老化を促進する危険因子 [医療小文]
老化や病気の原因「糖化ストレス」を防ぐには
米井嘉一 / 同志社大学教授
みなさんはホットケーキを作ったことがあると思います。
ホットケーキの生地は、初めは小麦粉などを水に溶いたものですね。
これにフライパンで熱を加えると、こんがりときつね色に変化して、こうばしい良い香りがします。
これは、でんぷん(炭水化物)とたんぱく質が「糖化反応」をして終末糖化産物(AGEs)ができた結果です。
AGEsは元々、食品から見つかったものなのです。
今では200種類以上が知られています。
食品中のAGEsは心配無用
「AGEsなら食べたらダメなんじゃないか」と思う人もいるでしょう。
実際に「一切AGEsを食べるな!」という過激な意見を言う人もいます。
でも、食べ物に含まれるAGEsを目の敵にする必要はありません。
食品中のAGEsの中には、味や香りをよくしたり、血圧の上昇を防いだり、酸化を防いだり、防腐剤として働いたりする成分があります。
さらに、糖化ストレスを抑制する働きを持つものもあるのです。
糖化ストレスとは「血中の糖や脂肪、有害物質であるアルデヒドの値が高い状態」です。
避ける必要があるのは、焦げた肉や古い油で揚げた物に微量に含まれる「アクリルアミド」と呼ばれる悪いAGEsです。
食べ物に含まれるAGEsに対しては過剰に反応しなくてもいいのですが、体内で生成されるAGEsは病気や老化の原因になります。
ですから、必要な人はAGEsを作る糖化ストレス対策を取らなくてはいけません。
糖化ストレスは簡単に評価できる
糖化ストレス対策が必要な人は、どのような人でしょうか。あまり知られていませんが、糖化ストレスは簡単に評価できるのです。
最も正確に評価するためには、血液や尿の中のアルデヒド、AGEsを測る方法があります。
でも、検査にはお金がかかりますし、血液検査は採血の不快感もあります。
そこでお勧めしたいのが、皮膚にたまったAGEsを測定する方法です。
AGEsの中には、特定の光を当てると蛍光を放つ性質を持つ物があります。
この性質を利用した機器が販売されています。
測定器に指を入れるか腕を乗せるだけで、痛くもかゆくもなく、血圧よりも簡単に測定できます。
現在は価格が血圧計に比べて高いため、一家に一台というわけにはいきません。
調剤薬局やドラッグストア、フィットネスクラブ、エステサロンには機器を置いている所があるので、測ってもらうといいでしょう。
対策は3段階
糖化ストレス対策は3段階に分けられます。
第1段階の対策は「原因物質(糖・脂質)の吸収を遅らせる」ことです。
よくかんで、ゆっくり食べることが大切です。
そして、糖化ストレスの原因になる食後の血糖値上昇を抑えるためには、野菜などの食物繊維を最初に食べたり、食前に食酢、黒酢、ヨーグルトを取ったりするのも効果があります。
白飯やパンを単独で食べるのは避け、例えば牛丼、カレーライス、マーボー豆腐丼にすると食後の血糖値上昇を抑えられます。
第2段階の対策は「AGEsの生成を抑制する」ことです。
緑茶、ハーブ茶(カモミール、ドクダミ、ルイボス)、野菜や果実は抗糖化作用のある成分を多く含むので、積極的に飲んだり食べたりしましょう。
第3段階の対策は「AGEsの分解・排せつを促進する」ことです。
ただし、これについては、まだ確かな方法が見つかっておらず、これからの研究課題です。
AGEsを減らすための9項目
私は3カ月おきに前述の機器で皮膚のAGEsを測定しています。
そして、値が悪いとき(AGEsの蓄積量が増えているとき)は以下の九つのことを実践しています。
まずは、原因物質の取りすぎに注意することです。
(1)昼食をコンビニのパンで済ませることを控える。(私はメロンパンが好きで、油断すると、ついつい1カ月に20個ぐらい食べてしまいます。我慢して5個程度に減らすようにしています)
(2)飲み会後のラーメンを控える。(1年間に2回までと決めています。1年の前半に2回食べてしまった時は、後半に苦しみます……)
(3)お菓子を控える。(周りの人から「米井先生は、おせんべいをよく食べていますよね」と言われます。自分では気づかずに、ついつい食べ過ぎてしまうので、注意しなくてはいけませんね)
そして、やはり、体を動かすことは大切です。
(4)近距離は歩く。(歩ける距離ならばタクシーは使わないようにしています)
(5)エスカレーターやエレベーターを使わない。(駅やビルでは、できるだけ階段で上り下りしています)
(6)できるだけ運動をする。(私は、シャツがすれて肌がかゆくなってしまうのでジョギングは苦手です。スキー、ゴルフ、水泳、ハイキングなどを楽しむようにしています)
(7)毎日15分は歩く時間を作る。(これをサボると、確実にAGEsの値が上がってしまいます)
また、夜更かしをするのはよくありません。さらに、抗糖化のサプリメントもあります。
(8)睡眠時間を十分に確保する。(睡眠時間が短いと食後の高血糖が起きやすくなることが分かっています)
(9)抗糖化サプリメントを使う。
生活習慣の改善を積み重ねよう
生活習慣の改善はAGEsの蓄積量を低めに抑えることができます。
糖化ストレス対策は、一つ一つの積み重ねで大きな効果が得られます。
まずはAGEsの蓄積量を測ってみましょう。
そして、良い値の人はそのままの生活を続けてください。値が悪い人は、私が実践している九つの項目を参考に、生活を見直してみましょう。
「毎日新聞 医療プレミア」より。
米井嘉一 / 同志社大学教授
みなさんはホットケーキを作ったことがあると思います。
ホットケーキの生地は、初めは小麦粉などを水に溶いたものですね。
これにフライパンで熱を加えると、こんがりときつね色に変化して、こうばしい良い香りがします。
これは、でんぷん(炭水化物)とたんぱく質が「糖化反応」をして終末糖化産物(AGEs)ができた結果です。
AGEsは元々、食品から見つかったものなのです。
今では200種類以上が知られています。
食品中のAGEsは心配無用
「AGEsなら食べたらダメなんじゃないか」と思う人もいるでしょう。
実際に「一切AGEsを食べるな!」という過激な意見を言う人もいます。
でも、食べ物に含まれるAGEsを目の敵にする必要はありません。
食品中のAGEsの中には、味や香りをよくしたり、血圧の上昇を防いだり、酸化を防いだり、防腐剤として働いたりする成分があります。
さらに、糖化ストレスを抑制する働きを持つものもあるのです。
糖化ストレスとは「血中の糖や脂肪、有害物質であるアルデヒドの値が高い状態」です。
避ける必要があるのは、焦げた肉や古い油で揚げた物に微量に含まれる「アクリルアミド」と呼ばれる悪いAGEsです。
食べ物に含まれるAGEsに対しては過剰に反応しなくてもいいのですが、体内で生成されるAGEsは病気や老化の原因になります。
ですから、必要な人はAGEsを作る糖化ストレス対策を取らなくてはいけません。
糖化ストレスは簡単に評価できる
糖化ストレス対策が必要な人は、どのような人でしょうか。あまり知られていませんが、糖化ストレスは簡単に評価できるのです。
最も正確に評価するためには、血液や尿の中のアルデヒド、AGEsを測る方法があります。
でも、検査にはお金がかかりますし、血液検査は採血の不快感もあります。
そこでお勧めしたいのが、皮膚にたまったAGEsを測定する方法です。
AGEsの中には、特定の光を当てると蛍光を放つ性質を持つ物があります。
この性質を利用した機器が販売されています。
測定器に指を入れるか腕を乗せるだけで、痛くもかゆくもなく、血圧よりも簡単に測定できます。
現在は価格が血圧計に比べて高いため、一家に一台というわけにはいきません。
調剤薬局やドラッグストア、フィットネスクラブ、エステサロンには機器を置いている所があるので、測ってもらうといいでしょう。
対策は3段階
糖化ストレス対策は3段階に分けられます。
第1段階の対策は「原因物質(糖・脂質)の吸収を遅らせる」ことです。
よくかんで、ゆっくり食べることが大切です。
そして、糖化ストレスの原因になる食後の血糖値上昇を抑えるためには、野菜などの食物繊維を最初に食べたり、食前に食酢、黒酢、ヨーグルトを取ったりするのも効果があります。
白飯やパンを単独で食べるのは避け、例えば牛丼、カレーライス、マーボー豆腐丼にすると食後の血糖値上昇を抑えられます。
第2段階の対策は「AGEsの生成を抑制する」ことです。
緑茶、ハーブ茶(カモミール、ドクダミ、ルイボス)、野菜や果実は抗糖化作用のある成分を多く含むので、積極的に飲んだり食べたりしましょう。
第3段階の対策は「AGEsの分解・排せつを促進する」ことです。
ただし、これについては、まだ確かな方法が見つかっておらず、これからの研究課題です。
AGEsを減らすための9項目
私は3カ月おきに前述の機器で皮膚のAGEsを測定しています。
そして、値が悪いとき(AGEsの蓄積量が増えているとき)は以下の九つのことを実践しています。
まずは、原因物質の取りすぎに注意することです。
(1)昼食をコンビニのパンで済ませることを控える。(私はメロンパンが好きで、油断すると、ついつい1カ月に20個ぐらい食べてしまいます。我慢して5個程度に減らすようにしています)
(2)飲み会後のラーメンを控える。(1年間に2回までと決めています。1年の前半に2回食べてしまった時は、後半に苦しみます……)
(3)お菓子を控える。(周りの人から「米井先生は、おせんべいをよく食べていますよね」と言われます。自分では気づかずに、ついつい食べ過ぎてしまうので、注意しなくてはいけませんね)
そして、やはり、体を動かすことは大切です。
(4)近距離は歩く。(歩ける距離ならばタクシーは使わないようにしています)
(5)エスカレーターやエレベーターを使わない。(駅やビルでは、できるだけ階段で上り下りしています)
(6)できるだけ運動をする。(私は、シャツがすれて肌がかゆくなってしまうのでジョギングは苦手です。スキー、ゴルフ、水泳、ハイキングなどを楽しむようにしています)
(7)毎日15分は歩く時間を作る。(これをサボると、確実にAGEsの値が上がってしまいます)
また、夜更かしをするのはよくありません。さらに、抗糖化のサプリメントもあります。
(8)睡眠時間を十分に確保する。(睡眠時間が短いと食後の高血糖が起きやすくなることが分かっています)
(9)抗糖化サプリメントを使う。
生活習慣の改善を積み重ねよう
生活習慣の改善はAGEsの蓄積量を低めに抑えることができます。
糖化ストレス対策は、一つ一つの積み重ねで大きな効果が得られます。
まずはAGEsの蓄積量を測ってみましょう。
そして、良い値の人はそのままの生活を続けてください。値が悪い人は、私が実践している九つの項目を参考に、生活を見直してみましょう。
「毎日新聞 医療プレミア」より。