刺身の買い方 [ヘルシーエッセイ?再録]
「One's Life」という健康総合ニュースサイトの片隅の小さな欄に毎週1本、「健康常識ウソホント」というタイトルの拙文を寄稿している。
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿のリサイクルである。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます
ヘルシーエッセイ(15)
刺身の買い方
「青きは鯖の肌にして、黒きは人の心なり」
『人生劇場』の作家、尾崎士郎は、生前、色紙によくこんな文句をかいた。
サバの背の青いのは目で見ればわかるが、人の腹黒いのはそう簡単には見分けられない。
だが、サバにしても、一見、新鮮なもののように見えて内部では腐敗が進んでいるということがよくある。サバの生き腐れ、という。
サバ、イワシ、サンマなどの回遊魚は、海の上層を泳ぎ回り、水圧を強くうけないせいか、肉質がやわらかで、肉質中に多量の水分が含まれている。
だから腐りやすいのだそうだ。なにやら寓意を感じさせる話ではある。
夏場はとくに腐りが早いから、間違ってもサバの刺身など食ってはいけない。
刺身といえば、このごろスーパーなどの鮮魚売り場には、石灰色の発泡スチロールの皿に大根のせん切りなんかとプリ・パッケージされた刺身が、ずらりと並べられてある。
無論よく売れるからそうしているのだろうが、それが売れる理由は、ひとつは調理の手間がかからないこと、もうひとつは骨がないので食べやすく、そして昨今の健康食志向にも合っているからだろう。
なにしろ、家に持ち帰ったらナントカラップの膜をはがして、しょうゆさえあればすぐに食えるのだから即席ラーメンどころの話ではない。
加熱によるビタミンなど栄養素の破壊がないし、肉がちがって動物性脂肪のとりすぎの心配がない点も、刺身のメリットである。
つまり近ごろの刺身ばやりの背景には、不精な主婦と成人病恐怖の亭主のニーズの一致があるといえそうだ。
刺身を買うときの注意について、当家の刺身評論家はこういっている。
① 商品の回転が早い店を選ぶ。包丁を入れてから時間がたった魚、鮮度の落ちた貝は表面が乾燥し、みずみずしさが失われる。身につや、はりがあり切り口が色鮮やかなのがいい。
② 時間がたったものは、マグロだと黒っぽく、ハマチ、カツオは血あいが黒ずむ。イカは透明感のない白さに変わる。
③ 貝は鮮度の見分けがむずかしいうえ、好塩菌(腸炎ビブリオ)が増殖しやすいので、とくに注意が必要。この菌は淡水の中で死滅するので、よく洗うことが大切。
また5度以下の低温でも増殖しにくいので、冷蔵ケースの温度管理がきちんとした店を選ぶことがだいじだ。
カツオのたたきがうまい季節だが、この季節のカツオのはらわたには寄生虫が多くくっついている。
スルメイカやサケなどにも割合多く、どうかすると切り身についてくることもある。
しかし、魚の寄生虫には人体に害を及ぼすものは少ない。
サケの虫などはマイナス20度以下で冷凍すれば死んでしまう。
刺身として売られているのは冷凍品だから心配はいらない。もちろん、煮たり、焼いたりすればもっと大丈夫だ。
気をつけなければいけないのは、マグロ、サメ、カンパチ、イシナギなど大型の魚の肝臓である。
これを食うと、ビタミンAの取り過ぎになり、激しい頭痛、おう吐、発熱を伴い、さらに顔がむくみ、2日目ごろから皮膚がはがれ始める。髪の毛が抜けることもある。
また、アワビやバイガイのわたも、時期によって有毒化することがあるから、いつであれ食べないほうが無難だろう。
サバの話にもどるが、サバ、アジ、イワシ、サンマ、ブリ、マグロ、カツオといった背の青い魚の肉には、エイコサペンタエン酸(EPA)という不飽和脂肪酸が多く含まれている。
EPAは、血液の中で、トロンボキサンA3、プロスタサイクリンと呼ばれる物質を合成する。
前者は血小板を凝集させない作用があり、後者は血栓をとかす働きをもつ。
要するにEPAは血液を固まりにくくし、心筋梗塞や脳卒中を防ぐ効果がある。
諸君、魚を食べよう!
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿のリサイクルである。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます
ヘルシーエッセイ(15)
刺身の買い方
「青きは鯖の肌にして、黒きは人の心なり」
『人生劇場』の作家、尾崎士郎は、生前、色紙によくこんな文句をかいた。
サバの背の青いのは目で見ればわかるが、人の腹黒いのはそう簡単には見分けられない。
だが、サバにしても、一見、新鮮なもののように見えて内部では腐敗が進んでいるということがよくある。サバの生き腐れ、という。
サバ、イワシ、サンマなどの回遊魚は、海の上層を泳ぎ回り、水圧を強くうけないせいか、肉質がやわらかで、肉質中に多量の水分が含まれている。
だから腐りやすいのだそうだ。なにやら寓意を感じさせる話ではある。
夏場はとくに腐りが早いから、間違ってもサバの刺身など食ってはいけない。
刺身といえば、このごろスーパーなどの鮮魚売り場には、石灰色の発泡スチロールの皿に大根のせん切りなんかとプリ・パッケージされた刺身が、ずらりと並べられてある。
無論よく売れるからそうしているのだろうが、それが売れる理由は、ひとつは調理の手間がかからないこと、もうひとつは骨がないので食べやすく、そして昨今の健康食志向にも合っているからだろう。
なにしろ、家に持ち帰ったらナントカラップの膜をはがして、しょうゆさえあればすぐに食えるのだから即席ラーメンどころの話ではない。
加熱によるビタミンなど栄養素の破壊がないし、肉がちがって動物性脂肪のとりすぎの心配がない点も、刺身のメリットである。
つまり近ごろの刺身ばやりの背景には、不精な主婦と成人病恐怖の亭主のニーズの一致があるといえそうだ。
刺身を買うときの注意について、当家の刺身評論家はこういっている。
① 商品の回転が早い店を選ぶ。包丁を入れてから時間がたった魚、鮮度の落ちた貝は表面が乾燥し、みずみずしさが失われる。身につや、はりがあり切り口が色鮮やかなのがいい。
② 時間がたったものは、マグロだと黒っぽく、ハマチ、カツオは血あいが黒ずむ。イカは透明感のない白さに変わる。
③ 貝は鮮度の見分けがむずかしいうえ、好塩菌(腸炎ビブリオ)が増殖しやすいので、とくに注意が必要。この菌は淡水の中で死滅するので、よく洗うことが大切。
また5度以下の低温でも増殖しにくいので、冷蔵ケースの温度管理がきちんとした店を選ぶことがだいじだ。
カツオのたたきがうまい季節だが、この季節のカツオのはらわたには寄生虫が多くくっついている。
スルメイカやサケなどにも割合多く、どうかすると切り身についてくることもある。
しかし、魚の寄生虫には人体に害を及ぼすものは少ない。
サケの虫などはマイナス20度以下で冷凍すれば死んでしまう。
刺身として売られているのは冷凍品だから心配はいらない。もちろん、煮たり、焼いたりすればもっと大丈夫だ。
気をつけなければいけないのは、マグロ、サメ、カンパチ、イシナギなど大型の魚の肝臓である。
これを食うと、ビタミンAの取り過ぎになり、激しい頭痛、おう吐、発熱を伴い、さらに顔がむくみ、2日目ごろから皮膚がはがれ始める。髪の毛が抜けることもある。
また、アワビやバイガイのわたも、時期によって有毒化することがあるから、いつであれ食べないほうが無難だろう。
サバの話にもどるが、サバ、アジ、イワシ、サンマ、ブリ、マグロ、カツオといった背の青い魚の肉には、エイコサペンタエン酸(EPA)という不飽和脂肪酸が多く含まれている。
EPAは、血液の中で、トロンボキサンA3、プロスタサイクリンと呼ばれる物質を合成する。
前者は血小板を凝集させない作用があり、後者は血栓をとかす働きをもつ。
要するにEPAは血液を固まりにくくし、心筋梗塞や脳卒中を防ぐ効果がある。
諸君、魚を食べよう!