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肥満は伝染する? [医学・医療・雑感小文]

 太りすぎの友人が多いと、自分も太りすぎる可能性が高くなる。

 つまり、肥満は感染症と同じく、伝染する。

 本当なの?という人もいるだろう。

 でも、この話、今年のノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大のリチャード・セイラー教授が共著書「実践行動経済学」で紹介している立派な研究の一つなのだ。

 肥満の病原体があるわけではない。

 人は無意識に他人の行動をまねる性質があり、一緒に食事する人の食習慣に引きずられるからだという。

 では、なぜ、人間は他人の行動に同調してしまいがちなのか。

 行動経済学に詳しい大阪大の大竹文雄教授は、進化の過程で、生存に有利に働いたからではないかと語る。

 人類は集団で生活し、仲間たちと協力することで、生き延びてきたからだ。

 ダイエットをしようと思っていても、目の前のおやつをつい食べてしまう。

 利益を得る喜びより、失う恐怖の方が大きい。

 そんな特性も、我々の祖先が今を生き抜くことに力を注いだことで身についた、と考えれば分かりやすい。

 セイラー教授は、人間のこうした一見不合理な行動や心理を経済学と結びつけて理論化した。

 最大の成果が「ナッジ」という考え方だ。

 「ナッジ」は軽く肘でつつくという意味で、選択肢の文章や提示の順番を変えることなどで、人々の行動を良い方向へ誘導することを狙う。

 英国では、税金の滞納者に「ほとんどの納税者が期限内に納税を済ませている」と伝える手紙を送ったところ、納税率が上がった。

 人間の同調性に働きかけたわけだ。

 日本でも環境省が地球温暖化対策のため、ナッジを活用した実証事業を始めた。

 電気やガスの使用量を事業の対象世帯に通知する際に、似た家族構成の世帯の使用量を併せて伝えたり、カーテンで冷気を遮断すると年間1000円節約できるといった省エネアドバイスを添えたりする。
 米国などでは、同様のナッジによって、数%の省エネ効果が確認できたという。

 個人の選択や行動を法律でしばることなく、紙一枚の通知で省エネが進むのなら、費用対効果は極めて高い。

 環境省の担当者は「国の予算措置が終わっても、根付く仕組みにしたい」と語る。

 セイラー教授はナッジを使う前提として「政府が正当性を主張できない政策を選択してはならない」と強調する。

 それでも、為政者がナッジを都合よく使うのではないかという懸念は残る。

 人類が進化の過程で身につけた特性をナッジが巧妙に突くのだとすれば、なおさらだ。

 大竹教授は「ナッジの導入が進めば、会計検査院が政府予算の使い方を検査するように、規制のあり方をチェックする組織が必要になる」と言う。

 今後の重要な政策課題だと思う。

 鴨志田公男(毎日新聞 論説委員)=2017年12月28日東京朝刊による
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