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カライモの思い出 [雑感小文]

 戦後1、2年間のひどい窮乏の時代に、故郷屋久島の村・永田では「餓死らってる」というジョークが流行した。
 
 顔色のわるい少年や元気のなさそうな青年を見ると、

「お、汝(わー)如何(がし)たこっかい。餓死らって」とからかったのだ。

 当時、内地の都市でみられたような餓死者が、わが村に実際に出たわけではなかった。

 だれか、世情に敏なる男が吐いた毒舌ふうの冗談が、受けて広まったのだろう。

 そのころの夏の宵──。

 家に帰ると、丸いちゃぶ台の真ん中に小皿が載っていて、皿の中にはカライモ(サツマイモ)が2本置かれてあった。

 それがその夜、私のために残されていた夕食の全部だった。

 私はそのとき14歳の中学生で、前年の冬、母が死んでいなくなった家には、小学生の妹が3人、学齢前の弟が1人。

 田舎寺(浄土真宗本願寺派の末寺)の住職だった父は、世渡りのからきし下手な男だった。

 それにしても、カライモ2本きりというのは、当時としても最低の晩めしには違いなかった。

 最低の晩めしを当てがわれて、食い意地の突っ張った、餓死らった少年は、口をとがらせて文句の一つも言っただろうか。

 言わなかった。

 私だって、それくらいの心は、もっていた。

 ――というところで、カライモすなわちサツマイモの話。

 サツマイモは、仮にそれだけしか食べなくても、大した栄養不足は起こさない「完全食品」だと、栄養学の専門家は言っている。

 サツマイモの成分的特徴は、水分が多いこと(66.1%)と、でんぷん質に偏りすぎて(31.5%)、たんぱく質(1.2%)と脂肪(0.2%)はごく少ないことだ。

 だが、そのたんぱく質のアミノ酸組成がかなりすぐれているのが、サツマイモの特徴の一つだ。

 アミノ酸価とは、食品のたんぱく質の中に8種類の必須アミノ酸が、どれだけバランスよく揃っているかを示す指数だが、サツマイモのアミノ酸価は82。

 白米の62、押し麦53、食パン35、大豆69、豆腐62......などと比べると、そのスグレものぶりがわかる。

 ビタミンCの含量が100グラム中29ミリグラムと、けっこう多いこともサツマイモの特徴だ。

 野菜類にはビタミンCが多いが、たとえばキャベツ(100グラム中41ミリグラム)やハクサイ(同19ミリグラム)、サラダ菜(同14ミリグラム)などを100グラムも食べようとすれば相当なかさになる。

 サツマイモの100グラムはせいぜい1個だから、なんでもなく食べられる。

 ビタミンB1やカロチンの含量も多いし、食物繊維はジャガイモの2倍もある。

 サツマイモが「快便食品」といわれるゆえんだ。

 だから大腸がんの予防食としてもすぐれている。

 カルシウムも結構多く、ジャガイモの6倍以上、血圧を下げるミネラル、カリウムも豊富だ。

 さらにもう一つ、サツマイモの特徴は、カロリーが低い(米や麦の半分以下)ということだ。

 イモ腹がすぐへったのは、そのせいだったわけだが、ダイエット志向の現代ではそれはかえってうれしいメリットであるだろう。

 じつに低カロリー・高ビタミンのヘルシー食品、これがサツマイモである。
 
 そして......私におけるサツマイモは、心のなかの古い静かな絵のようなものでもある。

 遠い夏の日の夜の、裸電球の黄色い光に照らされた......。
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