たばこに関する異論・反論(1) [医学・医療・雑感小文]
たばこに関する異論・反論(1)
国立がん研究センターは31日、たばこを吸わない日本人の受動喫煙による肺がんのリスクは、受動喫煙のない人に比べて約1・3倍高いとの解析結果を発表した。(毎日新聞2016年8月31日 東京朝刊)
「なんだ、たったの1・3倍か?」
科学オンチの楽天ジジイは、チラッとそう思う。
ひとくちに「1・3倍」といっても、どれくらいの頻度で、他人のたばこの煙を吸わされた場合なのか?
記事の後段はこういっている。
「同センターは、日本人の受動喫煙と肺がんの関連を報告した426本の論文のうち、非喫煙者の女性の肺がん発症と夫の喫煙状況を調べた研究など1984~2013年に発表された9本を統合して解析した。この結果、家庭内で受動喫煙がある人は、ない人に比べて肺がんになるリスクが1・3倍高くなり、海外の解析結果と同様だった。」
なるほど。つまり、たばこを吸う男のおくさんはやばいヨ、というわけだ。
ただ、その場合も、どれくらいの期間、どれくらいの量を吸わされた結果なのか?
肺がんになったおくさんと、ならないおくさんとでは、どういった違いがあるのか?
こまかくセンサクしはじめると、ギモンはふくらむばかりである。
むろん、たばこの害悪は自明の事実なのだろうが、なにごとにも異論・反論は存在する。
10年ほど前の雑誌、『文藝春秋』に掲載された、「変な国・日本の禁煙原理主義」と題する養老孟司(解剖学者)と山崎正和(劇作家)両先生の対談記事をお読みいただこう。
◎「たばこは肺がんの原因」はホントか?
山崎 最近この国はまたおかしなことになってきていると思いませんか。
─略―
国家が個人にお節介を焼こうとする傾向が年々強まっている。
真っ先に思い当たるのが、今日のテーマでもある「健康増進法」です。いま流行りのメタボリック・シンドロームも、日本中に急速に普及しつつある禁煙主義も、元をたどれば全部この法律に行き着きます。
─略─
今日は医学者で愛煙家でもある養老さんをお迎えして、この健康至上主義のおかしさを話し合いたいと思っているんですが。
養老 愛煙家であるのは確かですが、医学者とはいっても解剖学ですから、医学界では最も役に立たないと言われています(笑)。
しかしね、私は現代医学ってそれほど役に立つのか、と逆に問いたい。
たとえば、「たばこの害は医学的に証明された」と言いますね。この「医学的に証明された」がクセモノで、実際のところ、証明なんて言うのもおこがましい状態なんです。
そもそも私はいつも言うんですが、「肺がんの原因がたばこである」と医学的に証明できたらノーベル賞ものですよ。
がんというのは細胞が突然変異を起こし、増殖が止まらなくなる病気でしょう。その暴走が起きるか起きないかは遺伝子が関わっている。つまり、根本的には遺伝的な病なのです。
トランプのストレートフラッシュのように、五枚の手札が揃ったら、がんになるとしましょう。遺伝的に四枚揃って生まれてくる人もいれば、一組もカードが揃わず生まれてくる人もいるわけです。
つまり、カードが揃っていない人は、たばこを吸っても肺がんにはならない。逆にカードが揃っている人は、禁煙していてもがんになってしまう。
医学論文なんて恣意的に数字を選んで結論を導きだすものですから、絶対的な信用はおけないと、医者たちはいやというほどわかっているんですよ。
山崎 とりわけ疫学には問題がありそうですね。
養老 たばこのパッケージに「健康のため吸いすぎに注意しましょう」と書かれていた警告表示がいま、やたらにデカデカと脅迫的な文言に変わっていますね。
二年ほど前にWHOの「たばこ規制枠組み条約」が発効したのを機に、直接喫煙による警告として肺がん、心筋梗塞、脳卒中、肺気腫の四種、それ以外に妊婦の喫煙、受動喫煙、依存、未成年者の喫煙についての警告が表示されるようになった。
ところが、その文言をみると「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」とか「喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます」とか曖昧な文言になっている。
じつはあれを決めた一人が東大の後輩なんですが、医者仲間で集まったときに「根拠は何だ」「因果関係は立証されているのか」と彼を問い詰めたらたじたじでしたよ(笑)。
─つづきは、明日。
国立がん研究センターは31日、たばこを吸わない日本人の受動喫煙による肺がんのリスクは、受動喫煙のない人に比べて約1・3倍高いとの解析結果を発表した。(毎日新聞2016年8月31日 東京朝刊)
「なんだ、たったの1・3倍か?」
科学オンチの楽天ジジイは、チラッとそう思う。
ひとくちに「1・3倍」といっても、どれくらいの頻度で、他人のたばこの煙を吸わされた場合なのか?
記事の後段はこういっている。
「同センターは、日本人の受動喫煙と肺がんの関連を報告した426本の論文のうち、非喫煙者の女性の肺がん発症と夫の喫煙状況を調べた研究など1984~2013年に発表された9本を統合して解析した。この結果、家庭内で受動喫煙がある人は、ない人に比べて肺がんになるリスクが1・3倍高くなり、海外の解析結果と同様だった。」
なるほど。つまり、たばこを吸う男のおくさんはやばいヨ、というわけだ。
ただ、その場合も、どれくらいの期間、どれくらいの量を吸わされた結果なのか?
肺がんになったおくさんと、ならないおくさんとでは、どういった違いがあるのか?
こまかくセンサクしはじめると、ギモンはふくらむばかりである。
むろん、たばこの害悪は自明の事実なのだろうが、なにごとにも異論・反論は存在する。
10年ほど前の雑誌、『文藝春秋』に掲載された、「変な国・日本の禁煙原理主義」と題する養老孟司(解剖学者)と山崎正和(劇作家)両先生の対談記事をお読みいただこう。
◎「たばこは肺がんの原因」はホントか?
山崎 最近この国はまたおかしなことになってきていると思いませんか。
─略―
国家が個人にお節介を焼こうとする傾向が年々強まっている。
真っ先に思い当たるのが、今日のテーマでもある「健康増進法」です。いま流行りのメタボリック・シンドロームも、日本中に急速に普及しつつある禁煙主義も、元をたどれば全部この法律に行き着きます。
─略─
今日は医学者で愛煙家でもある養老さんをお迎えして、この健康至上主義のおかしさを話し合いたいと思っているんですが。
養老 愛煙家であるのは確かですが、医学者とはいっても解剖学ですから、医学界では最も役に立たないと言われています(笑)。
しかしね、私は現代医学ってそれほど役に立つのか、と逆に問いたい。
たとえば、「たばこの害は医学的に証明された」と言いますね。この「医学的に証明された」がクセモノで、実際のところ、証明なんて言うのもおこがましい状態なんです。
そもそも私はいつも言うんですが、「肺がんの原因がたばこである」と医学的に証明できたらノーベル賞ものですよ。
がんというのは細胞が突然変異を起こし、増殖が止まらなくなる病気でしょう。その暴走が起きるか起きないかは遺伝子が関わっている。つまり、根本的には遺伝的な病なのです。
トランプのストレートフラッシュのように、五枚の手札が揃ったら、がんになるとしましょう。遺伝的に四枚揃って生まれてくる人もいれば、一組もカードが揃わず生まれてくる人もいるわけです。
つまり、カードが揃っていない人は、たばこを吸っても肺がんにはならない。逆にカードが揃っている人は、禁煙していてもがんになってしまう。
医学論文なんて恣意的に数字を選んで結論を導きだすものですから、絶対的な信用はおけないと、医者たちはいやというほどわかっているんですよ。
山崎 とりわけ疫学には問題がありそうですね。
養老 たばこのパッケージに「健康のため吸いすぎに注意しましょう」と書かれていた警告表示がいま、やたらにデカデカと脅迫的な文言に変わっていますね。
二年ほど前にWHOの「たばこ規制枠組み条約」が発効したのを機に、直接喫煙による警告として肺がん、心筋梗塞、脳卒中、肺気腫の四種、それ以外に妊婦の喫煙、受動喫煙、依存、未成年者の喫煙についての警告が表示されるようになった。
ところが、その文言をみると「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」とか「喫煙は、あなたにとって心筋梗塞の危険性を高めます」とか曖昧な文言になっている。
じつはあれを決めた一人が東大の後輩なんですが、医者仲間で集まったときに「根拠は何だ」「因果関係は立証されているのか」と彼を問い詰めたらたじたじでしたよ(笑)。
─つづきは、明日。
女性の悲しみ [医学・医療・雑感小文]
女性の悲しみ
大森安恵・海老名総合病院糖尿病センター長(東京女子医大名誉教授)は、1956年に東京女子医科大学を卒業した。
そのころは「糖尿病があったら妊娠してはいけない。生んではいけない」といわれていた。
数年後、若い大森医師は、死産のあと糖尿病とわかって産科から回されてきた患者を担当した。
悲嘆に沈む同性の姿に接し、
「こんな悲しい思いを女性にさせていることに男性医師は気づかず、長いあいだ放置してきたのだ」と思い至った。
「女性の悲しみは、女性が解決しなければならない。
私の医学的ライフワークは『糖尿病と妊娠』にしようと決意しました」
大森先生はそう話した。
診断薬・診断機器メーカー、ロシュ・ダイアグノスティックス主催のシンポジウム「妊産婦を守る」で──。
言うまでもないことだが、
「糖尿病の女性は生んではいけない」など大間違いだ。
血糖コントロールをし、「計画妊娠」をすれば、大丈夫。
「糖尿病の合併症から母児を守るためには、まず妊娠の可能性がある女性は、検診を受けることです。
特に家族に糖尿病がある人は必須です」と大森先生。
先年、医療情報誌『JMS JAPAN MEDICAL SOCIETY』で、大森先生の話を読んだ。
畏敬する先輩、伊藤正治さんが同誌に長期連載したインタビュー形式の医人列伝「Medical Who‘s Who」の118人目の登場者が、大森先生だった。
一部をご紹介する。
<私が医師になりたてのころ、年配の患者さんから、「お前が診るんか?」と女医であることにあからさまな不信の言葉をぶつけられ、悔し泣きしたことがあります。給料も女医は男性の6割という有り様でした。>
<男性が失敗しても、「だから男はダメだ」とは決して言われないのに、女性の場合は「だから女はダメだ」と言われます。
そう言われないために人の3倍働こうと思い、大学の医局に入ってから定年退職するまで、朝早く出勤し、一番遅くまで仕事をしてきました。>(『JMS』2012年4月号)
大森先生の座右の銘は、
「まて己 咲かで散りなば 何が梅」。
若き日の野口英世が、刻苦勉励の修行時代に詠んだ句だそうだ。
大森安恵・海老名総合病院糖尿病センター長(東京女子医大名誉教授)は、1956年に東京女子医科大学を卒業した。
そのころは「糖尿病があったら妊娠してはいけない。生んではいけない」といわれていた。
数年後、若い大森医師は、死産のあと糖尿病とわかって産科から回されてきた患者を担当した。
悲嘆に沈む同性の姿に接し、
「こんな悲しい思いを女性にさせていることに男性医師は気づかず、長いあいだ放置してきたのだ」と思い至った。
「女性の悲しみは、女性が解決しなければならない。
私の医学的ライフワークは『糖尿病と妊娠』にしようと決意しました」
大森先生はそう話した。
診断薬・診断機器メーカー、ロシュ・ダイアグノスティックス主催のシンポジウム「妊産婦を守る」で──。
言うまでもないことだが、
「糖尿病の女性は生んではいけない」など大間違いだ。
血糖コントロールをし、「計画妊娠」をすれば、大丈夫。
「糖尿病の合併症から母児を守るためには、まず妊娠の可能性がある女性は、検診を受けることです。
特に家族に糖尿病がある人は必須です」と大森先生。
先年、医療情報誌『JMS JAPAN MEDICAL SOCIETY』で、大森先生の話を読んだ。
畏敬する先輩、伊藤正治さんが同誌に長期連載したインタビュー形式の医人列伝「Medical Who‘s Who」の118人目の登場者が、大森先生だった。
一部をご紹介する。
<私が医師になりたてのころ、年配の患者さんから、「お前が診るんか?」と女医であることにあからさまな不信の言葉をぶつけられ、悔し泣きしたことがあります。給料も女医は男性の6割という有り様でした。>
<男性が失敗しても、「だから男はダメだ」とは決して言われないのに、女性の場合は「だから女はダメだ」と言われます。
そう言われないために人の3倍働こうと思い、大学の医局に入ってから定年退職するまで、朝早く出勤し、一番遅くまで仕事をしてきました。>(『JMS』2012年4月号)
大森先生の座右の銘は、
「まて己 咲かで散りなば 何が梅」。
若き日の野口英世が、刻苦勉励の修行時代に詠んだ句だそうだ。
計画妊娠 [医学・医療・雑感小文]
計画妊娠
糖尿病はかなり進行するまで痛くもかゆくもない。無症状だ。
そのため糖尿病に気づかないまま妊娠し、妊婦健診で糖尿病とわかったときは、すでに失明寸前の網膜症だったり、重い腎症だったりする人さえある。
網膜症は、妊娠によるさまざまなホルモンの影響を受けて、さらに悪化する。
腎症のある人では、胎児の発育が遅れ、母体は子癇(しかん)前症という重い合併症を発症する。
網膜症や腎症はないか確かめ、あればその対策を立てた上で妊娠することが大切だ。
血糖値が高いまま妊娠すると、奇形の頻度も高くなる。
血糖をきちんとコントロールしてからの「計画妊娠」が望ましい。
だが現実は、妊娠してからようやく血糖コントロールを始める人がとても多い。
大森安恵・海老名総合病院糖尿病センター長は、東京女子医大の教授だった1975年ごろから「計画妊娠」の必要性を強く訴えてきた。
子どものころからの主治医がいる1型糖尿病の人の80%は計画妊娠しているが、2型糖尿病で計画妊娠する人はほとんどいないという。
糖尿病はかなり進行するまで痛くもかゆくもない。無症状だ。
そのため糖尿病に気づかないまま妊娠し、妊婦健診で糖尿病とわかったときは、すでに失明寸前の網膜症だったり、重い腎症だったりする人さえある。
網膜症は、妊娠によるさまざまなホルモンの影響を受けて、さらに悪化する。
腎症のある人では、胎児の発育が遅れ、母体は子癇(しかん)前症という重い合併症を発症する。
網膜症や腎症はないか確かめ、あればその対策を立てた上で妊娠することが大切だ。
血糖値が高いまま妊娠すると、奇形の頻度も高くなる。
血糖をきちんとコントロールしてからの「計画妊娠」が望ましい。
だが現実は、妊娠してからようやく血糖コントロールを始める人がとても多い。
大森安恵・海老名総合病院糖尿病センター長は、東京女子医大の教授だった1975年ごろから「計画妊娠」の必要性を強く訴えてきた。
子どものころからの主治医がいる1型糖尿病の人の80%は計画妊娠しているが、2型糖尿病で計画妊娠する人はほとんどいないという。
妊娠糖尿病 [医学・医療・雑感小文]
妊娠糖尿病
最近「駆け込み出産」が増えていると聞いて、「大森先生が胸を痛めておられるだろうな」と思った。
大森安恵・海老名総合病院糖尿病センター長は、「妊娠糖尿病」の国際的な定義を変えた医学者だ。
従来、妊婦の糖尿病は、妊娠前からの糖尿病も、妊娠をきっかけに発症した糖尿病もどちらも「妊娠糖尿病」とされていた。
大森先生は、東京女子医大の教授時代から、これを分けるべきだと強く主張し続けてきた。
内外の医学界もようやくそれを認め、2008年6月の国際糖尿病・妊娠学会で定義が変わり、
妊娠をきっかけに血糖値が高くなったものだけを「妊娠糖尿病」と呼び、
妊娠前からの糖尿病と、妊娠中に糖尿病とわかったものは「糖尿病合併妊娠」とされることになった。
糖尿病合併妊娠で血糖コントロールが不良だと、胎児に奇形が生じ、母親は網膜症や腎症を発症する確率が高くなる。
だが妊娠糖尿病では巨大児分娩は多いが、そうした心配はあまりない。
とはいえ、駆け込み出産では、それらを見つけることさえできない。
最近「駆け込み出産」が増えていると聞いて、「大森先生が胸を痛めておられるだろうな」と思った。
大森安恵・海老名総合病院糖尿病センター長は、「妊娠糖尿病」の国際的な定義を変えた医学者だ。
従来、妊婦の糖尿病は、妊娠前からの糖尿病も、妊娠をきっかけに発症した糖尿病もどちらも「妊娠糖尿病」とされていた。
大森先生は、東京女子医大の教授時代から、これを分けるべきだと強く主張し続けてきた。
内外の医学界もようやくそれを認め、2008年6月の国際糖尿病・妊娠学会で定義が変わり、
妊娠をきっかけに血糖値が高くなったものだけを「妊娠糖尿病」と呼び、
妊娠前からの糖尿病と、妊娠中に糖尿病とわかったものは「糖尿病合併妊娠」とされることになった。
糖尿病合併妊娠で血糖コントロールが不良だと、胎児に奇形が生じ、母親は網膜症や腎症を発症する確率が高くなる。
だが妊娠糖尿病では巨大児分娩は多いが、そうした心配はあまりない。
とはいえ、駆け込み出産では、それらを見つけることさえできない。
イップスとギャバ [医学・医療・雑感小文]
イップスとギャバ
すこし前のことになるが、毎日新聞8月24日、東京版夕刊のコラム「憂楽帳」で興味深い記事を読んだ。
全文を引用させていただく。
*
夏の高校野球を伝える記事の中で、何度も読み返した話がある。青森・八戸学院光星高の控え選手で、応援団長を務めた山田鈴星(りんせい)さんの記事(15日付朝刊社会面)だ。読むたびに昔の自分を思い出し、胸が苦しくなった。
山田さんは「イップス」という運動障害に悩まされた。上級生相手に打撃投手をした時、「どのタイミングでボールから手を離せばよいのか分からない」という恐怖心がわき起こり、うまくボールを投げられなくなったという。30年以上前に球児だった私も、変化球を投げている時にボールが指にかかる感覚が分からなくなり、その後はいくら練習しても完治しなかった。
「子犬がほえる」という意味の英語「yip」が語源とされる。不安や緊張、恐怖で体が硬直したり、震えたりする。野球に加え、ゴルフやテニス、卓球、弓道、アーチェリー、ダーツなど手先を使うスポーツに多く見られる症状だという。
心と体のつながりは複雑だ。スポーツ選手を苦しめる「謎の病」を退治する処方箋がほしい。【滝口隆司】
*
精神的原因によりスポーツの動作に支障をきたし、思い通りのプレーができなくなる運動障害=イップスに陥ると、一流のアスリートでも実力が発揮できない。
これに対するギャバ(GABA)の効果を試した実験がある。
ギャバは、アミノ酸の一種で正式な名称はγ-アミノ酪酸。英語のGamma Amino Butyric Acidを略してGABA(ギャバ)。
アミノ酸といえば、たんぱく質を構成する成分を指すのが普通だが、ギャバはそれらとは異なり、主に脳や脊髄ではたらく「抑制系の神経伝達物質」である。
脳の興奮を鎮め、ストレスをやわらげるリラックス効果、抗ストレス作用、脳細胞の代謝活性化作用などが明らかにされている。
ギャバが不足すると、興奮系の神経伝達物質が過剰に分泌するのを抑えることができなくなり、精神的な緊張感が続いてしまう。
大井静雄・東京慈恵医大教授(脳神経外科)らは、ゴルファーのイップスにギャバが有効であるかどうかを検証する試験を行った。
兵庫県・上月コースで行われた試験には、30歳代~60歳代の男性20人(平均ゴルフ歴21.2年。平均ハンディ22.1)が参加した。
試験方法は、集合時にギャバ錠60㍉㌘を摂取、前半9ホールのラウンド中にギャバ100㍉㌘含有のスポーツドリンクを飲み、9ホールでギャバ錠60㍉㌘を摂取。
後半11ホール、13ホール、15ホール、17ホールでギャバチョコを2粒ずつ(ギャバ量14㍉㌘)食べて、適宜、ギャバドリンクを飲んだ。
ギャバの総摂取量は376㍉㌘だった。
結果はどうだったか。
ゴルファー自身の自己評価をみると、ギャバ効果が「大いにあった」+「まずまずあったと思われる」が、ドライバーでは43%、ショートアイアンやアプローチ、パッティングでは50%、全ホールを通じては79%。
イップス(精神的緊張による失敗)の予防効果を認めた人は93%だった。
「謎の病の処方箋」の一例とは言えまいか。
すこし前のことになるが、毎日新聞8月24日、東京版夕刊のコラム「憂楽帳」で興味深い記事を読んだ。
全文を引用させていただく。
*
夏の高校野球を伝える記事の中で、何度も読み返した話がある。青森・八戸学院光星高の控え選手で、応援団長を務めた山田鈴星(りんせい)さんの記事(15日付朝刊社会面)だ。読むたびに昔の自分を思い出し、胸が苦しくなった。
山田さんは「イップス」という運動障害に悩まされた。上級生相手に打撃投手をした時、「どのタイミングでボールから手を離せばよいのか分からない」という恐怖心がわき起こり、うまくボールを投げられなくなったという。30年以上前に球児だった私も、変化球を投げている時にボールが指にかかる感覚が分からなくなり、その後はいくら練習しても完治しなかった。
「子犬がほえる」という意味の英語「yip」が語源とされる。不安や緊張、恐怖で体が硬直したり、震えたりする。野球に加え、ゴルフやテニス、卓球、弓道、アーチェリー、ダーツなど手先を使うスポーツに多く見られる症状だという。
心と体のつながりは複雑だ。スポーツ選手を苦しめる「謎の病」を退治する処方箋がほしい。【滝口隆司】
*
精神的原因によりスポーツの動作に支障をきたし、思い通りのプレーができなくなる運動障害=イップスに陥ると、一流のアスリートでも実力が発揮できない。
これに対するギャバ(GABA)の効果を試した実験がある。
ギャバは、アミノ酸の一種で正式な名称はγ-アミノ酪酸。英語のGamma Amino Butyric Acidを略してGABA(ギャバ)。
アミノ酸といえば、たんぱく質を構成する成分を指すのが普通だが、ギャバはそれらとは異なり、主に脳や脊髄ではたらく「抑制系の神経伝達物質」である。
脳の興奮を鎮め、ストレスをやわらげるリラックス効果、抗ストレス作用、脳細胞の代謝活性化作用などが明らかにされている。
ギャバが不足すると、興奮系の神経伝達物質が過剰に分泌するのを抑えることができなくなり、精神的な緊張感が続いてしまう。
大井静雄・東京慈恵医大教授(脳神経外科)らは、ゴルファーのイップスにギャバが有効であるかどうかを検証する試験を行った。
兵庫県・上月コースで行われた試験には、30歳代~60歳代の男性20人(平均ゴルフ歴21.2年。平均ハンディ22.1)が参加した。
試験方法は、集合時にギャバ錠60㍉㌘を摂取、前半9ホールのラウンド中にギャバ100㍉㌘含有のスポーツドリンクを飲み、9ホールでギャバ錠60㍉㌘を摂取。
後半11ホール、13ホール、15ホール、17ホールでギャバチョコを2粒ずつ(ギャバ量14㍉㌘)食べて、適宜、ギャバドリンクを飲んだ。
ギャバの総摂取量は376㍉㌘だった。
結果はどうだったか。
ゴルファー自身の自己評価をみると、ギャバ効果が「大いにあった」+「まずまずあったと思われる」が、ドライバーでは43%、ショートアイアンやアプローチ、パッティングでは50%、全ホールを通じては79%。
イップス(精神的緊張による失敗)の予防効果を認めた人は93%だった。
「謎の病の処方箋」の一例とは言えまいか。
ほくろのがん! [医学・医療・雑感小文]
ほくろのがん!
素人判断の安易なほくろとりは非常に危険! 生命にかかわることがある。
ほくろに見えて、ほくろではない、メラノーマ(悪性黒色腫)があるからだ。
52歳の男性。
子どものころからあった右足太もものほくろが、少し盛り上がり、色が濃くなった。
針でつついてみたら、形がくずれたように見えたので、皮膚科へ行った。
ほくろだろうと言われて切除したが、組織検査でメラノーマとわかり、国立がんセンターを紹介された。
その間わずか十数日、すでに右足付け根のリンパ節が腫れていた。
それから1年数カ月、あらゆる治療法を総動員して〝黒い悪魔〟に挑んだが、勝つことができなかった。
小さなほくろ1個を気まぐれにいじったツケは余りにも大きかった。
「形や色が変わったことに気づいたとき、すぐさま専門医を受診し、ほくろの周囲を広く切除すれば、なんでもなく一件落着したはずです」
メラノーマの研究・治療で世界的に知られる石原和之先生の警告。
いたずらにほくろをいじるなかれ!
素人判断の安易なほくろとりは非常に危険! 生命にかかわることがある。
ほくろに見えて、ほくろではない、メラノーマ(悪性黒色腫)があるからだ。
52歳の男性。
子どものころからあった右足太もものほくろが、少し盛り上がり、色が濃くなった。
針でつついてみたら、形がくずれたように見えたので、皮膚科へ行った。
ほくろだろうと言われて切除したが、組織検査でメラノーマとわかり、国立がんセンターを紹介された。
その間わずか十数日、すでに右足付け根のリンパ節が腫れていた。
それから1年数カ月、あらゆる治療法を総動員して〝黒い悪魔〟に挑んだが、勝つことができなかった。
小さなほくろ1個を気まぐれにいじったツケは余りにも大きかった。
「形や色が変わったことに気づいたとき、すぐさま専門医を受診し、ほくろの周囲を広く切除すれば、なんでもなく一件落着したはずです」
メラノーマの研究・治療で世界的に知られる石原和之先生の警告。
いたずらにほくろをいじるなかれ!
乳ぜり泣く子 [医学・医療・雑感小文]
乳ぜり泣く子
「このごろ、娘の夜泣きで寝不足気味」と若い父親からメール。
1歳8カ月。乳離れして約1カ月、よく寝る日と寝ない日(朝5時くらいまで)があるという。
夜泣きは、乳児の知恵の発達に伴って起こる。
昼間の刺激がいろいろ多くなると、興奮が夜間に再生されて、泣く。
特に生活リズムが乱されたとき、たとえば旅行、見知らぬ人との接触、環境の変化…。
暑さ寒さも夜泣きの原因になる。
「夜泣きとわかれば心配はいらない。
抱いて軽くたたいてあやしたり、番茶か果汁のような水分を与える。
衣服の着せすぎに注意。
大切なことは親がイライラしないこと。
夜泣きは病気ではなく、そのうち必ず泣かなくなる」
と、小児科医は解説している。
名句がある。
短夜(みじかよ)や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎(すてっちまおか) 竹下しづの女
「捨てたいと思うか?」と送信したら、
「まさか! 子どものためなら死んでもいいデス」と返ってきた。
英語のダジャレは照れ隠し。世の親たちの思いもみな同じだろう。
「須可捨焉乎」は愛に裏打ちされた反語なのだ。
「このごろ、娘の夜泣きで寝不足気味」と若い父親からメール。
1歳8カ月。乳離れして約1カ月、よく寝る日と寝ない日(朝5時くらいまで)があるという。
夜泣きは、乳児の知恵の発達に伴って起こる。
昼間の刺激がいろいろ多くなると、興奮が夜間に再生されて、泣く。
特に生活リズムが乱されたとき、たとえば旅行、見知らぬ人との接触、環境の変化…。
暑さ寒さも夜泣きの原因になる。
「夜泣きとわかれば心配はいらない。
抱いて軽くたたいてあやしたり、番茶か果汁のような水分を与える。
衣服の着せすぎに注意。
大切なことは親がイライラしないこと。
夜泣きは病気ではなく、そのうち必ず泣かなくなる」
と、小児科医は解説している。
名句がある。
短夜(みじかよ)や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎(すてっちまおか) 竹下しづの女
「捨てたいと思うか?」と送信したら、
「まさか! 子どものためなら死んでもいいデス」と返ってきた。
英語のダジャレは照れ隠し。世の親たちの思いもみな同じだろう。
「須可捨焉乎」は愛に裏打ちされた反語なのだ。