200~500mL/時間、計2.5~4Lの輸液を!24時間以後は意味なし
急性膵炎の予後悪化要因は3rd space、血管容積の喪失による血液濃縮とazotemia(BUN高値)です。最初の24時間での積極的輸液は死亡率を減少させます。
発症後、特に最初の12~24時間の輸液が重要であり24時間以後は意味がないのだそうです。
晶質液(crystalloid)を200~500mL/時間または5~10mL/kg/時間で投与し最初の24時間で2,500~4,000mLの輸液を行います。
なお炎症マーカー低下には生食より乳酸リンゲルが優れていたというトライアルがあるそうです。
輸液量が適切かは、心肺モニター、時間尿量、BUN、Htをモニターします。ただし輸液過剰には注意します。
なお輸液治療の推奨はRCTでなく専門家の意見(expert opinion)によるものであり、輸液量については患者個々で合わせる(tailor)必要があります。
エビデンスレベルはRCTがレベルA、専門科の意見は最低ランクのEです。いずれにしても大量輸液は最初の24時間以内にしておくことが無難です。
12.軽症膵炎は痛み治まる前に経口低脂肪食OK、経鼻空腸より経鼻胃管を
「へー」と思ったのは、軽症急性膵炎では激痛、悪心嘔吐、イレウスがなければ、入院後すぐ低脂肪食を開始してよいのだそうです。
軽症膵炎で臓器不全や膵壊死がなければ、痛みが完全に治まる前に経口摂取を開始してよいのです。
Clear-liquid diet(清澄流動食)から徐々に固形食に上げていくよりも、低脂肪食や固形食で開始した方が安全で入院日数も短縮できるというのです。
急性膵炎患者に対するTPN(中心静脈栄養)はリスクが高く高価で腸管栄養と比較して劣ることが知られているとのことです。
膵炎ではありませんが、家内が大学病院で長女を出産したときのことです。
新米助産婦さんがベッドサイドにやってきて、キチッと計量したミルクを、「今日はこれだけ飲ませてください」と置いていきました。
一方、長男、次男は産科医院で出産したのですが、ベテラン助産婦さんがミルクを「好きなだけ飲ませてください」とドカンと置いていったのには笑ってしまいました。
だけど別にどうってこともありませんでした。まあ、人間なんてそんなものなのでしょう。
摂食で膵分泌を最小限にするには経鼻空腸チューブがベストではありますがRCT、メタ解析では経鼻胃管、経鼻十二指腸管で問題ないそうです。
というわけで、膵炎ではTPNや腸管栄養に代わって単純な胃管に取って代わりました。成分栄養(elemental diet)が優れているのかは分かっていません。
壊死性膵炎の死亡率は高いのですが予防的抗菌薬の利点はないそうです。
壊死性膵炎に感染合併が疑われたとき以外、抗菌薬投与は推奨しません。
ERCPは胆石による膵炎で行います。画像上、総胆管結石(choledocholithiasis)であればERCPは妥当です。
膵臓の偽性囊胞やWONでは内視鏡下エコーをプラットホームにして最小侵襲手術が行われます。
13.被包化膵壊死は感染、管腔圧迫なければ治療不要、4週待って経皮ドレナージ
急性の膵周囲液貯留は治療不要です。
有症状の偽性囊胞は基本的に内視鏡的に可能です。
壊死性膵炎には膵臓壊死と膵周囲脂肪壊死がありますが初期には壊死組織は液体と固体の混合です。
4週ほどたつと壊死はより液状になり被包化しWONとなります。
壊死が感染性でなければ、周囲管腔(胃、十二指腸、胆管)の閉塞がない限りWONの治療は不要だというのです。
ただし壊死部の感染は治療対象ですが最初の2週間ではまれです。ふつうmonomicrobial(単一菌)で、グラム陰性桿菌、腸球菌、グラム陽性菌(staphylococcusなど)がありますが薬剤耐性菌が増えています。
壊死組織が感染すると発熱、白血球増加、腹痛増強が出現します。
CTで壊死組織内にエアが見られることもあります。
壊死組織感染では広域抗菌薬を開始し穿刺培養は不要とのことです(なんで?)。
現在、外科的治療は極力最低4週は被包化を待ちます。
これにより壊死組織が軟化して液状になり被包化してドレナージ、デブリドマンが容易になり死亡リスクが低下します。
患者の状態が安定していれば外科的治療はたいてい遅らせられるというのです。
不安定な場合は経皮的ドレナージで十分なことが多いそうです。
壊死性膵炎の60%は非侵襲的治療が可能で死亡リスクは少ないとのこと。
壊死性膵炎には伝統的な開腹壊死組織切除よりもstep-up approachの方が成績が良いそうです。
すなわち
① 抗菌薬
② 経皮的ドレナージ
③ 数週待って最小侵襲デブリドマン
です。
最小侵襲デブリドマンには経皮的、内視鏡、腹腔鏡、後腹膜経由などのアプローチがあります。感染壊死の少数は抗菌薬のみで治療できるかもしれないそうです。
14.急性膵炎後2~3割は慢性膵炎になる。禁酒、禁煙!
急性膵炎後、20~30%で膵臓のendocrine、exocrine機能低下が起こり3分の1から2分の1は慢性膵炎になります。
その危険因子は最初の膵炎の程度、壊死の程度、膵炎の原因によります。特に長期のアルコール過飲と喫煙は慢性膵炎への移行を劇的に促進します。禁酒でリスクは大きく減少します。
15.胆石膵炎は最初の入院時に胆摘やれ!
胆石膵炎では胆囊摘出は胆石による膵炎を予防します。
胆摘が数週遅れると再発は30%まで高まるそうです。
最初の入院時に胆摘を行うことで胆石関連の合併症は、退院後25~30日で胆摘を行うよりも75%減少するというのです。
ただし重症膵炎や壊死性膵炎の場合は、状態が回復してからの胆摘が望ましいそうです。
手術が無理なら内視鏡的に胆管のsphincterotomyでも膵炎は減らせますが再発をゼロにはできません。
それではN Engl J Med(2016; 375: 1972-1981) 急性膵炎総説の最重要点10の反復です。
• 毎日ビール1.5L or ワイン1本 or ウイスキー200mL、5年で慢性膵炎
• 急性膵炎の原因は胆石4割、アルコール3割、デパケン、ACE阻害薬も
• 中性脂肪>1,000mg/dLで膵炎起こす。1,000mg/dL以上は下げよ
• IgG4関連疾患による自己免疫膵炎がある
• 急性膵炎は腹痛必須、lipase/amylaseが正常上限の3倍以上、画像で膵腫脹
• 要注意は60歳以上、BMI≧30、Ht>44%、BUN>20mg/dL、Cr>1.8mg/dL、SIRS(+)
• 発症24時間以内に200~500mL/時間、計2.5~4Lの輸液を! 24時間以後は意味なし
• 軽症膵炎は痛み治まる前に経口低脂肪食OK、経鼻空腸より経鼻胃管を
• 被包化膵壊死は感染、管腔圧迫なければ治療不要、4週待って経皮ドレナージ
• 胆石膵炎は最初の入院時に胆摘やれ!
医学紙「Medical Tribune」 より
西伊豆健育会病院病院長 仲田 和正
吉本芸人の初代M-1王者の兄弟漫才コンビの兄の中川剛氏や、チュートリアル福田氏、大木ひびき氏も急性膵炎を起こしたと報道がありました。
チュートリアル福田氏は毎日ビール1.5L、焼酎をロックで3杯飲んでいたとのことです。
膵炎で体重は60kgから45kgに減ったとのこと。
急性膵炎は小生、自分で治療することはありませんが、コモンな疾患ですし以前から気になっていた総説でしたのでまとめてみました。
この数年で急性膵炎の治療はかなり変わったようです。
1. 毎日ビール1.5L or ワイン1本 or ウイスキー200mL、5年で慢性膵炎
急性膵炎のうち、30%はアルコールが原因です。
アルコールによる膵炎は1日4~5 drinksを5年以上飲んでいる人に多いそうです。
アルコール1drinkとはアルコール換算14gのことで、ビール350mL、ワイン150mL、ウイスキー45mLぐらいです。
ということは、「膵炎を起こすのが1日4~5 drinksを5年」ですから、毎日ビール1.5L or ワイン750mL or ウイスキー200mLくらいを5年間飲むということでしょうか。
森鷗外の『独逸日記』を読むと鴎外は、ビールは1.5Lが限界とのことでしたが同僚のドイツ人たちは10~11Lくらい平気で飲むと驚いています。
ベルリンで鷗外が下宿していた部屋が現在、マリーエン通りに保存されており外壁にでかでかと「鷗外」と漢字で書いてあります。
鷗外は、この下宿の娘が頻繁に鷗外の部屋にやって来てベッドに座り長々と話し込んでいくのに耐えかねて下宿を替えています。
鷗外はこの下宿からすぐ近くのCharite病院に通っていたのです。
ここはコッホやウィルヒョウがいたところです。
Charite病院は現在もあります。敷地内にベルリン医学史博物館があり法医学の特別展示をやっていました。
この辺りからベルリンの行政中枢に至るモルトケ橋は、独ソ戦の際の激戦地です。
鷗外はベルリンに到着した日に日本公使館を訪ねています。
青木周蔵公使から「学問とは書を読むのみをいふにあらず。欧州人の思想はいかに、その生活はいかに、その礼儀はいかに、これだに善く観ば、洋行の手柄は十分ならむといはれぬ。」とあり青木公使なかなか良いことを言うなあと感心します。
鷗外はベルリン市内を散策し、「遠く望めばブランデンブルグ門を隔てて緑樹枝をさし交はしたる中より半天に浮かび出でたる凱旋塔(Siegessaeule、ジーゲスゾイレ)の神女の像」とあります。
金色の女神が頂上に立つジーゲスゾイレ(勝利の円柱)は現在もあり明治10年代に鷗外はこれを目にしていたのだなあと感動します。
鷗外はライプチヒ大学にも留学しています。
ライプチヒに、鷗外も訪れたアウエルバッハ酒場(Auerbachs Keller)が今でもあります。
ここはゲーテの『ファウスト』の中で「ライプチヒなるアウエルバハの穴倉」として出てくる舞台です。
ファウストはもし「時間よ止まれ。おまえは美しい!」と叫べるほど充実した人生の時間があれば命を取られてもよいと独り言を言います。
それを聞き付けた悪魔メフィストフェレスがファウストにありとあらゆる楽しみや恋愛を経験させるのです。
しかしファウストは最終的にかんがい工事の最中、「人の役に立つことをする時が一番充実している」と気付くのです。気が付いた瞬間に「時間よ止まれ。おまえは美しい、Verweile doch du bist so schoen、フェアヴァイレ ドッホ ドゥ ビストゥ ゾー シェーン」と叫びその瞬間にメフィストフェレスに命を奪われるのです。
130年前、明治19年1月、鷗外は友人の井上とこのアウエルバッハ酒場を訪れ『独逸日記』に「ギョオテのファウストFaustを訳するに漢詩体を以てせば如何かと語りあひ...」と記しました。
小生、ウエートレス(フロイライン)に「森鷗外の...」と一言言ったら、森鷗外、井上、悪魔メフィストフェレスを描いた壁画の前に連れて行ってくれました。
ビールと旬のアスパラガスをおいしく頂きました。
そういえば「ギョエテ(Goethe)とは俺のことかとゲーテ言い」という川柳があります。
2.たまの過飲で急性膵炎は起こさない
「へー」と思ったのは、たまの過飲では急性膵炎は起こさないというのです。
酒飲みでは膵炎の生涯リスクは2~5%で女性より男性に多く、たいてい慢性膵炎があって急性増悪(フレア)を起こします。
以前、知り合いの医師がアルコール性肝硬変の患者さんのアナムネを取っていて「俺の飲酒量の方がよっぽど多い」とぼやいていました。
ただなぜアルコールが膵炎を起こすのかよく分からないようです。
機序はアルコールの直接の毒性、免疫関与などではとのことです。
意外に基本的なことが分かっていないんだなあと思いました。
3.アル中の診断はCAGE : Cut、Annoy、Guilty、Eye openerの4つ
アルコールによる膵炎は30%ですが、慢性膵炎があって急性フレアを起こします。
アルコール中毒かどうかは次のCAGEの質問をするのだそうです。
要するに、「人に迷惑をかけて罪悪感を感じつつ、分かっちゃいるけどやめられない」と朝酒を飲むのがアル中です。
【アル中は病歴と次のCAGE質問で診断】
① アルコールをCutすべきと思ったか?
② 「酒を断て」と他人を煩わせた(Annoy)か?
③ 飲酒について罪悪感(Guilty)を感じたか?
④ 二日酔いをさますために朝酒(Eye opener)を飲むか?
民謡『会津磐梯山』で小原庄助さんが「朝寝朝酒朝湯が大好きでそれで身上潰した」とありますが、「朝酒(eye opener)って、アル中のキーワード」だったのかあと驚きました。
Cut、Annoy、Guilty、Eye openerでCAGEです。
4.急性膵炎の原因は胆石4割、アルコール3割、デパケン、ACE阻害薬も
急性膵炎の原因は胆石が40%、アルコールが30%で、この2つが最も多いそうです。胆石による膵炎の診断は、膵炎に胆石・胆泥の合併、肝酵素異常によります。
内視鏡エコーで小さな胆囊結石、胆管結石も分かります。
画像上、総胆管結石(choledocholithiasis)であれば内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)は妥当です。
膵臓の偽性囊胞や被包化壊死(WON;walled-off pancreatic necrosis)では内視鏡下エコーをプラットホームにして最小侵襲手術が行われます。
ただERCP自体が膵炎の原因になるのだそうで、急性膵炎の5~10%に上るそうです。
ERCP後に膵炎が起こるのです。
だから不必要なERCPはやるなとのことです。
ERCPによる膵炎症状はNSAID坐剤や一時的な膵管stent留置で治まります。
「へー」と思ったのは、心肺バイパスを行った患者で膵虚血を起こし膵炎を起こすことがあるというのです。膵炎の5~10%だそうです。
その他、膵炎の1%未満ですが外傷もあります。鈍的外傷、穿通外傷で起こるのです。
特に脊椎を横断する膵臓中部で起こります。
さらにウイルスや寄生虫による感染も膵炎を起こします(1%未満)。
ウイルスではCMV、Mumps、EBVがあります。
寄生虫ではascaris (回虫)、clonorchis (肝吸虫:第一中間宿主マメタニシ、第二中間宿主コイ科、ワカサギなどの生食で胆管炎、岡山、琵琶湖、八郎潟、利根川)があります。
以前、東京から来た腹痛の観光客に腹部エコーを当てたら肝臓内に石灰化性の隔壁が幾つもありました。
「あのー、もしかして山梨のご出身ですか?」と聞いたところ、「えっ、なんで分かるんですか?」とひどく驚かれました。
昔、山梨の笛吹川流域は日本住血吸虫の流行地でした。
「確かに13歳の時、日本住血吸虫で入院しました」とのことでした。
隣にいたナースに「先生すごい!」と尊敬されました。まるで刑事コロンボになった気分でした。えっへん。
また小生、知らなかったのですが、薬剤による膵炎が5%未満であるというのです。特に多いのアザチオプリン(商品名イムラン、アザニン)、メルカプトプリン水和物(ロイケリン)、ジダノシン(抗HIV薬:ヴァイデックス)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、ACE阻害薬だというのです。
なおGLP-1受容体刺激薬(インクレチン製剤:ビクトーザ、バイエッタ)が膵炎を起こすデータはないそうです。
デパケンやACE阻害薬による膵炎なんて小生今まで考えたこともありませんでした。
ただ薬剤性膵炎はたいてい軽症だそうです。
また薬剤による膵炎の診断は難しいとのことです。
義父がくも膜下出血の術後にデパケンを内服していました。
脳外科の外来で「デパケンはまだありますか?」と聞かれてついうっかり正直に「あーる、ある。馬にくれるほどある」と答えて義母に「余計なこと言わないで!」と怒られていました。
そういえばこの間のサラリーマン川柳の2位が
「ちがうだろ!」妻が言うならそうだろう でした。痛いほどよく分かります。
ノーメイク、会社入れぬ顔認証 も感動でした。
以前のサラリーマン川柳
定年後、犬もいやがる5度目の散歩 も心に残る名作です。
5.中性脂肪>1,000mg/dLで膵炎起こす。1,000以上は下げよ
また高中性脂肪血症による急性膵炎が2~5%あります。
診断は空腹時TG 1,000mg/dL超によります。以前、N Engl J Med(2007; 357: 1009-1017)に高中性脂肪血症の総説がありました。
この高中性脂肪血症総説のポイントは、次の3点です。
・中性脂肪1,000~1,500mg/dL以上は膵炎を起こすのでフィブラートなどで治療
・家族歴に早期冠動脈疾患(男性55歳前、女性60歳前)あればTG下げよ
・数百の中性脂肪血症を治療することの善しあしは不明
というわけで、これを読んでから小生は、家族歴に早期冠動脈疾患がない限り1,000mg/dL未満のTGは放置しています。
LDLは必ずしっかり下げなければいけませんが、中性脂肪はよいのです。
6.IgG4関連疾患による自己免疫膵炎がある
この総説に日本の信州大学発のIgG4関連疾患による自己免疫膵炎も取り上げられていて感動でした。
自己免疫膵炎の頻度はごく少なく、1%未満ですがType1とType2があります。
Type1がIgG4関連です。先日CTで上腸間膜動脈周辺の肥厚がありIgG4関連後腹膜線維症疑いで紹介した患者さんがいました。
自己免疫膵炎Type1は閉塞性黄疸、血清IgG4高値、ステロイドに反応し全身疾患で唾液腺、腎臓が侵されます。
一方、Type2は若年者で急性膵炎の発症があり、IgG4は低値、ステロイドに反応しますが全身疾患ではなく膵臓のみ侵されます。
なお以前はOddi括約筋不全や、膵管癒合不全(pancreas divisum)が膵炎を起こすのではといわれていたのですが最近は懐疑的だそうです。
7.肥満、喫煙、糖尿病は膵炎のリスク
なお病的肥満、喫煙、糖尿病も膵炎の危険因子です。
2型糖尿病は急性膵炎リスクが2~3倍になります。
また肥満と糖尿病は慢性膵炎、膵がんの危険因子でもあります。
肥満と糖尿病は改善しなければいけません。
先日神戸での日本整形外科学会学術総会で鈴木大地スポーツ庁長官の特別講演がありました。
長官は毎日朝、13階の長官室まで階段を歩いているのだそうです。
そういえば聖路加国際病院の故・日野原重明先生も6階の院長室まで歩かれていました。
昔、日経新聞に鈴木大地選手がエッセーで泳法の極意を数百字の中に実に単純明快に書いていて感動しました。
まるで宮本武蔵の秘伝書、『五輪書』みたいだと思いました。
一流選手は、極意中の極意を明快に言語化できる人たちなんだなあと思いました。
長女が5歳のころ、有名なピアノの先生に教わったところその直後から劇的に奏法が改善したのを見て大変驚きました。
それまで子供のピアノの先生なんて誰に付いたって同じだと小生思っていたのですが、そのとき初めて、「良き師を選ぶことがいかに重要か」がよく分かりました。
次男は小学生のころ、下田の水泳教室で国体選手にたまたまマンツーマンで教わりましたが(参加者が他にいなかった)、今でも4種目で実にきれいな泳ぎ方をします。
日本の教員で体育以外スポーツ経験なしが中学で45.9%、高校で40.9%なのだそうです。
鈴木長官は、東京都で中学に外部指導員を入れテニスやサッカーの指導をさせるようにし、これにより生徒が都大会上位に入るようになったそうです。
長官には指導者の重要性が分かっているのでしょう。
また日本の中学、高校の部活動時間があまりに長過ぎるので、平日は2時間に制限、土曜日は休ませるそうです。
高校球児は日本全国で16万~17万人いるのですが試合に出られるのは5万人にすぎないそうです。
試合に出られぬ生徒の中に必ずや他の競技なら花開く生徒がいるはずだというのです。
そこで「JAPAN RISING STAR PROJECT、みてろよ、自分。」と称して異種競技からの人材発掘を始めたそうです。
例えば飛び込み競技で日本はオリンピックでメダルを取ったことが一度もありません。
飛び込み競技では泳力は全く関係がなくほとんど体操競技です。
そこで体操選手をリクルートして飛び込み競技をさせたところ、上位入賞者が出てきたというのです。
日本整形外科学会で鈴木長官が「週2回以上運動している方は挙手してください」と言ったところ、8割位の方が手を挙げたのには驚きました。
整形外科医は意識が高いんだなあと思いました。
日本の成人の週1回以上のスポーツ実施率は51.5%、60歳代は58.4%、70歳代は71.3%で暇な老人ほど高くなります。
問題は特に現役世代の20~50歳代でスポーツ実施率が低いことです。
日本人は毎日平均6,800~6,900歩、歩いているのですがFUN+WALK PROJECTといって、普段より+1,000歩の運動を勧めたいというのです。
毎日8,000歩歩けばほとんどの生活習慣病が防げるのです。
アサヒ飲料や高島屋をはじめとして「スポーツエールカンパニー認定」といって通勤時、一駅前で降りて歩くなどの運動を勧めています。
また今までオリンピックを契機に国民のスポーツが盛んになった国はなんとないのだそうです。
2019年の世界ラグビー、2020年の東京オリンピックをスポーツの国民的普及の切っかけにしたいと熱い思いを長官は語ってくださいました。
遺伝子変異、遺伝子polymorphismで急性、慢性膵炎を起こすことがあります。
例えば
・cationic trypsinogen(PRSS1)
・serine protease inhibitor Kazal type1(SPINK1)
・cystic fibrosis transmembrane conductance regulator(CFTR)
・chymotrypsin C・Calcium-sensing receptor・claudin-2(claudin-2はアルコールと相乗的に働く)
などです。
なお遺伝子polymorphismには2種類あります。
① SNP(スニップ):single nucleotide polymorphism 、1カ所の塩基が別の塩基に変わったもの
② microsatellite polymorphism: 2~4個の塩基の配列が数回から数十回繰り返す
8.急性膵炎は腹痛必須、lipase/amylaseが正常上限の3倍以上、画像で膵腫脹
急性膵炎診断には3徴候があり次の通りです。
① 腹痛(常にある。consistent)
② lipaseまたはamylaseが正常上限の最低3倍以上
③ CT、MRIで急性膵炎の所見:特に診断に有用
あいまいな腹痛や、amylaseやlipaseの軽度上昇で急性/慢性膵炎と診断するなとのことです。
中等度、重症膵炎は全身/局所合併症から診断します。
全身合併症とは呼吸、心臓血管、腎障害。またそれまでの合併症増悪、例えばCOPD、心不全、慢性肝疾患の増悪などのことです。
一方、局所合併症には膵周囲の液貯留、偽性囊胞、膵壊死・膵周囲壊死(sterileまたはinfected)などです。
臓器不全が48時間以上継続すると予後が悪くなります。膵炎の全体の死亡率は2%ですが臓器不全が持続すると死亡率は30%にもなります。臓器不全持続と感染性膵壊死が合併すると死亡率は最も高いとのことです。
9.要注意は60歳以上、BMI≧30、Ht>44%、BUN>20mg/dL、Cr>1.8mg/dL、SIRS(+)
急性膵炎の予後悪化因子は次のようなものがあります。
① 60歳以上
② 合併症の存在(Charlson comorbidity index 2点以上)
③ 肥満(BMI 30以上)
④ 長期アルコール過飲
最も有用な検査値はBUN上昇、Cr上昇、Ht上昇で輸液後も改善なければ要注意です。要するに血液濃縮(hemoconcentration)があるのが危険ということです。
特にHt 44%超、BUN 20mg/dL超、Cr 1.8mg /dL超は要注意です。
危険因子の高齢、BMI高値、合併症の存在、SIRSの存在に注意です。急性膵炎の予後悪化要因は3rd spaceと血管容積の喪失による血液濃縮とazotemia(BUN上昇)なのです。
十分な輸液にもかかわらず最初の48~72時間で、Ht上昇、BUN上昇、Cr上昇、SIRS継続、CTで膵臓あるいは周辺の壊死の存在は重症膵炎への進展を意味します。
SIRSは下記の2つ以上の存在ですが急性膵炎ではたいてい存在します。
① 体温36度以下または38度以上
② 脈拍90/分以上
③ 呼吸20/分以上、またはPCO2 32mmHg未満
④ 白血球4,000/mm3以下または1万2,000以上
10.amylaseとlipase値に予後予測価値はない!
意外だったのは、amylaseとlipaseには予後予測価値はないということです。
小生、amylase値こそ予後を決定するのかと思っていました。CTは早期ではまだはっきりせず病態を過小評価することがあります。
Scoring systemが幾つかありAPACHE Ⅱ、APACHE-O、Glasgow、Harmless Acute Pancreatitits Score、Japanese Severity Score、PANC3、 POP、BISAPなどがあります。
しかしいずれも偽陽性率が高く(多くの膵炎患者は実際には軽症で終わる)、ルーチンには使われていないとのことです。
11.発症24時間以内に200~500mL/時間、計2.5~4Lの輸液を!24時間以後は意味なし
急性膵炎の予後悪化要因は3rd space、血管容積の喪失による血液濃縮とazotemia(BUN高値)です。最初の24時間での積極的輸液は死亡率を減少させます。
発症後、特に最初の12~24時間の輸液が重要であり24時間以後は意味がないのだそうです。
晶質液(crystalloid)を200~500mL/時間または5~10mL/kg/時間で投与し最初の24時間で2,500~4,000mLの輸液を行います。
なお炎症マーカー低下には生食より乳酸リンゲルが優れていたというトライアルがあるそうです。
輸液量が適切かは、心肺モニター、時間尿量、BUN、Htをモニターします。ただし輸液過剰には注意します。
なお輸液治療の推奨はRCTでなく専門家の意見(expert opinion)によるものであり、輸液量については患者個々で合わせる(tailor)必要があります。
エビデンスレベルはRCTがレベルA、専門科の意見は最低ランクのEです。いずれにしても大量輸液は最初の24時間以内にしておくことが無難です。
12.軽症膵炎は痛み治まる前に経口低脂肪食OK、経鼻空腸より経鼻胃管を
「へー」と思ったのは、軽症急性膵炎では激痛、悪心嘔吐、イレウスがなければ、入院後すぐ低脂肪食を開始してよいのだそうです。
軽症膵炎で臓器不全や膵壊死がなければ、痛みが完全に治まる前に経口摂取を開始してよいのです。
Clear-liquid diet(清澄流動食)から徐々に固形食に上げていくよりも、低脂肪食や固形食で開始した方が安全で入院日数も短縮できるというのです。
急性膵炎患者に対するTPN(中心静脈栄養)はリスクが高く高価で腸管栄養と比較して劣ることが知られているとのことです。
膵炎ではありませんが、家内が大学病院で長女を出産したときのことです。
新米助産婦さんがベッドサイドにやってきて、キチッと計量したミルクを、「今日はこれだけ飲ませてください」と置いていきました。
一方、長男、次男は産科医院で出産したのですが、ベテラン助産婦さんがミルクを「好きなだけ飲ませてください」とドカンと置いていったのには笑ってしまいました。
だけど別にどうってこともありませんでした。まあ、人間なんてそんなものなのでしょう。
摂食で膵分泌を最小限にするには経鼻空腸チューブがベストではありますがRCT、メタ解析では経鼻胃管、経鼻十二指腸管で問題ないそうです。
というわけで、膵炎ではTPNや腸管栄養に代わって単純な胃管に取って代わりました。成分栄養(elemental diet)が優れているのかは分かっていません。
壊死性膵炎の死亡率は高いのですが予防的抗菌薬の利点はないそうです。
壊死性膵炎に感染合併が疑われたとき以外、抗菌薬投与は推奨しません。
ERCPは胆石による膵炎で行います。画像上、総胆管結石(choledocholithiasis)であればERCPは妥当です。
膵臓の偽性囊胞やWONでは内視鏡下エコーをプラットホームにして最小侵襲手術が行われます。
13.被包化膵壊死は感染、管腔圧迫なければ治療不要、4週待って経皮ドレナージ
急性の膵周囲液貯留は治療不要です。
有症状の偽性囊胞は基本的に内視鏡的に可能です。
壊死性膵炎には膵臓壊死と膵周囲脂肪壊死がありますが初期には壊死組織は液体と固体の混合です。
4週ほどたつと壊死はより液状になり被包化しWONとなります。
壊死が感染性でなければ、周囲管腔(胃、十二指腸、胆管)の閉塞がない限りWONの治療は不要だというのです。
ただし壊死部の感染は治療対象ですが最初の2週間ではまれです。ふつうmonomicrobial(単一菌)で、グラム陰性桿菌、腸球菌、グラム陽性菌(staphylococcusなど)がありますが薬剤耐性菌が増えています。
壊死組織が感染すると発熱、白血球増加、腹痛増強が出現します。
CTで壊死組織内にエアが見られることもあります。
壊死組織感染では広域抗菌薬を開始し穿刺培養は不要とのことです(なんで?)。
現在、外科的治療は極力最低4週は被包化を待ちます。
これにより壊死組織が軟化して液状になり被包化してドレナージ、デブリドマンが容易になり死亡リスクが低下します。
患者の状態が安定していれば外科的治療はたいてい遅らせられるというのです。
不安定な場合は経皮的ドレナージで十分なことが多いそうです。
壊死性膵炎の60%は非侵襲的治療が可能で死亡リスクは少ないとのこと。
壊死性膵炎には伝統的な開腹壊死組織切除よりもstep-up approachの方が成績が良いそうです。
すなわち
① 抗菌薬
② 経皮的ドレナージ
③ 数週待って最小侵襲デブリドマン
です。
最小侵襲デブリドマンには経皮的、内視鏡、腹腔鏡、後腹膜経由などのアプローチがあります。感染壊死の少数は抗菌薬のみで治療できるかもしれないそうです。
14.急性膵炎後2~3割は慢性膵炎になる。禁酒、禁煙!
急性膵炎後、20~30%で膵臓のendocrine、exocrine機能低下が起こり3分の1から2分の1は慢性膵炎になります。
その危険因子は最初の膵炎の程度、壊死の程度、膵炎の原因によります。特に長期のアルコール過飲と喫煙は慢性膵炎への移行を劇的に促進します。禁酒でリスクは大きく減少します。
15.胆石膵炎は最初の入院時に胆摘やれ!
胆石膵炎では胆囊摘出は胆石による膵炎を予防します。
胆摘が数週遅れると再発は30%まで高まるそうです。
最初の入院時に胆摘を行うことで胆石関連の合併症は、退院後25~30日で胆摘を行うよりも75%減少するというのです。
ただし重症膵炎や壊死性膵炎の場合は、状態が回復してからの胆摘が望ましいそうです。
手術が無理なら内視鏡的に胆管のsphincterotomyでも膵炎は減らせますが再発をゼロにはできません。
それではN Engl J Med(2016; 375: 1972-1981) 急性膵炎総説の最重要点10の反復です。
• 毎日ビール1.5L or ワイン1本 or ウイスキー200mL、5年で慢性膵炎
• 急性膵炎の原因は胆石4割、アルコール3割、デパケン、ACE阻害薬も
• 中性脂肪>1,000mg/dLで膵炎起こす。1,000mg/dL以上は下げよ
• IgG4関連疾患による自己免疫膵炎がある
• 急性膵炎は腹痛必須、lipase/amylaseが正常上限の3倍以上、画像で膵腫脹
• 要注意は60歳以上、BMI≧30、Ht>44%、BUN>20mg/dL、Cr>1.8mg/dL、SIRS(+)
• 発症24時間以内に200~500mL/時間、計2.5~4Lの輸液を! 24時間以後は意味なし
• 軽症膵炎は痛み治まる前に経口低脂肪食OK、経鼻空腸より経鼻胃管を
• 被包化膵壊死は感染、管腔圧迫なければ治療不要、4週待って経皮ドレナージ
• 胆石膵炎は最初の入院時に胆摘やれ!
医学紙「Medical Tribune」 より
パニック障害 [医学・医療・雑感小文]
若い友人(38歳。会社員)が「パニック障害」にとりつかれた。
6月初旬のある朝、出社のため乗った地下鉄の三つ目の駅で、ドアが閉まったとたん、わけもなく奇妙な不安感に襲われた。
いまにも窒息しそうなほど息苦しく、鼓動が激しくなり、あぶら汗が噴き出て、足が震え、満員の電車の床に座り込んでしまった。
次の駅でふらふらと下車。
受診した病院で「パニック・ディスオーダー(パニック障害)」と診断された。
2週間おきの通院治療が効を奏し、8月以降、発作は起きてない。
パニック障害は、以前は不安神経症の一種とされていたが、1992年、独立した疾患として、WHO(世界保健機関)の「国際疾病分類」に登録された。比較的新顔の病気だ。
当時は医療関係者にもまだあまりよく知られてなく、病名がわからぬまま病院をわたり歩く人が多かったようだ。
近年は一般的な認知度が高まり、患者の会もできている。
検査をしても、身体的には何の異常も認められず、心の病気とされているが、最近は脳機能障害としてとらえる考えもある。
ただ、症状の多くが自覚的なものなので、周囲の人から「気の持ちよう」「心がけのせい」などといわれ、本人も落ち込んでうつ状態になったり、初期治療が適切でなかったため、病気が慢性化する例もあるようだ。
なるべく早く専門医(精神神経科、心療内科など)を受診すべきだ。
ある種の抗うつ薬と抗不安薬がよく効くといわれている。
この病気を自己診断するためのチェックリストがある。
①突然、理由もなく、強い不安に襲われる。
②その際、以下のうち4項目以上の症状が出る。
●心臓がドキドキする、脈が速くなる。
●息切れ、息苦しさ、ハーハー息をする。
●息が詰まり、窒息しそうになる。
●胸(心臓)が痛い、苦しい、圧迫される。
●めまい、ふらふらする、頭がボーッとする、気が遠くなる。
●手足や体のふるえ。
●発汗。顔や体がカーッと熱くなる、手足が冷たくなる、寒気がする。
●吐き気、腹部の不快感。
●自分が自分でないような感じ、現実感がない。
●今にも死んでしまうのではないかと思う。
●気が変になるのではないか、何かとんでもないことをしてしまうのではないかと思う。
③発作は4週間に4回以上起こる。
または、1回起きたあと、また起こるのではないかと恐れる状態が1ヵ月以上続く。
④心臓その他、体の病気が原因ではない。
以上4項目のすべてに該当すれば、パニック障害が疑われる。
NPO法人 全国パニック障害の会のホームページ(http://www.jpdc.or.jp)を開くと、医療機関の案内その他、親切な助言が得られる。
6月初旬のある朝、出社のため乗った地下鉄の三つ目の駅で、ドアが閉まったとたん、わけもなく奇妙な不安感に襲われた。
いまにも窒息しそうなほど息苦しく、鼓動が激しくなり、あぶら汗が噴き出て、足が震え、満員の電車の床に座り込んでしまった。
次の駅でふらふらと下車。
受診した病院で「パニック・ディスオーダー(パニック障害)」と診断された。
2週間おきの通院治療が効を奏し、8月以降、発作は起きてない。
パニック障害は、以前は不安神経症の一種とされていたが、1992年、独立した疾患として、WHO(世界保健機関)の「国際疾病分類」に登録された。比較的新顔の病気だ。
当時は医療関係者にもまだあまりよく知られてなく、病名がわからぬまま病院をわたり歩く人が多かったようだ。
近年は一般的な認知度が高まり、患者の会もできている。
検査をしても、身体的には何の異常も認められず、心の病気とされているが、最近は脳機能障害としてとらえる考えもある。
ただ、症状の多くが自覚的なものなので、周囲の人から「気の持ちよう」「心がけのせい」などといわれ、本人も落ち込んでうつ状態になったり、初期治療が適切でなかったため、病気が慢性化する例もあるようだ。
なるべく早く専門医(精神神経科、心療内科など)を受診すべきだ。
ある種の抗うつ薬と抗不安薬がよく効くといわれている。
この病気を自己診断するためのチェックリストがある。
①突然、理由もなく、強い不安に襲われる。
②その際、以下のうち4項目以上の症状が出る。
●心臓がドキドキする、脈が速くなる。
●息切れ、息苦しさ、ハーハー息をする。
●息が詰まり、窒息しそうになる。
●胸(心臓)が痛い、苦しい、圧迫される。
●めまい、ふらふらする、頭がボーッとする、気が遠くなる。
●手足や体のふるえ。
●発汗。顔や体がカーッと熱くなる、手足が冷たくなる、寒気がする。
●吐き気、腹部の不快感。
●自分が自分でないような感じ、現実感がない。
●今にも死んでしまうのではないかと思う。
●気が変になるのではないか、何かとんでもないことをしてしまうのではないかと思う。
③発作は4週間に4回以上起こる。
または、1回起きたあと、また起こるのではないかと恐れる状態が1ヵ月以上続く。
④心臓その他、体の病気が原因ではない。
以上4項目のすべてに該当すれば、パニック障害が疑われる。
NPO法人 全国パニック障害の会のホームページ(http://www.jpdc.or.jp)を開くと、医療機関の案内その他、親切な助言が得られる。
毎日の食事選びに役立つ「三大栄養素の黄金バランス」 [医学・医療・雑感小文]
体内でエネルギーを産生する栄養素は、たんぱく質、脂質、炭水化物で、これらを三大栄養素と呼びます。
それぞれ持っている働きが違いますので、健康維持のためにはバランスよく摂取することが大切です。
このバランスを「エネルギー産生栄養素バランス」といい、目標値が設定されています。
今回は三大栄養素の理想的な摂取バランスや、その実践方法をご説明いたします。
三大栄養素の黄金バランス
バランスの良い食事は、「量」と「質」の観点から評価することが重要です。
三大栄養素の摂取バランスを見る「エネルギー産生栄養素比率」は「質」を評価する指標のひとつであり、摂取するエネルギーのうち三大栄養素がそれぞれ占めるエネルギーの割合を示しています。
各栄養素のエネルギー産生栄養素比率の計算方法
◆たんぱく質(%)=たんぱく質(g)×4(kcal/g)/ 全体のエネルギー(kcal)×100
◆脂質(%)=脂質(g)×9(kcal/g)/ 全体のエネルギー(kcal)×100
◆炭水化物(%)=炭水化物(g)×4(kcal/g)/ 全体のエネルギー(kcal)×100
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、エネルギー産生栄養素比率は次のような目標量が設定されています。
◆たんぱく質 13~20%
◆脂質 20~30%
◆炭水化物 50~65%
おおよそたんぱく質2:脂質2:炭水化物6が理想なのです。
ただし、これは重量ではなくエネルギー量です。
重量に換算してみると、1日2000キロカロリーをとる場合の適量は、たんぱく質100g、脂質44.4g、炭水化物300gとなります。
黄金比率を満たす食事の選び方
実際に食事をするときには、栄養素が何グラム入っているかはわからないですよね。
そこで、三大栄養素の黄金比率をクリアする食事選びのコツをご紹介しましょう。
(1)主食・主菜・副菜をそろえる
食事をするときは、栄養素のバランスを整えるために次の3つの要素をそろえましょう。
◎主食(ご飯やパンや麺類など)
◎主菜(肉や魚、卵や豆腐など)
◎副菜(野菜、海藻、きのこなど)
定食スタイルはもちろんのこと、「牛丼(主食・主菜)とサラダ(副菜)」「シーザーサラダ(副菜)、焼き鳥(主菜)、お茶漬け(主食)」など、ファストフード店や居酒屋でも3つの要素はそろえられます。
最近では、主食を抜いたり、副菜だけにしたりといった食生活も珍しくありませんが、そうするとエネルギー産生栄養素比率は偏ってしまいます。
(2)和食を選ぶ
実際のメニューを例にエネルギー比率の傾向を見てみましょう(おおよその数値です)。
◎てりやきハンバーガー、ポテト:たんぱく質9%、脂質53%、炭水化物38%
◎ミートソーススパゲッティ、サラダ:たんぱく質12%、脂質37%、炭水化物51%
◎親子丼、サラダ:たんぱく質20%、脂質22%、炭水化物58%
◎アジフライ定食(アジフライ、キャベツの千切り、ホウレン草のお浸し、ご飯、味噌汁):たんぱく質17%、24%、59%
洋食は脂質が多く炭水化物が少ない、和食は黄金比率に近い…という傾向がわかります。
ただし、この比率にはビタミンやミネラル、食物繊維が含まれていません。
総合的なバランスを考えると「和定食」がいいでしょう。
(3)適量の目安を知る
しかしながら、現代では毎食和食を食べるのは難しいものです。
また、外食、自炊など食べる場所もさまざまです。
そこで、黄金比率に近づけるための1食あたりの目安量を知っておきましょう。
◎主食:ご飯はこぶし1個分が目安。食パンは6枚切り2枚、麺類は1人前で茶碗軽く1杯分
◎主菜:肉、魚、卵、大豆製品は、手のひら1枚分が目安。肉は薄切り3枚、魚は切身1切れ程度
◎副菜:生のものは両手いっぱい、加熱したものは片手いっぱいが目安
野菜ならいくらでも食べていいわけではありません。
野菜は味付けをしますから、脂質が加わることが多いですし、三大栄養素ではありませんが塩分も多くなりがちです。
上記の目安はどこでもチェックできます。
ぜひ、料理を選ぶときの参考にしてみてください。
(4)良く食べるメニューのバランスは把握しておく
最近の外食メニューや加工食品の多くに栄養成分が表示されています。
定番メニューや自分の好きな料理は、先に示した計算方法でバランスを確かめ把握しておくとよいでしょう。
エネルギー産生栄養素バランスは、あくまでもエネルギー源となる三大栄養素のバランスです。
健康や美容のためには、ビタミンやミネラル、食物繊維など、そのほかの栄養素をきちんと補うことも大切です。
毎日の食事バランスを見るひとつの指標として活用しましょう。
執筆 山本 ともよ(管理栄養士・サプリメントアドバイザー・食生活アドバイザー)
監修 株式会社 とらうべ
それぞれ持っている働きが違いますので、健康維持のためにはバランスよく摂取することが大切です。
このバランスを「エネルギー産生栄養素バランス」といい、目標値が設定されています。
今回は三大栄養素の理想的な摂取バランスや、その実践方法をご説明いたします。
三大栄養素の黄金バランス
バランスの良い食事は、「量」と「質」の観点から評価することが重要です。
三大栄養素の摂取バランスを見る「エネルギー産生栄養素比率」は「質」を評価する指標のひとつであり、摂取するエネルギーのうち三大栄養素がそれぞれ占めるエネルギーの割合を示しています。
各栄養素のエネルギー産生栄養素比率の計算方法
◆たんぱく質(%)=たんぱく質(g)×4(kcal/g)/ 全体のエネルギー(kcal)×100
◆脂質(%)=脂質(g)×9(kcal/g)/ 全体のエネルギー(kcal)×100
◆炭水化物(%)=炭水化物(g)×4(kcal/g)/ 全体のエネルギー(kcal)×100
「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、エネルギー産生栄養素比率は次のような目標量が設定されています。
◆たんぱく質 13~20%
◆脂質 20~30%
◆炭水化物 50~65%
おおよそたんぱく質2:脂質2:炭水化物6が理想なのです。
ただし、これは重量ではなくエネルギー量です。
重量に換算してみると、1日2000キロカロリーをとる場合の適量は、たんぱく質100g、脂質44.4g、炭水化物300gとなります。
黄金比率を満たす食事の選び方
実際に食事をするときには、栄養素が何グラム入っているかはわからないですよね。
そこで、三大栄養素の黄金比率をクリアする食事選びのコツをご紹介しましょう。
(1)主食・主菜・副菜をそろえる
食事をするときは、栄養素のバランスを整えるために次の3つの要素をそろえましょう。
◎主食(ご飯やパンや麺類など)
◎主菜(肉や魚、卵や豆腐など)
◎副菜(野菜、海藻、きのこなど)
定食スタイルはもちろんのこと、「牛丼(主食・主菜)とサラダ(副菜)」「シーザーサラダ(副菜)、焼き鳥(主菜)、お茶漬け(主食)」など、ファストフード店や居酒屋でも3つの要素はそろえられます。
最近では、主食を抜いたり、副菜だけにしたりといった食生活も珍しくありませんが、そうするとエネルギー産生栄養素比率は偏ってしまいます。
(2)和食を選ぶ
実際のメニューを例にエネルギー比率の傾向を見てみましょう(おおよその数値です)。
◎てりやきハンバーガー、ポテト:たんぱく質9%、脂質53%、炭水化物38%
◎ミートソーススパゲッティ、サラダ:たんぱく質12%、脂質37%、炭水化物51%
◎親子丼、サラダ:たんぱく質20%、脂質22%、炭水化物58%
◎アジフライ定食(アジフライ、キャベツの千切り、ホウレン草のお浸し、ご飯、味噌汁):たんぱく質17%、24%、59%
洋食は脂質が多く炭水化物が少ない、和食は黄金比率に近い…という傾向がわかります。
ただし、この比率にはビタミンやミネラル、食物繊維が含まれていません。
総合的なバランスを考えると「和定食」がいいでしょう。
(3)適量の目安を知る
しかしながら、現代では毎食和食を食べるのは難しいものです。
また、外食、自炊など食べる場所もさまざまです。
そこで、黄金比率に近づけるための1食あたりの目安量を知っておきましょう。
◎主食:ご飯はこぶし1個分が目安。食パンは6枚切り2枚、麺類は1人前で茶碗軽く1杯分
◎主菜:肉、魚、卵、大豆製品は、手のひら1枚分が目安。肉は薄切り3枚、魚は切身1切れ程度
◎副菜:生のものは両手いっぱい、加熱したものは片手いっぱいが目安
野菜ならいくらでも食べていいわけではありません。
野菜は味付けをしますから、脂質が加わることが多いですし、三大栄養素ではありませんが塩分も多くなりがちです。
上記の目安はどこでもチェックできます。
ぜひ、料理を選ぶときの参考にしてみてください。
(4)良く食べるメニューのバランスは把握しておく
最近の外食メニューや加工食品の多くに栄養成分が表示されています。
定番メニューや自分の好きな料理は、先に示した計算方法でバランスを確かめ把握しておくとよいでしょう。
エネルギー産生栄養素バランスは、あくまでもエネルギー源となる三大栄養素のバランスです。
健康や美容のためには、ビタミンやミネラル、食物繊維など、そのほかの栄養素をきちんと補うことも大切です。
毎日の食事バランスを見るひとつの指標として活用しましょう。
執筆 山本 ともよ(管理栄養士・サプリメントアドバイザー・食生活アドバイザー)
監修 株式会社 とらうべ
朝型の人と夜型の人、どちらが長生きする? [医学・医療・雑感小文]
早寝早起きが苦にならない朝型の人と比べ、宵っ張りで朝寝坊の夜型の人は短命に終わる可能性が高いことを示唆する研究結果が、「Chronobiology International」4月11日オンライン版に発表された。
クロノタイプ(日中の活動や睡眠のリズムの傾向)が夜型の人では、朝型の人と比べて早期死亡リスクが10%高いことが分かったという。
この研究は、米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部神経学准教授のKristin Knutson氏らが実施したもの。
英国の大規模なコホート研究であるUK Biobankに参加した38~73歳の男女43万3268人を対象に平均6.5年追跡し、クロノタイプと全死亡リスクとの関連について検討した。
クロノタイプは質問票を用いた調査データに基づき「完全な朝型」(対象者に占める割合は27%)、「どちらかといえば朝型」(同35%)、「どちらかといえば夜型」(同28%)、「完全な夜型」(同9%)の4つのタイプに分類した。
年齢や性別、民族、喫煙の有無、体格指数(BMI)、睡眠時間、社会経済的状況、併存疾患で調整して解析した結果、完全な朝型と比べて、完全な夜型では全死亡リスクが10%高いことが分かった。
また、完全な夜型では健康上の問題を抱えるリスクも高く、完全な朝型と比べて精神障害リスクは1.94倍、糖尿病リスクは1.30倍、神経障害リスクは1.25倍、胃腸/腹部疾患リスクは1.23倍、呼吸器疾患リスクは1.22倍であることも明らかになった。
今回の研究は関連が認められたに過ぎず、朝型の人に比べて夜型の人の健康状態が悪い理由も明らかにされていない。
Knutson氏は「夜遅くまで起きていると、飲酒や喫煙、間食、ドラッグの使用といった不健康な行動に及ぶ機会が多くなる可能性が考えられる」と指摘。
また、「夜型の人は体内時計が朝型の社会生活に適合しないため、長期的にさまざまな問題につながってしまうのかもしれない」との見方を示している。
なお、米マウントサイナイ・ヘルスシステムのAndrew Varga氏は「体内時計と社会生活を送るための行動とのずれによって健康が悪化するという考え方は、日中に睡眠を取り、夜間に働くことが多いシフト勤務者で死亡リスクや心血管疾患リスクなどのさまざまな健康リスクが高いことを示したこれまでの研究でも支持されるものだ」と指摘。
「食事や睡眠のタイミングはインスリンの分泌量に影響し、糖尿病リスクを高めることが報告されているなど、生体リズムはさまざまな機序で健康状態を左右する」と説明している。
では、夜型の人はどのような対策を取ればよいのだろうか。
Knutson氏は、徐々に就床時間を早め、朝型の生活リズムに合わせるようにすることを勧めている。
この際、毎晩少しずつ早めることが重要で、「いきなり通常よりも2~3時間早く寝ようとしても成功しない」としている。
また、シフト勤務などで夜型の生活を送らざるを得ない場合には、健康的な食事や運動、十分な睡眠時間の確保などを心掛けることで、健康上の問題をある程度は回避できる可能性があると助言している。
毎日新聞 <医療プレミア> 2018年4月26日
クロノタイプ(日中の活動や睡眠のリズムの傾向)が夜型の人では、朝型の人と比べて早期死亡リスクが10%高いことが分かったという。
この研究は、米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部神経学准教授のKristin Knutson氏らが実施したもの。
英国の大規模なコホート研究であるUK Biobankに参加した38~73歳の男女43万3268人を対象に平均6.5年追跡し、クロノタイプと全死亡リスクとの関連について検討した。
クロノタイプは質問票を用いた調査データに基づき「完全な朝型」(対象者に占める割合は27%)、「どちらかといえば朝型」(同35%)、「どちらかといえば夜型」(同28%)、「完全な夜型」(同9%)の4つのタイプに分類した。
年齢や性別、民族、喫煙の有無、体格指数(BMI)、睡眠時間、社会経済的状況、併存疾患で調整して解析した結果、完全な朝型と比べて、完全な夜型では全死亡リスクが10%高いことが分かった。
また、完全な夜型では健康上の問題を抱えるリスクも高く、完全な朝型と比べて精神障害リスクは1.94倍、糖尿病リスクは1.30倍、神経障害リスクは1.25倍、胃腸/腹部疾患リスクは1.23倍、呼吸器疾患リスクは1.22倍であることも明らかになった。
今回の研究は関連が認められたに過ぎず、朝型の人に比べて夜型の人の健康状態が悪い理由も明らかにされていない。
Knutson氏は「夜遅くまで起きていると、飲酒や喫煙、間食、ドラッグの使用といった不健康な行動に及ぶ機会が多くなる可能性が考えられる」と指摘。
また、「夜型の人は体内時計が朝型の社会生活に適合しないため、長期的にさまざまな問題につながってしまうのかもしれない」との見方を示している。
なお、米マウントサイナイ・ヘルスシステムのAndrew Varga氏は「体内時計と社会生活を送るための行動とのずれによって健康が悪化するという考え方は、日中に睡眠を取り、夜間に働くことが多いシフト勤務者で死亡リスクや心血管疾患リスクなどのさまざまな健康リスクが高いことを示したこれまでの研究でも支持されるものだ」と指摘。
「食事や睡眠のタイミングはインスリンの分泌量に影響し、糖尿病リスクを高めることが報告されているなど、生体リズムはさまざまな機序で健康状態を左右する」と説明している。
では、夜型の人はどのような対策を取ればよいのだろうか。
Knutson氏は、徐々に就床時間を早め、朝型の生活リズムに合わせるようにすることを勧めている。
この際、毎晩少しずつ早めることが重要で、「いきなり通常よりも2~3時間早く寝ようとしても成功しない」としている。
また、シフト勤務などで夜型の生活を送らざるを得ない場合には、健康的な食事や運動、十分な睡眠時間の確保などを心掛けることで、健康上の問題をある程度は回避できる可能性があると助言している。
毎日新聞 <医療プレミア> 2018年4月26日
「寝だめ」の可否 [医学・医療・雑感小文]
ホントに「寝だめ」ってできる?
睡眠は、体と脳を休ませるために不可欠なものです。
きちんと眠ることにより大脳は休息し、翌日、朝から正常に活動出来るのです。
睡眠が不足すると疲労が回復できず、頭痛や全身のだるさ、集中力の欠如などの症状がでてきます。
睡眠中は、体温や血液の温度が下がります。
温度の下がった血液が脳に流れることで、頭が冷やされ、脳の疲労回復に役立ちます。
しかし、睡眠中でも脳の活動は、休止されているわけではありません。
昼間吸収した様々な情報を整理して、必要なものは記憶として脳に記録されます。
成長ホルモンの分泌
また寝ている間に成長ホルモンを分泌します。
成長ホルモンは、子どもだけでなく大人にも必要なものです。
成長ホルモンが不足すると老廃物が溜まってしまい、血管が詰まったり、肌や頭皮のターンオーバーがうまくいかなくなったりする弊害がでます。
免疫力が高まる
風邪を引いたときなど、寝ているのが一番の薬!といいますが、人間は睡眠中に免疫力が高まり、病気を治そうという自然治癒力も働きます。
逆に睡眠不足では、免疫力が低下して、抵抗力も弱まり、風邪を引きやすくなるのです。
平均的な会社員を想定すると、平日は残業や付き合いで睡眠不足が続き、土日に睡眠時間を長くとってその不足分を補おうとしています。
日曜日にお昼近くまで寝てしまったり、日中をダラダラと寝たり起きたりして過ごすと、逆に日曜の夜に寝付けず、結局寝不足状態で月曜日の朝を迎えることになります。
1週間のスタートがそんな状態だと寝不足感の抜けない1週間を送ることになってしまいます。
二度寝より、起きて1日をスタートさせるほうが熟睡できる
ぐっすり熟睡できるのは、眠りに入ってから3時間位です。
その後は、だんだん眠りは浅くなっていきます。
眠くて朝起きるのが辛くても、そこからさらに熟睡することはできません。
中途半端な睡眠と浅いレベルの覚醒を繰り返すばかりで、眠りの充実感は得られないのです。
時間的には長く眠ったつもりでも、体がぐったりした上に精神的にも満足感の少ない状態になります。
この場合は、思い切って起きて、1日をスタートさせ、活動的な1日を過ごせれば、夜になって充実した熟睡を得ることができるでしょう。
「寝だめ」には2種類ある
先取り睡眠
来週は忙しいから、土日に「寝だめ」をしようと考えるのが「先取り睡眠」です。
しかし、休日にたくさん寝てしまうと、体内時計が狂って、逆に仕事が始まってしまってから、睡眠サイクルが乱れてしまいます。
睡眠の貯金をしようとすると逆に浅い眠りになり、結果としては、脳を休めることになりません。
週末もいつもと同じような時間帯に起きていたほうが仕事はじめになってから、疲れが残らないでしょう。
補充睡眠
もう1つは、「補充睡眠」です。
寝不足が続いたからその分長い睡眠時間を取って寝不足を解消する、というタイプの寝だめです。
睡眠不足の状態は、脳が長時間疲労してしまっています。
そこで補充睡眠を取ることは、神経の緊張を和らげ、ある程度の効果が期待できます。
しかし、長い時間眠れば眠るほど疲れが取れる、というものではありません。
普段の起床時間の2時間後ぐらいに起きるようにすれば、睡眠リズムの乱れを防ぐことができます。
起きる時間が大幅にずれてしまうと、体内時計は狂ってしまいますので、就寝時間を早めにして、起床時間はある程度一定にすることが大事です。
執筆 南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長)
睡眠は、体と脳を休ませるために不可欠なものです。
きちんと眠ることにより大脳は休息し、翌日、朝から正常に活動出来るのです。
睡眠が不足すると疲労が回復できず、頭痛や全身のだるさ、集中力の欠如などの症状がでてきます。
睡眠中は、体温や血液の温度が下がります。
温度の下がった血液が脳に流れることで、頭が冷やされ、脳の疲労回復に役立ちます。
しかし、睡眠中でも脳の活動は、休止されているわけではありません。
昼間吸収した様々な情報を整理して、必要なものは記憶として脳に記録されます。
成長ホルモンの分泌
また寝ている間に成長ホルモンを分泌します。
成長ホルモンは、子どもだけでなく大人にも必要なものです。
成長ホルモンが不足すると老廃物が溜まってしまい、血管が詰まったり、肌や頭皮のターンオーバーがうまくいかなくなったりする弊害がでます。
免疫力が高まる
風邪を引いたときなど、寝ているのが一番の薬!といいますが、人間は睡眠中に免疫力が高まり、病気を治そうという自然治癒力も働きます。
逆に睡眠不足では、免疫力が低下して、抵抗力も弱まり、風邪を引きやすくなるのです。
平均的な会社員を想定すると、平日は残業や付き合いで睡眠不足が続き、土日に睡眠時間を長くとってその不足分を補おうとしています。
日曜日にお昼近くまで寝てしまったり、日中をダラダラと寝たり起きたりして過ごすと、逆に日曜の夜に寝付けず、結局寝不足状態で月曜日の朝を迎えることになります。
1週間のスタートがそんな状態だと寝不足感の抜けない1週間を送ることになってしまいます。
二度寝より、起きて1日をスタートさせるほうが熟睡できる
ぐっすり熟睡できるのは、眠りに入ってから3時間位です。
その後は、だんだん眠りは浅くなっていきます。
眠くて朝起きるのが辛くても、そこからさらに熟睡することはできません。
中途半端な睡眠と浅いレベルの覚醒を繰り返すばかりで、眠りの充実感は得られないのです。
時間的には長く眠ったつもりでも、体がぐったりした上に精神的にも満足感の少ない状態になります。
この場合は、思い切って起きて、1日をスタートさせ、活動的な1日を過ごせれば、夜になって充実した熟睡を得ることができるでしょう。
「寝だめ」には2種類ある
先取り睡眠
来週は忙しいから、土日に「寝だめ」をしようと考えるのが「先取り睡眠」です。
しかし、休日にたくさん寝てしまうと、体内時計が狂って、逆に仕事が始まってしまってから、睡眠サイクルが乱れてしまいます。
睡眠の貯金をしようとすると逆に浅い眠りになり、結果としては、脳を休めることになりません。
週末もいつもと同じような時間帯に起きていたほうが仕事はじめになってから、疲れが残らないでしょう。
補充睡眠
もう1つは、「補充睡眠」です。
寝不足が続いたからその分長い睡眠時間を取って寝不足を解消する、というタイプの寝だめです。
睡眠不足の状態は、脳が長時間疲労してしまっています。
そこで補充睡眠を取ることは、神経の緊張を和らげ、ある程度の効果が期待できます。
しかし、長い時間眠れば眠るほど疲れが取れる、というものではありません。
普段の起床時間の2時間後ぐらいに起きるようにすれば、睡眠リズムの乱れを防ぐことができます。
起きる時間が大幅にずれてしまうと、体内時計は狂ってしまいますので、就寝時間を早めにして、起床時間はある程度一定にすることが大事です。
執筆 南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長)
心筋トロポニン上昇のリスク [医学・医療・雑感小文]
非心筋梗塞の心筋トロポニン上昇、若年患者は死亡リスクが高い
心筋梗塞以外の原因で血清心筋トロポニン(cTn)値が上昇した、50歳以下の若年患者の多くは、その後の死亡リスクが心筋梗塞患者より高いとする研究結果が、米国のグループにより医学誌「Am J Med」に発表された。
注 トロポニン= 心筋(心臓の筋肉)の細いフィラメント(細い線)を形成する収縮蛋白。心筋の構成成分であるため、これが血液中に出現する場合には、急性心筋梗塞や不安定狭心症などによって、心筋が傷害されていることを意味する。
血清cTn値の上昇は心筋梗塞によって生じることが多いが、他のさまざまな疾患でも上昇が見られる。
同グループは、2000年1月~16年4月に大規模三次医療センター2施設でcTn値上昇が確認された50歳以下の患者のデータを後ろ向きに解析し、cTn値上昇とその後の死亡との関係を検討。
冠動脈疾患の既往がある患者は除外した。
登録基準を満たした患者は6,081例。うち心筋梗塞によるcTn値上昇は3,574例(58.8%)で、2,507例(41.2%)は心筋梗塞以外の原因によるものであった。追跡期間の中央値は8.7年だった。
解析の結果、血清cTn値上昇の原因が心筋梗塞以外であった群は心筋梗塞群より追跡期間中の死亡リスクが有意に高かった。
非心筋梗塞群では、特に中枢神経系疾患、非虚血性心筋症、末期腎不全による死亡リスクが高かった。
一方、心筋炎患者では心筋梗塞群より非心筋梗塞群で死亡リスクが低かった。
心筋梗塞以外の原因で血清心筋トロポニン(cTn)値が上昇した、50歳以下の若年患者の多くは、その後の死亡リスクが心筋梗塞患者より高いとする研究結果が、米国のグループにより医学誌「Am J Med」に発表された。
注 トロポニン= 心筋(心臓の筋肉)の細いフィラメント(細い線)を形成する収縮蛋白。心筋の構成成分であるため、これが血液中に出現する場合には、急性心筋梗塞や不安定狭心症などによって、心筋が傷害されていることを意味する。
血清cTn値の上昇は心筋梗塞によって生じることが多いが、他のさまざまな疾患でも上昇が見られる。
同グループは、2000年1月~16年4月に大規模三次医療センター2施設でcTn値上昇が確認された50歳以下の患者のデータを後ろ向きに解析し、cTn値上昇とその後の死亡との関係を検討。
冠動脈疾患の既往がある患者は除外した。
登録基準を満たした患者は6,081例。うち心筋梗塞によるcTn値上昇は3,574例(58.8%)で、2,507例(41.2%)は心筋梗塞以外の原因によるものであった。追跡期間の中央値は8.7年だった。
解析の結果、血清cTn値上昇の原因が心筋梗塞以外であった群は心筋梗塞群より追跡期間中の死亡リスクが有意に高かった。
非心筋梗塞群では、特に中枢神経系疾患、非虚血性心筋症、末期腎不全による死亡リスクが高かった。
一方、心筋炎患者では心筋梗塞群より非心筋梗塞群で死亡リスクが低かった。
長時間残業+睡眠不足のリスク [医学・医療・雑感小文]
長時間残業+睡眠不足で2型糖尿病リスク増
残業時間が月当たり45時間を超え、かつ睡眠が十分に取れていない人は2型糖尿病になりやすい可能性のあることが、帝京大学大学院公衆衛生学研究科の桑原恵介氏らの研究グループの調べでわかった。
一方、残業時間が月に45時間を超えていても、1日に5時間を超える睡眠をとっていると、リスクは上昇しない可能性も示された。
研究グループは「長時間働く人は睡眠不足になりがちだが、睡眠を十分にとることで長時間労働による健康への悪影響が打ち消される可能性がある。
睡眠時間をとるように工夫して欲しい」と話している。
詳細は日本疫学協会誌「Journal of Epidemiology」オンライン版に掲載された。
帝京大研究グループが会社員3万人を調査
長時間労働は睡眠不足や心的ストレスとも関連することから、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患リスクを高めると考えられている。
しかし、労働時間と2型糖尿病の発症リスクを関連づけるエビデンス(科学的証拠)は限られており、一定の見解は得られていない。
研究グループは以前、4つの企業に勤める約4万人の会社員(16~83歳)を対象に行った横断研究から、残業時間と糖尿病の有病率はU字型の関連を示したことを報告している。
今回、会社員の睡眠状況にも着目し、同じ集団のデータを用いて、労働時間と睡眠時間がそれぞれ、あるいは相互に2型糖尿病リスクに及ぼす影響について前向きに調べる観察研究を行った。
対象は、職域多施設研究(J-ECOHスタディ)に参加した12社のうち4社で、2008年または2010年に健診を受けた会社員3万3050人(30~64歳、平均年齢は44.9歳、このうち2万8489人が男性)。
対象者を月当たりの残業時間で4つの群に分けて2型糖尿病リスクとの関連を調べ、さらに、生活習慣に関する詳しいデータが得られた1社(2万7,590人)において、月当たりの残業時間(45時間未満または45時間以上)と1日の睡眠時間(5時間未満または5時間以上)で4つの群に分けて、残業時間および睡眠時間と2型糖尿病との関連を調べた。
平均で4.5年間追跡した結果、1975人が2型糖尿病を発症していた。
対象者を月当たりの残業時間で4つの群に分けて解析したところ、最も短い群(40時間または45時間未満)と比べて最も長い群(100時間以上または100時間超)で2型糖尿病リスクに差はみられなかった(ハザード比0.97、95%信頼区間0.64~1.38)。
一方、睡眠時間と2型糖尿病リスクとの間にはU字型の関連がみられた。
また、1社において、残業時間と睡眠時間を組み合わせてこれらの関連をみたところ、複数の交絡因子で調整した解析により、残業が月当たり45時間以上かつ睡眠時間が5時間未満だった人では、残業時間が45時間未満で睡眠時間が5時間以上だった人と比べて、2型糖尿病リスクは1.42倍(ハザード比、同1.11~1.83)に上ることが分かった。
45時間以上の残業をしていても、睡眠時間が5時間以上だった人では2型糖尿病リスクの上昇はみられなかった(同0.99、0.88~1.11)。
これらの結果を踏まえて、研究グループは「全体で見ると、長時間労働は2型糖尿病リスクの上昇と関連しなかったが、長時間労働に睡眠不足が加わるとこのリスクは高まった」と結論づけている。
また、「長時間の残業で高まった交感神経の活動は血糖値の上昇を引き起こす可能性がある。
交感神経の過剰な活動を抑えるためにも睡眠を十分に取ることが大切だ」とつけ加えている。
残業時間が月当たり45時間を超え、かつ睡眠が十分に取れていない人は2型糖尿病になりやすい可能性のあることが、帝京大学大学院公衆衛生学研究科の桑原恵介氏らの研究グループの調べでわかった。
一方、残業時間が月に45時間を超えていても、1日に5時間を超える睡眠をとっていると、リスクは上昇しない可能性も示された。
研究グループは「長時間働く人は睡眠不足になりがちだが、睡眠を十分にとることで長時間労働による健康への悪影響が打ち消される可能性がある。
睡眠時間をとるように工夫して欲しい」と話している。
詳細は日本疫学協会誌「Journal of Epidemiology」オンライン版に掲載された。
帝京大研究グループが会社員3万人を調査
長時間労働は睡眠不足や心的ストレスとも関連することから、心筋梗塞や脳卒中といった心血管疾患リスクを高めると考えられている。
しかし、労働時間と2型糖尿病の発症リスクを関連づけるエビデンス(科学的証拠)は限られており、一定の見解は得られていない。
研究グループは以前、4つの企業に勤める約4万人の会社員(16~83歳)を対象に行った横断研究から、残業時間と糖尿病の有病率はU字型の関連を示したことを報告している。
今回、会社員の睡眠状況にも着目し、同じ集団のデータを用いて、労働時間と睡眠時間がそれぞれ、あるいは相互に2型糖尿病リスクに及ぼす影響について前向きに調べる観察研究を行った。
対象は、職域多施設研究(J-ECOHスタディ)に参加した12社のうち4社で、2008年または2010年に健診を受けた会社員3万3050人(30~64歳、平均年齢は44.9歳、このうち2万8489人が男性)。
対象者を月当たりの残業時間で4つの群に分けて2型糖尿病リスクとの関連を調べ、さらに、生活習慣に関する詳しいデータが得られた1社(2万7,590人)において、月当たりの残業時間(45時間未満または45時間以上)と1日の睡眠時間(5時間未満または5時間以上)で4つの群に分けて、残業時間および睡眠時間と2型糖尿病との関連を調べた。
平均で4.5年間追跡した結果、1975人が2型糖尿病を発症していた。
対象者を月当たりの残業時間で4つの群に分けて解析したところ、最も短い群(40時間または45時間未満)と比べて最も長い群(100時間以上または100時間超)で2型糖尿病リスクに差はみられなかった(ハザード比0.97、95%信頼区間0.64~1.38)。
一方、睡眠時間と2型糖尿病リスクとの間にはU字型の関連がみられた。
また、1社において、残業時間と睡眠時間を組み合わせてこれらの関連をみたところ、複数の交絡因子で調整した解析により、残業が月当たり45時間以上かつ睡眠時間が5時間未満だった人では、残業時間が45時間未満で睡眠時間が5時間以上だった人と比べて、2型糖尿病リスクは1.42倍(ハザード比、同1.11~1.83)に上ることが分かった。
45時間以上の残業をしていても、睡眠時間が5時間以上だった人では2型糖尿病リスクの上昇はみられなかった(同0.99、0.88~1.11)。
これらの結果を踏まえて、研究グループは「全体で見ると、長時間労働は2型糖尿病リスクの上昇と関連しなかったが、長時間労働に睡眠不足が加わるとこのリスクは高まった」と結論づけている。
また、「長時間の残業で高まった交感神経の活動は血糖値の上昇を引き起こす可能性がある。
交感神経の過剰な活動を抑えるためにも睡眠を十分に取ることが大切だ」とつけ加えている。
観想、漢方、食事 [医学・医療・雑感小文]
光源氏が、帝王になれなかったのは、「観相学」の示唆によるものだった。
『源氏物語』にそう描かれているそうだ。
漢方の大家、丁宗鐡・日本薬科大学学長の話が新聞に載っていた。
人相見が予言した光源氏の運命
漢方には、目で体の状態を見る「望診」という伝統的な診察法があるのですが、「観相」も長い歴史があります。
観相は人相見(にんそうみ)とも呼ばれ、その人の顔や容貌を見て、性格や運命などを判断するものです。
日本の古典の中には、そんな場面が描かれています。
源氏物語の第一帖桐壺では、幼少から聡明で美男子だった光源氏の将来を気にした帝(みかど)が、内密に高麗人の人相見に観相に行かせます。
素性などはなにも伝えず、光源氏の顔を見せると、人相見はたいそう驚き、「この子は国の帝王になる高貴な相をしている」と言い当てます。
しかし、「帝王になると国が乱れるかもしれない」と予言します。
その報告を聞いた帝は、光源氏を自分の後継ぎにしないと決め、我が子の身に危険が及ばぬよう、源氏の姓を与えて平民にするのです。
当時の貴族は、人相見に子どもの顔を見せて、将来の運命を決めていました。
観相家や人相見は、この子はこんな人生を歩むと予言し、言い当てるのが技量だったのです。
人相と運命に食がかかわっている
日本の観相では、運命は決められたもので変えられない、と考えられていました。
しかし、江戸時代の中期ごろになると、これを覆す観相家が現れます。
一目見ただけで、ぴたりと当たると評判になった水野南北です。
南北は自身の経験と数多くの観相の実践から、人の一生は運命で決まるのではなく、食事から吉凶が起きていると気づきます。
そして、運命はその人の努力で変えられるものであり、そのためには食事が最も大切であると主張したのです。
「食べて美しくなりたい」は運命を変えたい表れ?
酒浸りのすさんだ生活をしていると、肌は荒れて顔つきは貧相になったり、険しくなったりします。
これは市井の人にも納得のいくことでした。
また、「運命は変えられる」ということが、人々の希望になったのです。
「命を養う根本は食であり、暴飲暴食を慎むことで人相も運命もよくなる」
南北が主張したことは、望診をしていた当時の漢方医も知っていたでしょう。
また、漢方の養生や摂養を観相に取り入れたとも考えられます。
その後、南北の観相の考え方を基盤にして、影響を受けた石塚左玄や桜沢如一が玄米食による食事法を提唱します。
食事で運命が変えられるなら、食事で病気を予防したり、治したりできるのではないか。
それにはどんな食事が体によいのか。
しだいにそう考えられるようになり、食事と美容も結び付くようになったのではないでしょうか。
ハトムギ、食品であり医薬品
一例をあげると、最近、肌によいと人気のハトムギ。
私が子どものころ、ハトムギは野原によく生えていました。
植物に詳しい人は、採取したハトムギをお茶にしたり、ちょっとした皮膚病に使ったりして民間療法に活用したものです。
厚生労働省が定めた食薬区分の中で、食品と医薬品の両方に入っているものは、甘草(かんぞう)や高麗人参(ニンジン)が知られていますが、ハトムギもその一つです。
医薬品として扱う場合は「薏苡仁(よくいにん)」といわれ、漢方では、いぼ取りの生薬として伝統的に使われてきました。
抗炎症作用や抗腫瘍作用などが認められています。
保水作用があって皮膚がしっとりするため、医薬部外品や化粧品にもよく使われています。
『源氏物語』にそう描かれているそうだ。
漢方の大家、丁宗鐡・日本薬科大学学長の話が新聞に載っていた。
人相見が予言した光源氏の運命
漢方には、目で体の状態を見る「望診」という伝統的な診察法があるのですが、「観相」も長い歴史があります。
観相は人相見(にんそうみ)とも呼ばれ、その人の顔や容貌を見て、性格や運命などを判断するものです。
日本の古典の中には、そんな場面が描かれています。
源氏物語の第一帖桐壺では、幼少から聡明で美男子だった光源氏の将来を気にした帝(みかど)が、内密に高麗人の人相見に観相に行かせます。
素性などはなにも伝えず、光源氏の顔を見せると、人相見はたいそう驚き、「この子は国の帝王になる高貴な相をしている」と言い当てます。
しかし、「帝王になると国が乱れるかもしれない」と予言します。
その報告を聞いた帝は、光源氏を自分の後継ぎにしないと決め、我が子の身に危険が及ばぬよう、源氏の姓を与えて平民にするのです。
当時の貴族は、人相見に子どもの顔を見せて、将来の運命を決めていました。
観相家や人相見は、この子はこんな人生を歩むと予言し、言い当てるのが技量だったのです。
人相と運命に食がかかわっている
日本の観相では、運命は決められたもので変えられない、と考えられていました。
しかし、江戸時代の中期ごろになると、これを覆す観相家が現れます。
一目見ただけで、ぴたりと当たると評判になった水野南北です。
南北は自身の経験と数多くの観相の実践から、人の一生は運命で決まるのではなく、食事から吉凶が起きていると気づきます。
そして、運命はその人の努力で変えられるものであり、そのためには食事が最も大切であると主張したのです。
「食べて美しくなりたい」は運命を変えたい表れ?
酒浸りのすさんだ生活をしていると、肌は荒れて顔つきは貧相になったり、険しくなったりします。
これは市井の人にも納得のいくことでした。
また、「運命は変えられる」ということが、人々の希望になったのです。
「命を養う根本は食であり、暴飲暴食を慎むことで人相も運命もよくなる」
南北が主張したことは、望診をしていた当時の漢方医も知っていたでしょう。
また、漢方の養生や摂養を観相に取り入れたとも考えられます。
その後、南北の観相の考え方を基盤にして、影響を受けた石塚左玄や桜沢如一が玄米食による食事法を提唱します。
食事で運命が変えられるなら、食事で病気を予防したり、治したりできるのではないか。
それにはどんな食事が体によいのか。
しだいにそう考えられるようになり、食事と美容も結び付くようになったのではないでしょうか。
ハトムギ、食品であり医薬品
一例をあげると、最近、肌によいと人気のハトムギ。
私が子どものころ、ハトムギは野原によく生えていました。
植物に詳しい人は、採取したハトムギをお茶にしたり、ちょっとした皮膚病に使ったりして民間療法に活用したものです。
厚生労働省が定めた食薬区分の中で、食品と医薬品の両方に入っているものは、甘草(かんぞう)や高麗人参(ニンジン)が知られていますが、ハトムギもその一つです。
医薬品として扱う場合は「薏苡仁(よくいにん)」といわれ、漢方では、いぼ取りの生薬として伝統的に使われてきました。
抗炎症作用や抗腫瘍作用などが認められています。
保水作用があって皮膚がしっとりするため、医薬部外品や化粧品にもよく使われています。