マルハゲドンの大予言 [「ヘルシーエッセイ」再録]
「One's Life」という健康総合ニュースサイトの片隅の小さな欄に毎週1本、「健康常識ウソホント」というタイトルの拙文を寄稿している。
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿の再利用である。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます。
ヘルシーエッセイ(6)
マルハゲドンの大予言
鏡の前であたまにクシを入れながらふと『ガザに盲いて』という小説のことを思い出した。
20年ほど前に死去したイギリスの作家、オルダス・ハックスリーによって書かれたこの小説は、ひとりの男が鏡に向かってネクタイを結びつつ、なんとも晦渋な思索的想念にふける場面ではじまる。
それが小さな活字が隙間なく詰まったページで10数ページもつづくのである。
昔むかしのその昔、学生時代に幾度かこの小説を読みかけては、そのつど冒頭の数ページで降参し、ついに男がネクタイを結びおえるところまでも読み通すことができなかった。
だから小生の頭の中では、いまもハックスリー(の作中人物)は、鏡の前でネクタイを結びつづけている。
「似たようなことを、おれもいまやっている」と思った。
もっとも、それは鏡の前にいつまでも突っ立っている点が似ているだけで、小生の場合は別段深遠な思索などにふけっているわけではない。
鏡へ当てた目線はもっぱら頭部に注がれている。
いつだったか、友人の内科医に、
「おまえの額はなんだかグランスみたいになってきたな」といわれて思わず笑ったことがある。
ひでェこといやがると思ったが、ほんとのことだから笑うしかしかたがなかった。
小生の頭部では、久しい以前から前額から頭頂にかけて(チョンマゲ頭でいえばサカヤキに当たる区域)の過疎化がいちじるしく進行中である。
広く抜け上がった額がテカテカ光っているさまは、なるほど、内科医が連想したようなモノに見えなくもない。
対応策として、かつては七・三に分けていた髪型のデザインを変更し、さしずめナカソネ分けとでも呼ぶべきヘア・スタイルを採用しているが、草木寥寥たる荒蕪地を隠蔽するのにそれは決して十分な処置とはいえなかった。
そこでさらに思い切って側頭部の全毛髪をあげて動員するオールバックならぬオールサイドにしてみる。
するとたしかにインペイ効果は上がるのだが、なにかいかにも作為的な感じがロコツに出すぎて、ハゲおとこのデリケートな自意識を刺激するのである。
で、ふたたび首相スタイルに戻し、こんどは後頭部からの応援を求め・・・と、しつこくそんなことを繰り返していると、どうしてもハックスリーのネクタイになってしまうわけだ。
2、3か月前のことだが、トイレの中で新聞を開いたら、いきなり、「マルハゲドンの大破局」というでッかい文字が目に飛び込んできて、一瞬便意が消失しかけた。
よく見直したら『ハルマゲドンの大破局』なる本の広告だったが、こんなまぎらわしいタイトルをつけられてはメイワクである。
この本の著者は、以前にも『ノセルトダマスの大予言』とかいうヘンなタイトルの本を出したことがあって、“本番”を拒否した個室浴場従業員のハナシかと思った―というのは、いま思いついたウソだが、とにかく、人騒がせな人物である。
なにしろ、こちらは毎朝、枕の上に散らばった髪の毛を数えては、なんとも心細くセツない気持ちになっているのである。
そこへ―、「核戦争以上のマルハゲドンが迫っている!」などとやられては、便意だって止まろうというものだ。
しかし、それもこれもいまとなっては過ぎた話で、小生は最近ついに多年の脱毛の悩みから解放されたのである。
といっても、もはや抜ける毛が1本もなくなったというのではない。
近所の床屋のマスターにすすめられた養毛剤が、じつにドラマチックに効いて、使いはじめたその日からピタリと脱毛が止まったのである。
床屋でしか売っていない、この『テタリス』という名の養毛剤は、なんでも20種類以上のアミノ酸とビタミンE、B6などを配合したもので、頭皮に直接栄養分を与えて、抜け毛を防ぎ、発毛を促すのだそうだ。
発毛効果のほうは、まだ2週間ぐらいしかたってないので、なんともいえないが、弱々しく萎えちぢんでいた毛が生気と太さをとり戻しつつあるのは事実である。
だから脱毛が止まったのだろう。私の胸はいま希望とよろこびにうちふるえている!
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿の再利用である。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます。
ヘルシーエッセイ(6)
マルハゲドンの大予言
鏡の前であたまにクシを入れながらふと『ガザに盲いて』という小説のことを思い出した。
20年ほど前に死去したイギリスの作家、オルダス・ハックスリーによって書かれたこの小説は、ひとりの男が鏡に向かってネクタイを結びつつ、なんとも晦渋な思索的想念にふける場面ではじまる。
それが小さな活字が隙間なく詰まったページで10数ページもつづくのである。
昔むかしのその昔、学生時代に幾度かこの小説を読みかけては、そのつど冒頭の数ページで降参し、ついに男がネクタイを結びおえるところまでも読み通すことができなかった。
だから小生の頭の中では、いまもハックスリー(の作中人物)は、鏡の前でネクタイを結びつづけている。
「似たようなことを、おれもいまやっている」と思った。
もっとも、それは鏡の前にいつまでも突っ立っている点が似ているだけで、小生の場合は別段深遠な思索などにふけっているわけではない。
鏡へ当てた目線はもっぱら頭部に注がれている。
いつだったか、友人の内科医に、
「おまえの額はなんだかグランスみたいになってきたな」といわれて思わず笑ったことがある。
ひでェこといやがると思ったが、ほんとのことだから笑うしかしかたがなかった。
小生の頭部では、久しい以前から前額から頭頂にかけて(チョンマゲ頭でいえばサカヤキに当たる区域)の過疎化がいちじるしく進行中である。
広く抜け上がった額がテカテカ光っているさまは、なるほど、内科医が連想したようなモノに見えなくもない。
対応策として、かつては七・三に分けていた髪型のデザインを変更し、さしずめナカソネ分けとでも呼ぶべきヘア・スタイルを採用しているが、草木寥寥たる荒蕪地を隠蔽するのにそれは決して十分な処置とはいえなかった。
そこでさらに思い切って側頭部の全毛髪をあげて動員するオールバックならぬオールサイドにしてみる。
するとたしかにインペイ効果は上がるのだが、なにかいかにも作為的な感じがロコツに出すぎて、ハゲおとこのデリケートな自意識を刺激するのである。
で、ふたたび首相スタイルに戻し、こんどは後頭部からの応援を求め・・・と、しつこくそんなことを繰り返していると、どうしてもハックスリーのネクタイになってしまうわけだ。
2、3か月前のことだが、トイレの中で新聞を開いたら、いきなり、「マルハゲドンの大破局」というでッかい文字が目に飛び込んできて、一瞬便意が消失しかけた。
よく見直したら『ハルマゲドンの大破局』なる本の広告だったが、こんなまぎらわしいタイトルをつけられてはメイワクである。
この本の著者は、以前にも『ノセルトダマスの大予言』とかいうヘンなタイトルの本を出したことがあって、“本番”を拒否した個室浴場従業員のハナシかと思った―というのは、いま思いついたウソだが、とにかく、人騒がせな人物である。
なにしろ、こちらは毎朝、枕の上に散らばった髪の毛を数えては、なんとも心細くセツない気持ちになっているのである。
そこへ―、「核戦争以上のマルハゲドンが迫っている!」などとやられては、便意だって止まろうというものだ。
しかし、それもこれもいまとなっては過ぎた話で、小生は最近ついに多年の脱毛の悩みから解放されたのである。
といっても、もはや抜ける毛が1本もなくなったというのではない。
近所の床屋のマスターにすすめられた養毛剤が、じつにドラマチックに効いて、使いはじめたその日からピタリと脱毛が止まったのである。
床屋でしか売っていない、この『テタリス』という名の養毛剤は、なんでも20種類以上のアミノ酸とビタミンE、B6などを配合したもので、頭皮に直接栄養分を与えて、抜け毛を防ぎ、発毛を促すのだそうだ。
発毛効果のほうは、まだ2週間ぐらいしかたってないので、なんともいえないが、弱々しく萎えちぢんでいた毛が生気と太さをとり戻しつつあるのは事実である。
だから脱毛が止まったのだろう。私の胸はいま希望とよろこびにうちふるえている!
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