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うっかり飲んだ市販薬がドーピング [医療小文]

よく使う治療薬や市販薬もドーピングの対象に?

オリンピックやW杯などがあると、耳にするドーピングのニュース。

せき止め薬や育毛剤にも禁止成分が含まれると聞くと驚きます。

どのような薬に、どんな効果をもつ成分が含まれているのでしょうか。

ドーピングとは、スポーツ選手が競技能力を高める目的で、薬物を用いることを指します。

スポーツの価値を損なう、フェアプレー精神に反する、社会に悪影響を与える、選手の健康を害するという理由で厳しく禁止されています。

禁止物質は「世界ドーピング防止機構」で定められており、以下の四つに分けられています。

(1)競技会でも競技会外でも禁止されるもの

(2)競技会のみ禁止対象となるもの

(3)特定競技(航空スポーツやアーチェリーなど)において禁止されるもの

(4)検出されてもドーピング違反にはならないが濫用を避けるために監視されるもの

ドーピング薬物と指定されている薬物には、次のようなものがあります。

まずは、「たんぱく同化薬」。

これは男性化作用をもつ物質ともいわれ、筋肉や赤血球、骨量の増強作用、闘争心を高める働きがあります。

この成分が、子宮内膜症の治療薬、ぜんそくに用いられる気管支拡張薬、市販の強壮薬などに含まれていることがあります。

また「ペプチドホルモン、成長因子の類似物質」は、持久力を長持ちさせる、筋肉増強、闘争心を高めるなどの作用があります。

貧血や不妊症、重度の皮膚損傷の薬などに禁止成分が含まれています。

「β(ベータ)2作用薬」は喘息などに用いられる気管支拡張薬ですが、筋組織を増量させる目的で使用されることがあります。

「ホルモン調節薬、代謝調節薬」も筋肉増強作用をもつため、禁止される成分があります。

排卵誘発剤や糖尿病治療のインスリン、狭心症の薬などに含まれています。

「利尿薬」にも禁止成分があります。

体重別種目のあるスポーツで体内の水分を利尿薬で排泄させ体重を急速に落とす効果を見込んで使用することがあります。

重量が下のクラスに登録したり、あるいは尿量を増やして検査での禁止薬物などを検出しにくくしたりする目的で用いられます。

高血圧やメニエール病の治療薬などが含まれます。

「興奮薬」は競技会時に禁止されるもので、瞬発力や敏捷性を高める、疲労感を低減する、競争心を高めるなどの作用があります。

気管支拡張薬や胃腸薬、鼻炎の薬などに広く禁止成分が含まれています。

また、競技にリラックスして臨む目的で使われる「麻薬」は、多くの鎮痛薬に禁止成分が含まれています。

市販薬では、たとえば胃腸薬にβ2作用薬や興奮薬の禁止成分が、せき止め薬や風邪薬、のど飴などにはβ2作用薬が、増毛剤(服用・塗布)には男性ホルモンが配合されています。

滋養強壮剤は錠剤でもドリンク剤でも筋肉増強作用や興奮作用をもつものが多く含まれます。

また、漢方薬は生薬をブレンドして用いるため、禁止成分が含まれていてもわかりにくいことがあります。

サプリメントや健康食品、スポーツドリンクでも興奮剤や筋肉増強作用をもつ禁止成分が含まれていることがあります。

こうした禁止薬物のリストは、年1回「国際ドーピング防止機構」で1月1日に更新されます。
禁止薬物の種類も条件も大きく変わることがあります。

スポーツ選手がいかに日ごろから口にするものに注意しなければならないかがわかります。

治療薬はもちろんのこと、のど飴やスポーツドリンクに至るまで、安易に摂ってしまうことが選手生命を大きく左右するからです。

また、そのための正しい知識や情報の更新が欠かせません。

日本アンチ・ドーピング機構では公認スポーツファーマシスト認定制度を設け、薬剤師の協力のもと、啓蒙や情報提供などに力を入れています。

ドーピングについて子どものころからスポーツ知識のひとつとして知っておいてもよいかもしれません。

監修:東京医科大学病院 総合診療科准教授 原田芳巳
「ケータイ家庭の医学」より (C)保健同人社

「毎日新聞 医療プレミア」2018年7月4日 による

医療プレミア=は、医療ジャンルで新聞に掲載されていないデジタル独自記事
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ヘディングのリスク [医療小文]

サッカーのヘディングと脳震盪リスク


 国際サッカー連盟(FIFA)ワールドカップロシア大会の熱戦が世界中のサッカーファンを魅了している。

 サッカー選手はヘディングにより頻繁に頭部でボールと接触する機会があり、頭部への衝撃による潜在的な脳震盪(のうしんとう)のリスクが懸念されている。

 米コロンビア大学医学センターのJames Noble氏は、

「サッカーでの脳震盪リスクは高いが、サッカーに限らず全てのコンタクトスポーツの選手は脳震盪のリスクに曝されている」

 と、同大学アーヴィング医療センターのウェブサイトで解説している。

 ヘディングも選手同士の衝突もリスク

 アマチュアサッカー選手を対象とした研究では、頭部衝撃(ヘディングおよび意図的ではない頭部の衝突)による潜在的な脳震盪のリスクが、米国の著名な神経学会誌「Neurology(神経学)」に報告されている(2017年)。
 「
 Noble氏は、

「ヘディングによるボールとの接触、ボールを奪い合う選手同士の偶発的な衝突のいずれにも脳震盪のリスクがあると考えられる」と述べている。

 また、「スポーツでは年齢、体格、性、競技に対する積極性など他の要因が脳震盪リスクに影響する可能性がある」とし、

「若いアマチュア選手とプロ選手では損傷を負うリスクのレベルが異なると考えられ、研究者はそれぞれに特有のリスク因子があるかどうかを判断する必要がある」と指摘している。

 同氏はスポーツ選手の脳震盪リスクについて専門的に研究しており、頭部の衝撃に対するスポーツ選手の曝露を評価するためにヘルメット、ヘッドバンド、マウスガードに埋め込まれた加速度計を使用している。

 しかし、それらのツールは衝撃力になる動きを測定できるものの、その衝撃の影響に対して脳がどのような反応を示すかは測定できないという。

 医師は、頭部への影響をよりよく知るための検査を行うことが可能である。

 脳震盪の徴候を調べるための神経学的検査、MRIやその他の特殊なスキャンによる脳外傷の物理的証拠の探索も有用である。

 また、脳波検査(EEG)により脳震盪に関連する脳波パターンを識別することもできる。

 選手は損傷を隠す場合も

 しかし、スポーツ選手は損傷を負ったことを隠すケースがある。

 Noble氏は、

「したがって実際の課題は、脳への影響を評価する必要な選手を選定することにある」と言う。

 同氏らは現在、選手が脳震盪を起こしたときに競技場の外やベンチにいる試合に参加していない人へリアルタイムで信号を送る、小型化されたEEG技術を組み込んだヘルメットを開発中である。

 この技術はサッカーなどヘルメットを使用しないスポーツにも応用可能であるという。

 同氏は、

「われわれは、選手が競技キャリアを積み重ねるうちに蓄積する脳震盪に至らない程度の微細な脳の損傷(明らかな徴候や症状が見られない脳損傷など)は、脳損傷の観点からより重要であると考えている。脳震盪は脳損傷の氷山の一角かもしれない」と指摘している。

 若年選手でリスク高い可能性

 米国では近年、FIFA、米国サッカー連盟(USSF)、米国ユースサッカー協会(AYSO)に対して、ヘディングの年齢制限を定めるよう求める訴訟が起こされている。

 Noble氏は

「年齢に関するリスクは、選手が脳震盪、身体発育、既存の医療問題、遺伝的危険因子などを申告しているかどうかににかかわらず、脳の成熟や損傷への反応と関連するかもしれない。年齢によってリスクを分類する必要がある」と述べている。

 しかし、ヘディング禁止による影響は十分に分かっていない。

 同氏は、

「組織スポーツで何かを禁止するには、説得力のあるエビデンス(科学的証拠)が必要である。

 どんなスポーツでも頭部外傷を避けることは必要で、特に若年選手にとって重要になると考えている。

リスクが明らかになるまで、10歳以前では練習時を含めてヘディングを避けようという動きは良いことだと思う」と述べている。

 教育とトレーニングが重要

 しかし、他のスポーツにおいても頭部衝撃の影響や短期的および長期的リスクについての理解が進み始めたばかりである。

 具体的なヘディングの長期的影響やヘディングを始めた年齢、回数(1日当たり、1週間当たり、シーズン当たり、選手期間中)などを気にかける必要がある。

 リーグの主催者、保護者、監督、コーチ、選手、研究者が一丸となって取り組めば、これらも明確になると思われる。

 スポーツをすることにより、生涯にわたって継続可能な健康やさまざまな社会的な恩恵が得られる。

 同氏は、
「目標はサッカーなどのスポーツを避けることではない。われわれは、選手が安全に競技ができるように短期的および長期的なエビデンスを蓄積して用いるべきである。

 これは、特にどのように競技すべきかどのように試合を進めるべきかをまだ自分自身で決断できない若い選手に当てはまる」と指摘。

「脳震盪を完全に防御するヘルメットやヘッドギアはない。しかし、われわれは教育とトレーニングによって選手がヘディングする、またはヘディングを避ける準備をさせることができる」と述べている。
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不眠症の認知行動療法 [医療小文]

不眠症向けのデジタル認知行動療法
 RCTで長期有効性が明らかに

不眠症に対する認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia  CBT-I)については豊富なエビデンスが集積されており、その効果は短期的だけでなく10年の長期にわたりその効果が持続することが報告されている。

近年、インターネットを用いたデジタル認知行動療法(dCBT-I;digital CBT-I)が開発され、短期的な不眠症の改善効果が示されている。

米・ヘンリーフォード病院、睡眠障害研究センターのAndrea Cuamatzi-Castelan氏らは、dCBT-Iの長期有効性をランダム化比較(RCT)試験で検討。

ランダム化比較(RCT)試験=評価のバイアス(偏り)を避け、客観的に治療効果を評価することを目的とした研究試験の方法

不眠症改善効果は1年間の長期に渡り持続されることを明らかにし、第32回米国睡眠学会で発表した。

dCBT-Iとメール教育を比較

Castelan氏らは『精神疾患の分類と診断の手引き第5版』に基づき不眠症と診断された18~65歳の1,385例を、dCBT-I群(945例)と睡眠教育を行う対照群(440例)に2:1でランダムに割り付け、12カ月間追跡した。

dCBT-I群にはオンラインによるCBT-Iを週1回、6週間にわたり実施し、対照群には睡眠衛生に関する内容の電子メールを週1回、6週間にわたり送信した。

不眠重症度を介入前、介入後(6週後)、12カ月後の3回測定し、dCBT-Iの有効性を評価した。

対面式のCBT-Iは、主に①行動療法(睡眠時間制限、刺激調整、リラクセーション)②認知療法(認知再構成、マインドフルネス)③患者教育(心理教育、睡眠衛生教育)-の3つの要素で構成される。

dCBT-Iのプログラムは対面式のCBT-Iを踏襲しており、ウェブサイトまたは専用アプリからアクセス可能な睡眠改善プログラムを使用。

アニメーション化された認知行動療法士が1週間ごとに実践するプログラムを案内する。

試験期間中、被験者は並行して睡眠日誌を記録した。

同プログラムは入力内容に応じて睡眠指標データや進捗度が表示されるなど、双方向型で構成されている。
dCBT-I群は1年後も効果が持続

解析対象は、dCBT-I群358例、対照群300例。平均年齢はそれぞれ44.5歳、45.7歳で、両群とも女性が約8割を占めた。

収入が比較的低い患者の割合はそれぞれ26.5%、32.0%、この他、人種の多様性や学歴なども含め、両群の患者背景は同等だった。

介入前と比べた6週後のISIの変化量はdCBT-I群で有意な改善が認められ、プログラム終了6カ月後(介入前から12カ月後)もdCBT-I群の不眠症の改善効果は持続していた。

ISIスコア8をカットオフ値とした場合の6週後の寛解率は、対照群に比べてdCBT-I群で有意に高く(14% vs. 54%)、12カ月後も持続していた。

以上の結果から、Castelan氏は「今回の研究は自己申告に基づいており、主な対象が女性であるなどの限界はあるものの、dCBT-Iは短期的だけでなく1年間の長期的な有効性を示した」と評価。

「今後はdCBT-Iが対面式のCBT-Iに比べアクセスがより容易かつ安価な代替プログラムと成りうるか否かについて、リアルワールドで有効性を検証する必要がある」と展望した。
(SLEEP 2018取材班)

「MedicalTribune 」による。
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電子たばこ、香りが問題! [医療小文]

電子たばこ、蒸気の香り成分が有害

 スウェーデン・イエーテボリ大学のLouise Adermark氏らがまとめた「電子たばこの使用、態度、潜在的な健康への影響に関するレポート」によると、

 スウェーデンでは若年者にとって電子たばこが紙巻きたばこを吸い始めるきっかけとなっている他、電子たばこの蒸気に含まれる香り成分は有害である可能性があることが分かった。

 ニコチン含有なくても口腔や肺に悪影響

 電子たばこは市場に登場して以来、その人気は着実に上昇しており、特に若者の間で高まっている。

 Adermark氏らは同国ヴェストラ・イェータランド県管理委員会の委託を受け、電子たばこの安全性と健康への影響を評価する科学的研究の知識集約を行い、レポートにまとめた。

 それによると、高校生の5人に2人が電子たばこを試用していた。

 また電子たばこを使用する若者は、使用しない若者と比べて紙巻きたばこの喫煙を始める割合が多いことが示唆された。

 なお、これまでの複数の研究から、電子たばこは禁煙に有効な手段ではないことが示されている。

 さらに「従来の紙巻きたばこに比べ、含有する有毒物質のレベルが低くても、電子たばこの使用は他の健康リスクをもたらしかねない」とし、

「特に、電子たばこの甘い香りの原料である香料は、ニコチンを含有していなくても口腔や肺に悪影響を与える」と指摘。

 そのため、同氏らは「香り成分に対するより明確な規制が必要である」と結論している。

 同県管理委員会アルコール・薬物予防活動コーディネーターのUlrika Ankargren氏は、

「電子たばこの香り成分による潜在的な健康リスクについて使用者に情報を開示することが、電子たばこの製造業者と輸入業者にとって重要となる」と述べている。(慶野 永)

「MedicalTribune 」2018年06月28日

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脳は「脂質+糖質」が大好き [医療小文]

ヒトの脳は「脂質+糖質」を好むようにできている

 ヒトの脳は、本能的に脂質と糖質の組み合わせを好むようにできている可能性があることが、米イェール大学精神科のDana Small氏らによる研究で示唆された。

 この研究では、脂質と糖質のいずれかを多く含む食品よりも、ファストフードや加工食品など、脂質と糖質両方を含んだ食品の方が、脳内の報酬系のシグナル伝達を増強することが明らかになったという。

 詳細は「Cell Metabolism」6月14日オンライン版に掲載された。

 これまでの研究で、食欲をつかさどる脳領域に空腹感や満腹感を伝えるシグナルは、主に腸管から伝達されることが分かっていた。

 一方、最近の研究では、脂質を摂取したときと糖質を摂取したときでは、異なるシグナル伝達経路が使われることも示されている。

 こうした結果を踏まえ、Small氏らは、脂質と糖質の両方を含む食品を摂取すると、カロリーは同じだが一方だけを含む食品を摂取するよりも、相乗作用によってシグナル伝達系への影響が強まる可能性があると考え、今回の研究を実施した。

 研究では、健康なボランティアを対象に(1)キャンディーなどの糖質を多く含む食品(2)ミートボールやチーズなどの脂質を多く含む食品(3)クッキーやケーキなどの糖質と脂質の両方を多く含む食品--のいずれかの写真を見てもらい、MRIによる脳画像検査を実施した。

 なお、対象者には、オークションで競り落とせば自分が好きなものを食べることができると説明した。

 その結果、脂質+糖質を多く含む食品に対して最も高額な値が付けられた。

 また、脳画像検査の結果、脂質+糖質を多く含む食品の写真を見せられた際に、自分の好きな食べ物や、より甘い食品やより高カロリーな食品、量が多い食品の写真を見せられたときよりも、報酬系を司る脳領域の神経回路が活性化していた。

 この結果について、Small氏は「脳内の報酬系は単純にカロリー量の増加に応じて活性化するわけではないことが分かり、驚いた」と話す。

 また、今回の研究では、脂質が多い食品のカロリーを推測できる人は多いが、糖質が多い食品のカロリーを推測できる人は少ないことも明らかになった。

 このことから、同氏は「多くの人は、脂質と糖質の両方を含む食品から正確にカロリーを推測することは難しいと思われる」と述べている。

 Small氏は、脂質と糖質を多く含む食品は、ヒトの食欲を司るシグナルを“ハイジャックする”と表現する。

「現代人が食べるほとんどの食品は脂質と糖質の両方を多く含んでいるが、こうした食品は母乳を除けば自然界には存在しない」と説明し、

「現代的なこれらの食品が脳内の報酬系のシグナル伝達をより増強するのであれば、肥満や糖尿病が蔓延していることの説明がつく可能性がある」との見方を示している。

 専門家の一人で米レノックス・ヒル病院肥満外科部長のMitchell Roslin氏は、

 この研究結果について「食べ過ぎに気づかずに、スナック菓子を一袋食べてしまう理由となるものだ」とした上で、「消費者には、自分の空腹感や満腹感に従うのではなく、適切な食品を選ぶように啓発する必要がある」と話している。

 米ロサンゼルスの管理栄養士であるMascha Davis氏は、ドライフルーツやナッツなどを含む健康に良いおやつを常備しておけば、脂質と糖質を同時に摂取でき、満腹感も得られるとアドバイスしている。
(HealthDay News 2018年6月14日)Copyright [コピーライト] 2018
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糖尿病腎症の治療が変わる [医療小文]

変わる糖尿病腎症の概念、治療も変わる?
山田 悟 北里研究所病院糖尿病センター長。

 研究の背景:蛋白尿陰性で腎不全に至る糖尿病の存在がクローズアップ 

 私が学生の頃、糖尿病腎症とは、

 ①無徴候(あるいは糸球体過剰濾過)

 ②アルブミン尿

 ③蛋白尿

 ④腎不全

 ⑤透析―という進展段階をたどるとされていた。

 しかし世界的には、最近その概念が大きく変わりつつある。

 実際、2015年までdiabetic nephropathy(直訳すれば糖尿病糸球体症)という用語を用いていた米国糖尿病学会(ADA)は、2016年以降はdiabetic kidney disease〔直訳すれば糖尿病腎臓病。最近、糖尿病性腎臓病(DKD)の訳語が定着〕と用語を変更し、糖尿病に関連する腎臓病の重要な部分は糸球体の変化にあるが、腎臓全体の変化に目を向けなければならないとしている。

 すなわち、蛋白尿が陰性でも腎不全→透析に至る糖尿病患者の存在を認識しなくてはならないのである。

 このような患者は、レニン・アンジオテンシン系阻害薬の普及と降圧管理の厳格化により、一度生じた蛋白尿が陰性化しているだけで、本来の典型的なnephropathy(糸球体症)の進展段階を経て、腎不全・透析になっている症例を見ているだけなのかもしれない。

 しかし、アルブミン尿や蛋白尿といった糸球体の問題を生じずに尿細管の障害などから腎不全・透析になっている患者の存在を否定できないし、そもそもアルブミン尿が陰性であるというだけでは、腎不全への進展を予防し切れるわけではないのである。

 こうした中、糖尿病における推算糸球体濾過量(eGFR)の自然史を見て、その危険因子の同定を試みたコホート研究の結果がADAの機関誌Diabetes Care(2018年6月1日オンライン版)に報告された。

 大変に興味深く、ご紹介したい。

 研究のポイント1:ARIC研究の1万5,517人でeGFRの自然経過を観察

 本研究は、米国で実施されているAtherosclerosis Risk In Communities(ARIC)研究の一環として行われたものである。

 ARICはその名の通り、アテローム性動脈硬化の危険因子を検討するコホート研究であり、30年に近い歴史を持っている。

 今回は、第1回訪問(1987~89年)から第5回訪問(2011~13年)での採血のうち、第3回訪問を除いてなされた血中クレアチニン(Cr)の測定結果を用いることとした。

 コホート全体1万5,792人のうち、ベースラインのeGFRが15mL/分/1.73m2未満であったり、eGFRのデータがなかったりするなどの理由で一部を除外し、1万5,517人を解析の対象とした。

 また、第1回訪問における耐糖能により、①非糖尿病②未診断糖尿病③診断済み糖尿病―の3群に分け、各群におけるeGFRの経年変化を追った。

 3群の特徴は表1のようなもので、糖尿病の2群には、非糖尿病群に比較して、やや高齢、高血圧や冠動脈疾患既往がある、BMIが大きい、HDL-Cが低い、世帯収入が低い、学歴が低い、といった特徴が見られた。

 研究のポイント2:糖尿病患者のeGFR低下速度は非糖尿病より速かった

 eGFRの経年変化を見ると、糖尿病の有無にかかわわらず低下していた。

 しかし、糖尿病の状態によってその低下速度は異なり、さまざまな因子※で調整後の1年当たりの数値としては、非糖尿病群-1.4mL/分/1.73m2、未診断糖尿病群-1.8mL/分/1.73m2、診断済み糖尿病群-2.5mL/分/1.73m2であった。

 各群での低下速度の10パーセンタイル、25パ―センタイル、50パーセンタイル(中央値)、75パーセンタイル、90パーセンタイル値を調べた。

 診断済み糖尿病群において、より速くeGFRを低下させる因子を検討したところ、6因子が統計学的に見いだされた。

 それを各種因子※で調整したところ、右側の6因子となった。なお、Apolipoprotein L1(APOL1)遺伝子は黒人において慢性腎臓病(CKD)の発症リスクに関わることが以前から指摘されている。

 私の考察:糸球体症であれ腎臓病であれ、なすべき治療は変わらない

 今回の研究では、共変数として取り上げられていないものとして以下の2つが挙げられる。

 このことこそ、この10年での糖尿病による腎臓合併症(=DKD)の理解の変化を物語っていると思う。

 その1つが、蛋白尿、アルブミン尿である。

 実は、ARIC研究においては、10年前にCKDの発症(eGFR<60mL/分/1.73m2)に対して、アルブミン尿や網膜症の有無にかかわらず、HbA1cが関与していることが示されていた。

 だからこそ、今回の検討では共変数にしなかったのであろう。

 そしてもう1つ、取り上げられなかったのが、蛋白質摂取量である。

 実は、これについてもARIC研究では2017年に蛋白質摂取量の多寡がeGFRの変化にかかわっていないことを報告している。

 さればこそ、今回の検討においてやはり共変数にしなかったのであろう。

 先ごろ刊行された『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』では2つのメタ解析を理由に蛋白質摂取制限を推奨している。

 しかし、蛋白質摂取制限の有効性に否定的であったPanらのメタ解析をなぜ採用しなかったのかについて記載はない。

 また、有名なMDRD試験において示された極端な蛋白質摂取制限による死亡率上昇の懸念についても注意喚起がない。

 今後の真摯なる批判的吟味が必要な領域といえよう。

 一方、今回の検討においても、修飾可能なeGFR低下の危険因子として見いだされたのは、血圧管理、血糖管理、喫煙の3項目であった(人種や遺伝子多型は変更不可能な因子であり、糖尿病治療薬は過去の血糖管理の状況の悪さの反映と思われる)。

 よって、糖尿病による腎臓合併症の理解が変化しようとも、われわれが日常臨床でなすべき治療は変わらないようである。

 なお、日本人糖尿病50人および日本人腎硬化症50人での、eGFRとアルブミン尿の末期腎不全(透析・移植)に至るまでの推移を示した日本大学のデータでは、やはり糖尿病ではアルブミン尿の方が先行しやすいことが示されている。

 ①無徴候(あるいは糸球体過剰濾過)②アルブミン尿③蛋白尿④腎不全⑤透析―という進展段階の理解は、少なくともわが国においてはなお成立する。

 わが国における糖尿病腎症の病期分類や腎症に対する理解は、なお変更せずとも大丈夫なのかもしれない。

 ※この研究においては共変数として以下の項目が検討された
自己申告:年齢、性、人種、冠動脈疾患の既往、喫煙状況、世帯収入、学歴、高血圧治療薬の有無、糖尿病治療薬の有無

 診察室測定:身長、体重、血圧

 採血指標:APOL1遺伝子多型、HbA1c、1,5-AG

「MedicalTribune 」2018年06月28日 による。

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「賢臓(けんぞう)」の危険な特徴 [医療小文]

 賢い働き者=腎臓

 腎臓は小さいながらも大変な働き者で、しかも非常に賢い臓器なので「腎臓は賢臓(けんぞう)だ」といわれる。

「腎(じん)」と「賢(けん)」、字もよく似ているが、腎臓のすばらしい働きはまさに「賢臓」。

 大きさはにぎりこぶしぐらい。重さはおよそ120グラム─左右合わせて250グラム。

 胃の後ろの辺、背骨の両側にある。

 左右二つあるが、二つなければ生きていけないということはない。

 それどころか、片方の腎臓の3分の1に働きが落ちても生きていける。

 それほど予備能力の大きい臓器だが、それが裏目に出て、透析寸前になるまで異常に気づきにくいのが、腎臓の危険な特徴だ。

 腎臓は三つ、大きな働きをしている。

 一つは尿を作る働き。

 血液を濾過(ろか)して、体に不要の老廃物を尿として排せつする。

 濾過されてきれいになった血液は、体に戻って再循環する。

 二つめは環境調整。

 体内の水分の調節、血圧の調節、塩分の調節、体液の濃度と量の調節、血液の酸性・アルカリ性のバランスの調節。

 三つめは、ホルモンをつくって分泌する内分泌的機能。

 血圧の維持に重要なレニン、赤血球の産生を刺激するエリスロポエチン、骨をつくるビタミンDを活性化する。 

 腎臓と血圧

 腎臓の機能は加齢に伴って低下する。

 70歳以上の男性の約30%、女性の約50%が、腎機能60%未満の慢性腎臓病の基準に合致するといわれる。

 慢性腎臓病の人の多くが高血圧を合併している。

 高血圧は腎臓病を進行させ、腎臓病は高血圧を悪化させる。

 高血圧の人は、血圧測定に加え、ときどき尿検査をして、腎臓への気配りが大切だ。「毎日血圧、ときどき尿検査」を──。

 腎臓病は初期には無症状だ。

 進行を防ぐ決め手は早期発見・早期治療。これしかない。

 腎臓と貧血

 腎臓は尿をつくり、老廃物を排せつし、体の中のミネラルや酸性度を一定に保ち、ビタミンDを活性化し、血圧を調節するホルモン(レニン)や造血に関与するホルモン(エリスロポエチン)を分泌するなど多種多様な働きをしている。

 だから腎臓の機能が慢性的に低下する慢性腎臓病(CKD)になると、体にさまざまな異常が生じる。

 最近、とりわけ貧血の重要性が注目されている。

 貧血は血液中のヘモグロビン(赤血球に含まれる酸素を運ぶたんぱく質)が足りない状態だが、赤血球の産生を刺激するエリスロポエチンの90%は腎臓でつくられるので、CKDになると、貧血(腎性貧血)が起こる。

 腎機能が60%以下になると、貧血の程度が強くなり、腎臓病を進行させ、心血管病を悪化させることが明らかにされている。

 腎性貧血はエリスロポエチン製剤で治療できる。

「この製剤を注射するとヘモグロビンが上昇し、腎機能の低下が抑えられるだけでなく、心血管病の防止にもつながる可能性がある」と、専門家は解説している。

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透析直前の「隠れ腎臓病」 [医療小文]

 隠れ腎臓病

 世界の腎臓病関連の学会が、腎機能の低下が慢性的に続いて、やがて透析が必要となる腎臓病をひとまとめに「慢性腎臓病(CKD=クロニック・キドニー・ディジーズ)」と呼ぶことに決めたのは、2002年。

 2006年からは3月の第2木曜日を「世界腎臓デー」として、CKDの早期発見・早期治療の啓発運動を展開している。

 日本腎臓学会は、国内のCKD患者は1330万人、ただちに治療が必要な人だけでも600万人と推定している。

 CKDは、「隠れ腎臓病」と呼ばれるように自覚症状が表れにくく、病院に来たときはもう「透析直前」ということさえある。

 怖いのはそれだけではない。

 CKDがあると、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが高まり、貧血も起こる。

 CKDの発見からそうした病気の初期異常が見つかることも少なくない。

 CKD早期発見の第一条件は、毎年必ず健診を受けること。

 潜血と尿たんぱくを調べる尿検査は簡便でかなり正確だ。

 だが、それでは異常が見つからないケースもある。

 糖尿病や高血圧の人、これらの病気にかかっている家族をもつ50歳以上の人、貧血の疑いのある人は、より詳しい「KEEP」という検診を受けたほうがよい。

早期発見プログラム、KEEP

 腎臓は、体の老廃物を尿として排せつし、体の水分(体液)量とミネラルを一定に保ち、血圧を調節するホルモンや造血に関与するホルモンを分泌するなど、生命維持に不可欠な役割を担っている。

 だから神さまはちゃんと二つ用意し、一つがダメになっても、もう一つのほうで(それも機能が3分の1に低下しても)生きていけるようにしてくださっている。

 ところが、その大きな予備能力が裏目に出て、機能がかなり低下しても自覚症状が表れず、診断されたときは透析か腎移植しか選択肢がないことも多い。

 この慢性腎臓病を早く見つける簡便な方法が検尿だが、完全ではない。腎機能が下がっていても、たんぱく尿が出ないケースがあるからだ。

 完全を期すには腎臓病早期発見プログラム(KEEP)という検診を受けること。

 通常の尿検査では検出できない微量のアルブミン(単純たんぱく)をチェックし、血液検査の値と身長・体重などから腎機能を総合的に評価できる。

 検診は無料。心配な人はKEEP参加医療施設へ─。

 CKDの段階

 慢性腎臓病(CKD)は、病気がかなり進行するまで症状が表れないので「隠れ腎臓病」と呼ばれる。

 おおまかな目安としては、腎機能が、

 60~90%=ほとんど無症状。たんぱく尿、潜血が認められる。

 30~60%=むくみが見られ、血清クレアチニン値が上がる。

 15~30%=疲れやすく、貧血、血中のカルシウム低下が認められる。

 15%未満=吐き気・食欲低下、息切れなどが起こる。末期腎不全の状態。

 10%以下=透析が開始される。

 CKDは早期発見、早期治療によって進行を防ぐことができる。

 原因となっている病気(糖尿病性腎炎、慢性腎炎、高血圧など)の治療とともに大切なのは、生活習慣の改善だ。

 食事では塩分とカロリーの摂取量を抑える。

 塩分は1日6グラム未満にし、カロリーは体重や活動量によって設定される適正量を守る。

 たばこも腎機能に影響を及ぼし、たんぱく尿をふやす。

 適度の運動を続ける習慣も大切だ。

 以前は腎臓病の人は運動が禁止されたが、現在は運動によって腎機能の低下が進むことはないと分かっている。

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「キレやすい人」ネコ好き、ご用心! [医療小文]

「キレやすい人」はトキソプラズマ感染率が高い?
  谷口恭 / 太融寺町谷口医院院長

知っていますか? 意外に多い動物からうつる病気

 人間の感情や行動が寄生虫のトキソプラズマに支配されている可能性が高い、と言われたらあなたはどう思うでしょうか。

 安物のSF小説じゃあるまいし……、と一笑に付す人もいるでしょう。今回はそう感じた人にこそ読んでもらいたい内容です。

「キレやすい人」で高いトキソプラズマ感染率

 まずは、「キレやすい人」はトキソプラズマに感染しているかもしれない、という研究を紹介します。

「間欠性爆発性障害(intermittent explosive disorder、以下IED)」と呼ばれる精神疾患があります。

 精神疾患分類の手引として世界的に有名なDSM-5では、

「秩序破壊的・衝動制御・素行症群」に含まれています。

 あまり聞きなれない疾患ですが、米国では1600万人もが罹患(りかん)していると言われています。

 症状としては、特にストレスなどがたまっているわけでもないのに、突然キレだし、他人に理不尽な言動をとります。

 ときに衝動的に物を破壊したり、他人や動物にけがをさせたりすることもあるやっかいな疾患です。

 これは私の個人的見解ですが、診断がついておらず、本人も病識がないだけで、日本でも罹患している人は少なくないと思います。

 米国の罹患者数を考えると、日本人のうち100万人くらいは該当するかもしれません。

 そのIEDの原因がトキソプラズマかもしれないという報告があります。

 研究の対象者は合計358人の成人で、内訳はIED患者が110人、他の精神疾患が138人、健常者が110人です。

 トキソプラズマ抗体陽性率は、健常者9.1%、他の精神疾患が16.7%、IED群では21.8%です。

 「攻撃性(Aggression)」のスコア、「衝動性(Impulsivity)」のスコアを統計学的に解析すると、IED患者では有意にトキソプラズマ感染率が高くなっています。

 トキソプラズマ感染と自傷行為の関係

 次に紹介するのは、トキソプラズマに感染した女性は自傷行為や自殺をしやすい、という衝撃的な研究です。

 医学誌「The Journal of Nervous and Mental Disease(神経・精神障害のジャーナル)」2011年7月号に掲載された論文「女性のトキソプラズマ感染と自殺率」で、ヨーロッパ諸国20カ国での調査を解析した結果、トキソプラズマ陽性率と自殺率が有意に相関していることが報告されました。

 さらに、医学誌「Arch Gen Psychiatry(一般精神医学のアーカイブ)」12年11月号(オンライン版は7月2日)に「母親のトキソプラズマ感染と自傷について」という論文が掲載されました。

 この研究の対象者はデンマークで生まれ、1992~95年の間に出産した4万5788人の女性です。

 結果、トキソプラズマに感染していた母親は、感染していない母親に比べて自傷行為のリスクが1.53倍、自殺企図は1.81倍、自殺はなんと2.05倍にもなるという結果が出ました。

 さらに興味深いことに、トキソプラズマの抗体価が高ければリスクも高くなったのです。

 抗体価が高いということは、それだけ体内のトキソプラズマが“活動”している可能性が高いことを示しています。

 この研究は世界中のマスコミに注目され物議を醸しました。

 なんと、論文のオンライン版が発表された同日の夜には英国の新聞「The Telegraph」が「“猫好き女子”は自殺しやすい」(原文は「'Cat ladies' more likely to commit suicide, scientists claim」というタイトルで、かわいい白猫3匹がうつっている写真を掲載し、大衆をあおりました。

 この報道は少々行き過ぎたようで、英国民保健サービス(NHS)は翌日の7月3日、この記事に惑わされないようにとの解説をウェブサイトで公開し、注意を促しました。

 デンマークのこの研究は、トキソプラズマが女性の自傷行為や自殺を引き起こしたことを証明しているわけではないからです。

 人間の精神への影響を指摘する多数の論文

 ですが、トキソプラズマが人間の精神に影響を及ぼしていることを指摘する論文は多数あります。

 罹患者が多く昔から知られている割にはいまだ原因がわかっていない統合失調症もトキソプラズマとの関連が指摘されています。

 統合失調症の患者と健常者の62人ずつを比較検討したイランの研究では、トキソプラズマの感染率は健常者で37.1%であったのに対し、統合失調症患者では67.77%と有意に高値を示しました。

 現在のところ、なぜトキソプラズマが人間の精神に影響を与えるのかはっきりしたことは分かっていませんが、マウスを用いた興味深い日本の研究があります。

 トキソプラズマToxoplasma gondiiは、単細胞の原虫です。世界中でみられます。

 人に寄生して、トキソプラズマ症という感染症を起こします。

 帯広畜産大学の西川義文教授らは、トキソプラズマに感染させたマウスでは大脳皮質に障害が起こり、神経伝達物質のドーパミンの消費が増加し、記憶に関連する扁桃(へんとう)体でセロトニンが減少することを突き止め、医学誌に発表しました。

 西川教授はさらに、トキソプラズマに対する免疫応答がうつ症状の発症を誘導することを明らかにし、医学誌で報告しています。

 ここまでくれば「事実は“SF小説”よりも奇なり」ということを認めたくならないでしょうか?

 少なくとも、今後の研究に注目したい、あるいは自分自身のトキソプラズマ抗体を調べてみよう、と思った人もいるのではないでしょうか。
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人工甘味料と血糖値の関係 [医療小文]

人工甘味料は血糖値に影響しない可能性/米研究

 人工甘味料は砂糖の代替として飲料や菓子などの食品に広く用いられているが、人工甘味料を摂取しても血糖値には影響を及ぼさないことが、29件のランダム化比較試験を対象に行ったメタ解析で示された。

 ただし、研究を行った米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校食品栄養科学部のAlexander Nichol氏は、

「この結果から、血糖値が気になる場合でも人工甘味料の摂取は安全だと言えるが、人工甘味料入りの飲料や食品を好きなだけ食べてよいという意味ではない」と強調している。

 研究の詳細は「European Journal of Clinical Nutrition」オンライン版に掲載された。

 砂糖の替わりに人工甘味料(非栄養甘味料とも呼ばれる)を用いると、甘みを減らすことなく食品や飲料のカロリーを抑えられることから、人工甘味料は肥満や心臓病、特に糖尿病のリスクを低減させると期待されている。

 米国では、その使用量は急激に増えており、1999~2000年から2009~2012年にかけて子どもでは約3倍に、成人でも約1.5倍に増加した。

 現在では、子どもの4人に1人、成人の5人に2人が人工甘味料を習慣的に摂取しているとの推計もある。

 米国では8種類の人工甘味料が認可されており、これらには今回のRCTで検討対象とされたサッカリンとアスパルテーム、ステビオール配糖体、スクラロースが含まれる。

 また、「無糖(sugar-free)」と表示された食品の一部には、糖アルコールと呼ばれる甘味料(ソルビトール、マンニトール、キシリトール、イソマルトース、水素化デンプン加水分解物)が含まれているという。

 今回の研究で、Nichol氏らは、対象者が人工甘味料を他の食品やカロリーを含む飲料なしで単独で摂取したRCT論文を抽出。

 計741人が参加した29件のRCTを対象にメタ解析を実施し、4種類の人工甘味料(アスパルテーム、サッカリン、ステビオール配糖体、スクラロース)が血糖値に及ぼす影響について調べた。

 対象者のほとんどは健康な人で、2型糖尿病患者は69人、健康状態が不明だった人は150人だった。

 その結果、人工甘味料を摂取しても血糖値にはベースライン時から上昇はみられず、人工甘味料は血糖値には影響しないことが分かった。

 また、4種類の人工甘味料の間で血糖値への影響に差はみられなかった。

 論文共著者の一人で同校食品栄養科学部のMaxwell Holle氏は「過去の研究の多くでは、他の食品と一緒に摂取した場合の人工甘味料の影響のみが検討されていた。

 今回の結果は、人工甘味料を単独で摂取した場合を検討しており、信頼性が高いと言えるだろう」と述べている。

 専門家の1人で米コロンビア大学のMaudene Nelson氏は、「無糖」表示については誤解が多いと指摘する。

「たとえ砂糖が含まれていなくても、食品や飲料そのものには炭水化物や脂質、たんぱく質が含まれており、摂取すれば血糖値に影響する。また、カロリーもあるので体重にも影響を及ぼすことに気を配る必要がある」と話している。

 また、今回の解析には含まれなかった糖アルコールについて、「(糖アルコールを)摂取し過ぎると、腹部膨満感や下痢の原因になることにも注意する必要がある」と同氏は付け加えている。

<「毎日新聞 医療プレミア」による

 
合成甘味料

 合成甘味料は、食品に存在しない甘味成分を人工的に合成したもの(人工甘味料)です。

 サッカリン、アスパルテーム、ネオテーム、アドバンテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースなど。

 低カロリー甘味料や、カロリーゼロ、糖類ゼロの商品によく使用されています。

 過去には、「チクロ(サイクラミン酸ナトリウム)」が発ガン性が高いとして、食品添加物の指定を取り消しとなり、使用が禁止されました。

 人工甘味料の危険性や副作用

 人工甘味料による体への影響は不明な点が多いですが、近年様々な研究結果が発表されています。

 糖尿病のリスク

 人工甘味料が糖尿病のリスクを高めている可能性があるという論文がイギリスの科学誌「ネイチャー」で発表されました。

 その論文によると、人工甘味料入りの水を与えられたマウスは糖尿病につながり得る耐糖能障害が起きやすくなったそうです。

 カロリーゼロなのに太る?

 カロリーゼロとうたっている食品を取っても、人工甘味料により血糖値が上がってインスリンが分泌され、体内に脂肪を蓄え逆に太ると言われています。

 依存性

 人工甘味料にはコカイン以上の強い依存性があると言われています。

 依存することにより、どんどん食べたくなり買ってしまうということは、メーカーにとっては都合のいいことになりますね。

 下痢の副作用

 キシリトール、ソルビトール、マルチトール、スクラロースなど、人工甘味料が入っている商品に「一度にたくさん食べると、お腹がゆるくなることがあります」と書かれていることがあります。

 なぜ、下痢の副作用がでるかというと、人工甘味料は天然に存在しないので、人間が持つ消化酵素では分解できないからです。

 人工甘味料の種類

 サッカリン

 砂糖の200~500倍の甘さで水に溶けにくく、チューインガムにのみ使用されます。

 1960年代に行われた動物実験で発ガン性があると発表され、一度は使用禁止になりました。

 しかし、サルに対して試験が行われ、発ガン性が見られなかったため、使用禁止は解かれることに。

 現在は、アメリカや中国では大量に使用されていますが、日本では発ガン性の懸念より、使用量が制限されています。

 ナトリウム塩にして水に溶けるようにした「サッカリンナトリウム」は、菓子類、アイスクリーム、清涼飲料水、乳飲料などに使用されています。

食品表示:

甘味料(サッカリン)

甘味料(サッカリンナトリウム)

 発ガン性の危険性があるサッカリンを製造したモンサント社は「遺伝子組み換え作物」の種も製造。

 アスパルテーム

 砂糖の100~200倍の甘さです。

 食品表示では「L-フェニルアラニン化合物」と併記されます。

 この理由は、フェニルアラニン化合物を代謝することができない病気「フェニルケトン尿症」を悪化させるからです。

 使用されている商品は、低カロリー甘味料のパルスイートをはじめ、洋菓子、ヨーグルト、お菓子、飲料水などです。

 安全性については、がん、脳腫瘍や白血病との関連も強く疑われています。

 なぜ、アスパルテームは、これらの危険性が疑われたのに食品添加物の申請が許可されたのか?

アスパルテームについて詳しく知りたい方は下の記事もおすすめです。

 ⇒危険性や害は?アスパルテームが含まれている食品、妊娠中の安全性

 2015年の日本アレルギー学会で、人工甘味料はアレルギー性気道炎症を増悪させるとの発表がされました。

 この発表内容は、喘息があるマウスに人工甘味料「アスパルテーム」を投与すると、アレルギー性気道炎症が発症したというものです。

人工甘味料は用量依存性にマウスアレルギー性気道炎症を増悪させる

【結果】
 ダニアレルゲン感作及び気道内投与により、好酸球を主体とする炎症細胞浸潤と杯細胞過形成を特徴とするアレルギー性気道炎症が発症した。

【結論】
アスパルテーム投与によりアレルギー性気道炎症の増悪が認められた
出典:日本アレルギー学会
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