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脳神経内科 [医療小文]



日本神経学会は、これまで「神経内科」としてきた標榜科目を「脳神経内科」と変更すると発表しました。

神経内科という診療科は、眼科や耳鼻咽喉科など部位がはっきりしている名称に比べ、どこを診てくれるのか、わかりにくい印象がありました。

「脳神経内科」は、脳や脊髄、神経、筋肉の病気を診察し、脳神経外科の内科側のカウンターパート(対応相手)として位置づけられています。

手足のしびれ、めまい、うまく力が入らない、歩きにくい、ふらつく、つっぱる、ひきつけ、けいれん、むせる、話しにくい(ろれつが回らない)、ものが二重に見える、頭痛、勝手に手足が動く(不随意運動)、物忘れ、意識障害などが診療対象になります。

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腸と脳は [医療小文]

脳腸相関

腸と脳は密接に影響し合っています。

試験前などで緊張すると、「腹痛が起こる」「トイレに行きたくなる」という経験をした人も多いでしょう。

逆に、腸が病原菌に感染すると、脳がストレスを感じることもわかっています。

この関係を「脳腸相関」と言います。

さらに腸は独自の神経ネットワークを持ち、脳の指令がなくても動くことができます。

食べたものを運ぶ蠕動運動も栄養や水分の吸収なども腸が自ら行っています。

で、「第二の脳」とも言われます。

腸の壁面には500種類500兆もの腸内細菌が生息し、まるで植物が群生しているようなので「腸内フローラ(花畑)」とも言われます。

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認知症を改善する睡眠パターン [医療小文]

レム睡眠の増加で認知機能が改善?

ヒトの睡眠は、大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠という2つの状態を交互に繰り返している。

睡眠中に急速な眼球運動が見られることからRapid Eye Movement(REM)と呼ばれるレム睡眠では脳の一部が活動を維持しており、夢を見やすく、心拍や呼吸は不規則である。

一方、ノンレム睡眠では心肺や呼吸は落ち着き、デルタ波(徐波)が検出される。

いわゆる深い睡眠とされるノンレム睡眠に比べて、浅い眠りとされるレム睡眠に対する理解はあまり深まっていない。

第12回パーキンソン病・運動障害疾患コングレス(7月5~7日)で筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)主任研究者で准教授の林悠氏は、以前に同氏らの研究班が明らかにしたレム睡眠を制御する神経細胞群についてあらためて解説するとともに、それらを介してレム睡眠を増加させる新しいアプローチ法がパーキンソン病(PD)に伴うレム睡眠行動障害(RBD)や認知機能の改善に寄与する可能性について言及した。

加齢に伴いレム睡眠も減少する

林氏は「デルタ波が発生することで、脳内で神経伝達がされにくくなり、感覚入力が遮断されて結果的に眠りが深くなる。

脳波=脳の神経細胞から出る弱い周期性の電流。
人間の脳波は、アルファ波、ベータ波、シータ波、デルタ波の四つに分けられる。
デルタ波は、脳波が最も遅い状態。

顕在意識が働いていない状態で、深い眠りについている状態、または、無意識の状態です。

また記憶の定着や、ホルモン分泌、脳内の老廃物除去に関わることが分かってきた」と説明した。

加齢に伴い、総睡眠時間とともにノンレム睡眠は減少することが知られているが、同氏が紹介した過去の報告によると、1晩の睡眠に占めるレム睡眠の割合も新生児の50%から、19〜30歳の若年成人で22%に、高齢者で約14%に減少し、その度合いはノンレム睡眠を大きく上回っている。

同氏は「加齢とともに深いノンレム睡眠だけでなく、レム睡眠も減少している。同様の睡眠の質の変化は、認知症や糖尿病の患者、あるいは睡眠薬の服用によっても起こっている」と述べた。

レム睡眠が睡眠の質を左右する

レム睡眠の役割に着目した林氏らの研究班は、過去の報告からレム睡眠とノンレム睡眠の切り替えに関与する神経細胞群が脳幹のpons(橋)に存在すると考え、マウスを用いて神経細胞の遺伝子プロファイリングを行った。

結果、同氏らはAtoh1陽性の神経細胞群において、覚醒の促進およびレム睡眠の抑制に関わる神経細胞群を同定し、得られた知見を基に、レム睡眠を遺伝学的に阻害できるマウスの作製に成功した。

このレム睡眠制御マウスを用いて、同氏らはレム睡眠の阻害がノンレム睡眠に及ぼす影響について検討した。

結果、「レム睡眠を10分間阻害しただけではノンレム睡眠中のデルタ波に影響は認められなかったが、長時間にわたり阻害したところ、デルタ波は次第に弱まった」と同氏。

加えて、レム睡眠を阻害しない自然な状態においてもレム睡眠が長いほど直後のノンレム睡眠中のデルタ波が強まる(正の相関)ことを確認したが、覚醒時間とデルタ波との間にはそのような強い相関は認められなかったという。

これらの結果を踏まえ、同氏は、

「レム睡眠がノンレム睡眠の前にあることによってノンレム睡眠中のデルタ波を強め、記憶の定着や脳の発達に貢献している可能性がある」との見解を示した。

RBD発症の神経メカニズムの手がかりを得る

現在、林氏らは、パーキンソン病(PD)の原因の1つと考えられている蛋白質、αシヌクレインの橋への影響について研究を行っている。

αシヌクレインは、睡眠中に突然叫び声を上げたり、激しく動き回ったりする睡眠行動障害(RBD). RBDなど、他の睡眠関連障害の原因とも指摘されている。

同氏らは、マウスの橋において同定した、レム睡眠の制御に重要な神経細胞群がαシヌクレインを蓄積しやすく、損傷を受けることでRBDなどの睡眠関連症状を引き起こしている可能性がある点を指摘した。

αシヌクレインの研究は現在も継続中だが、同氏は「加齢やαシヌクレインの蓄積によってレム睡眠を促進する神経細胞群の機能が低下し、それがノンレム睡眠中のデルタ波を弱め、睡眠が断片化し、RBDなどの睡眠関連症状が出現、結果的に認知機能の低下にも寄与しているのではないか」と考察。

最後に、同氏は、

「レム睡眠を増加させるアプローチ法が発見できれば、認知機能の改善が可能になると考えられる」と展望し、発表を締めくくった。
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熱中症の見分け方 [医療小文]

 熱中症の見分け方

 暑い日にぐったりしている人が、軽症の熱中症なのか、ただちに病院へ運ぶべきか。

 その見分け方は、「まず体温、そして意識です」と、木村昭夫・国立国際医療センター救命救急センター長 。

 手で触って皮膚が熱く、乾いてかさかさしている。

 耳元で呼びかけても返事がないこん睡状態だったら、超緊急の処置を要する。

 ちゃんとした応対ができる状態だったら、それほどあわてなくてもよい。

 乳幼児は泣いているようならまず安心だが、ぐったりしていたら要注意。  ちょっとつねっても泣きもしないのはきわめて重症。すぐ救急車を呼ぼう。

 救急車を待つ間は、できる限り涼しいところに寝かせて、襟元のボタンやベルトなどをゆるめてあげる。

 体温を下げるには、動脈が皮下の近くを走っているところ(首の横、わきの下、足のつけ根)を冷やす。冷たいタオルや氷のうを当てるか、水をかけたあと、湿ったタオルをのせてうちわであおぐのもよい。

 絶対にやってはいけないのは、こん睡状態の人に水を飲ませようとすること。窒息しかねない。

 分類 程度 症状

Ⅰ度 軽症度 四肢や腹筋などに痛みをともなった痙攣(腹痛がみられることもある)

○多量の発汗の中、水(塩分などの電解質が入っていない)のみを補給した場合に、起こりやすいとされている。

○全身の痙攣は(この段階では)みられない。

失神(数秒間程度なもの)

○失神の他に、脈拍が速く弱い状態になる、呼吸回数の増加、顔色が悪くなる、唇がしびれる、めまい、などが見られることがある。

○運動をやめた直後に起こることが多いとされている。

○運動中にあった筋肉によるポンプ作用が運動を急に止めると止まってしまうことにより、一時的に脳への血流が減ること、また、長時間、あつい中での活動のため、末梢血管が広がり、相対的に全身への血液量が減少を起こすことによる。

Ⅱ度 中等度 めまい感、疲労感、虚脱感、頭重感(頭痛)、失神、吐き気、嘔吐などのいくつかの症状が重なり合って起こる

○血圧の低下、頻脈(脈の速い状態)、皮膚の蒼白、多量の発汗などのショック症状が見られる。

○脱水と塩分などの電解質が失われて、末梢の循環が悪くなり、極度の脱力状態となる。

○放置あるいは誤った判断を行なえば重症化し、Ⅲ度へ移行する危険性がある 。

Ⅲ度 重傷度 意識障害、おかしな言動や行動、過呼吸、ショック症状などが、Ⅱ度の症状に重なり合って起こる

○自己温度調節機能の破錠による中枢神経系を含めた全身の多臓器障害。

○重篤で、体内の血液が凝固し、脳、肺、肝臓、腎臓などの全身の臓器の障害を生じる多臓器不全となり、死亡に至る危険性が高い。
 
 屋外で長時間の作業に従事する人は、温度と相対湿度から算出する体感温度「熱指数」(Heat Index)が摂氏29.4度程度であっても、熱中症で死に至る可能性のあることが、米国労働安全衛生局(OSHA)のAaron Tustin氏らによる研究で明らかになった。

 同氏らが屋外作業中に熱中症になった25症例を検討したところ、死亡した14例中6例は作業時の熱指数が摂氏32.8度未満であったことが分かった。

 詳細は、米疾病対策センター(CDC)発行の「Morbidity and Mortality Weekly Report」7月6日号に掲載された。

 この研究でTustin氏らは、2011~2016年に屋外での勤務中に発生した熱中症の25症例に着目。

 このうち14例が死亡した。

 それぞれの症例について、熱中症のリスク因子の保有状況や熱への順化度(暑い作業環境に身体が適応できていたかどうか)、仕事量や作業負荷、服装について詳しく調べた。

 降圧薬や利尿薬は脱水リスクを高める可能性

 その結果、25例中12例が肥満や糖尿病、高血圧、心疾患、降圧薬や利尿薬などの特定の薬剤や違法薬物の使用といった、熱中症のリスク因子を一つ以上保有していたことが分かった。

 専門家によると、降圧薬や利尿薬は身体の体液バランスに影響し、猛暑時には脱水リスクを高める可能性があるという。

 また、発症当時には、死亡した14例中13例は中等度以上の負荷がかかる作業を行っていた。

 服装をみると、25例中4例は通気性の悪い厚手の服を着用していた。

 さらに、25症例全体では、発症時の熱指数の中央値は摂氏33.3度であったが、その幅には28.3度から43.3度までばらつきがみられた。
 
 なお、今回の研究では、熱中症予防の目安として広く用いられている暑さ指標(WBGT:気温と湿度、風速、輻射熱を考慮して数値化したもの)ではなく、温度と相対湿度から算出する体感温度「熱指数」が用いられた。

 なお、熱中症は、特に身体が高い気温に慣れていない梅雨から夏の初めの頃が特に危険で、注意する必要があるという。

 専門家の一人で米レノックス・ヒル病院救急科のRobert Glatter氏は、数多くの熱中症患者の診療に当たった経験から、「熱中症は救急搬送が必要な危険な状態だ」と強調する。

 熱中症になると体温40度以上の高熱や意識障害、大量の発汗などがみられるようになる。

 応急処置として涼しい場所に移し、氷水をかけるなどで身体を冷やし、体温を下げることが重要になるという。

 熱中症の症状と対処法

 Glatter氏は、夏場に屋外で作業するときは厚着を避けて吸湿性や通気性のよい素材の服を選び、こまめに水分補給をすることを強く勧めている。

 水分補給時には塩分を含んだ経口補水液などを摂取し、脱水をもたらすカフェインの過剰摂取は避ける必要があるとしている。その他の注意点は以下のとおり。

・気温と湿度の上昇をモニター(監視)し、予防策を講じる責任者を決める 。

・作業を始める前に、高温多湿の作業環境に作業者の身体を慣れさせる。熱中症のリスク因子がある人には特に注意を払う。

・日陰や冷房の効いた場所でこまめに休憩する。

・水分や電解質を補給できる飲み物を準備する。

(HealthDay News 2018年7月5日)Copyright [コピーライト] 2018 HealthDay. All rights reserved.

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精神疾患と幼少期の病歴 [医療小文]

 精神疾患や生活習慣病、幼少期の病歴から原因探る...医療研機構

 子供や若者の頃の病歴や生活環境に着目し、精神疾患や生活習慣病の原因を探る国の研究プロジェクトが4月から始まっている。

 日本医療研究開発機構(東京)が主導し、人の一生を見渡して発病の仕組みを解明し、2025年までに予防法の開発を目指す。

 近年、

 ▽低出生体重児は成長後に腎臓病や視覚障害のリスクが高まる

 ▽出産後にうつを発症した人は思春期以降のうつ病の経験が多い

 ――など早い段階の病気が、その後の健康に関連することが分かってきた。

 ウイルスなどの感染による妊婦の免疫の活性化が、胎児の成長後の精神疾患に関与するとされている。

 同機構は、若者が健康に長く過ごせる社会作りを進めようと、長い時間の中で病気予防や健康増進につながる大学や団体の研究を重点的に支援する。

 第1段階としては、若者から高齢者まで世代ごとに病歴や遺伝情報、生活環境の情報を集め、病気との関係を探る研究を進める。

 虐待やインターネット利用の長期的な影響も調べる。

 進展に合わせ、複数の研究成果を結びつけて分析。

 健診データも活用し、病気の原因の発見を目指す。

 原因の糸口をつかんだ病気については、予防法を試し、有効かどうかをみる臨床研究を進める。

 小児科や産科、精神科などが連携する体制を構築する方向だ。
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生理痛の鎮痛薬でも脱毛 [医療小文]

抗がん剤だけじゃない 生理痛の鎮痛薬でも脱毛

 薬の副作用による脱毛といえば、真っ先に抗がん剤が思い浮かぶのではないでしょうか。

しかし、薬剤による脱毛はそれ以外のさまざまな薬でも起きます。

 どのような薬にリスクがあるのでしょうか。

 横浜労災病院皮膚科部長、齊藤典充さんの解説です

 ◇生理時に鎮痛薬を多量に飲んでいた女性

 薄毛の悩みで受診した20代の女性。

 診察しても原因がはっきりしません。

 何か薬を飲んでいないか聞いてみました。

「病院には行ってないし、毎日、飲んでいる薬はありません」と言います。

 そこで「生理痛や頭痛はありますか? なにか痛み止めは飲んでいますか?」と問い直すと

「痛み止めの薬なら、たくさん飲んでいますよ」。

 髪の診察でどうしてそんな質問をされるのか驚いた様子だったので、

「お薬で髪の毛が抜けることがあるのです」と伝えました。

 すると、生理痛がつらくて、いつも鎮痛薬を指定の用量以上飲んでいると話してくれました。

 ◇市販の胃薬、抗菌薬やピルでも脱毛は起きる

 薄毛で受診する女性の中には、この患者さんのように市販の鎮痛薬を飲んでいるケースがしばしばあります。

 脱毛の原因と考えられるのは、その中に配合されている抗炎症成分の「アセトアミノフェン」や「イブプロフェン」です。

 これらは、一般薬の鎮痛・解熱薬や風邪薬(総合感冒薬)などによく使用されています。

 また、同じ一般薬では、胃酸の分泌を抑える成分として胃薬に使われる「シメチジン」や「ファモチジン」でも脱毛が起きます。

 頭頂部が薄くなってきた時は、抗菌薬を使っていないか患者さんに聞くこともあります。

「イソニアジド(抗結核薬)」「エタンブトール塩酸塩(同)」「ゲンタマイシン(緑膿菌などにも強い抗菌力がある)」などを使用している場合は、これらが脱毛の原因の一つに考えられます。

 また、低用量ピル(経口避妊薬)を飲んでいる若い女性に、薬剤性と思われる脱毛が起きることがあります。

 脱毛は、ピルを飲んでいるすべての人に起きるわけではありません。

 もともとの素因などの影響も考えられますが、薬による頻度不明の脱毛がみられます。

 ◇自覚症状の特徴とは

 薬剤によって毛髪が抜けると、頭頂部が薄くなって髪の毛がまばらになる「びまん性脱毛」が見られます。

 抗がん剤の副作用のように髪の毛が一気に抜けることはなく、薬を使い始めて数カ月後から徐々に薄くなってきます。

 患者さんからよく聞く自覚症状は、

「髪の毛のボリュームが変わってきた」「洗髪後の抜け毛が増えた」というもので、女性は早いうちから髪の変化に気づいているようです。

 気になってどうしようと思っているうちに頭髪全体が薄くなり、周囲の人にも薄く見える頃には、ご本人もかなり深刻に悩んでいるはずです。

 抗がん剤以外の薬で脱毛が起きることは、ほとんど知られていません。

「まさか鎮痛薬や胃薬で脱毛なんて」と患者さんに驚かれたり、そもそも薬が原因と思っていないため、患者さん自身が薬を飲んでいても、その意識すら乏しかったりします。

 薬による脱毛は、ドラッグストアなどで購入する一般薬、病気治療の目的で医師から処方される薬のどちらでも起きます。

 生理痛や頭痛がひどい女性では、鎮痛薬を多量に飲み続けていることがあります。

 また、慢性疾患などで、治療のために継続的に薬を使用している方でも、薬によっては脱毛が生じることがあります。

 まずは、身近な薬も脱毛の原因になると知ってもらうことが大事だと思います。(聞き手=医療ライター・阿部厚香)

【毎日新聞医療プレミア】による
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乳房切除術は必要か [医療小文]

HBOC乳がんに乳房切除術は必要か
国立病院機構四国がんセンター乳腺外科がん診断・治療開発部長 大住省三

40歳以下の英国人乳がん患者2,733例を対象とした前向きコホート研究で、BRCA1/2遺伝子変異の有無は若年乳がん患者の予後に影響を及ぼさないという結果を、英サウサンプトン大学のEllen R. Copson氏らが、最も権威ある医学誌「Lancet Oncol」に発表した。

コホート研究=特定の地域や集団に属する人々を対象に、長期間にわたってその人々の健康状態と生活習慣や環境の状態など様々な要因との関係を調査する研究。

乳がん患者の治療におけるこの研究の意義について国立病院機構四国がんセンターの大住省三乳腺外科がん診断・治療開発部長の氏に解説してもらった。

リスク低減手術の実施が重要 

遺伝性乳がん・卵巣がん(HBOC)は常染色体優性遺伝する遺伝性疾患であり、BRCA1あるいはBRCA2のいずれかに生殖細胞系列変異(germline mutation)を有するとHBOCと診断される。

BRCA1=(breast cancer susceptibility gene I)乳がん感受性遺伝子1 

BRCA2=(breast cancer susceptibility gene II)、がん抑制遺伝子の一種、その変異により遺伝子不安定性を生じ、最終的に乳癌を引き起こす。

HBOCは乳がんおよび卵巣がんに罹患するリスクが非常に高く、これらのがん予防対策として特別な検診(サーベイランス)やリスク低減手術を実施することが重要である。

さらに治療面でもHBOCの女性の乳がん・卵巣がんは、HBOCではない女性よりもプラチナ製剤による化学療法の感受性が高いこと、新しいカテゴリーの分子標的薬であるPARP阻害薬での感受性も非常に高いことが示されている。

PARP阻害薬=PARP(損傷したDNAを修復する酵素の一つ)が機能することを妨げる薬剤

このことから、今後HBOCのがん患者での薬物療法では他のがん患者との区別が必要になると思われる。

HBOC卵巣がん患者の予後は良好

今回のPOSH studyは、HBOCの乳がん患者の予後がHBOCではない、いわゆる散発性の乳がん患者のそれと比較して違いがあるかどうかを検討した研究である。

卵巣がんでは、HBOC卵巣がん患者が散発性の卵巣がん患者に比べて少なくとも短期的には予後が良く、その中でもBRCA2に生殖細胞系列変異のある卵巣がんで予後が良いことがほぼ確定している。

HBOC卵巣がん患者の予後が良い1つの理由として、卵巣がん治療でほぼ常に使われるプラチナ製剤での化学療法の効果が大きいことが挙げられている。

一方、乳がんではこの点まだ決着がついていないと考えられており、これに決着をつけようとした研究である。

HBOC乳がん患者に有益な情報

この研究は前向きコホート研究のスタイルを取っている。

英国の127病院で診断時40歳以下であった乳がん患者を登録し、そのほとんど全員にBRCA遺伝学的検査(生殖細胞系列での遺伝子検査)を行い、病的変異のあった患者となかった患者との予後を、全生存率(overall survival)をprimary outcomeとして解析している。

2,733人の女性患者が参加し、経過観察期間の中央値は8.2カ月である。その結果、BRCA遺伝子病的変異の有無別で予後に差がなかったというのが結論である。

多変量解析で他の予後因子を調整し、経過観察のどの時点でも差がなかったとしている。

多変量解析法=互いに関係のある多変量(多変数,多種類の特性値)のデータが持つ特徴を要約し,かつ,目的に応じて総合するための手法。

ただし、トリプルネガティブ(エストロゲンレセプター、HER2がいずれも陰性、プロゲステロンレセプター陰性あるいは不明)に限れば、2年の時点のみBRCA遺伝子病的変異陽性群の方が予後良好(ハザード比0.59)であったが、その後その差は消失したと述べている。

この情報は、HBOC乳がん患者がリスク低減手術を予定する場合に有益である。

本研究の強みは、多数症例での前向き研究で、登録されたほぼ全例でBRCA遺伝学的検査がされたことで、登録時点でのバイアスが起こりにくくしている点である。

ただし、登録された症例の年齢が乳がん診断時点で40歳以下の患者に限られており、この結果がそれより高齢の乳がん患者に当てはまるのかどうかは分からない。

さらに今後プラチナ製剤やPARP阻害薬がHBOC乳がん患者に積極的に使われるようになると、卵巣がんのようにHBOC乳がん患者の予後が散発性乳がん患者より良くなる可能性がある。
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赤ちゃんの認識力 [医療小文]

赤ちゃんは生後4カ月から“見た目と音”で素材認識

 言葉を獲得する前の赤ちゃんが、見ること、聞くことを通して、「木」や「金属」といった身近にある物の素材を認識していることを、中央大などの研究グループが実験から明らかにした。

 物の素材の見た目と音の関係の理解は、生後4カ月から発達し、経験とともに処理できる素材の種類が増えていくという。

 今回の研究により、赤ちゃんが多様な感覚を通して、物体に関わる知識をどのように獲得していくのか、そのメカニズム解明につながると期待されている。研究結果は英国の科学誌Scientific Reportsに掲載された。

 素材の見た目と音が一致すると脳血流量が増加

 論文を発表したのは、中央大、日本女子大、鹿児島大--の研究者。

 ナイフやフォークなどの食器が金属素材でできているのか、あるいはプラスチックにメッキ加工されたものなのかを見分けるためには、見た目の光沢感だけでなく、物体をたたいた時に出る音も重要な手がかりとなる。

 グループは、生後4~5カ月児と6~8カ月児計32人に、木や金属をたたく音とその材質の見た目が一致した映像と、一致しない映像をそれぞれ見せ、脳の血流量を観察した。

 具体的には、脳が活発化すると酸素を必要とし、血中の酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)が増えることから、oxy-Hbの値を測った。

 その結果、木の素材の場合は、木をたたく音と材質の見た目の映像が一致すると、4~5カ月児、6~8カ月児とも脳の右半球の側頭領域が活発化した。

 一方、金属をたたく音と見た目の映像が一致した場合、6~8カ月児は脳の活動量が増加したが、4~5カ月児では全く活動がみられなかった。

 木をたたく時に出る「ポコポコ」という音とともに金属をたたく映像を流すなど、音と見た目の映像が一致しない場合は、どちらの素材でも脳活動が上昇しなかった。

 また、左半球の側頭領域では、音と見た目の映像が一致、不一致どちらのケースでも、血流量の増加は見られなかった。

 これらの結果から、乳児が視覚と聴覚を通して物体の素材を認識する際には、右半球の側頭領域が関わっていると考えられるという。

 このような脳内での処理は、木の素材に対しては生後4カ月から、金属の素材では6カ月から見られ、素材によって時期が異なることも分かった。

 なぜ右半球で活動したのか。

 今回の研究を実施した中央大学研究開発機構の氏家悠太機構助教によると、成人の場合は、ある音と、その音から連想される視覚イメージとの連合には脳右側の上側頭溝(じょうそくとうこう=視覚と聴覚の結びつきに関わる脳の側頭葉にある溝の一つ)が関わっていることが分かっており、乳児でも同じメカニズムが働いている可能性が考えられるという。

 また、これまでの研究から、赤ちゃんが金属の光沢感を知覚できるのは7カ月以降であることが分かっている。

 今回、金属の音と見た目の映像が一致しても、4~5カ月児で脳活動が見られなかったのは、これが理由の一つではないかと分析している。

 氏家機構助教は「赤ちゃんは言葉を獲得する前の段階から、物の素材の見た目と音を連合できる能力を持っていることを証明できた。

 今後は、素材がどれだけ身近かどうかが、見た目と音のつながりを獲得する時期にどのように影響するのかを調べたい」と話している。

「毎日新聞デジタル版 医療プレミア」による
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食べなくても食物アレルギー!? [医療小文]

食べなくても食物アレルギー!?

 成人の食物アレルギーは臨床病型や原因食物、発症メカニズムなどが多様で、診療ではそれらを踏まえた対応が求められる。

 国立病院機構相模原病院臨床研究センター診断・治療薬開発研究室長の福冨友馬氏は、小麦依存性運動誘発アレルギー(WDEIA)、花粉-FA症候群(PFAS)、アニサキスアレルギー、職業性手湿疹関連FAなどの特徴や診療上の要点を第67回日本アレルギー学会(6月22~24日)で解説した。

 小麦の摂取量、大豆の摂取時期に注意を要するアレルギー

 成人食物アレルギーの中で比較的発症頻度が高いWDEIAの多くは、小麦に含まれる蛋白質のω-5グリアジンに優位に感作されている。

 病名に「運動誘発」と付いているが、誘発要因である運動を実施していなくても発症しうるとの報告があるという。

 こうした現状を踏まえ、福冨氏は「ω-5グリアジン優位感作型のアレルギーに関する長期管理の在り方はまだ明確化されておらず、小麦の摂取を完全に避けるべきか、抗ヒスタミン薬の内服を継続しつつ少量摂取を継続してもよいのかといった点や、望ましい治療法について議論を深める必要がある」と述べた。

 花粉アレルゲンと交差反応を示す症状を有するPFASについては、同氏らが同院外来患者を対象にした検討から、カバノキ科花粉の飛散期とその直後に大豆アレルギーの発作が頻発していることを紹介。

 大豆アレルギー症状があるPFAS患者では、特に同花粉の飛散時期である5、6月には大豆摂取を控えるべきであるとした。

 アニサキスアレルギーは該当食品を避ければ予後良好

 アニサキスによる健康障害は、アニサキス自体が胃腸組織に刺入して生じるアニサキス症と、アニサキスアレルゲンへの反応として生じるアニサキスアレルギーに分類される。

 アニサキス症の治療は、一般的には虫体の摘出術が施行されるが、近年、抗アレルギー薬投与のみで改善することも報告されている(日本医科大学医学会雑誌 2012; 8: 179-180)。

 一方、アニサキスアレルギーへの対処としてコンセンサスの得られたものはないが、発症当初は加熱、非加熱の別なく魚介類の摂取を全面的に禁止し、特異的免疫グロブリン(Ig)E抗体価が十分に低下してきたら生の魚類とイカ以外は摂取を許可するなど、段階的に制限を緩和していく方法でうまくいっているという。

 さらに福冨氏は、調理業従事者などが有する手湿疹が食物アレルギー発症・増悪の強い危険因子であるとする報告を取り上げた。

 ただし、これらの特異的IgE抗体価は経皮曝露の回避により低下することが確認されている。

 そのため、同氏は「手湿疹がある場合は原因となっている食物の調理を避ける、あるいは調理時に手袋を装着するなどの対策を講じるとよい」と指摘した。(陶山慎晃)

 「Medical Tribune」2018年07月10日  

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寿命が伸びる酒の量 [医療小文]

週に1~3杯の少量飲酒に余命延長効果?

 飲酒量はどの程度であれば健康に有益なのか--。

 この問題を検証した最新研究の結果が「PLOS Medicine」6月19日オンライン版に発表された。

 この研究では、週に1~3杯程度の少量飲酒者は、全く飲酒しない人と比べて長生きする傾向はあるが、ある種のがんに罹患するリスクは、飲酒量がわずかでも上昇する可能性があることが示されたという。

 クイーンズ大学(英領北アイルランド)のAndrew Kunzmann氏らは今回、米国前立腺がん・肺がん・大腸がん・卵巣がん(PLCO)スクリーニング試験のデータを用いて住民ベースの大規模コホート研究を実施し、生涯の平均飲酒量とがん罹患および死亡のリスクとの関連について検討した。

 対象は、同試験に参加した55~74歳の男女9万9654人(女性68.7%)。83万6740人年の追跡期間中(中央値8.9年)に約10%(9599人)が死亡し、約13%(1万2763人)ががんに罹患した。

 解析の結果、全く飲酒しない人の全死亡リスクは、飲酒量が週に1~3杯(1杯はビールで約350mL、ワインで約150mLに相当)の少量飲酒者に比べて約25%高いことが分かった。

 また、飲酒量が1日に2~3杯未満の大量飲酒者では、少量飲酒者と比べて全死亡リスクは男性で19%、女性で38%高く、飲酒量と全死亡リスクとの間にはJ字型曲線(Jカーブ)の関係が認められた。

 一方で、がんリスクについては、特に咽頭がんや口腔がん、食道がん、肝がんといったアルコールに関連するがんになるリスクは飲酒量が増えるほど上昇した。

 さらに、がん罹患と死亡の複合リスクは、少量飲酒者と比べて全く飲酒しない人で9%高く、ほとんど飲酒しない人(週に1杯未満)では8%、大量飲酒者では10%、1日に3杯以上とより大量に飲酒する人では21%それぞれ高く、これらの複合リスクは少量飲酒者で最も低かった。

 この結果について、Kunzmann氏は「少量の飲酒が健康に有益であることを証明するものではない」と強調し、少量飲酒者は高収入で、健康的な食生活を送り、運動量が多い傾向がみられ、これらの要因が余命の延長をもたらした可能性を指摘している。

 では、適度な飲酒で心疾患リスクが低減したとするこれまでの研究結果を、どう解釈すべきなのか?

 専門家の一人でビクトリア大学(カナダ)のTimothy Stockwell氏は

「多くの研究は、ある時点の飲酒状況に基づき解析されており、以前は飲酒していたが健康上の理由などで禁酒した人も“全く飲酒しない人”に含まれていた可能性がある」と指摘する。

 なお、同氏がこのような点を考慮して実施した研究では、中等量の飲酒による健康へのベネフィットは消失したという。

 Kunzmann氏もこの考えに同意しているが、今回の研究では対象者に尋ねた生涯の飲酒量に基づいて解析したと話している。

 少量飲酒の有益性を示した今回の結果について、Kunzmann氏は慎重な解釈を求めており、飲酒習慣のある人は飲酒量を最小限にとどめることや、健康面でのベネフィットを期待して、赤ワインを毎晩2杯以上飲むのは止めた方がよいと助言している。

 Stockwell氏も「少量飲酒の有益性を裏付ける科学的根拠に基づいたコンセンサスはない」と強調し、健康に良いかもしれないという理由で飲酒量を増やしてはならないと話している。

(HealthDay News )Copyright [コピーライト] 2018

「毎日新聞 医療プレミア」による

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