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原始的怒り・人間的怒り [医学・医療・雑感小文]

物質的なことば

「一緒に育ち、愛した人を、本当は知らなかったと感じている。

弟は静かで内気で、とけ込むことに苦しんでいた。

このような暴力が引き起こせるとは思ってもみなかった」

2007年4月16日に起きた米バージニア工科大銃乱射事件のチョ・スンヒ容疑者の姉の言葉だ。

外電が伝えた記事を読み、故・浦田卓先生の著書『もっと物質的なことばで』に記されたこんな挿話を思い出した。

1966年8月1日、テキサス大学構内で同様の銃撃事件が発生、15人が死亡、31人が負傷した。

犯人は、だれにも親しまれた学生、チャールズ・ホイットマンで、駆けつけた警官隊に射殺された。

「あんなに快活で優しかった彼が、なぜ?」と理解に苦しむ声が多かったが、死体解剖で、脳の怒りの中枢─扁桃核(へんとうかく)に腫瘍が見つかった。

もしそれがわからなかったら、彼の凶行は、別のもっともらしい理由で説明されただろうと、浦田先生はこう述べている。

「人の異常な行動は、すべてこれを〝もっと物質的なことば〟で説明する努力をすべきだと考える」

 人間の証明

原始的な怒りの中枢は二つあるという。

扁桃核(へんとうかく)と視床下部だ。

どちらも大脳辺縁系(脳幹と大脳新皮質の間にある)の一部だ。

ネコの脳の扁桃核に、細い電極を刺入して電流を通じると、ネコは突発的に怒る。

電流を切ると、たちまち怒りは消える。

同じことは視床下部でもみられる。

ラットの視床下部にある種の神経伝達物質を注入すると、ラットはハツカネズミを攻撃して殺すが、神経伝達阻害物質を注入すると、攻撃を中止する。

そうした動物実験で、原始的な怒りの中枢が明らかにされた。

これに対して、人間的な怒りの中枢は大脳の新皮質にある。

大脳新皮質は、大脳の表面の灰白質の部分。

ヒトをヒトとして特徴づける精神作用の場だ

ものごとを総合し、記憶し、伝達し、理解し、判断し、そして創造する。

非人間的な理不尽な言動への怒りはここに発する。

テロや無差別殺人に対して覚える怒りは、人間が人間であることを証明する人間的怒りだ。

「人間の証明」であるこの怒りを結集し、持続しなければならない。
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