広辞苑の脳卒中&外反拇指 [医学・医療・雑感小文]
広辞苑の脳卒中
先年(2008年11月)、『広辞苑』が10年ぶりに改訂されて「第六版」が出たとき早速、ある項目を引いてみた。
「のうそっちゅう【脳卒中】脳の急激な血液循環障害による症状。急に意識を失って倒れ、手足の随意運動が不能となる。脳梗塞(こうそく)・脳出血・蜘蛛膜(くもまく)下出血など。」
─これならまず合格だ。従来の版にはいささか不満があった。
1955年発行第一版の「脳卒中→のういっけつ(脳溢血)」は論外としても(脳卒中イコール脳溢血ではない)、
第二版と第三版の、
「脳卒中 脳の急激な血液循環障害による症状。急に意識を失って倒れ、手足の随意運動は不能となる。脳溢血によることが最も多いが、脳栓塞・脳膜出血でも似た症状が起る。」は、「脳溢血」「脳栓塞・脳膜出血」に違和感を覚えた。
第二版は1969年、第三版は1983年の発行だが、このころすでに「脳溢血」は旧称で「脳出血」と呼ぶのが一般的だった。
「脳栓塞」は「脳塞栓」とするのが正しい表記である。
「脳膜出血」は、第六版のように「蜘蛛膜下(くもまくか)出血」のほうがよかったと思う。脳膜出血にはほかに硬膜下出血・硬膜上出血もあるが、圧倒的に多いのはクモ膜下出血だ。
それよりなにより、「脳血栓」が抜けているのが問題だった。
第四版でも「脳溢血」が「脳出血」に変わっただけで、そのほかの記述はそのまま踏襲され、脳梗塞(脳血栓と脳塞栓)が脳卒中の70%を占める実状にそぐわなかった。
(なお、98年発行の第五版は、CD-ROM版を購入したところ、ディスクにキズをつけてしまい、いま見ることができない。やはり出版物は紙に印刷したものに限る)。
第六版でようやく納得できる説明になった。辞書もまた世につれて変わる一例だろう。
広辞苑の外反拇指
「広辞苑ひもときみるに スモッグといふ語なかりき 入るべきものを」
『広辞苑』の編者、新村出博士の歌だ。
なるほど、1955年発行の広辞苑第一版には「スモッグ」という項目はない。
博士没後2年目の69年発行の第二版には、ある。
同様の例は、「神経症」「夏ばて」「突き指」「花粉症」などけっこう多く、いずれも第二版あるいは第三版で収録された。
だが、「外反拇趾(がいはんぼし)」は第四版にも漏れて、98年発行の第五版でようやく採録された。
「外反拇趾 足の親指が付け根の中足指関節で外方に向いた状態。外翻足(がいほんそく)を伴うことが多い。先天的素因、先端のとがった靴の着用、関節リウマチなどが原因」とあるが、「外翻足を伴うことが多い」というのはどうなんだろう?
外反拇趾が「外翻足を伴うことが多い」などということは、絶対にあり得ない。
外翻足が外反拇趾を伴うのは事実だとしても、いま多くの女性にみられる外反拇趾は、外翻足とはまったく無関係だ。
外翻足とはどんな状態の足か?
『広辞苑』にはこうある。
「足首の関節の異常のため足が外向きに固定され足底が外方に向かい、足の外側が床面から離れる状態。外反足。」
どうですか?
もし、あなたが外反拇指だったら、私の足はそんなふうにはなってないわヨ、とモンクの一つも言いたくなるでしょう。
『広辞苑』は、「外翻足を伴うことが多い」ではなく、「外翻足に伴うことが多い」と書けばよかったのだ。
「を」と「に」、格助詞1個で文の意味内容がまるで違ってくることを、日本の代表的な国語辞典が教えてくれたわけだ。
なお、第六版では新たに「認知症」や「メタボリック症候群」「SARS(重症急性呼吸症候群)」「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」などが収められたが、PSA(前立腺特異抗原=前立腺がんの血液的指標)はない。惜しい!?。
先年(2008年11月)、『広辞苑』が10年ぶりに改訂されて「第六版」が出たとき早速、ある項目を引いてみた。
「のうそっちゅう【脳卒中】脳の急激な血液循環障害による症状。急に意識を失って倒れ、手足の随意運動が不能となる。脳梗塞(こうそく)・脳出血・蜘蛛膜(くもまく)下出血など。」
─これならまず合格だ。従来の版にはいささか不満があった。
1955年発行第一版の「脳卒中→のういっけつ(脳溢血)」は論外としても(脳卒中イコール脳溢血ではない)、
第二版と第三版の、
「脳卒中 脳の急激な血液循環障害による症状。急に意識を失って倒れ、手足の随意運動は不能となる。脳溢血によることが最も多いが、脳栓塞・脳膜出血でも似た症状が起る。」は、「脳溢血」「脳栓塞・脳膜出血」に違和感を覚えた。
第二版は1969年、第三版は1983年の発行だが、このころすでに「脳溢血」は旧称で「脳出血」と呼ぶのが一般的だった。
「脳栓塞」は「脳塞栓」とするのが正しい表記である。
「脳膜出血」は、第六版のように「蜘蛛膜下(くもまくか)出血」のほうがよかったと思う。脳膜出血にはほかに硬膜下出血・硬膜上出血もあるが、圧倒的に多いのはクモ膜下出血だ。
それよりなにより、「脳血栓」が抜けているのが問題だった。
第四版でも「脳溢血」が「脳出血」に変わっただけで、そのほかの記述はそのまま踏襲され、脳梗塞(脳血栓と脳塞栓)が脳卒中の70%を占める実状にそぐわなかった。
(なお、98年発行の第五版は、CD-ROM版を購入したところ、ディスクにキズをつけてしまい、いま見ることができない。やはり出版物は紙に印刷したものに限る)。
第六版でようやく納得できる説明になった。辞書もまた世につれて変わる一例だろう。
広辞苑の外反拇指
「広辞苑ひもときみるに スモッグといふ語なかりき 入るべきものを」
『広辞苑』の編者、新村出博士の歌だ。
なるほど、1955年発行の広辞苑第一版には「スモッグ」という項目はない。
博士没後2年目の69年発行の第二版には、ある。
同様の例は、「神経症」「夏ばて」「突き指」「花粉症」などけっこう多く、いずれも第二版あるいは第三版で収録された。
だが、「外反拇趾(がいはんぼし)」は第四版にも漏れて、98年発行の第五版でようやく採録された。
「外反拇趾 足の親指が付け根の中足指関節で外方に向いた状態。外翻足(がいほんそく)を伴うことが多い。先天的素因、先端のとがった靴の着用、関節リウマチなどが原因」とあるが、「外翻足を伴うことが多い」というのはどうなんだろう?
外反拇趾が「外翻足を伴うことが多い」などということは、絶対にあり得ない。
外翻足が外反拇趾を伴うのは事実だとしても、いま多くの女性にみられる外反拇趾は、外翻足とはまったく無関係だ。
外翻足とはどんな状態の足か?
『広辞苑』にはこうある。
「足首の関節の異常のため足が外向きに固定され足底が外方に向かい、足の外側が床面から離れる状態。外反足。」
どうですか?
もし、あなたが外反拇指だったら、私の足はそんなふうにはなってないわヨ、とモンクの一つも言いたくなるでしょう。
『広辞苑』は、「外翻足を伴うことが多い」ではなく、「外翻足に伴うことが多い」と書けばよかったのだ。
「を」と「に」、格助詞1個で文の意味内容がまるで違ってくることを、日本の代表的な国語辞典が教えてくれたわけだ。
なお、第六版では新たに「認知症」や「メタボリック症候群」「SARS(重症急性呼吸症候群)」「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」などが収められたが、PSA(前立腺特異抗原=前立腺がんの血液的指標)はない。惜しい!?。
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