昼寝達人になろう [医学・医療・雑感小文]
平成養生訓16
昼寝達人になろう
老いぬれば何は扨措(さてお)き昼寝かな (福岡市)奥西邦夫
数年前の夏、新聞の俳句欄で見つけた句です。
ああ、いいなぁと感じ入り、すぐさまノートに書き留めました。
飄々たる人柄の察せられる俳諧味もさることながら、かねがね「趣味は昼寝。特技は後ろ歩き」と言いふらしてきた者としては、まさに我が意を得た思いもありました。
昼寝は絶好の健康法。
このことを否定する専門家はいません。
先年、世界睡眠学会の一分科会のテーマに「昼寝は是か非か」が取り上げられたが、討論が成立しなかった。
全員が昼寝賛成、反対意見なしだったからだそうです。
年をとれば、だれでも眠り下手になります。
足が弱くなったり、忘れっぽくなったりするのと同じことです。
寝つきが悪く、眠りが浅く、夜中に目が覚め、朝早く目が覚めます。
これを補うには上手な昼寝がぜひ必要です。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針」でも、
「眠気が生じる午後2時~3時、短い昼寝によるリフレッシュ」が勧められ、
「夜眠れない高齢者が昼寝と夕方の散歩で改善した例」が多いと解説されています。
「活動的で、趣味などに意欲的に取り組んでいる高齢者ほど昼寝をしている」といわれ、昼寝をしている高齢者は、していない高齢者に比べると、認知症(アルツハイマー病など)の発症率が5分の1ほどに抑えられていることが、厚労省の調査でわかっています。
昼寝がなぜ、認知症を防ぐのに役立つのでしょうか。
「高齢者は、よく眠ったつもりでも睡眠の質が悪く、そのため大脳の認知機能に影響を及ぼし、認知症の発症リスクが高まる。
昼寝はそうしたリスクを低下させる」と説明されています。
ただし、1時間以上も眠るのは逆効果。
体が本格的な睡眠態勢になって目覚めたあと頭がボーッとしてスッキリしません。
夜の眠りにも差し支えます。
認知症の発症リスクもかえって高くなるといわれています。
過ぎたるは及ばざるがごとしというわけです。
もちろん、昼寝がいいのは高齢者だけではありません。
昼寝をすることによって、交通事故などの発生率が低下、作業効率や判断力が向上する─このことは、多くの実験や産業医学的調査で確認されています。
睡眠科学に詳しい広島大学総合科学部の堀忠雄教授は、
「昼寝にはまず血圧を下げるという効果があります。
夜間の睡眠時ほどは下がりませんが、昼寝をすると確実に血圧が低下し、リラクゼーション効果が生まれます。
脳梗塞などの危険も低くなります」
と、話しています。
堀教授らによる昼寝の効果を確かめた実験では、午後2時から約20分の仮眠をとった学生は、計算能力や音の聞き分けなどのテストの成績が、午前中よりもアップした。
が、仮眠をとらなかった学生の成績は変わらなかったということです。
高校生を対象に昼寝の効果を調べた研究もあります。
内村直尚・久留米大学医学部教授(精神神経科)らは、久留米市の名門校、県立明善高校で昼休みに15分間の「昼寝タイム」を設定、約1カ月半試行しました。
結果、仮睡をとった生徒のほうが「授業に集中でき、期末試験の成績が向上した。勉強にやる気が起こった」と報告されています。
同じような昼寝タイムを職場に導入すれば、午後の仕事の能率アップに役立つでしょう。
昼寝からスッキリ目覚めるコツは、寝る前にコーヒーかお茶を飲むことです。
そうすると、カフェインが吸収されて効いてくる時間(約30分後)に、タイミングよく目覚めて、眠気が残りません。
目覚めたら冷たい水で顔を洗い、柔軟体操をして体をほぐせば心身ともにシャキッとします。
昼寝上手は元気の達人。昼寝達人になりましょう。
<(株)心美寿有夢・企業情報誌『絆』17号=2005年12月発行=より再録>
昼寝達人になろう
老いぬれば何は扨措(さてお)き昼寝かな (福岡市)奥西邦夫
数年前の夏、新聞の俳句欄で見つけた句です。
ああ、いいなぁと感じ入り、すぐさまノートに書き留めました。
飄々たる人柄の察せられる俳諧味もさることながら、かねがね「趣味は昼寝。特技は後ろ歩き」と言いふらしてきた者としては、まさに我が意を得た思いもありました。
昼寝は絶好の健康法。
このことを否定する専門家はいません。
先年、世界睡眠学会の一分科会のテーマに「昼寝は是か非か」が取り上げられたが、討論が成立しなかった。
全員が昼寝賛成、反対意見なしだったからだそうです。
年をとれば、だれでも眠り下手になります。
足が弱くなったり、忘れっぽくなったりするのと同じことです。
寝つきが悪く、眠りが浅く、夜中に目が覚め、朝早く目が覚めます。
これを補うには上手な昼寝がぜひ必要です。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針」でも、
「眠気が生じる午後2時~3時、短い昼寝によるリフレッシュ」が勧められ、
「夜眠れない高齢者が昼寝と夕方の散歩で改善した例」が多いと解説されています。
「活動的で、趣味などに意欲的に取り組んでいる高齢者ほど昼寝をしている」といわれ、昼寝をしている高齢者は、していない高齢者に比べると、認知症(アルツハイマー病など)の発症率が5分の1ほどに抑えられていることが、厚労省の調査でわかっています。
昼寝がなぜ、認知症を防ぐのに役立つのでしょうか。
「高齢者は、よく眠ったつもりでも睡眠の質が悪く、そのため大脳の認知機能に影響を及ぼし、認知症の発症リスクが高まる。
昼寝はそうしたリスクを低下させる」と説明されています。
ただし、1時間以上も眠るのは逆効果。
体が本格的な睡眠態勢になって目覚めたあと頭がボーッとしてスッキリしません。
夜の眠りにも差し支えます。
認知症の発症リスクもかえって高くなるといわれています。
過ぎたるは及ばざるがごとしというわけです。
もちろん、昼寝がいいのは高齢者だけではありません。
昼寝をすることによって、交通事故などの発生率が低下、作業効率や判断力が向上する─このことは、多くの実験や産業医学的調査で確認されています。
睡眠科学に詳しい広島大学総合科学部の堀忠雄教授は、
「昼寝にはまず血圧を下げるという効果があります。
夜間の睡眠時ほどは下がりませんが、昼寝をすると確実に血圧が低下し、リラクゼーション効果が生まれます。
脳梗塞などの危険も低くなります」
と、話しています。
堀教授らによる昼寝の効果を確かめた実験では、午後2時から約20分の仮眠をとった学生は、計算能力や音の聞き分けなどのテストの成績が、午前中よりもアップした。
が、仮眠をとらなかった学生の成績は変わらなかったということです。
高校生を対象に昼寝の効果を調べた研究もあります。
内村直尚・久留米大学医学部教授(精神神経科)らは、久留米市の名門校、県立明善高校で昼休みに15分間の「昼寝タイム」を設定、約1カ月半試行しました。
結果、仮睡をとった生徒のほうが「授業に集中でき、期末試験の成績が向上した。勉強にやる気が起こった」と報告されています。
同じような昼寝タイムを職場に導入すれば、午後の仕事の能率アップに役立つでしょう。
昼寝からスッキリ目覚めるコツは、寝る前にコーヒーかお茶を飲むことです。
そうすると、カフェインが吸収されて効いてくる時間(約30分後)に、タイミングよく目覚めて、眠気が残りません。
目覚めたら冷たい水で顔を洗い、柔軟体操をして体をほぐせば心身ともにシャキッとします。
昼寝上手は元気の達人。昼寝達人になりましょう。
<(株)心美寿有夢・企業情報誌『絆』17号=2005年12月発行=より再録>
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