警告!「F.A.S.T.」と「三つのヘン」 [医療小文]
脳卒中の警告サイン「F.A.S.T.」で確認、直ちに受診を-米国脳卒中協会
冬場に脳卒中が多発するのはよく知られているが、夏も油断できないと、脳卒中の権威、山口武典・日本脳卒中協会理事長(国立循環器病センター名誉院長)が警告している。
脳内の血管が破れる脳出血と血管が詰まる脳梗塞は、生活習慣病をバックにして起こる兄弟のような関係の病気だが、クモ膜下出血は、生活習慣とは直接の関係はなく、もともと脳の中にあったコブ(脳動脈瘤)が破裂する病気だ。
昔の日本人の脳卒中といえば、たいてい脳出血(当時は脳溢血といった)だったが、今は脳梗塞が7割を占める。
夏場の発症が多いのも脳梗塞のほうだ。
脳卒中には、脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血と、三つの病型がある。
高齢者は、温度に対する適応能力が下がるが、循環器系にその影響が現れやすい。
夏の暑さで発汗し、脱水状態が起き、血液が濃縮されると、血管が詰まりやすくなり、脳梗塞を招きやすい。
また、血液の量も減るため、毛細血管を含む微小血管の領域では局所的な虚血(血液不足)が起こりやすくなる。
たとえば、炎天下でのゴルフの後にクラブハウスで倒れた例、夏風邪で寝込んでしまったが、単身赴任でほとんど食事がとれず、脱水を生じ発症した例など、夏の脳梗塞は脱水が引き金になったケースが多い。
夏はなるべく多く水分をとったほうがよい。
人は寝ているときにも汗をかくが、夏の夜は汗の量が増えるので、翌朝、脳梗塞を起こしやすい。
夜中にトイレに起きたくないからと、夜は水を飲むのをひかえる人が多いようだが、夏場は「夜寝る前にコップ一杯、朝起きたら一杯飲みなさい」と、山口先生。
脳卒中の予防は、まず正しい生活習慣だ。
食べすぎ、(酒の)飲みすぎ、(たばこの)吸いすぎ、働きすぎ(のストレス)、怠けすぎ(の運動不足)の「五すぎ」が重なると、高血圧、糖尿病、脂質異常症(血液中の悪玉コレステロールのLDLと、中性脂肪が異常に多く、善玉のHDLが少ない状態)などを招いて脳卒中になりやすい。
脳梗塞の発症を防ぐには、前ぶれのTIA(一過性脳虚血発作)を見逃さず、きちんと対処すること。
TIAとは、脳の血液循環が一時的に悪くなったために起こる、軽い脳梗塞のような症状だ。
いちばん多い症状は、顔面を含む体の片側の運動障害だ。
手足に力が入らない、片側の顔面や手足のしびれ感、ろれつが回りにくくなる...といった症状が出るが、たいていは十数分以内、長くても24時間以内に自然に回復する。
そこで安心してはいけない。
TIAは脳梗塞が起りかけている警戒警報なのだ。すぐ循環器内科を受診しよう。
万一、脳梗塞で倒れたら、一刻も早く脳卒中センター機能をもつ病院へ─。
脳梗塞の治癒率を飛躍的に高めた薬、血栓溶解薬t-PAは、発症後4.5時間以内に投与しなければ効果が期待できない。
Brain is time(脳は時なり)─アメリカの脳卒中キャンペーンの標語だ。
米国脳卒中協会(ASA)は毎年5月を「脳卒中月間(American Stroke Month)」と定めており、脳卒中予防のための合い言葉「F.A.S.T」を掲げ、一般の人々を対象に脳卒中の理解を深めるための啓発活動を行っている。
ASAの理事で米コロンビア大学神経疫学教授のMitchell Elkind氏は、
「特に、米国のような多文化社会においては、脳卒中を減らすことは公衆衛生上、重要な課題である。若年者を中心に、脳卒中の知識を広める啓発活動を積極的に行っていく必要がある」と述べている。
ASAは、覚えておきたい脳卒中の基礎知識を協会のホームページで紹介している。
脳卒中は脳の血管が詰まる脳梗塞と血管が破れる脳出血に大きく分けられる。脳卒中の4分の3以上を脳梗塞が占めており、この中には、脳梗塞の前触れとされる一過性脳虚血発作(TIA)も含まれる。
TIAは脳梗塞の症状が突然、一過性に現れて24時間以内に改善するもので、「ミニ脳卒中」とも呼ばれる。
また、脳梗塞で脳の血管が詰まると、脳の神経細胞に十分な血液が流れなくなることで多くの障害が引き起こされる。
脳梗塞を発症し適切な治療を施さないと1時間に1億2,000万個の神経細胞が失われるほか、正常な脳と比べて脳の老化速度が速まるとする研究報告もあるが、治療をより早期に受けることで回復するチャンスは高まるとされている。
さらに、脳卒中の6割以上は発症時に居合わせた人(バイスタンダー)が発見したとされるが、脳卒中が疑われる危険な症状について十分に知っている米国人は半数に満たないのが実情だ。
ASAは脳卒中の警告サインを簡単に覚える合い言葉に「F.A.S.T」を掲げ、脳卒中が疑われたら、
「Face:顔の麻痺(顔がゆがんだりする)」
「Arm:腕の麻痺(腕に力が入らず、だらりと下がったままになる)」
「Speech:言葉が出ない、ろれつが回らない」
の3つの症状の有無と「Time:発症時刻」を確認するよう呼び掛けている。
ASAはプレスリリースで、「誰もが脳卒中になる可能性があり、その準備をしておく必要がある。
F.A.S.Tを知っていれば、脳卒中になっても命を守れるかもしれない」と記している。
なお、顔や手足のしびれ、片方の目が見えなくなる、経験したことのない激しい頭痛、ふらふらして歩けなくなるといった症状もみられるという。
では、脳卒中が疑われたら、どう対処すべきか?
ASAは「脳卒中が疑われたら、直ちに救急車を呼んで専門病院を受診する」ことが先決で、たとえ症状が軽くても、患者本人や家族が車を運転して病院に行くことは危険な上、時間のロスにつながるので止めるように強く勧めている。
また、脳卒中の生存者は4人に1人で再発がみられるが、その際に患者が受ける身体的ダメージは初発時をはるかに上回るため、治療に成功しても油断せず、再発予防に努める必要がある。
脳卒中の最も重要なリスク因子は高血圧であり(米国成人の半数近くが高血圧患者と推定されている)、その他にも肥満や糖尿病、脂質異常症、喫煙、脳卒中の家族歴などが挙げられる。
米国では毎年13万3,000人が脳卒中で亡くなっている。近年は30歳代から40歳代の若年者で脳卒中の発症率には上昇傾向がみられている。
どうして早く病院へ行った方がいいの?
脳卒中を疑ったら、躊躇せずに直ちに119番に電話して救急車を呼んで下さい。
”脳卒中を起こしたら動かしてはいけない”というのは大きな間違いです。
一刻も早く専門病院での治療が必要です。
できる限り早く、正確な診断をして治療を開始するほど、良い治療結果が期待できます。
意識を失って風呂場やトイレで倒れた場合には、注意深く居間に運んで、呼吸がしやすい楽な姿勢で横にして、救急車の到着を待ってください。
また、嘔吐があった場合には、吐物で窒息することのないように気をつけてください。
特に脳梗塞の場合には、発症してから数時間以内に治療を開始すれば、症状を早期に回復させ、後遺症を最小限にくいとめることができる可能性があります。
また、上記のような症状が出現した後、数分間で全て回復してしまったとしても安心はできません。
これは” 一過性脳虚血発作”と言って大きな脳梗塞の発作が起こる前触れであり、重要な危険信号です。直ちに専門医を受診してください。
ACT FAST
米国脳卒中協会では、脳卒中を疑う人に対して、3つのテストをすることを推奨しています。
そのうち1つでもあれば脳卒中を疑います。「ACT FAST」というキャンペーンです。
Face:フェイス・顔
• 笑って下さい。
• 片方の顔が下がっていませんか?
• 口角が下がっていませんか?
Arms:アーム・腕
• 両手を挙げてください。
• 片方の手が下がってきませんか?
Speech:スピーチ・言葉
• 簡単な文章を言って下さい。
• ろれつがはっきりと回っていますか?
• 文章を正しく繰り返せますか?
• 言葉が理解できていますか?
Time:タイム・時間
• これらの症状がどれかひとつでもあれば、時間が勝負です。
• 119番に電話するか一刻も早く病院に行って下さい。
• 脳梗塞は1分1秒でも早く治療を開始することが大切です。
• 脳細胞はどんどん死滅していきます。
脳梗塞の症状は3つの「ヘン」:日本脳卒中協会
日本脳卒中協会では、
1. 口がヘン!
2. 言葉がヘン!
3. 手がヘン!
と三つの「ヘン」な症状が「突然に」現れたら、脳梗塞のサインなので すぐに救急車を呼んで(119番をして)、病院へ行くことを推奨しています。
もう一度、言います。
万一、脳梗塞で倒れたら、一刻も早く脳卒中センター機能をもつ病院へ─。
脳梗塞の治癒率を飛躍的に高めた薬、血栓溶解薬t-PAは、発症後4.5時間以内に投与しなければ効果が期待できない。
冬場に脳卒中が多発するのはよく知られているが、夏も油断できないと、脳卒中の権威、山口武典・日本脳卒中協会理事長(国立循環器病センター名誉院長)が警告している。
脳内の血管が破れる脳出血と血管が詰まる脳梗塞は、生活習慣病をバックにして起こる兄弟のような関係の病気だが、クモ膜下出血は、生活習慣とは直接の関係はなく、もともと脳の中にあったコブ(脳動脈瘤)が破裂する病気だ。
昔の日本人の脳卒中といえば、たいてい脳出血(当時は脳溢血といった)だったが、今は脳梗塞が7割を占める。
夏場の発症が多いのも脳梗塞のほうだ。
脳卒中には、脳出血、脳梗塞、クモ膜下出血と、三つの病型がある。
高齢者は、温度に対する適応能力が下がるが、循環器系にその影響が現れやすい。
夏の暑さで発汗し、脱水状態が起き、血液が濃縮されると、血管が詰まりやすくなり、脳梗塞を招きやすい。
また、血液の量も減るため、毛細血管を含む微小血管の領域では局所的な虚血(血液不足)が起こりやすくなる。
たとえば、炎天下でのゴルフの後にクラブハウスで倒れた例、夏風邪で寝込んでしまったが、単身赴任でほとんど食事がとれず、脱水を生じ発症した例など、夏の脳梗塞は脱水が引き金になったケースが多い。
夏はなるべく多く水分をとったほうがよい。
人は寝ているときにも汗をかくが、夏の夜は汗の量が増えるので、翌朝、脳梗塞を起こしやすい。
夜中にトイレに起きたくないからと、夜は水を飲むのをひかえる人が多いようだが、夏場は「夜寝る前にコップ一杯、朝起きたら一杯飲みなさい」と、山口先生。
脳卒中の予防は、まず正しい生活習慣だ。
食べすぎ、(酒の)飲みすぎ、(たばこの)吸いすぎ、働きすぎ(のストレス)、怠けすぎ(の運動不足)の「五すぎ」が重なると、高血圧、糖尿病、脂質異常症(血液中の悪玉コレステロールのLDLと、中性脂肪が異常に多く、善玉のHDLが少ない状態)などを招いて脳卒中になりやすい。
脳梗塞の発症を防ぐには、前ぶれのTIA(一過性脳虚血発作)を見逃さず、きちんと対処すること。
TIAとは、脳の血液循環が一時的に悪くなったために起こる、軽い脳梗塞のような症状だ。
いちばん多い症状は、顔面を含む体の片側の運動障害だ。
手足に力が入らない、片側の顔面や手足のしびれ感、ろれつが回りにくくなる...といった症状が出るが、たいていは十数分以内、長くても24時間以内に自然に回復する。
そこで安心してはいけない。
TIAは脳梗塞が起りかけている警戒警報なのだ。すぐ循環器内科を受診しよう。
万一、脳梗塞で倒れたら、一刻も早く脳卒中センター機能をもつ病院へ─。
脳梗塞の治癒率を飛躍的に高めた薬、血栓溶解薬t-PAは、発症後4.5時間以内に投与しなければ効果が期待できない。
Brain is time(脳は時なり)─アメリカの脳卒中キャンペーンの標語だ。
米国脳卒中協会(ASA)は毎年5月を「脳卒中月間(American Stroke Month)」と定めており、脳卒中予防のための合い言葉「F.A.S.T」を掲げ、一般の人々を対象に脳卒中の理解を深めるための啓発活動を行っている。
ASAの理事で米コロンビア大学神経疫学教授のMitchell Elkind氏は、
「特に、米国のような多文化社会においては、脳卒中を減らすことは公衆衛生上、重要な課題である。若年者を中心に、脳卒中の知識を広める啓発活動を積極的に行っていく必要がある」と述べている。
ASAは、覚えておきたい脳卒中の基礎知識を協会のホームページで紹介している。
脳卒中は脳の血管が詰まる脳梗塞と血管が破れる脳出血に大きく分けられる。脳卒中の4分の3以上を脳梗塞が占めており、この中には、脳梗塞の前触れとされる一過性脳虚血発作(TIA)も含まれる。
TIAは脳梗塞の症状が突然、一過性に現れて24時間以内に改善するもので、「ミニ脳卒中」とも呼ばれる。
また、脳梗塞で脳の血管が詰まると、脳の神経細胞に十分な血液が流れなくなることで多くの障害が引き起こされる。
脳梗塞を発症し適切な治療を施さないと1時間に1億2,000万個の神経細胞が失われるほか、正常な脳と比べて脳の老化速度が速まるとする研究報告もあるが、治療をより早期に受けることで回復するチャンスは高まるとされている。
さらに、脳卒中の6割以上は発症時に居合わせた人(バイスタンダー)が発見したとされるが、脳卒中が疑われる危険な症状について十分に知っている米国人は半数に満たないのが実情だ。
ASAは脳卒中の警告サインを簡単に覚える合い言葉に「F.A.S.T」を掲げ、脳卒中が疑われたら、
「Face:顔の麻痺(顔がゆがんだりする)」
「Arm:腕の麻痺(腕に力が入らず、だらりと下がったままになる)」
「Speech:言葉が出ない、ろれつが回らない」
の3つの症状の有無と「Time:発症時刻」を確認するよう呼び掛けている。
ASAはプレスリリースで、「誰もが脳卒中になる可能性があり、その準備をしておく必要がある。
F.A.S.Tを知っていれば、脳卒中になっても命を守れるかもしれない」と記している。
なお、顔や手足のしびれ、片方の目が見えなくなる、経験したことのない激しい頭痛、ふらふらして歩けなくなるといった症状もみられるという。
では、脳卒中が疑われたら、どう対処すべきか?
ASAは「脳卒中が疑われたら、直ちに救急車を呼んで専門病院を受診する」ことが先決で、たとえ症状が軽くても、患者本人や家族が車を運転して病院に行くことは危険な上、時間のロスにつながるので止めるように強く勧めている。
また、脳卒中の生存者は4人に1人で再発がみられるが、その際に患者が受ける身体的ダメージは初発時をはるかに上回るため、治療に成功しても油断せず、再発予防に努める必要がある。
脳卒中の最も重要なリスク因子は高血圧であり(米国成人の半数近くが高血圧患者と推定されている)、その他にも肥満や糖尿病、脂質異常症、喫煙、脳卒中の家族歴などが挙げられる。
米国では毎年13万3,000人が脳卒中で亡くなっている。近年は30歳代から40歳代の若年者で脳卒中の発症率には上昇傾向がみられている。
どうして早く病院へ行った方がいいの?
脳卒中を疑ったら、躊躇せずに直ちに119番に電話して救急車を呼んで下さい。
”脳卒中を起こしたら動かしてはいけない”というのは大きな間違いです。
一刻も早く専門病院での治療が必要です。
できる限り早く、正確な診断をして治療を開始するほど、良い治療結果が期待できます。
意識を失って風呂場やトイレで倒れた場合には、注意深く居間に運んで、呼吸がしやすい楽な姿勢で横にして、救急車の到着を待ってください。
また、嘔吐があった場合には、吐物で窒息することのないように気をつけてください。
特に脳梗塞の場合には、発症してから数時間以内に治療を開始すれば、症状を早期に回復させ、後遺症を最小限にくいとめることができる可能性があります。
また、上記のような症状が出現した後、数分間で全て回復してしまったとしても安心はできません。
これは” 一過性脳虚血発作”と言って大きな脳梗塞の発作が起こる前触れであり、重要な危険信号です。直ちに専門医を受診してください。
ACT FAST
米国脳卒中協会では、脳卒中を疑う人に対して、3つのテストをすることを推奨しています。
そのうち1つでもあれば脳卒中を疑います。「ACT FAST」というキャンペーンです。
Face:フェイス・顔
• 笑って下さい。
• 片方の顔が下がっていませんか?
• 口角が下がっていませんか?
Arms:アーム・腕
• 両手を挙げてください。
• 片方の手が下がってきませんか?
Speech:スピーチ・言葉
• 簡単な文章を言って下さい。
• ろれつがはっきりと回っていますか?
• 文章を正しく繰り返せますか?
• 言葉が理解できていますか?
Time:タイム・時間
• これらの症状がどれかひとつでもあれば、時間が勝負です。
• 119番に電話するか一刻も早く病院に行って下さい。
• 脳梗塞は1分1秒でも早く治療を開始することが大切です。
• 脳細胞はどんどん死滅していきます。
脳梗塞の症状は3つの「ヘン」:日本脳卒中協会
日本脳卒中協会では、
1. 口がヘン!
2. 言葉がヘン!
3. 手がヘン!
と三つの「ヘン」な症状が「突然に」現れたら、脳梗塞のサインなので すぐに救急車を呼んで(119番をして)、病院へ行くことを推奨しています。
もう一度、言います。
万一、脳梗塞で倒れたら、一刻も早く脳卒中センター機能をもつ病院へ─。
脳梗塞の治癒率を飛躍的に高めた薬、血栓溶解薬t-PAは、発症後4.5時間以内に投与しなければ効果が期待できない。
「定性分析」「定量分析」 [医療小文]
がん恐怖の非科学性
紀州のドンファンなるご仁の不審死をめぐつて、病理検査の専門家がテレビで「定性分析」「定量分析」について解説していた。
聞いていて、ふと思いだした。
友人にいわゆるキャンサー・フォビア(がん恐怖症)みたいな男がいて、焼き鳥、焼き肉、焼き魚などはいっさい口にしない。
動物性たんぱく質に多く含まれるトリプトファン(必須アミノ酸の一種)が焼けると、発がん物質に変わるから─というのだ。
目玉焼きの焦げた部分も絶対、食べない。
パンの耳もむしり取って自分は食わないのだが、近所の小公園に集まるハトに投げ与えている。
ハトはがんになってもいいと思っているのか?
ま、なにを食おうが食うまいが、他人に強制さえしなければ、当人の勝手である。
しかし、それを一般論にされては困る。
焼け焦げを食べても、がんにはならないことがわかっているからだ。
こう言うと、国立がんセンターの「がんを防ぐための12ヶ条」には「焦げた部分はさける」とあるではないか─と反問する人がいるかもしれない。
あなたも古いのです。
2011年発表の「がんを防ぐための新12か条」ではその条項は削除されています。
肉や魚にたくさん含まれているアミノ酸が焼けると、細胞の遺伝子に突然変異を起こす物質(変異原性物質)ができる。
なかでもトリプトファンからできる2種類の物質〈トリプP1、トリプP2〉は、特に強い変異原性=発がん性をもつことが動物実験によって確かめられた。
そのため肉や魚の焼け焦げを食べるとがんになる─ということになった。
だが、その発がん実験は、合成された純粋なトリプP1やP2を、マウスに大量に与えて行ったものである。
実際の肉や魚の焼け焦げのなかに含まれるトリプP1やP2は、1㌘当たり1ナノ㌘というきわめて微量なものでしかない。(1ナノ㌘は10億分の1㌘)。
もし実験で与えたトリプP1やP2と同じ量を、本物の焼け焦げの状態で食べさせるとしたら、体重30㌘のマウスが、真っ黒焦げに焼いたイワシを毎日70㌔㌘、1年以上も食べ続けなければならない計算になるそうだ。
仮にマウスと人間の、発がん物質に対する感受性が同質のものだとして、これを人間に当てはめてみると、体重60㌔の人が毎日140㌧もの真っ黒に焼いたイワシを食べ続けることになる。
つまり、現実の問題として重要なのは、発がん性があるかないかではなく、どれだけの量あるか─なのである。
物質の性質をみることを定性分析、量をみることを定量分析というが、定性分析だけにこだわると、人は往々にして科学的迷信のとりこになる。
焼け焦げ恐怖はその最たる一つといえるだろう。
むろんパンの焼け焦げも問題外だ。
それはあのハトたちのためにもよろこばしいことである。
紀州のドンファンなるご仁の不審死をめぐつて、病理検査の専門家がテレビで「定性分析」「定量分析」について解説していた。
聞いていて、ふと思いだした。
友人にいわゆるキャンサー・フォビア(がん恐怖症)みたいな男がいて、焼き鳥、焼き肉、焼き魚などはいっさい口にしない。
動物性たんぱく質に多く含まれるトリプトファン(必須アミノ酸の一種)が焼けると、発がん物質に変わるから─というのだ。
目玉焼きの焦げた部分も絶対、食べない。
パンの耳もむしり取って自分は食わないのだが、近所の小公園に集まるハトに投げ与えている。
ハトはがんになってもいいと思っているのか?
ま、なにを食おうが食うまいが、他人に強制さえしなければ、当人の勝手である。
しかし、それを一般論にされては困る。
焼け焦げを食べても、がんにはならないことがわかっているからだ。
こう言うと、国立がんセンターの「がんを防ぐための12ヶ条」には「焦げた部分はさける」とあるではないか─と反問する人がいるかもしれない。
あなたも古いのです。
2011年発表の「がんを防ぐための新12か条」ではその条項は削除されています。
肉や魚にたくさん含まれているアミノ酸が焼けると、細胞の遺伝子に突然変異を起こす物質(変異原性物質)ができる。
なかでもトリプトファンからできる2種類の物質〈トリプP1、トリプP2〉は、特に強い変異原性=発がん性をもつことが動物実験によって確かめられた。
そのため肉や魚の焼け焦げを食べるとがんになる─ということになった。
だが、その発がん実験は、合成された純粋なトリプP1やP2を、マウスに大量に与えて行ったものである。
実際の肉や魚の焼け焦げのなかに含まれるトリプP1やP2は、1㌘当たり1ナノ㌘というきわめて微量なものでしかない。(1ナノ㌘は10億分の1㌘)。
もし実験で与えたトリプP1やP2と同じ量を、本物の焼け焦げの状態で食べさせるとしたら、体重30㌘のマウスが、真っ黒焦げに焼いたイワシを毎日70㌔㌘、1年以上も食べ続けなければならない計算になるそうだ。
仮にマウスと人間の、発がん物質に対する感受性が同質のものだとして、これを人間に当てはめてみると、体重60㌔の人が毎日140㌧もの真っ黒に焼いたイワシを食べ続けることになる。
つまり、現実の問題として重要なのは、発がん性があるかないかではなく、どれだけの量あるか─なのである。
物質の性質をみることを定性分析、量をみることを定量分析というが、定性分析だけにこだわると、人は往々にして科学的迷信のとりこになる。
焼け焦げ恐怖はその最たる一つといえるだろう。
むろんパンの焼け焦げも問題外だ。
それはあのハトたちのためにもよろこばしいことである。
老化を促進する危険因子 [医療小文]
老化や病気の原因「糖化ストレス」を防ぐには
米井嘉一 / 同志社大学教授
みなさんはホットケーキを作ったことがあると思います。
ホットケーキの生地は、初めは小麦粉などを水に溶いたものですね。
これにフライパンで熱を加えると、こんがりときつね色に変化して、こうばしい良い香りがします。
これは、でんぷん(炭水化物)とたんぱく質が「糖化反応」をして終末糖化産物(AGEs)ができた結果です。
AGEsは元々、食品から見つかったものなのです。
今では200種類以上が知られています。
食品中のAGEsは心配無用
「AGEsなら食べたらダメなんじゃないか」と思う人もいるでしょう。
実際に「一切AGEsを食べるな!」という過激な意見を言う人もいます。
でも、食べ物に含まれるAGEsを目の敵にする必要はありません。
食品中のAGEsの中には、味や香りをよくしたり、血圧の上昇を防いだり、酸化を防いだり、防腐剤として働いたりする成分があります。
さらに、糖化ストレスを抑制する働きを持つものもあるのです。
糖化ストレスとは「血中の糖や脂肪、有害物質であるアルデヒドの値が高い状態」です。
避ける必要があるのは、焦げた肉や古い油で揚げた物に微量に含まれる「アクリルアミド」と呼ばれる悪いAGEsです。
食べ物に含まれるAGEsに対しては過剰に反応しなくてもいいのですが、体内で生成されるAGEsは病気や老化の原因になります。
ですから、必要な人はAGEsを作る糖化ストレス対策を取らなくてはいけません。
糖化ストレスは簡単に評価できる
糖化ストレス対策が必要な人は、どのような人でしょうか。あまり知られていませんが、糖化ストレスは簡単に評価できるのです。
最も正確に評価するためには、血液や尿の中のアルデヒド、AGEsを測る方法があります。
でも、検査にはお金がかかりますし、血液検査は採血の不快感もあります。
そこでお勧めしたいのが、皮膚にたまったAGEsを測定する方法です。
AGEsの中には、特定の光を当てると蛍光を放つ性質を持つ物があります。
この性質を利用した機器が販売されています。
測定器に指を入れるか腕を乗せるだけで、痛くもかゆくもなく、血圧よりも簡単に測定できます。
現在は価格が血圧計に比べて高いため、一家に一台というわけにはいきません。
調剤薬局やドラッグストア、フィットネスクラブ、エステサロンには機器を置いている所があるので、測ってもらうといいでしょう。
対策は3段階
糖化ストレス対策は3段階に分けられます。
第1段階の対策は「原因物質(糖・脂質)の吸収を遅らせる」ことです。
よくかんで、ゆっくり食べることが大切です。
そして、糖化ストレスの原因になる食後の血糖値上昇を抑えるためには、野菜などの食物繊維を最初に食べたり、食前に食酢、黒酢、ヨーグルトを取ったりするのも効果があります。
白飯やパンを単独で食べるのは避け、例えば牛丼、カレーライス、マーボー豆腐丼にすると食後の血糖値上昇を抑えられます。
第2段階の対策は「AGEsの生成を抑制する」ことです。
緑茶、ハーブ茶(カモミール、ドクダミ、ルイボス)、野菜や果実は抗糖化作用のある成分を多く含むので、積極的に飲んだり食べたりしましょう。
第3段階の対策は「AGEsの分解・排せつを促進する」ことです。
ただし、これについては、まだ確かな方法が見つかっておらず、これからの研究課題です。
AGEsを減らすための9項目
私は3カ月おきに前述の機器で皮膚のAGEsを測定しています。
そして、値が悪いとき(AGEsの蓄積量が増えているとき)は以下の九つのことを実践しています。
まずは、原因物質の取りすぎに注意することです。
(1)昼食をコンビニのパンで済ませることを控える。(私はメロンパンが好きで、油断すると、ついつい1カ月に20個ぐらい食べてしまいます。我慢して5個程度に減らすようにしています)
(2)飲み会後のラーメンを控える。(1年間に2回までと決めています。1年の前半に2回食べてしまった時は、後半に苦しみます……)
(3)お菓子を控える。(周りの人から「米井先生は、おせんべいをよく食べていますよね」と言われます。自分では気づかずに、ついつい食べ過ぎてしまうので、注意しなくてはいけませんね)
そして、やはり、体を動かすことは大切です。
(4)近距離は歩く。(歩ける距離ならばタクシーは使わないようにしています)
(5)エスカレーターやエレベーターを使わない。(駅やビルでは、できるだけ階段で上り下りしています)
(6)できるだけ運動をする。(私は、シャツがすれて肌がかゆくなってしまうのでジョギングは苦手です。スキー、ゴルフ、水泳、ハイキングなどを楽しむようにしています)
(7)毎日15分は歩く時間を作る。(これをサボると、確実にAGEsの値が上がってしまいます)
また、夜更かしをするのはよくありません。さらに、抗糖化のサプリメントもあります。
(8)睡眠時間を十分に確保する。(睡眠時間が短いと食後の高血糖が起きやすくなることが分かっています)
(9)抗糖化サプリメントを使う。
生活習慣の改善を積み重ねよう
生活習慣の改善はAGEsの蓄積量を低めに抑えることができます。
糖化ストレス対策は、一つ一つの積み重ねで大きな効果が得られます。
まずはAGEsの蓄積量を測ってみましょう。
そして、良い値の人はそのままの生活を続けてください。値が悪い人は、私が実践している九つの項目を参考に、生活を見直してみましょう。
「毎日新聞 医療プレミア」より。
米井嘉一 / 同志社大学教授
みなさんはホットケーキを作ったことがあると思います。
ホットケーキの生地は、初めは小麦粉などを水に溶いたものですね。
これにフライパンで熱を加えると、こんがりときつね色に変化して、こうばしい良い香りがします。
これは、でんぷん(炭水化物)とたんぱく質が「糖化反応」をして終末糖化産物(AGEs)ができた結果です。
AGEsは元々、食品から見つかったものなのです。
今では200種類以上が知られています。
食品中のAGEsは心配無用
「AGEsなら食べたらダメなんじゃないか」と思う人もいるでしょう。
実際に「一切AGEsを食べるな!」という過激な意見を言う人もいます。
でも、食べ物に含まれるAGEsを目の敵にする必要はありません。
食品中のAGEsの中には、味や香りをよくしたり、血圧の上昇を防いだり、酸化を防いだり、防腐剤として働いたりする成分があります。
さらに、糖化ストレスを抑制する働きを持つものもあるのです。
糖化ストレスとは「血中の糖や脂肪、有害物質であるアルデヒドの値が高い状態」です。
避ける必要があるのは、焦げた肉や古い油で揚げた物に微量に含まれる「アクリルアミド」と呼ばれる悪いAGEsです。
食べ物に含まれるAGEsに対しては過剰に反応しなくてもいいのですが、体内で生成されるAGEsは病気や老化の原因になります。
ですから、必要な人はAGEsを作る糖化ストレス対策を取らなくてはいけません。
糖化ストレスは簡単に評価できる
糖化ストレス対策が必要な人は、どのような人でしょうか。あまり知られていませんが、糖化ストレスは簡単に評価できるのです。
最も正確に評価するためには、血液や尿の中のアルデヒド、AGEsを測る方法があります。
でも、検査にはお金がかかりますし、血液検査は採血の不快感もあります。
そこでお勧めしたいのが、皮膚にたまったAGEsを測定する方法です。
AGEsの中には、特定の光を当てると蛍光を放つ性質を持つ物があります。
この性質を利用した機器が販売されています。
測定器に指を入れるか腕を乗せるだけで、痛くもかゆくもなく、血圧よりも簡単に測定できます。
現在は価格が血圧計に比べて高いため、一家に一台というわけにはいきません。
調剤薬局やドラッグストア、フィットネスクラブ、エステサロンには機器を置いている所があるので、測ってもらうといいでしょう。
対策は3段階
糖化ストレス対策は3段階に分けられます。
第1段階の対策は「原因物質(糖・脂質)の吸収を遅らせる」ことです。
よくかんで、ゆっくり食べることが大切です。
そして、糖化ストレスの原因になる食後の血糖値上昇を抑えるためには、野菜などの食物繊維を最初に食べたり、食前に食酢、黒酢、ヨーグルトを取ったりするのも効果があります。
白飯やパンを単独で食べるのは避け、例えば牛丼、カレーライス、マーボー豆腐丼にすると食後の血糖値上昇を抑えられます。
第2段階の対策は「AGEsの生成を抑制する」ことです。
緑茶、ハーブ茶(カモミール、ドクダミ、ルイボス)、野菜や果実は抗糖化作用のある成分を多く含むので、積極的に飲んだり食べたりしましょう。
第3段階の対策は「AGEsの分解・排せつを促進する」ことです。
ただし、これについては、まだ確かな方法が見つかっておらず、これからの研究課題です。
AGEsを減らすための9項目
私は3カ月おきに前述の機器で皮膚のAGEsを測定しています。
そして、値が悪いとき(AGEsの蓄積量が増えているとき)は以下の九つのことを実践しています。
まずは、原因物質の取りすぎに注意することです。
(1)昼食をコンビニのパンで済ませることを控える。(私はメロンパンが好きで、油断すると、ついつい1カ月に20個ぐらい食べてしまいます。我慢して5個程度に減らすようにしています)
(2)飲み会後のラーメンを控える。(1年間に2回までと決めています。1年の前半に2回食べてしまった時は、後半に苦しみます……)
(3)お菓子を控える。(周りの人から「米井先生は、おせんべいをよく食べていますよね」と言われます。自分では気づかずに、ついつい食べ過ぎてしまうので、注意しなくてはいけませんね)
そして、やはり、体を動かすことは大切です。
(4)近距離は歩く。(歩ける距離ならばタクシーは使わないようにしています)
(5)エスカレーターやエレベーターを使わない。(駅やビルでは、できるだけ階段で上り下りしています)
(6)できるだけ運動をする。(私は、シャツがすれて肌がかゆくなってしまうのでジョギングは苦手です。スキー、ゴルフ、水泳、ハイキングなどを楽しむようにしています)
(7)毎日15分は歩く時間を作る。(これをサボると、確実にAGEsの値が上がってしまいます)
また、夜更かしをするのはよくありません。さらに、抗糖化のサプリメントもあります。
(8)睡眠時間を十分に確保する。(睡眠時間が短いと食後の高血糖が起きやすくなることが分かっています)
(9)抗糖化サプリメントを使う。
生活習慣の改善を積み重ねよう
生活習慣の改善はAGEsの蓄積量を低めに抑えることができます。
糖化ストレス対策は、一つ一つの積み重ねで大きな効果が得られます。
まずはAGEsの蓄積量を測ってみましょう。
そして、良い値の人はそのままの生活を続けてください。値が悪い人は、私が実践している九つの項目を参考に、生活を見直してみましょう。
「毎日新聞 医療プレミア」より。
睡眠時無呼吸症候群の諸問題 [医療小文]
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は覚醒中もつづく? 体位との関係は?
信州大学内科学第一教室の町田良亮氏らは、強制オシレーション法(FOT)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)患者の覚醒中の呼吸抵抗を体位別に検討。
起きているときでも、体位を変えることでOSASの重症度に応じた呼吸抵抗の増大が生じる可能性があることを見いだし、第58回日本呼吸器学会で検討結果の概要を発表した。
覚醒中の体位別呼吸抵抗とOSAS重症度との関連を検討
FOTは非侵襲的に呼吸抵抗を測定できる検査法で、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患の患者に対する施行例が多数報告されている。
また、睡眠呼吸障害を呈する患者において、ネーザルマスクを介してFOTを装着し、睡眠中の気道閉塞を評価した報告がある。
町田氏らは、覚醒中のOSAS患者に対して異なる体位でFOT検査を行うことで、中枢気道の呼吸抵抗を評価できるかどうかを検討した。
対象は、終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)検査でOSASと診断され、呼吸機能検査で換気障害が認められなかった35例。
覚醒している状態で坐位、仰臥位、左側臥位を取らせ、それぞれの体位でFOT検査を実施。
呼気時と吸気時の5Hz、20Hzでの呼吸抵抗(R5、R20)、両者の差(R5−R20)、5Hzでの呼吸リアクタンス(X5)の値を求め、PSG検査で得られた無呼吸低呼吸指数(AHI)との関連を調べた。
対象35例におけるOSASの重症度別の内訳は、軽症(AHI 5〜15)8例、中等症(同15〜30)13例、重症(同30以上)14例。男性27例、女性8例と男性が多く、平均年齢は61歳。
平均BMIは26.82で、同25以上の肥満者が約7割(25例)を占めた。
平均AHIは29.46だった。
仰臥位、側臥位におけるR5、R20とAHIが相関
FOT検査の各測定項目(R5、R20、R5−R20、X5)とAHIとの関連を分析した結果は次の通り。
坐位においては、いずれの測定項目についても、呼気時と吸気時の平均値とAHIとの間には有意な相関は見られなかった。
一方で、仰臥位で測定した平均R5、吸気時R5、吸気時R20は、それぞれAHIと有意な相関を示した。
左側臥位では、吸気時R5と吸気時R20においてAHIとの有意な相関が確認された。
また、睡眠中に仰臥位を取っている時間帯に限定して算出したAHI(仰臥位中AHI)と、FOT検査の各測定値との関連についても検討した。
その結果、仰臥位中AHIは覚醒中の仰臥位時平均R5、平均R20、および坐位時平均R5、平均R20と有意な相関を示した。しかし、仰臥位中AHIと坐位時平均R5−R20との間には、有意な相関は認められなかった。
OSASスクリーニングへの応用には健康人との比較試験が必要
以上から、町田氏は「坐位時の各呼吸抵抗指標とAHIとの間には相関が見られなかったが、仰臥位または側臥位を取った際の呼吸抵抗指標の一部はAHIと有意な相関を示した。
このことから、覚醒中でも体位を変換するとOSASの重症度に応じて呼吸抵抗が増大することが示唆された。
また、吸気時の呼吸抵抗がAHIと特に強い相関を示したことは、吸気相における上気道閉塞を原因とするOSASの病態を反映しているとも考えられた」と結論した。
なお、FOT検査において、R5は気道系全体、R20は上気道から中枢気道、R5−R20は末梢気道の抵抗をそれぞれ示すといわれている。
これを踏まえて同氏は「今回、R5、R20がR5−R20に比べてAHIと強い相関を示した。
このことはOSASの病態の主座が中枢気道にあることを反映している可能性がある」との考察を加えた。
同氏は「今後、FOTによる呼吸抵抗測定結果を健康人とOSAS群で比較する検討を行い、群間で有意差が認められれば、OSASのスクリーニングを非侵襲的かつ短時間で行えるようになるかもしれない」と展望した。(長谷部弥生)
信州大学内科学第一教室の町田良亮氏らは、強制オシレーション法(FOT)を用いて閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)患者の覚醒中の呼吸抵抗を体位別に検討。
起きているときでも、体位を変えることでOSASの重症度に応じた呼吸抵抗の増大が生じる可能性があることを見いだし、第58回日本呼吸器学会で検討結果の概要を発表した。
覚醒中の体位別呼吸抵抗とOSAS重症度との関連を検討
FOTは非侵襲的に呼吸抵抗を測定できる検査法で、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患の患者に対する施行例が多数報告されている。
また、睡眠呼吸障害を呈する患者において、ネーザルマスクを介してFOTを装着し、睡眠中の気道閉塞を評価した報告がある。
町田氏らは、覚醒中のOSAS患者に対して異なる体位でFOT検査を行うことで、中枢気道の呼吸抵抗を評価できるかどうかを検討した。
対象は、終夜睡眠ポリグラフィ(PSG)検査でOSASと診断され、呼吸機能検査で換気障害が認められなかった35例。
覚醒している状態で坐位、仰臥位、左側臥位を取らせ、それぞれの体位でFOT検査を実施。
呼気時と吸気時の5Hz、20Hzでの呼吸抵抗(R5、R20)、両者の差(R5−R20)、5Hzでの呼吸リアクタンス(X5)の値を求め、PSG検査で得られた無呼吸低呼吸指数(AHI)との関連を調べた。
対象35例におけるOSASの重症度別の内訳は、軽症(AHI 5〜15)8例、中等症(同15〜30)13例、重症(同30以上)14例。男性27例、女性8例と男性が多く、平均年齢は61歳。
平均BMIは26.82で、同25以上の肥満者が約7割(25例)を占めた。
平均AHIは29.46だった。
仰臥位、側臥位におけるR5、R20とAHIが相関
FOT検査の各測定項目(R5、R20、R5−R20、X5)とAHIとの関連を分析した結果は次の通り。
坐位においては、いずれの測定項目についても、呼気時と吸気時の平均値とAHIとの間には有意な相関は見られなかった。
一方で、仰臥位で測定した平均R5、吸気時R5、吸気時R20は、それぞれAHIと有意な相関を示した。
左側臥位では、吸気時R5と吸気時R20においてAHIとの有意な相関が確認された。
また、睡眠中に仰臥位を取っている時間帯に限定して算出したAHI(仰臥位中AHI)と、FOT検査の各測定値との関連についても検討した。
その結果、仰臥位中AHIは覚醒中の仰臥位時平均R5、平均R20、および坐位時平均R5、平均R20と有意な相関を示した。しかし、仰臥位中AHIと坐位時平均R5−R20との間には、有意な相関は認められなかった。
OSASスクリーニングへの応用には健康人との比較試験が必要
以上から、町田氏は「坐位時の各呼吸抵抗指標とAHIとの間には相関が見られなかったが、仰臥位または側臥位を取った際の呼吸抵抗指標の一部はAHIと有意な相関を示した。
このことから、覚醒中でも体位を変換するとOSASの重症度に応じて呼吸抵抗が増大することが示唆された。
また、吸気時の呼吸抵抗がAHIと特に強い相関を示したことは、吸気相における上気道閉塞を原因とするOSASの病態を反映しているとも考えられた」と結論した。
なお、FOT検査において、R5は気道系全体、R20は上気道から中枢気道、R5−R20は末梢気道の抵抗をそれぞれ示すといわれている。
これを踏まえて同氏は「今回、R5、R20がR5−R20に比べてAHIと強い相関を示した。
このことはOSASの病態の主座が中枢気道にあることを反映している可能性がある」との考察を加えた。
同氏は「今後、FOTによる呼吸抵抗測定結果を健康人とOSAS群で比較する検討を行い、群間で有意差が認められれば、OSASのスクリーニングを非侵襲的かつ短時間で行えるようになるかもしれない」と展望した。(長谷部弥生)
原因不明の歯痛 [医療小文]
歯の痛み、歯のせいじゃない?知られざる非歯原性歯痛
歯に原因がないのに、歯が痛い。
歯科を受診しても、虫歯や歯槽膿漏(しそうのうろう)などは見つからない。
それでも「痛いから」と神経や歯を抜いてもらった。
なのに、痛みはおさまらず、より強くなっていく――。
これは、歯科医の間で、最近注目され始めている「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」の患者の一例です。
何が原因なのか。どんな治療法があるのか。
非歯原性歯痛に詳しい、日本口腔(こうくう)顔面痛学会の元理事長で、慶応大非常勤講師の和嶋浩一さんに聞きました。
海外で報告。日本では2000年前後から注目
虫歯があったり、歯の周囲や歯肉に炎症があったり。こうした歯に原因がある痛みを「歯原性歯痛」と分類するのに対し、こうした歯の原因がないにもかかわらず歯痛が感じられる状態を「非歯原性歯痛」と分類するそうです。
オーラルフレイル、気づきで防ぐ全身の衰え
「オーラルフレイル」は、口腔機能の軽微な低下や食の偏りなどを含み、身体の衰え(フレイル)の一つです。
これら概念は東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫特任教授、飯島勝矢教授らによる大規模健康調査(縦断追跡コホート研究)等の厚生労働科学研究によって示され、この研究をきっかけにさまざまな検討が進められています。
1.「オーラルフレイル」という新たな考え方の理解
「オーラルフレイル」は、口腔機能の軽微な低下や食の偏りなどを含み、身体の衰え(フレイル)の一つです。
これら概念は東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫特任教授、飯島勝矢教授らによる大規模健康調査(縦断追跡コホート研究)等の厚生労働科学研究によって示され、この研究をきっかけにさまざまな検討が進められています。
この「オーラルフレイル」とは、健康と機能障害との中間にあり、可逆的であることが大きな特徴の一つです。
つまり早めに気づき適切な対応をすることでより健康に近づきます。
この「オーラルフレイル」の始まりは、滑舌低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品が増える、口の乾燥等ほんの些細な症状であり、見逃しやすく、気が付きにくい特徴があるため注意が必要です。
2.「オーラルフレイル」への対応
高齢期における人とのつながりや生活の広がり、共食といった「社会性」を維持することは、多岐にわたる健康分野に関与することが明らかとなっております。
この多岐にわたる健康分野には歯や口腔機能の健康も含まれており、これら機能の低下はフレイルとも関連が強いことがわかっています。
歯周病やむし歯などで歯を失った際には適切な処置を受けることはもちろん、定期的に歯や口の健康状態をかかりつけの歯科医師に診てもらうことが非常に重要です。
また、地域で開催される介護予防事業などさまざまな口腔機能向上のための教室やセミナーなどを活用することも効果的です。
3.「8020運動」と「オーラルフレイル」の関連
厚生労働省と日本歯科医師会が平成元年から展開している「8020運動」は、80歳で20本以上の歯を保ち、何でもかんで食べられることを目指して推進してきています。
当初わが国の8020達成者はほんの数%であったものが、現在では40%を超えるほどになっています。
日本歯科医師会は、この「8020運動」に代表される国民運動をさらに発展させるべく、東京大学高齢社会総合研究機構や様々な関係者の協力のもと、「オーラルフレイル」という新たな考え方を加え健康長寿をサポートするべく、発信・啓発していきます。
4.「オーラルフレイル」の展望
「オーラルフレイル」の考え方や調査研究は現在進行形で進んでいるところであり、新たな知見やエビデンスの追加が今後さらに必要になってきます。
また、急増する高齢者への現場での対応を含めて、日本歯科医師会会員が今後さらに研修および日常の臨床へと努力していくものであります。
「のばそうよ 健康寿命 歯みがきで」。日本歯科医師会が主催する「歯・口の健康啓発標語コンクール」で、昨年度の最優秀賞受賞作品。
虫歯の「む」(6)「し」(4)の語呂合わせで虫歯予防と早期治療を呼びかける「歯と口の健康週間」が始まっている。
歯の健康は、健康寿命のだいじなバロメーターだろう。
子どもの虫歯はずいぶん減ってきている。
歯磨きの習慣やフッ素を使った予防が浸透してきたためらしい。
だが、虫歯が多くできる子供とゼロの子供の両極化が進んでいるといわれる。
東京都足立区が2015年に区立小学校の1年生を対象に行った調査によると、生活困難世帯の子供は、そうでない世帯の子供と比べて5本以上の虫歯がある割合が2倍に上る。
菓子を自由に食べ、歯磨きの回数も少ない。肥満の割合も高かった。
歯の標語に通じる中村草田男(くさたお)の句がある。
万緑(ばんりょく)の中や吾子(あこ)の歯生え初(そ)むる>
わが子に初めて歯が生えた時の喜び。生命力あふれる草木の緑がまぶしい今ごろの季節である。
この名句の発表以来、「万緑」は初夏の季語となった。
歯に原因がないのに、歯が痛い。
歯科を受診しても、虫歯や歯槽膿漏(しそうのうろう)などは見つからない。
それでも「痛いから」と神経や歯を抜いてもらった。
なのに、痛みはおさまらず、より強くなっていく――。
これは、歯科医の間で、最近注目され始めている「非歯原性歯痛(ひしげんせいしつう)」の患者の一例です。
何が原因なのか。どんな治療法があるのか。
非歯原性歯痛に詳しい、日本口腔(こうくう)顔面痛学会の元理事長で、慶応大非常勤講師の和嶋浩一さんに聞きました。
海外で報告。日本では2000年前後から注目
虫歯があったり、歯の周囲や歯肉に炎症があったり。こうした歯に原因がある痛みを「歯原性歯痛」と分類するのに対し、こうした歯の原因がないにもかかわらず歯痛が感じられる状態を「非歯原性歯痛」と分類するそうです。
オーラルフレイル、気づきで防ぐ全身の衰え
「オーラルフレイル」は、口腔機能の軽微な低下や食の偏りなどを含み、身体の衰え(フレイル)の一つです。
これら概念は東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫特任教授、飯島勝矢教授らによる大規模健康調査(縦断追跡コホート研究)等の厚生労働科学研究によって示され、この研究をきっかけにさまざまな検討が進められています。
1.「オーラルフレイル」という新たな考え方の理解
「オーラルフレイル」は、口腔機能の軽微な低下や食の偏りなどを含み、身体の衰え(フレイル)の一つです。
これら概念は東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫特任教授、飯島勝矢教授らによる大規模健康調査(縦断追跡コホート研究)等の厚生労働科学研究によって示され、この研究をきっかけにさまざまな検討が進められています。
この「オーラルフレイル」とは、健康と機能障害との中間にあり、可逆的であることが大きな特徴の一つです。
つまり早めに気づき適切な対応をすることでより健康に近づきます。
この「オーラルフレイル」の始まりは、滑舌低下、食べこぼし、わずかなむせ、かめない食品が増える、口の乾燥等ほんの些細な症状であり、見逃しやすく、気が付きにくい特徴があるため注意が必要です。
2.「オーラルフレイル」への対応
高齢期における人とのつながりや生活の広がり、共食といった「社会性」を維持することは、多岐にわたる健康分野に関与することが明らかとなっております。
この多岐にわたる健康分野には歯や口腔機能の健康も含まれており、これら機能の低下はフレイルとも関連が強いことがわかっています。
歯周病やむし歯などで歯を失った際には適切な処置を受けることはもちろん、定期的に歯や口の健康状態をかかりつけの歯科医師に診てもらうことが非常に重要です。
また、地域で開催される介護予防事業などさまざまな口腔機能向上のための教室やセミナーなどを活用することも効果的です。
3.「8020運動」と「オーラルフレイル」の関連
厚生労働省と日本歯科医師会が平成元年から展開している「8020運動」は、80歳で20本以上の歯を保ち、何でもかんで食べられることを目指して推進してきています。
当初わが国の8020達成者はほんの数%であったものが、現在では40%を超えるほどになっています。
日本歯科医師会は、この「8020運動」に代表される国民運動をさらに発展させるべく、東京大学高齢社会総合研究機構や様々な関係者の協力のもと、「オーラルフレイル」という新たな考え方を加え健康長寿をサポートするべく、発信・啓発していきます。
4.「オーラルフレイル」の展望
「オーラルフレイル」の考え方や調査研究は現在進行形で進んでいるところであり、新たな知見やエビデンスの追加が今後さらに必要になってきます。
また、急増する高齢者への現場での対応を含めて、日本歯科医師会会員が今後さらに研修および日常の臨床へと努力していくものであります。
「のばそうよ 健康寿命 歯みがきで」。日本歯科医師会が主催する「歯・口の健康啓発標語コンクール」で、昨年度の最優秀賞受賞作品。
虫歯の「む」(6)「し」(4)の語呂合わせで虫歯予防と早期治療を呼びかける「歯と口の健康週間」が始まっている。
歯の健康は、健康寿命のだいじなバロメーターだろう。
子どもの虫歯はずいぶん減ってきている。
歯磨きの習慣やフッ素を使った予防が浸透してきたためらしい。
だが、虫歯が多くできる子供とゼロの子供の両極化が進んでいるといわれる。
東京都足立区が2015年に区立小学校の1年生を対象に行った調査によると、生活困難世帯の子供は、そうでない世帯の子供と比べて5本以上の虫歯がある割合が2倍に上る。
菓子を自由に食べ、歯磨きの回数も少ない。肥満の割合も高かった。
歯の標語に通じる中村草田男(くさたお)の句がある。
万緑(ばんりょく)の中や吾子(あこ)の歯生え初(そ)むる>
わが子に初めて歯が生えた時の喜び。生命力あふれる草木の緑がまぶしい今ごろの季節である。
この名句の発表以来、「万緑」は初夏の季語となった。
「糖化ストレス」を防ごう! [医療小文]
認知症、がんのリスクを上げる「糖化ストレス」とは
米井嘉一 / 同志社大学教授
老化を促進する危険因子
糖尿病の発症や進展、皮膚の老化、がんや認知症の発症リスクの上昇など、体にさまざまな悪影響を及ぼす危険因子があります。
それが「糖化ストレス」です。
糖化ストレスの原因と、糖化ストレスが体に与える影響についてお話しします。
糖化ストレスの三つの原因
糖化ストレスとは「血中の糖や脂肪、有害物質であるアルデヒドの値が高い状態」です。
糖化ストレスの原因は、
▽食後に血糖値が急上昇(160mg/dL以上)する「血糖スパイク」
▽脂質代謝異常(中性脂肪高値、LDLコレステロール高値)
▽過剰な飲酒--の三つです。
これらによって作り出されるのが有害物質のアルデヒドです。
アルデヒドはさまざまな種類がありますが、どれも反応性が高く、体のたんぱく質、脂質、遺伝子の性質に異常な変化を与えてしまうのです。
血糖スパイクが多種のアルデヒドを生成
空腹時の血糖値は正常なのに、食後に急激に血糖値が上昇する人がいます。
これが血糖スパイクです。
血糖値は血液中のグルコース(ブドウ糖)の濃度です。
通常グルコースは輪のような形(環状)をしているのですが、0.002%は輪が開いた形(開環型)になります。
すると、アルデヒド基(-CHO)が露出して有害物質のアルデヒドになります。
つまり、血液中のグルコースの量が多ければ多いほど、アルデヒドの量も多くなるわけです。
さらに、血糖スパイクは開環型のグルコースから多種のアルデヒドを連鎖的に生成する反応を引き起こします。私はこれを「アルデヒドスパーク」と名付けました。
脂質代謝異常で正常に代謝されない脂質からもアルデヒドが作られます。
飲酒に注意が必要なタイプは
お酒を飲むと、アルコールが代謝されてアルデヒドの一種「アセトアルデヒド」が作られます。
アセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素によって代謝されます。
しかし、この酵素の活性の強さは人によって異なり、酵素活性が強い人、弱い人、ほとんどない人の3タイプに分けられます。
酵素活性がほとんどない人はお酒は飲めません。
最も気をつけないといけないのは酵素活性が弱い人です。
このタイプの人は飲酒後に顔が赤くなり、心臓がドキドキしたり気分が悪くなったりするのが特徴です。
アルデヒドが血中に長時間残って害を受けやすいタイプの人ですから、飲み過ぎには特に注意してください。
損なわれるDNA修復機能
アルデヒドは細胞の分裂・増殖に重要な役割を果たすDNAに傷を付けます。
DNAには傷がついたときにがん化しやすい領域が存在します。
アルデヒドの量が多いとDNAのあちこちに傷が生じ、その領域を傷つける確率が高まります。
また、DNAの傷を修復する酵素たんぱく(DNA修復酵素)もアルデヒドによって異常な変化を起こします。
ですから、糖化ストレスによりDNA修復の機能が大きく低下してしまいます。
このことも、糖化ストレスによってがんの発症リスクが上昇する理由の一つです。
アルデヒドが作り出すAGEs
アルデヒドが体内のたんぱく質と反応してできるのが、強い毒性があり老化を進める終末糖化産物(AGEs)です。
AGEsが細胞のRAGEという鍵穴(受容体)に結合すると、炎症を起こすスイッチが入ります。
また、AGEsがスカベンジャー受容体という鍵穴に結合すると、AGEsは細胞内に取り込まれ、ジワジワと細胞を壊していくのです。
皮膚の老化の原因にもなる
糖化ストレスは皮膚の老化とも深い関係があります。
シミの原因になるメラニン色素を産生するのは、皮膚の色素細胞です。
AGEsは色素細胞を刺激してメラニン色素の産生を増やします。
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層でできています。
弾力のある「もちもちとした肌」は、真皮を構成するたんぱく質のコラーゲンやエラスチンがしっかりとした支えになることで保たれます。
ですから、糖化ストレスでコラーゲンやエラスチンが異常な変化を起こしてしまうと、皮膚の弾力性が失われて“たるみ”が生じます。
皮膚科の医師が「皮膚の老化の7割は(太陽光の紫外線による)『光老化』が原因です」と言っているのを聞いたことがあります。
残り3割は糖化ストレスが原因ということだと思います。
ただ私は、もっと多く、皮膚の老化原因の4割ぐらいが糖化ストレスだと考えています。
コグニも糖化ストレスが関係か
認知症(コグニ)のアルツハイマー病の患者は、脳内にアミロイドβというたんぱく質が蓄積しています。
実は、70歳を超えた多くの人の脳内にはアミロイドβがたまっています。
しかし、皆がコグニになるわけではありません。
アルツハイマー病発症のメカニズムは解明途上ですが、糖化ストレスによってアミロイドβの毒性が増すことが原因との説もあります。
毒性を増したアミロイドβによって脳細胞が炎症を起こし、多くの脳細胞が死に、コグニの症状が進行するというわけです。
また、糖尿病は糖化ストレスが強い代表疾患ですが、糖尿病患者はコグニの発症リスクが2~4倍に増えるといわれています。
糖化ストレスを防ぐことが重要
いかがでしょうか。糖化ストレスによって生じるアルデヒドが、さまざまなトラブルを起こすことが分かってもらえたと思います。
糖化ストレスを防ぐことは、健康に過ごすために非常に重要です。
糖化ストレスをきちんと評価し、しっかりと対策を取らなくてはいけません。
× × ×
注:認知症は認知機能の障害です。
認知機能は英語でコグニティブファンクションと言うので、私は認知症のことを「コグニ」と呼ぶことにしています。
「コグニ」だとなんだか弱そうで、やっつけられそうな気がするからです。
2018年5月23日 毎日新聞「医療プレミアム」
米井嘉一 / 同志社大学教授
老化を促進する危険因子
糖尿病の発症や進展、皮膚の老化、がんや認知症の発症リスクの上昇など、体にさまざまな悪影響を及ぼす危険因子があります。
それが「糖化ストレス」です。
糖化ストレスの原因と、糖化ストレスが体に与える影響についてお話しします。
糖化ストレスの三つの原因
糖化ストレスとは「血中の糖や脂肪、有害物質であるアルデヒドの値が高い状態」です。
糖化ストレスの原因は、
▽食後に血糖値が急上昇(160mg/dL以上)する「血糖スパイク」
▽脂質代謝異常(中性脂肪高値、LDLコレステロール高値)
▽過剰な飲酒--の三つです。
これらによって作り出されるのが有害物質のアルデヒドです。
アルデヒドはさまざまな種類がありますが、どれも反応性が高く、体のたんぱく質、脂質、遺伝子の性質に異常な変化を与えてしまうのです。
血糖スパイクが多種のアルデヒドを生成
空腹時の血糖値は正常なのに、食後に急激に血糖値が上昇する人がいます。
これが血糖スパイクです。
血糖値は血液中のグルコース(ブドウ糖)の濃度です。
通常グルコースは輪のような形(環状)をしているのですが、0.002%は輪が開いた形(開環型)になります。
すると、アルデヒド基(-CHO)が露出して有害物質のアルデヒドになります。
つまり、血液中のグルコースの量が多ければ多いほど、アルデヒドの量も多くなるわけです。
さらに、血糖スパイクは開環型のグルコースから多種のアルデヒドを連鎖的に生成する反応を引き起こします。私はこれを「アルデヒドスパーク」と名付けました。
脂質代謝異常で正常に代謝されない脂質からもアルデヒドが作られます。
飲酒に注意が必要なタイプは
お酒を飲むと、アルコールが代謝されてアルデヒドの一種「アセトアルデヒド」が作られます。
アセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素によって代謝されます。
しかし、この酵素の活性の強さは人によって異なり、酵素活性が強い人、弱い人、ほとんどない人の3タイプに分けられます。
酵素活性がほとんどない人はお酒は飲めません。
最も気をつけないといけないのは酵素活性が弱い人です。
このタイプの人は飲酒後に顔が赤くなり、心臓がドキドキしたり気分が悪くなったりするのが特徴です。
アルデヒドが血中に長時間残って害を受けやすいタイプの人ですから、飲み過ぎには特に注意してください。
損なわれるDNA修復機能
アルデヒドは細胞の分裂・増殖に重要な役割を果たすDNAに傷を付けます。
DNAには傷がついたときにがん化しやすい領域が存在します。
アルデヒドの量が多いとDNAのあちこちに傷が生じ、その領域を傷つける確率が高まります。
また、DNAの傷を修復する酵素たんぱく(DNA修復酵素)もアルデヒドによって異常な変化を起こします。
ですから、糖化ストレスによりDNA修復の機能が大きく低下してしまいます。
このことも、糖化ストレスによってがんの発症リスクが上昇する理由の一つです。
アルデヒドが作り出すAGEs
アルデヒドが体内のたんぱく質と反応してできるのが、強い毒性があり老化を進める終末糖化産物(AGEs)です。
AGEsが細胞のRAGEという鍵穴(受容体)に結合すると、炎症を起こすスイッチが入ります。
また、AGEsがスカベンジャー受容体という鍵穴に結合すると、AGEsは細胞内に取り込まれ、ジワジワと細胞を壊していくのです。
皮膚の老化の原因にもなる
糖化ストレスは皮膚の老化とも深い関係があります。
シミの原因になるメラニン色素を産生するのは、皮膚の色素細胞です。
AGEsは色素細胞を刺激してメラニン色素の産生を増やします。
皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層でできています。
弾力のある「もちもちとした肌」は、真皮を構成するたんぱく質のコラーゲンやエラスチンがしっかりとした支えになることで保たれます。
ですから、糖化ストレスでコラーゲンやエラスチンが異常な変化を起こしてしまうと、皮膚の弾力性が失われて“たるみ”が生じます。
皮膚科の医師が「皮膚の老化の7割は(太陽光の紫外線による)『光老化』が原因です」と言っているのを聞いたことがあります。
残り3割は糖化ストレスが原因ということだと思います。
ただ私は、もっと多く、皮膚の老化原因の4割ぐらいが糖化ストレスだと考えています。
コグニも糖化ストレスが関係か
認知症(コグニ)のアルツハイマー病の患者は、脳内にアミロイドβというたんぱく質が蓄積しています。
実は、70歳を超えた多くの人の脳内にはアミロイドβがたまっています。
しかし、皆がコグニになるわけではありません。
アルツハイマー病発症のメカニズムは解明途上ですが、糖化ストレスによってアミロイドβの毒性が増すことが原因との説もあります。
毒性を増したアミロイドβによって脳細胞が炎症を起こし、多くの脳細胞が死に、コグニの症状が進行するというわけです。
また、糖尿病は糖化ストレスが強い代表疾患ですが、糖尿病患者はコグニの発症リスクが2~4倍に増えるといわれています。
糖化ストレスを防ぐことが重要
いかがでしょうか。糖化ストレスによって生じるアルデヒドが、さまざまなトラブルを起こすことが分かってもらえたと思います。
糖化ストレスを防ぐことは、健康に過ごすために非常に重要です。
糖化ストレスをきちんと評価し、しっかりと対策を取らなくてはいけません。
× × ×
注:認知症は認知機能の障害です。
認知機能は英語でコグニティブファンクションと言うので、私は認知症のことを「コグニ」と呼ぶことにしています。
「コグニ」だとなんだか弱そうで、やっつけられそうな気がするからです。
2018年5月23日 毎日新聞「医療プレミアム」
食物繊維と体内時計 [医療小文]
食物繊維は体内時計のリセット効果を高める
柴田重信・ 早稲田大学教授
体内に生息する腸内細菌が私たちの体内時計にもたらす恩恵について、最新の研究結果と共に説明していきたいと思います。
腸内細菌とともに重要な役割を果たすのが食物繊維です。
便通や消化を改善するだけではなく、善玉菌の増加、さらには体内時計のリセットにも効果を発揮します。
食物繊維の健康への効果
食物繊維とは、ヒトが消化できない食物成分のことを総称していいます。
食物繊維にも種類があり、特に水に溶けない「不溶性の食物繊維」と、水に溶ける「水溶性の食物繊維」に分けることができます。
セルロースなどの不溶性の食物繊維は、腸内で水分を吸収し、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進させることで便通の改善をもたらします。
一方で、水溶性食物繊維は、粘性があることから食べ物の消化を遅らせ、食後の急激な血糖値の上昇を抑えます。
また、腸内細菌により発酵されて「短鎖脂肪酸」に生まれ変わり、体内にさまざまな利益をもたらします。
例えば水溶性食物繊維の一つ、難消化性デキストリンは、特定保健用食品(トクホ)の「関与成分」とされています。
食後の血糖値上昇抑制、肥満予防、便秘予防などの効果があり、飲料や食品に広く使われています。
カギは腸内細菌による食物繊維の発酵
食物繊維はヒトの体内の酵素では消化できませんが、一部は腸内細菌によって発酵、分解されます。
それによって生成される酢酸、酪酸、プロピオン酸などは「短鎖脂肪酸」という脂質を構成する重要な成分で、腸管粘膜の栄養・エネルギーになるだけではなく、免疫、代謝など多くの生理機能に良い効果をもたらします。
この中でも特に、酪酸は「制御性T細胞」という免疫細胞に作用し、大腸炎などの炎症性腸疾患を抑制することが分かっています。
また、プロピオン酸は交感神経を活性化し、エネルギー代謝を上げることで抗肥満効果をもたらします。
さらに短鎖脂肪酸は、腸内の特定の細胞と結びつくことで「GLP-1」というホルモンの分泌を促します。
GLP-1は、膵臓(すいぞう)の細胞に働きかけ、血糖値を下げるインスリンの分泌を手助けすることから、糖尿病の新しい治療薬として注目されています。
腸内細菌が体内時計に重要な役割
私たちの研究室では、これらの短鎖脂肪酸が肝臓などの体内時計にも効果的であることを2018年1月に論文で報告しました。
この論文は、腸内細菌研究のスペシャリストで慶應大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授との共同研究によるものです。
福田先生は「おなかの調子がよくなる本」という一般向けの書籍も書いています。
共同研究では、マウスを水溶性食物繊維が多い餌を与える群と、食物繊維が少ない餌を与える群に分けて実験をしました。
1晩(マウスが活動している時間帯)餌を与えずおなかを空かせた状態で、それぞれの群に餌を与えてから肝臓の体内時計を調べました。
その結果、食物繊維が多い餌を食べた群の方が、体内時計のずれが食餌によってより正しい時間に近づいた、すなわちリセットされていることが分かりました。
さらに、食物繊維を多く取ったマウスでは、食餌から4時間後の盲腸(大腸の一番小腸寄りの部分)内で短鎖脂肪酸の濃度が上昇していました。
この二つから、腸内で生成された短鎖脂肪酸が、何らかの経路で肝臓の体内時計をリセットしたと考えられます。
また、抗菌薬を用いて腸内細菌を減らしたマウスでは、腎臓などの体内時計のメリハリが弱まっていることも分かりました。
これらの結果から、腸内細菌が私たちの体内時計維持に重要な役割を果たしている可能性があります。
体内時計をリセットする胆汁酸
食物に含まれる脂質成分を吸着して体内への取り込みを助ける「胆汁酸」を介して、腸内細菌が私たちの体内時計をリセットすることも最近報告されています。
このうち、肝臓で産生され腸に分泌される胆汁酸(「コール酸」などの1次胆汁酸)は、食後に分泌が促進されます。
腸内細菌はこの胆汁酸を代謝し、「デオキシコール酸」「リトコール酸」といった2次胆汁酸を産生します。
研究では、1次胆汁酸であるコール酸は腸粘膜の体内時計を、2次胆汁酸であるデオキシコール酸、リトコール酸は腸粘膜と共に肝臓の体内時計を調節していることが分かっています。
しかし、2次胆汁酸は、体内に吸収されると肝臓がんの発症を促進させます。
ですから、2次胆汁酸を増やして体内時計を調節しよう、という考え方は残念ながら現実的ではありません。
朝食には食物繊維がおすすめ
このように、食物繊維はおなかの調子を整えるだけにとどまらず、私たちの健康維持にとても効果的です。
水溶性食物繊維はゴボウ、キクイモ、ラッキョウ、タマネギ、切り干し大根、ヒジキ、ワカメ、ノリなどに多く含まれています。
体内時計をリセットすべき朝ご飯に、これらの食材を取り入れてみてはいかがでしょうか。
柴田重信・ 早稲田大学教授
体内に生息する腸内細菌が私たちの体内時計にもたらす恩恵について、最新の研究結果と共に説明していきたいと思います。
腸内細菌とともに重要な役割を果たすのが食物繊維です。
便通や消化を改善するだけではなく、善玉菌の増加、さらには体内時計のリセットにも効果を発揮します。
食物繊維の健康への効果
食物繊維とは、ヒトが消化できない食物成分のことを総称していいます。
食物繊維にも種類があり、特に水に溶けない「不溶性の食物繊維」と、水に溶ける「水溶性の食物繊維」に分けることができます。
セルロースなどの不溶性の食物繊維は、腸内で水分を吸収し、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進させることで便通の改善をもたらします。
一方で、水溶性食物繊維は、粘性があることから食べ物の消化を遅らせ、食後の急激な血糖値の上昇を抑えます。
また、腸内細菌により発酵されて「短鎖脂肪酸」に生まれ変わり、体内にさまざまな利益をもたらします。
例えば水溶性食物繊維の一つ、難消化性デキストリンは、特定保健用食品(トクホ)の「関与成分」とされています。
食後の血糖値上昇抑制、肥満予防、便秘予防などの効果があり、飲料や食品に広く使われています。
カギは腸内細菌による食物繊維の発酵
食物繊維はヒトの体内の酵素では消化できませんが、一部は腸内細菌によって発酵、分解されます。
それによって生成される酢酸、酪酸、プロピオン酸などは「短鎖脂肪酸」という脂質を構成する重要な成分で、腸管粘膜の栄養・エネルギーになるだけではなく、免疫、代謝など多くの生理機能に良い効果をもたらします。
この中でも特に、酪酸は「制御性T細胞」という免疫細胞に作用し、大腸炎などの炎症性腸疾患を抑制することが分かっています。
また、プロピオン酸は交感神経を活性化し、エネルギー代謝を上げることで抗肥満効果をもたらします。
さらに短鎖脂肪酸は、腸内の特定の細胞と結びつくことで「GLP-1」というホルモンの分泌を促します。
GLP-1は、膵臓(すいぞう)の細胞に働きかけ、血糖値を下げるインスリンの分泌を手助けすることから、糖尿病の新しい治療薬として注目されています。
腸内細菌が体内時計に重要な役割
私たちの研究室では、これらの短鎖脂肪酸が肝臓などの体内時計にも効果的であることを2018年1月に論文で報告しました。
この論文は、腸内細菌研究のスペシャリストで慶應大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授との共同研究によるものです。
福田先生は「おなかの調子がよくなる本」という一般向けの書籍も書いています。
共同研究では、マウスを水溶性食物繊維が多い餌を与える群と、食物繊維が少ない餌を与える群に分けて実験をしました。
1晩(マウスが活動している時間帯)餌を与えずおなかを空かせた状態で、それぞれの群に餌を与えてから肝臓の体内時計を調べました。
その結果、食物繊維が多い餌を食べた群の方が、体内時計のずれが食餌によってより正しい時間に近づいた、すなわちリセットされていることが分かりました。
さらに、食物繊維を多く取ったマウスでは、食餌から4時間後の盲腸(大腸の一番小腸寄りの部分)内で短鎖脂肪酸の濃度が上昇していました。
この二つから、腸内で生成された短鎖脂肪酸が、何らかの経路で肝臓の体内時計をリセットしたと考えられます。
また、抗菌薬を用いて腸内細菌を減らしたマウスでは、腎臓などの体内時計のメリハリが弱まっていることも分かりました。
これらの結果から、腸内細菌が私たちの体内時計維持に重要な役割を果たしている可能性があります。
体内時計をリセットする胆汁酸
食物に含まれる脂質成分を吸着して体内への取り込みを助ける「胆汁酸」を介して、腸内細菌が私たちの体内時計をリセットすることも最近報告されています。
このうち、肝臓で産生され腸に分泌される胆汁酸(「コール酸」などの1次胆汁酸)は、食後に分泌が促進されます。
腸内細菌はこの胆汁酸を代謝し、「デオキシコール酸」「リトコール酸」といった2次胆汁酸を産生します。
研究では、1次胆汁酸であるコール酸は腸粘膜の体内時計を、2次胆汁酸であるデオキシコール酸、リトコール酸は腸粘膜と共に肝臓の体内時計を調節していることが分かっています。
しかし、2次胆汁酸は、体内に吸収されると肝臓がんの発症を促進させます。
ですから、2次胆汁酸を増やして体内時計を調節しよう、という考え方は残念ながら現実的ではありません。
朝食には食物繊維がおすすめ
このように、食物繊維はおなかの調子を整えるだけにとどまらず、私たちの健康維持にとても効果的です。
水溶性食物繊維はゴボウ、キクイモ、ラッキョウ、タマネギ、切り干し大根、ヒジキ、ワカメ、ノリなどに多く含まれています。
体内時計をリセットすべき朝ご飯に、これらの食材を取り入れてみてはいかがでしょうか。
「グルテンフリー」の健康障害 [医療小文]
「グルテンフリー」はかえって健康に悪いかも
プロテニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチさんやモデルのミランダ・カーさんら、海外アスリートや有名モデルが実践していることで話題になった「グルテンフリー」。
最近はテレビや雑誌などでも盛んに紹介され、「健康的な食事法」とうたわれて日本でも広まりつつあるようです。
グルテンフリー(Gluten Free)直訳すると「グルテンなし」。「グルテン」とは、小麦などに含まれるたんぱく質=小麦タンパク のこと。
つまり、グルテンフリーとは、「小麦たんぱくを食べない」、もしくは「小麦たんぱくを食べない」こと。ポイントは、あくまでもグルテンのみ。糖質ダイエットや炭水化物ダイエットとは根本的に違います。
元々は小麦の中に含まれるタンパク質に、アレルギー反応や腸の炎症を起こしてしまう人のための食事法ですが、効果が不明なまま、減量や美肌、疲労回復によいとうたわれています。
そもそもグルテンとは何か、そしてグルテンフリーは万人にメリットがあるのか。詳しく知られていないグルテンフリーについて検証します。
グルテンフリーが本当に必要な人とは
グルテンは、小麦やライ麦、大麦などの穀物から生成されるタンパク質で、小麦粉などに水を加えてこねることで生成されます。
パン生地の粘りや、スパゲティのモチモチ感はグルテンによるもの。
日本の伝統的な食品であるお麩(ふ)もグルテンの食感を利用した食品です。
グルテンはどちらかというと消化酵素の作用で分解されにくいタンパク質で、十分に消化しきれなかったグルテンによって、消化管内で炎症反応やアレルギー反応を起こす人がいることが知られています。
グルテン関連障害と呼ばれており、3タイプに分けられます。
<セリアック病>
小麦などに含まれるグルテンにより発症する自己免疫疾患です。
消化が十分にされないままのグルテンがペプチド(アミノ酸が複数個つながった状態)のまま小腸粘膜に吸収され、それを異物と認識する免疫反応によって炎症を引き起こし、消化吸収に重要な小腸粘膜を損傷してしまいます。
栄養を十分に吸収できなくなるため、体重減少、貧血、慢性疲労といった症状を起こします。
症状だけでなく、小腸の細胞などを検査して診断されます。有病率はヨーロッパでは0.7%ほど、アメリカでは0.4~1%ほどと推定されていますが、日本を含むアジアでは比較的少ないと考えられています。
今のところ有効な薬物療法などがないため、セリアック病の人にとってグルテンフリーは健康的な生活を送るために不可欠なものです。
<小麦アレルギー>
小麦アレルギーは、小麦に含まれるタンパク質(主にグルテン)に対して過剰な免疫反応を起こすもので、食べてすぐにじんましんや呼吸器系の症状、アナフィラキシーショックなどを引き起こすことがあります。
小麦やグルテンの除去が必要かどうかは、専門医が負荷試験などをして判断します。
日本人の小麦アレルギー有病率は0.1~0.2%ほどと推定されています。
<非セリアックグルテン過敏症>
セリアック病や小麦アレルギーではないのに、グルテンの入った食べものをとると体に不調が起こり、グルテンフリーで改善することが確認できるものを「非セリアックグルテン過敏症」としています。
最近の報告では、非セリアックグルテン過敏症とされる患者に対し、グルテン感受性を調べたところ、グルテンによる特別な症状が表れた人は16%しかいなかったことが明らかになりました。
グルテンの有無が分からない食事をした患者に、実際にはグルテンは入っていないのに、不快な症状がみられたことが確認されており、実際の患者数は予想より少ないのではないかと考えられています。
今後、グルテンが体によくないというイメージが一般に広がると、心理的な影響で、小麦製品を食べると体の不調をおぼえる人が増えるかもしれません。
大半の人はグルテンフリーをすべきでない
では、これらグルテン関連障害ではない大半の人にとって、グルテンフリーに健康効果はあるのでしょうか。
小麦は小麦粉としてパンやスパゲティー、粉ものの原料だけでなく、加工食品にも幅広く利用されており、私たちの食生活を支える重要な穀物です。
小麦や小麦由来のグルテンを全く含まない食事をするためには、大きな手間や費用もかかるため、健康上明らかにメリットがある場合にのみグルテンフリーが勧められるべきです。
結論から言うと、グルテン関連障害ではない人がグルテンフリーを実践しても、健康効果があるという科学的根拠はありません。
それどころか、健康リスクを高める可能性さえあります。
2017年に英国医師会雑誌に掲載された研究では、セリアック病の診断を受けた人を除き、長期にわたってグルテンを多く摂取していた人と、少なく摂取していた人の間で、心筋梗塞(こうそく)などの冠動脈疾患の発症率に差がないことが明らかにされました。
一方、グルテンを避けることで、冠動脈疾患のリスクを低くする全粒穀物の摂取量が少なくなる可能性が示され、「セリアック病でない人にはグルテンフリーを勧めるべきでない」と結論付けています。
その他にもインターネットでは、ダイエットに美肌、集中力アップや精神症状の改善など、本当にさまざまな効果がうたわれていますが、信頼ある報告は見当たりませんでした。
グルテンフリーを実践している人は、そうでない人に比べて食物繊維摂取量が少なく、亜鉛やマグネシウムなど不足しがちなミネラルの豊富な全粒穀物の摂取量も少なくなりやすい、という傾向があるようです。
全粒穀物は、ダイエットに効果があることが複数の研究で示されていますし、美肌を維持するためにも栄養バランスの良い食事は不可欠ですから、偏った食事になりやすいグルテンフリーはお勧めできません。
セリアック病など特別な理由がないかぎり、グルテンフリーは必要ないと考えてよいでしょう。
悪いものを食べているという不安が、実際に体の変調に結びつくことはあります。「ノセボ効果」といいいます。
原因の分からない消化管の不調がある場合には、消化器内科など信頼できる医療機関を受診してほしいと思います。(成田崇信 / 管理栄養士)
ノセボ効果=体に悪いものを食べたかもしれないという思い込みや心理的負荷などが原因で、無害なものを食べたのにもかかわらず、身体症状など有害な副作用が引き起こされること。
有用な作用の場合にはプラセボ効果と呼ぶ。
プロテニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチさんやモデルのミランダ・カーさんら、海外アスリートや有名モデルが実践していることで話題になった「グルテンフリー」。
最近はテレビや雑誌などでも盛んに紹介され、「健康的な食事法」とうたわれて日本でも広まりつつあるようです。
グルテンフリー(Gluten Free)直訳すると「グルテンなし」。「グルテン」とは、小麦などに含まれるたんぱく質=小麦タンパク のこと。
つまり、グルテンフリーとは、「小麦たんぱくを食べない」、もしくは「小麦たんぱくを食べない」こと。ポイントは、あくまでもグルテンのみ。糖質ダイエットや炭水化物ダイエットとは根本的に違います。
元々は小麦の中に含まれるタンパク質に、アレルギー反応や腸の炎症を起こしてしまう人のための食事法ですが、効果が不明なまま、減量や美肌、疲労回復によいとうたわれています。
そもそもグルテンとは何か、そしてグルテンフリーは万人にメリットがあるのか。詳しく知られていないグルテンフリーについて検証します。
グルテンフリーが本当に必要な人とは
グルテンは、小麦やライ麦、大麦などの穀物から生成されるタンパク質で、小麦粉などに水を加えてこねることで生成されます。
パン生地の粘りや、スパゲティのモチモチ感はグルテンによるもの。
日本の伝統的な食品であるお麩(ふ)もグルテンの食感を利用した食品です。
グルテンはどちらかというと消化酵素の作用で分解されにくいタンパク質で、十分に消化しきれなかったグルテンによって、消化管内で炎症反応やアレルギー反応を起こす人がいることが知られています。
グルテン関連障害と呼ばれており、3タイプに分けられます。
<セリアック病>
小麦などに含まれるグルテンにより発症する自己免疫疾患です。
消化が十分にされないままのグルテンがペプチド(アミノ酸が複数個つながった状態)のまま小腸粘膜に吸収され、それを異物と認識する免疫反応によって炎症を引き起こし、消化吸収に重要な小腸粘膜を損傷してしまいます。
栄養を十分に吸収できなくなるため、体重減少、貧血、慢性疲労といった症状を起こします。
症状だけでなく、小腸の細胞などを検査して診断されます。有病率はヨーロッパでは0.7%ほど、アメリカでは0.4~1%ほどと推定されていますが、日本を含むアジアでは比較的少ないと考えられています。
今のところ有効な薬物療法などがないため、セリアック病の人にとってグルテンフリーは健康的な生活を送るために不可欠なものです。
<小麦アレルギー>
小麦アレルギーは、小麦に含まれるタンパク質(主にグルテン)に対して過剰な免疫反応を起こすもので、食べてすぐにじんましんや呼吸器系の症状、アナフィラキシーショックなどを引き起こすことがあります。
小麦やグルテンの除去が必要かどうかは、専門医が負荷試験などをして判断します。
日本人の小麦アレルギー有病率は0.1~0.2%ほどと推定されています。
<非セリアックグルテン過敏症>
セリアック病や小麦アレルギーではないのに、グルテンの入った食べものをとると体に不調が起こり、グルテンフリーで改善することが確認できるものを「非セリアックグルテン過敏症」としています。
最近の報告では、非セリアックグルテン過敏症とされる患者に対し、グルテン感受性を調べたところ、グルテンによる特別な症状が表れた人は16%しかいなかったことが明らかになりました。
グルテンの有無が分からない食事をした患者に、実際にはグルテンは入っていないのに、不快な症状がみられたことが確認されており、実際の患者数は予想より少ないのではないかと考えられています。
今後、グルテンが体によくないというイメージが一般に広がると、心理的な影響で、小麦製品を食べると体の不調をおぼえる人が増えるかもしれません。
大半の人はグルテンフリーをすべきでない
では、これらグルテン関連障害ではない大半の人にとって、グルテンフリーに健康効果はあるのでしょうか。
小麦は小麦粉としてパンやスパゲティー、粉ものの原料だけでなく、加工食品にも幅広く利用されており、私たちの食生活を支える重要な穀物です。
小麦や小麦由来のグルテンを全く含まない食事をするためには、大きな手間や費用もかかるため、健康上明らかにメリットがある場合にのみグルテンフリーが勧められるべきです。
結論から言うと、グルテン関連障害ではない人がグルテンフリーを実践しても、健康効果があるという科学的根拠はありません。
それどころか、健康リスクを高める可能性さえあります。
2017年に英国医師会雑誌に掲載された研究では、セリアック病の診断を受けた人を除き、長期にわたってグルテンを多く摂取していた人と、少なく摂取していた人の間で、心筋梗塞(こうそく)などの冠動脈疾患の発症率に差がないことが明らかにされました。
一方、グルテンを避けることで、冠動脈疾患のリスクを低くする全粒穀物の摂取量が少なくなる可能性が示され、「セリアック病でない人にはグルテンフリーを勧めるべきでない」と結論付けています。
その他にもインターネットでは、ダイエットに美肌、集中力アップや精神症状の改善など、本当にさまざまな効果がうたわれていますが、信頼ある報告は見当たりませんでした。
グルテンフリーを実践している人は、そうでない人に比べて食物繊維摂取量が少なく、亜鉛やマグネシウムなど不足しがちなミネラルの豊富な全粒穀物の摂取量も少なくなりやすい、という傾向があるようです。
全粒穀物は、ダイエットに効果があることが複数の研究で示されていますし、美肌を維持するためにも栄養バランスの良い食事は不可欠ですから、偏った食事になりやすいグルテンフリーはお勧めできません。
セリアック病など特別な理由がないかぎり、グルテンフリーは必要ないと考えてよいでしょう。
悪いものを食べているという不安が、実際に体の変調に結びつくことはあります。「ノセボ効果」といいいます。
原因の分からない消化管の不調がある場合には、消化器内科など信頼できる医療機関を受診してほしいと思います。(成田崇信 / 管理栄養士)
ノセボ効果=体に悪いものを食べたかもしれないという思い込みや心理的負荷などが原因で、無害なものを食べたのにもかかわらず、身体症状など有害な副作用が引き起こされること。
有用な作用の場合にはプラセボ効果と呼ぶ。
のどの渇きと運動の関係 [医療小文]
「渇く前に飲む!」が運動パフォーマンスを上げる
運動中にのどの渇きを感じてから飲むという水分補給の仕方では、脱水状態に陥りやすく、パフォーマンスが低下する可能性がある。
米アーカンソー大学水分補給科学研究所所長のStavros Kavouras氏らによる研究から明らかになった。
7人の男性自転車競技選手を対象としたこの研究では、喉は渇いていなくても、胃の中の水分量が不十分な場合、スピードや出力(ペダルをこぐ力)が低下することが分かった。
詳細は「Medicine and Science in Sports and Exercise」3月5日オンライン版に掲載された。
研究では、7人の自転車競技選手に高温で乾燥した環境下(気温35度、湿度30%)で2時間、エルゴメーターのペダルをこいでもらった。
その際、盲検下で流れた汗と同量の水を経鼻胃管により直接胃に補給するか(非脱水群)、脱水状態をもたらす不十分な量の水を補給した(脱水群)。
また、自然な喉の渇きを抑えるために、両群ともに25mL(ティースプーンで約5杯分に相当)の水を5分ごとに飲んでもらった。
さらに、運動のペースが一定に保たれる状態となって2時間後、全ての選手に全速力で5kmの走破時間を競ってもらった。
結果、両群ともにのどの渇きは感じなかったにもかかわらず、脱水群では非脱水群と比べて、ペダルをこぐスピードや出力が低下していた。
また、深部体温も、脱水群では非脱水群と比べて高かった。
この結果について、Kavouras氏は「運動中に十分な量の水を飲み、適切な水分量を維持することが、最良のパフォーマンスと深部体温の調節に不可欠であることが示された」と説明する。
また、運動時の発汗率には個人差があるため、ベストのパフォーマンスを達成するためには、個々のアスリートに適した水分補給の方法を決める必要があることを、同大学のプレスリリースで示している。
なお、Kavouras氏によると、これまで一部の研究者の間では、脱水状態ではなく、のどの渇きそのものが運動時のパフォーマンス低下の主な要因だと考えられていたという。
「これは、のどが渇くと、みじめな気持ちになり、やる気が失われてしまう、という考え方だ」と同氏は説明する。
また、もう一つの要因として「脱水状態は体に悪い」という認識が、パフォーマンスの低下をもたらしているのではないかとも考えられてきた。
これは、自分が脱水状態にあることが分かっていると、パフォーマンスを低下させてしまうのではないかという考え方だ。
このため、これらの要因による影響を取り除けるような形で、今回の研究が実施されたという。
なお、今回の研究は7人を対象とした小規模なものであったが、Kavouras氏は「有意差を検出するための統計学的な検出力は十分だった」と説明している。
運動中にのどの渇きを感じてから飲むという水分補給の仕方では、脱水状態に陥りやすく、パフォーマンスが低下する可能性がある。
米アーカンソー大学水分補給科学研究所所長のStavros Kavouras氏らによる研究から明らかになった。
7人の男性自転車競技選手を対象としたこの研究では、喉は渇いていなくても、胃の中の水分量が不十分な場合、スピードや出力(ペダルをこぐ力)が低下することが分かった。
詳細は「Medicine and Science in Sports and Exercise」3月5日オンライン版に掲載された。
研究では、7人の自転車競技選手に高温で乾燥した環境下(気温35度、湿度30%)で2時間、エルゴメーターのペダルをこいでもらった。
その際、盲検下で流れた汗と同量の水を経鼻胃管により直接胃に補給するか(非脱水群)、脱水状態をもたらす不十分な量の水を補給した(脱水群)。
また、自然な喉の渇きを抑えるために、両群ともに25mL(ティースプーンで約5杯分に相当)の水を5分ごとに飲んでもらった。
さらに、運動のペースが一定に保たれる状態となって2時間後、全ての選手に全速力で5kmの走破時間を競ってもらった。
結果、両群ともにのどの渇きは感じなかったにもかかわらず、脱水群では非脱水群と比べて、ペダルをこぐスピードや出力が低下していた。
また、深部体温も、脱水群では非脱水群と比べて高かった。
この結果について、Kavouras氏は「運動中に十分な量の水を飲み、適切な水分量を維持することが、最良のパフォーマンスと深部体温の調節に不可欠であることが示された」と説明する。
また、運動時の発汗率には個人差があるため、ベストのパフォーマンスを達成するためには、個々のアスリートに適した水分補給の方法を決める必要があることを、同大学のプレスリリースで示している。
なお、Kavouras氏によると、これまで一部の研究者の間では、脱水状態ではなく、のどの渇きそのものが運動時のパフォーマンス低下の主な要因だと考えられていたという。
「これは、のどが渇くと、みじめな気持ちになり、やる気が失われてしまう、という考え方だ」と同氏は説明する。
また、もう一つの要因として「脱水状態は体に悪い」という認識が、パフォーマンスの低下をもたらしているのではないかとも考えられてきた。
これは、自分が脱水状態にあることが分かっていると、パフォーマンスを低下させてしまうのではないかという考え方だ。
このため、これらの要因による影響を取り除けるような形で、今回の研究が実施されたという。
なお、今回の研究は7人を対象とした小規模なものであったが、Kavouras氏は「有意差を検出するための統計学的な検出力は十分だった」と説明している。
動脈硬化のサイン「Non-HDL」 [医療小文]
健診で分かる動脈硬化のサイン Non-HDLコレステロールとは
特定健診に「Non-HDLコレステロール」という項目が導入されると、動脈硬化の指標となる血中コレステロールのバランスがより正確に調べられるようになります。
これまでの健診でコレステロールが正常だった人も、Non-HDLコレステロールでは異常となる場合があるので、いまいちど健診結果を見直してみましょう。
コレステロールのはたらき
油っぽい料理が好きな人に、「コレステロールのとり過ぎには気をつけて」などとよくいいます。
しかし、コレステロールがどういうものかを知っている人は、少ないのではないでしょうか。
コレステロールは、血液中に含まれる脂質の一種です。
細胞膜やホルモン、胆汁酸などを作るのに必要な物質で、体にとってなくてはならないものです。
コレステロールにはさまざまな種類がありますが、健診で主に調べられていたのは「悪玉」とよばれるLDLコレステロールと、「善玉」とよばれるHDLコレステロールです。
LDLコレステロールは、全身にコレステロールを運ぶ役割があり、HDLコレステロールは、体内や血管にたまった余分なコレステロールを肝臓に戻す働きがあります。
加齢などにより、コレステロールのバランスを保つ機能が低下すると、LDLコレステロールと、HDLコレステロールのバランスが崩れます。
とくに、女性は閉経後に女性ホルモンの一種であるエストロゲンが減少すると、LDLコレステロールが高くHDLコレステロールが低くなるといわれています。
また、コレステロールと同じく、血中の脂質の一種である中性脂肪も、食べすぎや運動不足などの生活習慣の悪化によって増えることがあります。
このように、血液中の脂質のバランスが崩れる病気を「脂質異常症」といいます。
動脈硬化を引き起こす危険因子
脂質異常症は、動脈硬化を引き起こす大きな要因です。LDLコレステロールが増加し、HDLコレステロールが減少すると、血管の壁にコレステロールがたまり、プラークというこぶができます。
そうすると、血管が狭くなり、弾力性も失われ、動脈硬化が起こります。
プラークが破れて、血管が狭くなった部分で血栓(血液の塊)ができると血管をふさぐおそれがあります。
また、中性脂肪が増えると、HDLコレステロールを減らして、LDLの動脈硬化性をより高めるために、動脈硬化が進みやすくなることがわかっています。
心臓の血管(冠動脈)や脳の血管で動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を発症し、突然死につながるおそれもあります。
※動脈硬化の危険因子には、脂質異常症のほかに、加齢、喫煙、高血圧、高血糖などがあります。いくつもの危険因子を併せもつことで心筋梗塞や脳梗塞になるリスクが高まります。
さまざまなコレステロールが動脈硬化を進行させる
コレステロールや中性脂肪などの脂質は、そのままでは血液に溶け込むことができないため、「リポ蛋白(タンパク)」という粒子状の物質になって血液になじみ、全身に運ばれます。
リポ蛋白にはLDLやHDLのほかに、カイロミクロンやVLDL(超低比重リポ蛋白)およびそれらが分解されてできるカイロミクロンレムナントやVLDLレムナント(別名IDL(中間比重リポ蛋白))といったものがあります。
これまでの健診では、動脈硬化に影響が大きいとされるLDLコレステロールの値を中心に注目していました。
しかしHDLコレステロールを除く他のリポ蛋白のコレステロールも増えすぎると動脈硬化を進行させることがわかってきました。
新たな指標として注目のNon-HDLコレステロール
LDLコレステロール値は、中性脂肪が高いと測定値の信頼性が低くなるという問題があります。
この問題を解消するために、LDLコレステロール値とともにNon- HDLコレステロール値が新たに使われるようになりました。
また、健診結果表を見たとき、HDLとLDLコレステロールを足しても総コレステロール値にならないと、疑問に思ったことはありませんか。
Non-HDLコレステロールとは、善玉コレステロール(HDL)ではないコレステロールという意味で、(総コレステロールの数値)-(善玉コレステロールの数値) =(non-HDLコレステロール)で示されます。
これはLDLコレステロールとカイロミクロン、VLDL、IDLのコレステロールを合わせた量です。
Non-HDLコレステロールの数値が高いと、HDLコレステロールとLDLコレステロールの数値が正常範囲でも、動脈硬化が進みやすくなり、狭心症や心筋梗塞を起こすリスクが高まることがわかっています。
健診結果のコレステロール値は、こう見る
血液検査によって、血液中に含まれるLDLコレステロールやHDLコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、Non-HDLコレステロールの数値を調べ、いずれかの数値のひとつにでも異常があれば、脂質異常症と診断されます。
この検査は、動脈硬化性疾患の発症予測能が優れているとされています。
※:10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
※※:スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
●LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)または直接法で求める。
●TGが400mg/dLや食後採血の場合はnon-HDL(TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。
ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30 mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」
これまでの健診結果から計算してみよう
Non-HDLコレステロールは、これまでの血液検査の結果から自分で計算することもできます。
たとえば、次の例を見てみましょう。
206mg/dL(総コレステロール)-49mg/dL( HDLコレステロール)=157mg/dL(Non-HDLコレステロール) この値を、前項の「脂質異常症の診断基準」に照らし合わせます。
Aさんは、LDLコレステロールの数値に問題はないものの、Non-HDLコレステロールの値を見ると「境界域高Non-HDLコレステロール血症」の診断となることがわかります。
脂質異常症と診断されたら、医師の指導のもと食事や運動を中心とした生活習慣の改善を行います。
食事療法や運動療法で十分に改善されなかったり、動脈硬化のリスクが高いと判断されたりした場合は、薬による治療を行います。
生活習慣の改善で動脈硬化を防ぐ
動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な病気を防ぐには、毎日の生活習慣を見直すことが大切です。
やめるべき習慣と、取り入れるべき習慣を次に紹介します。
<やめるべき生活習慣>
●たばこ:喫煙により、動脈硬化のリスクが高まることがわかっています。喫煙者は今すぐ禁煙しましょう。たばこを吸わない人も、受動喫煙に注意しましょう。
●食べ過ぎ:食事は腹八分目をこころがけ、適正体重を維持してください。
●油のとり過ぎ:肉の脂身(飽和脂肪酸)や油脂をとり過ぎると、血中の脂質が増えます。
また、バターやラード(飽和脂肪酸)、マーガリンやショートニング(トランス脂肪酸)はLDL(悪玉)コレステロールを増やすので注意しましょう。油は、不飽和脂肪酸のオリーブ油がお勧めです。
●糖質のとり過ぎ:血糖値が上がると、血管の内側が傷つき、動脈硬化のリスクが高まります。
甘い飲み物やお菓子をとり過ぎないようにします。
●お酒の飲み過ぎ:アルコールの過剰摂取は、中性脂肪を増やします。1日あたりビールなら中瓶1本、日本酒なら1合を目安にしてください。
<取り入れるべき生活習慣>
○和食中心の食生活:和食は、野菜、海藻、大豆製品など、食物繊維の豊富な食材の料理です。
食物繊維には、LDL(悪玉)コレステロールを下げる働きがあるので、主食は白米より玄米を選ぶと、より多くの食物繊維をとることができます。
また、和食によく使われる青魚には中性脂肪を低下させる多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。だしを利かせて調理すると、減塩もしやすくなります。
○適度な運動:1日の活動量を増やすことで、HDLコレステロール(善玉)を増やす効果が期待できます。日常生活の中で、歩いたり体を動かしたりする機会をたくさん作るようにしましょう。
監修:平野勉(昭和大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門主任教授)
「みんなの健康ライブラリー」2018年1月掲載より (C)保健同人社
特定健診に「Non-HDLコレステロール」という項目が導入されると、動脈硬化の指標となる血中コレステロールのバランスがより正確に調べられるようになります。
これまでの健診でコレステロールが正常だった人も、Non-HDLコレステロールでは異常となる場合があるので、いまいちど健診結果を見直してみましょう。
コレステロールのはたらき
油っぽい料理が好きな人に、「コレステロールのとり過ぎには気をつけて」などとよくいいます。
しかし、コレステロールがどういうものかを知っている人は、少ないのではないでしょうか。
コレステロールは、血液中に含まれる脂質の一種です。
細胞膜やホルモン、胆汁酸などを作るのに必要な物質で、体にとってなくてはならないものです。
コレステロールにはさまざまな種類がありますが、健診で主に調べられていたのは「悪玉」とよばれるLDLコレステロールと、「善玉」とよばれるHDLコレステロールです。
LDLコレステロールは、全身にコレステロールを運ぶ役割があり、HDLコレステロールは、体内や血管にたまった余分なコレステロールを肝臓に戻す働きがあります。
加齢などにより、コレステロールのバランスを保つ機能が低下すると、LDLコレステロールと、HDLコレステロールのバランスが崩れます。
とくに、女性は閉経後に女性ホルモンの一種であるエストロゲンが減少すると、LDLコレステロールが高くHDLコレステロールが低くなるといわれています。
また、コレステロールと同じく、血中の脂質の一種である中性脂肪も、食べすぎや運動不足などの生活習慣の悪化によって増えることがあります。
このように、血液中の脂質のバランスが崩れる病気を「脂質異常症」といいます。
動脈硬化を引き起こす危険因子
脂質異常症は、動脈硬化を引き起こす大きな要因です。LDLコレステロールが増加し、HDLコレステロールが減少すると、血管の壁にコレステロールがたまり、プラークというこぶができます。
そうすると、血管が狭くなり、弾力性も失われ、動脈硬化が起こります。
プラークが破れて、血管が狭くなった部分で血栓(血液の塊)ができると血管をふさぐおそれがあります。
また、中性脂肪が増えると、HDLコレステロールを減らして、LDLの動脈硬化性をより高めるために、動脈硬化が進みやすくなることがわかっています。
心臓の血管(冠動脈)や脳の血管で動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を発症し、突然死につながるおそれもあります。
※動脈硬化の危険因子には、脂質異常症のほかに、加齢、喫煙、高血圧、高血糖などがあります。いくつもの危険因子を併せもつことで心筋梗塞や脳梗塞になるリスクが高まります。
さまざまなコレステロールが動脈硬化を進行させる
コレステロールや中性脂肪などの脂質は、そのままでは血液に溶け込むことができないため、「リポ蛋白(タンパク)」という粒子状の物質になって血液になじみ、全身に運ばれます。
リポ蛋白にはLDLやHDLのほかに、カイロミクロンやVLDL(超低比重リポ蛋白)およびそれらが分解されてできるカイロミクロンレムナントやVLDLレムナント(別名IDL(中間比重リポ蛋白))といったものがあります。
これまでの健診では、動脈硬化に影響が大きいとされるLDLコレステロールの値を中心に注目していました。
しかしHDLコレステロールを除く他のリポ蛋白のコレステロールも増えすぎると動脈硬化を進行させることがわかってきました。
新たな指標として注目のNon-HDLコレステロール
LDLコレステロール値は、中性脂肪が高いと測定値の信頼性が低くなるという問題があります。
この問題を解消するために、LDLコレステロール値とともにNon- HDLコレステロール値が新たに使われるようになりました。
また、健診結果表を見たとき、HDLとLDLコレステロールを足しても総コレステロール値にならないと、疑問に思ったことはありませんか。
Non-HDLコレステロールとは、善玉コレステロール(HDL)ではないコレステロールという意味で、(総コレステロールの数値)-(善玉コレステロールの数値) =(non-HDLコレステロール)で示されます。
これはLDLコレステロールとカイロミクロン、VLDL、IDLのコレステロールを合わせた量です。
Non-HDLコレステロールの数値が高いと、HDLコレステロールとLDLコレステロールの数値が正常範囲でも、動脈硬化が進みやすくなり、狭心症や心筋梗塞を起こすリスクが高まることがわかっています。
健診結果のコレステロール値は、こう見る
血液検査によって、血液中に含まれるLDLコレステロールやHDLコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、Non-HDLコレステロールの数値を調べ、いずれかの数値のひとつにでも異常があれば、脂質異常症と診断されます。
この検査は、動脈硬化性疾患の発症予測能が優れているとされています。
※:10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。
※※:スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。
●LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)または直接法で求める。
●TGが400mg/dLや食後採血の場合はnon-HDL(TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。
ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30 mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。
出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」
これまでの健診結果から計算してみよう
Non-HDLコレステロールは、これまでの血液検査の結果から自分で計算することもできます。
たとえば、次の例を見てみましょう。
206mg/dL(総コレステロール)-49mg/dL( HDLコレステロール)=157mg/dL(Non-HDLコレステロール) この値を、前項の「脂質異常症の診断基準」に照らし合わせます。
Aさんは、LDLコレステロールの数値に問題はないものの、Non-HDLコレステロールの値を見ると「境界域高Non-HDLコレステロール血症」の診断となることがわかります。
脂質異常症と診断されたら、医師の指導のもと食事や運動を中心とした生活習慣の改善を行います。
食事療法や運動療法で十分に改善されなかったり、動脈硬化のリスクが高いと判断されたりした場合は、薬による治療を行います。
生活習慣の改善で動脈硬化を防ぐ
動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な病気を防ぐには、毎日の生活習慣を見直すことが大切です。
やめるべき習慣と、取り入れるべき習慣を次に紹介します。
<やめるべき生活習慣>
●たばこ:喫煙により、動脈硬化のリスクが高まることがわかっています。喫煙者は今すぐ禁煙しましょう。たばこを吸わない人も、受動喫煙に注意しましょう。
●食べ過ぎ:食事は腹八分目をこころがけ、適正体重を維持してください。
●油のとり過ぎ:肉の脂身(飽和脂肪酸)や油脂をとり過ぎると、血中の脂質が増えます。
また、バターやラード(飽和脂肪酸)、マーガリンやショートニング(トランス脂肪酸)はLDL(悪玉)コレステロールを増やすので注意しましょう。油は、不飽和脂肪酸のオリーブ油がお勧めです。
●糖質のとり過ぎ:血糖値が上がると、血管の内側が傷つき、動脈硬化のリスクが高まります。
甘い飲み物やお菓子をとり過ぎないようにします。
●お酒の飲み過ぎ:アルコールの過剰摂取は、中性脂肪を増やします。1日あたりビールなら中瓶1本、日本酒なら1合を目安にしてください。
<取り入れるべき生活習慣>
○和食中心の食生活:和食は、野菜、海藻、大豆製品など、食物繊維の豊富な食材の料理です。
食物繊維には、LDL(悪玉)コレステロールを下げる働きがあるので、主食は白米より玄米を選ぶと、より多くの食物繊維をとることができます。
また、和食によく使われる青魚には中性脂肪を低下させる多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。だしを利かせて調理すると、減塩もしやすくなります。
○適度な運動:1日の活動量を増やすことで、HDLコレステロール(善玉)を増やす効果が期待できます。日常生活の中で、歩いたり体を動かしたりする機会をたくさん作るようにしましょう。
監修:平野勉(昭和大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門主任教授)
「みんなの健康ライブラリー」2018年1月掲載より (C)保健同人社