トンカチを持って旅に出よう [医学・医療・雑感小文]
「One's Life」という健康総合ニュースサイトの片隅の小さな欄に毎週1本、「健康常識ウソホント」というタイトルの拙文を寄稿している。
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿の再利用である。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます。
ヘルシーエッセイ(16)
トンカチを持って旅に出よう
五月の声をきくと、きまって一度は思い出す詩がある。
ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん。
―という、余りにも有名なスタンザではじまる萩原朔太郎の詩『旅上』である。
汽車が山道をゆくとき
みずいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。
―どうですか。じつに旅情しきりにそそられるようではありませんか。
詩人は新しい背広を着て、どうやら夜汽車に乗ったものであるらしいが、新刊のある雑誌をみると、旅行評論家とかいうひとが、旅行鞄の中にビニールの風呂敷を忘れないで入れておこう、となにやら世帯染みたような、タメになる知識を教えてくれている。
旅先で洗った生乾きのサルマタなんかを包んだり、山の辺の道などで行き会った女性と意気投合するようなことでもあったら敷物がわりに用いるもよし、にわか雨にふられたら応急の雨合羽にもなる・・・というのである。
先年物故された作家の舟橋聖一氏は、いつも我が家で用いている枕を持って旅に出た。
枕だけではない。いかなる旅行にも必ずお供をする付き人の大型トランクの中には、寝巻きや下着類と一緒に、先生が毎朝召し上がる鶏卵が1日1個のわりで旅行日数分だけきちんと収められていた。
そればかりか、ご愛飲の「バヤリース・オレンジ」の瓶が、これまた旅行日数に見合う本数だけ詰め込まれていたそうだ。
もっとも、この話は伝聞だから真偽のほどは保証しない。
伝聞ではなくて、ご本人の口からじかにうかがった話では、歴史学者の樋口清之先生のカナヅチの一件がある。
泊まりがけの旅に出かけるとき、樋口先生のボストンバッグの底には必ず日夜ご愛用のカナヅチが一丁入っている、
しかし、行先が奈良の場合だけは入っていない。
そこの定宿には以前から同型の一丁を預けてあるからだ。
いったい、カナヅチを何に用いるのか。
老化した石頭をたたく、などと失礼な想像をしてはいけない。
毎晩寝る前に足の裏をカナヅチでたたくのが、樋口先生の60年来変わらぬ習慣で、唯一の健康法である。
寝床の上にあぐらをかき、足の裏の土踏まずのところを、カナヅチでトントン…と10分間ぐらい両足交互にたたく。
そうすると、ポーッと足が温くなってそのあと熟睡できる。
カゼ気味のときなど、いつもより念入りに時間をかけてたたくと、ちょうど熱い風呂に入って汗を出すのと同じ効果があるそうだ。
また、食べ過ぎで腹が張っているときも、これをやるとスッとらくになる。
足の裏をたたくと、その響きが内臓に伝わって腸の蠕動運動が促されるような気がする。
樋口先生はそう言っておられた。
鍼灸の専門家にきくと、それは十分理由のあることなのだそうだ。
足の裏の土踏まずのヘリには湧泉というツボがあって、これはその名のとおり生命の泉を湧き起こすツボなのだそうだ。
湧泉を刺激すると、全身の皮膚や筋肉、靭帯(関節を結び付けている弾力性のあるひもや帯状の組織)など体の軟部組織の血液循環をよくて、その柔軟性、弾力性を保たせ、体の運動機能をさかんにする。
結果、全身の血液循環がよくなって、高血圧の人の血圧が下がることもある。
当然、内臓の働きもよくなるから、毎日習慣的につづけていると元気な体を保つのに効果がある、という。
1秒間に2回程度の速さで、リズムカルに、心地よい痛みを感じるくらいの強さでたたく。
就寝前のほか、思いついたときにも片方を100回ぐらいずつたたく。
もちろんそれより多くてもかまわない。
毎日つづけてやるのが一番いいにきまっているが、疲れて足がだるくて眠れないようなときには即効的な効果がある。
カナヅチがなかったらコーラの空き瓶なんかでも、むろんかまわない。
そこへさらに「ヘルシーエッセイ」なる短文を追加することになった。
だが、こちらは30年以上も前に書いた旧稿の再利用である。
なんだかずいぶん無精なことをしますが、それをさらにここへ再々録させてもらいます。
ヘルシーエッセイ(16)
トンカチを持って旅に出よう
五月の声をきくと、きまって一度は思い出す詩がある。
ふらんすへ行きたしと思へども
ふらんすはあまりに遠し
せめては新しき背広をきて
きままなる旅にいでてみん。
―という、余りにも有名なスタンザではじまる萩原朔太郎の詩『旅上』である。
汽車が山道をゆくとき
みずいろの窓によりかかりて
われひとりうれしきことをおもはむ
五月の朝のしののめ
うら若草のもえいづる心まかせに。
―どうですか。じつに旅情しきりにそそられるようではありませんか。
詩人は新しい背広を着て、どうやら夜汽車に乗ったものであるらしいが、新刊のある雑誌をみると、旅行評論家とかいうひとが、旅行鞄の中にビニールの風呂敷を忘れないで入れておこう、となにやら世帯染みたような、タメになる知識を教えてくれている。
旅先で洗った生乾きのサルマタなんかを包んだり、山の辺の道などで行き会った女性と意気投合するようなことでもあったら敷物がわりに用いるもよし、にわか雨にふられたら応急の雨合羽にもなる・・・というのである。
先年物故された作家の舟橋聖一氏は、いつも我が家で用いている枕を持って旅に出た。
枕だけではない。いかなる旅行にも必ずお供をする付き人の大型トランクの中には、寝巻きや下着類と一緒に、先生が毎朝召し上がる鶏卵が1日1個のわりで旅行日数分だけきちんと収められていた。
そればかりか、ご愛飲の「バヤリース・オレンジ」の瓶が、これまた旅行日数に見合う本数だけ詰め込まれていたそうだ。
もっとも、この話は伝聞だから真偽のほどは保証しない。
伝聞ではなくて、ご本人の口からじかにうかがった話では、歴史学者の樋口清之先生のカナヅチの一件がある。
泊まりがけの旅に出かけるとき、樋口先生のボストンバッグの底には必ず日夜ご愛用のカナヅチが一丁入っている、
しかし、行先が奈良の場合だけは入っていない。
そこの定宿には以前から同型の一丁を預けてあるからだ。
いったい、カナヅチを何に用いるのか。
老化した石頭をたたく、などと失礼な想像をしてはいけない。
毎晩寝る前に足の裏をカナヅチでたたくのが、樋口先生の60年来変わらぬ習慣で、唯一の健康法である。
寝床の上にあぐらをかき、足の裏の土踏まずのところを、カナヅチでトントン…と10分間ぐらい両足交互にたたく。
そうすると、ポーッと足が温くなってそのあと熟睡できる。
カゼ気味のときなど、いつもより念入りに時間をかけてたたくと、ちょうど熱い風呂に入って汗を出すのと同じ効果があるそうだ。
また、食べ過ぎで腹が張っているときも、これをやるとスッとらくになる。
足の裏をたたくと、その響きが内臓に伝わって腸の蠕動運動が促されるような気がする。
樋口先生はそう言っておられた。
鍼灸の専門家にきくと、それは十分理由のあることなのだそうだ。
足の裏の土踏まずのヘリには湧泉というツボがあって、これはその名のとおり生命の泉を湧き起こすツボなのだそうだ。
湧泉を刺激すると、全身の皮膚や筋肉、靭帯(関節を結び付けている弾力性のあるひもや帯状の組織)など体の軟部組織の血液循環をよくて、その柔軟性、弾力性を保たせ、体の運動機能をさかんにする。
結果、全身の血液循環がよくなって、高血圧の人の血圧が下がることもある。
当然、内臓の働きもよくなるから、毎日習慣的につづけていると元気な体を保つのに効果がある、という。
1秒間に2回程度の速さで、リズムカルに、心地よい痛みを感じるくらいの強さでたたく。
就寝前のほか、思いついたときにも片方を100回ぐらいずつたたく。
もちろんそれより多くてもかまわない。
毎日つづけてやるのが一番いいにきまっているが、疲れて足がだるくて眠れないようなときには即効的な効果がある。
カナヅチがなかったらコーラの空き瓶なんかでも、むろんかまわない。
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