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寿命が10年延びる! [健康短信]

健康的な生活習慣で寿命が10年延長
米国成人12万人の調査


 米ハーバード公衆衛生学校のYanping Li氏らは、2つの全国調査の参加者を対象に健康的な生活習慣が米国人の健康と寿命に及ぼす影響を検討した結果を「Circulation」(2018年4月30日オンライン版)で発表した。

 健康的な5つの生活習慣を継続した人は、これらの生活習慣を継続しなかった人よりも10年以上寿命が延長したという。

 34年間にわたって追跡

Li氏らは、1980~2014年Nurses' Health Study(看護師の健康調査)
に参加した女性7万8,865人と、1986~2014年Health Professionals Follow-up Study(
:健康専門家のフォローアップ研究)に参加した男性4万4,354人を対象に、健康的な生活習慣〔低リスクライフスタイルスコア(0~5点)〕と死亡との関係を検討した。

健康的な5つの生活習慣は、

①健康的な食習慣(野菜、果物、ナッツ、全粒穀物、多価不飽和脂肪酸、ω3脂肪酸は1日の推奨量を摂取、赤身肉・加工肉、糖添加飲料、トランス脂肪酸、ナトリウムの摂取量を制限)

②禁煙

③1日30分以上の中等度~強度の身体活動

④正常体重の維持(BMI18.5~24.9)

⑤適度の飲酒(女性5~15g/日、男性5~30g/日)

―の遵守とし、各項目を1点として合計点(低リスクライフスタイルスコア)を算出した。

糖尿病、がん、心筋梗塞などの家族歴を含む交絡因子の情報も入手した。

交絡因子= 調べようとする因子以外の因子で、病気の発生に影響を与えるもの。

例えば、飲酒とがんの関連性を調べようとする場合、調べようとする因子(飲酒)以外の因子(喫煙など)ががんの発生率に影響を与えているかもしれない。

34年間(中央値:女性33.5年、男性27.2年)の追跡期間中に4万2,167例の死亡(がん死1万3,953例、心血管疾患死1万689例)が確認された。

全死亡のリスクが74%低下

低リスクライフスタイルスコア0点群に対する5点群のハザード比(HR)は全死亡が0.26、がん死が0.35、心血管疾患死が0.18だった。

5つの低リスクライフスタイル因子を遵守しなかった場合の人口寄与リスク(PAR)は全死亡が60.7%、がん死が51.7%、心血管疾患死が71.7%だった。

五つの低リスクライフスタイル因子を1つも遵守しなかった場合、

女性の平均寿命は79.0歳、50歳時の平均余命は29.0年、

男性ではそれぞれ75.5歳、25.5年と推測された。

一方、5つの低リスクライフスタイル因子を全て遵守した場合、女性では93.1歳、43.1年、男性では87.6歳、37.6年と推測された。

低リスクライフスタイルスコア0点群に対する5点群の50歳時における平均余命は、女性で14.0年、男性で12.2年延長した。

Li氏らは、「米国成人では健康的な生活習慣を行うことにより若年死を著しく減少させ、平均余命を延長できることが分かった。

健康的な食品の流通や社会環境を整備するための政策を強化し、健康的な食習慣や生活習慣を支持、促進を図ることで、米国と他の先進国との平均余命の差を縮められる可能性がある」と述べている。
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1日1個の卵の効果 [健康短信]

1日1個の鶏卵で心血管疾患リスクが低下 中国人50万人の検討

 鶏卵を1日に1個を食べている人は、全く食べない人と比べて心血管疾患(CVD)リスクが有意に低下する。

 他の高所得国と比べて中国で罹患率が高い出血性脳卒中の発症リスクが26%、死亡リスクが28%低下するなど、CVDリスクが低下したという。

 中国・Peking University Health Science CenterのChenxi Qin氏らが中国人50万人を対象とした研究の結果をHeart(2018年5月21日オンライン版)で発表した。

 出血性脳卒中の発症リスクが26%、死亡リスクが28%低下

 卵はコレステロールを多く含む食材だが、高質の蛋白質、多種のビタミン、カロチノイドやリン脂質などの生理活性物質を含有している。

 これまでの研究では卵の摂取が健康に及ぼす影響について一致した結果が得られておらず、卵の摂取と冠動脈疾患や脳卒中に有意な関連は認められていない。

 今回Qin氏らは、2004~08年に中国の10地域で登録した30~79歳の中国人51万2,891人を対象としたChina Kadoorie Biobank研究のデータを用いて、卵の摂取とCVD、虚血性心疾患、主要冠動脈イベント、出血性脳卒中、虚血性脳卒中との関連を検討した。

 ベースラインで卵を毎日摂取していた人は13.1%(1日当たりの摂取量0.76個)、ほとんどまたは全く摂取していなかった人は9.1%(同0.29個)だった。

 がん、CVD、糖尿病患者を除いた41万6,213人を中央値で8.9年追跡した結果、

 CVDが8万3,977例(虚血性心疾患3万169例、出血性脳卒中7,078例、虚血性脳卒中2万7,745例)、

 CVD死が9,985例(虚血性心疾患死3,374例、出血性脳卒中死3,435例、虚血性脳卒中死1,003例)、

 主要冠動脈イベントが5,103例に認められた。

 卵を毎日摂取していた人は、ほとんどまたは全く摂取していなかった人に比べて、

 CVDリスクが11%、虚血性心疾患リスクが22%、主要冠動脈イベントリスクが14%、出血性脳卒中リスクが26%、虚血性脳卒中リスクが10%低下した。

 卵を毎日摂取していた人ではほとんどまたは全く摂取していなかった人に比べて、

 CVD死リスクが18%と出血性脳卒中死リスクが28%低下していた。

 同氏らは「この研究は観察研究で因果関係を証明するものではないが、卵を1日に1個程度摂取することで心血管リスクが低下することが分かった。

 この研究結果は、健康な中国人に対する卵摂取の指針における科学的エビデンスとして貢献できると考えている」と述べている。
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「糖化ストレス」を防ごう! [医療小文]

認知症、がんのリスクを上げる「糖化ストレス」とは
米井嘉一 / 同志社大学教授

老化を促進する危険因子

 糖尿病の発症や進展、皮膚の老化、がんや認知症の発症リスクの上昇など、体にさまざまな悪影響を及ぼす危険因子があります。

 それが「糖化ストレス」です。

 糖化ストレスの原因と、糖化ストレスが体に与える影響についてお話しします。

 糖化ストレスの三つの原因

 糖化ストレスとは「血中の糖や脂肪、有害物質であるアルデヒドの値が高い状態」です。

 糖化ストレスの原因は、

 ▽食後に血糖値が急上昇(160mg/dL以上)する「血糖スパイク」

 ▽脂質代謝異常(中性脂肪高値、LDLコレステロール高値)

 ▽過剰な飲酒--の三つです。

 これらによって作り出されるのが有害物質のアルデヒドです。

 アルデヒドはさまざまな種類がありますが、どれも反応性が高く、体のたんぱく質、脂質、遺伝子の性質に異常な変化を与えてしまうのです。

 血糖スパイクが多種のアルデヒドを生成

 空腹時の血糖値は正常なのに、食後に急激に血糖値が上昇する人がいます。

 これが血糖スパイクです。

 血糖値は血液中のグルコース(ブドウ糖)の濃度です。

 通常グルコースは輪のような形(環状)をしているのですが、0.002%は輪が開いた形(開環型)になります。

 すると、アルデヒド基(-CHO)が露出して有害物質のアルデヒドになります。

 つまり、血液中のグルコースの量が多ければ多いほど、アルデヒドの量も多くなるわけです。

 さらに、血糖スパイクは開環型のグルコースから多種のアルデヒドを連鎖的に生成する反応を引き起こします。私はこれを「アルデヒドスパーク」と名付けました。

 脂質代謝異常で正常に代謝されない脂質からもアルデヒドが作られます。

 飲酒に注意が必要なタイプは

 お酒を飲むと、アルコールが代謝されてアルデヒドの一種「アセトアルデヒド」が作られます。

 アセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素によって代謝されます。

 しかし、この酵素の活性の強さは人によって異なり、酵素活性が強い人、弱い人、ほとんどない人の3タイプに分けられます。

 酵素活性がほとんどない人はお酒は飲めません。

 最も気をつけないといけないのは酵素活性が弱い人です。

 このタイプの人は飲酒後に顔が赤くなり、心臓がドキドキしたり気分が悪くなったりするのが特徴です。

 アルデヒドが血中に長時間残って害を受けやすいタイプの人ですから、飲み過ぎには特に注意してください。

 損なわれるDNA修復機能

 アルデヒドは細胞の分裂・増殖に重要な役割を果たすDNAに傷を付けます。

 DNAには傷がついたときにがん化しやすい領域が存在します。

 アルデヒドの量が多いとDNAのあちこちに傷が生じ、その領域を傷つける確率が高まります。

 また、DNAの傷を修復する酵素たんぱく(DNA修復酵素)もアルデヒドによって異常な変化を起こします。

 ですから、糖化ストレスによりDNA修復の機能が大きく低下してしまいます。

 このことも、糖化ストレスによってがんの発症リスクが上昇する理由の一つです。

アルデヒドが作り出すAGEs

 アルデヒドが体内のたんぱく質と反応してできるのが、強い毒性があり老化を進める終末糖化産物(AGEs)です。

 AGEsが細胞のRAGEという鍵穴(受容体)に結合すると、炎症を起こすスイッチが入ります。

 また、AGEsがスカベンジャー受容体という鍵穴に結合すると、AGEsは細胞内に取り込まれ、ジワジワと細胞を壊していくのです。

 皮膚の老化の原因にもなる

 糖化ストレスは皮膚の老化とも深い関係があります。

 シミの原因になるメラニン色素を産生するのは、皮膚の色素細胞です。

 AGEsは色素細胞を刺激してメラニン色素の産生を増やします。

 皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層でできています。

 弾力のある「もちもちとした肌」は、真皮を構成するたんぱく質のコラーゲンやエラスチンがしっかりとした支えになることで保たれます。

 ですから、糖化ストレスでコラーゲンやエラスチンが異常な変化を起こしてしまうと、皮膚の弾力性が失われて“たるみ”が生じます。

 皮膚科の医師が「皮膚の老化の7割は(太陽光の紫外線による)『光老化』が原因です」と言っているのを聞いたことがあります。

 残り3割は糖化ストレスが原因ということだと思います。

 ただ私は、もっと多く、皮膚の老化原因の4割ぐらいが糖化ストレスだと考えています。

コグニも糖化ストレスが関係か

 認知症(コグニ)のアルツハイマー病の患者は、脳内にアミロイドβというたんぱく質が蓄積しています。

 実は、70歳を超えた多くの人の脳内にはアミロイドβがたまっています。

 しかし、皆がコグニになるわけではありません。

 アルツハイマー病発症のメカニズムは解明途上ですが、糖化ストレスによってアミロイドβの毒性が増すことが原因との説もあります。

 毒性を増したアミロイドβによって脳細胞が炎症を起こし、多くの脳細胞が死に、コグニの症状が進行するというわけです。

 また、糖尿病は糖化ストレスが強い代表疾患ですが、糖尿病患者はコグニの発症リスクが2~4倍に増えるといわれています。

 糖化ストレスを防ぐことが重要

 いかがでしょうか。糖化ストレスによって生じるアルデヒドが、さまざまなトラブルを起こすことが分かってもらえたと思います。

 糖化ストレスを防ぐことは、健康に過ごすために非常に重要です。

 糖化ストレスをきちんと評価し、しっかりと対策を取らなくてはいけません。
   ×   ×   ×
 注:認知症は認知機能の障害です。
 認知機能は英語でコグニティブファンクションと言うので、私は認知症のことを「コグニ」と呼ぶことにしています。
 「コグニ」だとなんだか弱そうで、やっつけられそうな気がするからです。

 2018年5月23日  毎日新聞「医療プレミアム」
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食物繊維と体内時計 [医療小文]

食物繊維は体内時計のリセット効果を高める

柴田重信・ 早稲田大学教授

体内に生息する腸内細菌が私たちの体内時計にもたらす恩恵について、最新の研究結果と共に説明していきたいと思います。

腸内細菌とともに重要な役割を果たすのが食物繊維です。

便通や消化を改善するだけではなく、善玉菌の増加、さらには体内時計のリセットにも効果を発揮します。

食物繊維の健康への効果

食物繊維とは、ヒトが消化できない食物成分のことを総称していいます。

食物繊維にも種類があり、特に水に溶けない「不溶性の食物繊維」と、水に溶ける「水溶性の食物繊維」に分けることができます。

セルロースなどの不溶性の食物繊維は、腸内で水分を吸収し、腸の蠕動(ぜんどう)運動を促進させることで便通の改善をもたらします。

一方で、水溶性食物繊維は、粘性があることから食べ物の消化を遅らせ、食後の急激な血糖値の上昇を抑えます。

また、腸内細菌により発酵されて「短鎖脂肪酸」に生まれ変わり、体内にさまざまな利益をもたらします。

例えば水溶性食物繊維の一つ、難消化性デキストリンは、特定保健用食品(トクホ)の「関与成分」とされています。

食後の血糖値上昇抑制、肥満予防、便秘予防などの効果があり、飲料や食品に広く使われています。

カギは腸内細菌による食物繊維の発酵

食物繊維はヒトの体内の酵素では消化できませんが、一部は腸内細菌によって発酵、分解されます。

それによって生成される酢酸、酪酸、プロピオン酸などは「短鎖脂肪酸」という脂質を構成する重要な成分で、腸管粘膜の栄養・エネルギーになるだけではなく、免疫、代謝など多くの生理機能に良い効果をもたらします。

この中でも特に、酪酸は「制御性T細胞」という免疫細胞に作用し、大腸炎などの炎症性腸疾患を抑制することが分かっています。

また、プロピオン酸は交感神経を活性化し、エネルギー代謝を上げることで抗肥満効果をもたらします。

さらに短鎖脂肪酸は、腸内の特定の細胞と結びつくことで「GLP-1」というホルモンの分泌を促します。

GLP-1は、膵臓(すいぞう)の細胞に働きかけ、血糖値を下げるインスリンの分泌を手助けすることから、糖尿病の新しい治療薬として注目されています。

腸内細菌が体内時計に重要な役割

私たちの研究室では、これらの短鎖脂肪酸が肝臓などの体内時計にも効果的であることを2018年1月に論文で報告しました。

この論文は、腸内細菌研究のスペシャリストで慶應大学先端生命科学研究所の福田真嗣特任准教授との共同研究によるものです。

福田先生は「おなかの調子がよくなる本」という一般向けの書籍も書いています。

共同研究では、マウスを水溶性食物繊維が多い餌を与える群と、食物繊維が少ない餌を与える群に分けて実験をしました。

1晩(マウスが活動している時間帯)餌を与えずおなかを空かせた状態で、それぞれの群に餌を与えてから肝臓の体内時計を調べました。

その結果、食物繊維が多い餌を食べた群の方が、体内時計のずれが食餌によってより正しい時間に近づいた、すなわちリセットされていることが分かりました。

さらに、食物繊維を多く取ったマウスでは、食餌から4時間後の盲腸(大腸の一番小腸寄りの部分)内で短鎖脂肪酸の濃度が上昇していました。

この二つから、腸内で生成された短鎖脂肪酸が、何らかの経路で肝臓の体内時計をリセットしたと考えられます。

また、抗菌薬を用いて腸内細菌を減らしたマウスでは、腎臓などの体内時計のメリハリが弱まっていることも分かりました。

これらの結果から、腸内細菌が私たちの体内時計維持に重要な役割を果たしている可能性があります。

体内時計をリセットする胆汁酸

食物に含まれる脂質成分を吸着して体内への取り込みを助ける「胆汁酸」を介して、腸内細菌が私たちの体内時計をリセットすることも最近報告されています。

このうち、肝臓で産生され腸に分泌される胆汁酸(「コール酸」などの1次胆汁酸)は、食後に分泌が促進されます。

腸内細菌はこの胆汁酸を代謝し、「デオキシコール酸」「リトコール酸」といった2次胆汁酸を産生します。

研究では、1次胆汁酸であるコール酸は腸粘膜の体内時計を、2次胆汁酸であるデオキシコール酸、リトコール酸は腸粘膜と共に肝臓の体内時計を調節していることが分かっています。

しかし、2次胆汁酸は、体内に吸収されると肝臓がんの発症を促進させます。

ですから、2次胆汁酸を増やして体内時計を調節しよう、という考え方は残念ながら現実的ではありません。

朝食には食物繊維がおすすめ

このように、食物繊維はおなかの調子を整えるだけにとどまらず、私たちの健康維持にとても効果的です。

水溶性食物繊維はゴボウ、キクイモ、ラッキョウ、タマネギ、切り干し大根、ヒジキ、ワカメ、ノリなどに多く含まれています。

体内時計をリセットすべき朝ご飯に、これらの食材を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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「グルテンフリー」の健康障害 [医療小文]

「グルテンフリー」はかえって健康に悪いかも

 プロテニスプレーヤーのノバク・ジョコビッチさんやモデルのミランダ・カーさんら、海外アスリートや有名モデルが実践していることで話題になった「グルテンフリー」。

最近はテレビや雑誌などでも盛んに紹介され、「健康的な食事法」とうたわれて日本でも広まりつつあるようです。

 グルテンフリー(Gluten Free)直訳すると「グルテンなし」。「グルテン」とは、小麦などに含まれるたんぱく質=小麦タンパク のこと。

 つまり、グルテンフリーとは、「小麦たんぱくを食べない」、もしくは「小麦たんぱくを食べない」こと。ポイントは、あくまでもグルテンのみ。糖質ダイエットや炭水化物ダイエットとは根本的に違います。

 元々は小麦の中に含まれるタンパク質に、アレルギー反応や腸の炎症を起こしてしまう人のための食事法ですが、効果が不明なまま、減量や美肌、疲労回復によいとうたわれています。

 そもそもグルテンとは何か、そしてグルテンフリーは万人にメリットがあるのか。詳しく知られていないグルテンフリーについて検証します。

 グルテンフリーが本当に必要な人とは

 グルテンは、小麦やライ麦、大麦などの穀物から生成されるタンパク質で、小麦粉などに水を加えてこねることで生成されます。

 パン生地の粘りや、スパゲティのモチモチ感はグルテンによるもの。

 日本の伝統的な食品であるお麩(ふ)もグルテンの食感を利用した食品です。

 グルテンはどちらかというと消化酵素の作用で分解されにくいタンパク質で、十分に消化しきれなかったグルテンによって、消化管内で炎症反応やアレルギー反応を起こす人がいることが知られています。

 グルテン関連障害と呼ばれており、3タイプに分けられます。

<セリアック病>

 小麦などに含まれるグルテンにより発症する自己免疫疾患です。

 消化が十分にされないままのグルテンがペプチド(アミノ酸が複数個つながった状態)のまま小腸粘膜に吸収され、それを異物と認識する免疫反応によって炎症を引き起こし、消化吸収に重要な小腸粘膜を損傷してしまいます。

 栄養を十分に吸収できなくなるため、体重減少、貧血、慢性疲労といった症状を起こします。

 症状だけでなく、小腸の細胞などを検査して診断されます。有病率はヨーロッパでは0.7%ほど、アメリカでは0.4~1%ほどと推定されていますが、日本を含むアジアでは比較的少ないと考えられています。

 今のところ有効な薬物療法などがないため、セリアック病の人にとってグルテンフリーは健康的な生活を送るために不可欠なものです。

<小麦アレルギー>

 小麦アレルギーは、小麦に含まれるタンパク質(主にグルテン)に対して過剰な免疫反応を起こすもので、食べてすぐにじんましんや呼吸器系の症状、アナフィラキシーショックなどを引き起こすことがあります。

 小麦やグルテンの除去が必要かどうかは、専門医が負荷試験などをして判断します。

 日本人の小麦アレルギー有病率は0.1~0.2%ほどと推定されています。

<非セリアックグルテン過敏症>

 セリアック病や小麦アレルギーではないのに、グルテンの入った食べものをとると体に不調が起こり、グルテンフリーで改善することが確認できるものを「非セリアックグルテン過敏症」としています。

 最近の報告では、非セリアックグルテン過敏症とされる患者に対し、グルテン感受性を調べたところ、グルテンによる特別な症状が表れた人は16%しかいなかったことが明らかになりました。

 グルテンの有無が分からない食事をした患者に、実際にはグルテンは入っていないのに、不快な症状がみられたことが確認されており、実際の患者数は予想より少ないのではないかと考えられています。

 今後、グルテンが体によくないというイメージが一般に広がると、心理的な影響で、小麦製品を食べると体の不調をおぼえる人が増えるかもしれません。

 大半の人はグルテンフリーをすべきでない

 では、これらグルテン関連障害ではない大半の人にとって、グルテンフリーに健康効果はあるのでしょうか。

 小麦は小麦粉としてパンやスパゲティー、粉ものの原料だけでなく、加工食品にも幅広く利用されており、私たちの食生活を支える重要な穀物です。

 小麦や小麦由来のグルテンを全く含まない食事をするためには、大きな手間や費用もかかるため、健康上明らかにメリットがある場合にのみグルテンフリーが勧められるべきです。

 結論から言うと、グルテン関連障害ではない人がグルテンフリーを実践しても、健康効果があるという科学的根拠はありません。

 それどころか、健康リスクを高める可能性さえあります。

 2017年に英国医師会雑誌に掲載された研究では、セリアック病の診断を受けた人を除き、長期にわたってグルテンを多く摂取していた人と、少なく摂取していた人の間で、心筋梗塞(こうそく)などの冠動脈疾患の発症率に差がないことが明らかにされました。

 一方、グルテンを避けることで、冠動脈疾患のリスクを低くする全粒穀物の摂取量が少なくなる可能性が示され、「セリアック病でない人にはグルテンフリーを勧めるべきでない」と結論付けています。

 その他にもインターネットでは、ダイエットに美肌、集中力アップや精神症状の改善など、本当にさまざまな効果がうたわれていますが、信頼ある報告は見当たりませんでした。

 グルテンフリーを実践している人は、そうでない人に比べて食物繊維摂取量が少なく、亜鉛やマグネシウムなど不足しがちなミネラルの豊富な全粒穀物の摂取量も少なくなりやすい、という傾向があるようです。

 全粒穀物は、ダイエットに効果があることが複数の研究で示されていますし、美肌を維持するためにも栄養バランスの良い食事は不可欠ですから、偏った食事になりやすいグルテンフリーはお勧めできません。

 セリアック病など特別な理由がないかぎり、グルテンフリーは必要ないと考えてよいでしょう。

 悪いものを食べているという不安が、実際に体の変調に結びつくことはあります。「ノセボ効果」といいいます。

 原因の分からない消化管の不調がある場合には、消化器内科など信頼できる医療機関を受診してほしいと思います。(成田崇信 / 管理栄養士)
    
 ノセボ効果=体に悪いものを食べたかもしれないという思い込みや心理的負荷などが原因で、無害なものを食べたのにもかかわらず、身体症状など有害な副作用が引き起こされること。

 有用な作用の場合にはプラセボ効果と呼ぶ。 
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のどの渇きと運動の関係 [医療小文]

「渇く前に飲む!」が運動パフォーマンスを上げる

 運動中にのどの渇きを感じてから飲むという水分補給の仕方では、脱水状態に陥りやすく、パフォーマンスが低下する可能性がある。

 米アーカンソー大学水分補給科学研究所所長のStavros Kavouras氏らによる研究から明らかになった。

 7人の男性自転車競技選手を対象としたこの研究では、喉は渇いていなくても、胃の中の水分量が不十分な場合、スピードや出力(ペダルをこぐ力)が低下することが分かった。

 詳細は「Medicine and Science in Sports and Exercise」3月5日オンライン版に掲載された。

 研究では、7人の自転車競技選手に高温で乾燥した環境下(気温35度、湿度30%)で2時間、エルゴメーターのペダルをこいでもらった。

 その際、盲検下で流れた汗と同量の水を経鼻胃管により直接胃に補給するか(非脱水群)、脱水状態をもたらす不十分な量の水を補給した(脱水群)。

 また、自然な喉の渇きを抑えるために、両群ともに25mL(ティースプーンで約5杯分に相当)の水を5分ごとに飲んでもらった。

 さらに、運動のペースが一定に保たれる状態となって2時間後、全ての選手に全速力で5kmの走破時間を競ってもらった。

 結果、両群ともにのどの渇きは感じなかったにもかかわらず、脱水群では非脱水群と比べて、ペダルをこぐスピードや出力が低下していた。

 また、深部体温も、脱水群では非脱水群と比べて高かった。

 この結果について、Kavouras氏は「運動中に十分な量の水を飲み、適切な水分量を維持することが、最良のパフォーマンスと深部体温の調節に不可欠であることが示された」と説明する。

 また、運動時の発汗率には個人差があるため、ベストのパフォーマンスを達成するためには、個々のアスリートに適した水分補給の方法を決める必要があることを、同大学のプレスリリースで示している。

 なお、Kavouras氏によると、これまで一部の研究者の間では、脱水状態ではなく、のどの渇きそのものが運動時のパフォーマンス低下の主な要因だと考えられていたという。

「これは、のどが渇くと、みじめな気持ちになり、やる気が失われてしまう、という考え方だ」と同氏は説明する。

 また、もう一つの要因として「脱水状態は体に悪い」という認識が、パフォーマンスの低下をもたらしているのではないかとも考えられてきた。

 これは、自分が脱水状態にあることが分かっていると、パフォーマンスを低下させてしまうのではないかという考え方だ。

 このため、これらの要因による影響を取り除けるような形で、今回の研究が実施されたという。

 なお、今回の研究は7人を対象とした小規模なものであったが、Kavouras氏は「有意差を検出するための統計学的な検出力は十分だった」と説明している。
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動脈硬化のサイン「Non-HDL」 [医療小文]

健診で分かる動脈硬化のサイン Non-HDLコレステロールとは

 特定健診に「Non-HDLコレステロール」という項目が導入されると、動脈硬化の指標となる血中コレステロールのバランスがより正確に調べられるようになります。

 これまでの健診でコレステロールが正常だった人も、Non-HDLコレステロールでは異常となる場合があるので、いまいちど健診結果を見直してみましょう。

コレステロールのはたらき

 油っぽい料理が好きな人に、「コレステロールのとり過ぎには気をつけて」などとよくいいます。

 しかし、コレステロールがどういうものかを知っている人は、少ないのではないでしょうか。

 コレステロールは、血液中に含まれる脂質の一種です。

 細胞膜やホルモン、胆汁酸などを作るのに必要な物質で、体にとってなくてはならないものです。

 コレステロールにはさまざまな種類がありますが、健診で主に調べられていたのは「悪玉」とよばれるLDLコレステロールと、「善玉」とよばれるHDLコレステロールです。

 LDLコレステロールは、全身にコレステロールを運ぶ役割があり、HDLコレステロールは、体内や血管にたまった余分なコレステロールを肝臓に戻す働きがあります。

 加齢などにより、コレステロールのバランスを保つ機能が低下すると、LDLコレステロールと、HDLコレステロールのバランスが崩れます。

 とくに、女性は閉経後に女性ホルモンの一種であるエストロゲンが減少すると、LDLコレステロールが高くHDLコレステロールが低くなるといわれています。

 また、コレステロールと同じく、血中の脂質の一種である中性脂肪も、食べすぎや運動不足などの生活習慣の悪化によって増えることがあります。

 このように、血液中の脂質のバランスが崩れる病気を「脂質異常症」といいます。

動脈硬化を引き起こす危険因子

 脂質異常症は、動脈硬化を引き起こす大きな要因です。LDLコレステロールが増加し、HDLコレステロールが減少すると、血管の壁にコレステロールがたまり、プラークというこぶができます。

 そうすると、血管が狭くなり、弾力性も失われ、動脈硬化が起こります。

 プラークが破れて、血管が狭くなった部分で血栓(血液の塊)ができると血管をふさぐおそれがあります。

 また、中性脂肪が増えると、HDLコレステロールを減らして、LDLの動脈硬化性をより高めるために、動脈硬化が進みやすくなることがわかっています。

 心臓の血管(冠動脈)や脳の血管で動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞を発症し、突然死につながるおそれもあります。

 ※動脈硬化の危険因子には、脂質異常症のほかに、加齢、喫煙、高血圧、高血糖などがあります。いくつもの危険因子を併せもつことで心筋梗塞や脳梗塞になるリスクが高まります。

さまざまなコレステロールが動脈硬化を進行させる

 コレステロールや中性脂肪などの脂質は、そのままでは血液に溶け込むことができないため、「リポ蛋白(タンパク)」という粒子状の物質になって血液になじみ、全身に運ばれます。

 リポ蛋白にはLDLやHDLのほかに、カイロミクロンやVLDL(超低比重リポ蛋白)およびそれらが分解されてできるカイロミクロンレムナントやVLDLレムナント(別名IDL(中間比重リポ蛋白))といったものがあります。

 これまでの健診では、動脈硬化に影響が大きいとされるLDLコレステロールの値を中心に注目していました。

 しかしHDLコレステロールを除く他のリポ蛋白のコレステロールも増えすぎると動脈硬化を進行させることがわかってきました。

新たな指標として注目のNon-HDLコレステロール

 LDLコレステロール値は、中性脂肪が高いと測定値の信頼性が低くなるという問題があります。

 この問題を解消するために、LDLコレステロール値とともにNon- HDLコレステロール値が新たに使われるようになりました。

 また、健診結果表を見たとき、HDLとLDLコレステロールを足しても総コレステロール値にならないと、疑問に思ったことはありませんか。

 Non-HDLコレステロールとは、善玉コレステロール(HDL)ではないコレステロールという意味で、(総コレステロールの数値)-(善玉コレステロールの数値) =(non-HDLコレステロール)で示されます。

 これはLDLコレステロールとカイロミクロン、VLDL、IDLのコレステロールを合わせた量です。

 Non-HDLコレステロールの数値が高いと、HDLコレステロールとLDLコレステロールの数値が正常範囲でも、動脈硬化が進みやすくなり、狭心症や心筋梗塞を起こすリスクが高まることがわかっています。

健診結果のコレステロール値は、こう見る

 血液検査によって、血液中に含まれるLDLコレステロールやHDLコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、Non-HDLコレステロールの数値を調べ、いずれかの数値のひとつにでも異常があれば、脂質異常症と診断されます。

 この検査は、動脈硬化性疾患の発症予測能が優れているとされています。

※:10時間以上の絶食を「空腹時」とする。ただし水やお茶などカロリーのない水分の摂取は可とする。

※※:スクリーニングで境界域高LDL-C血症、境界域non-HDL-C血症を示した場合は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考慮する。

 ●LDL-CはFriedewald式(TC-HDL-C-TG/5)または直接法で求める。

 ●TGが400mg/dLや食後採血の場合はnon-HDL(TC-HDL-C)かLDL-C直接法を使用する。

 ただしスクリーニング時に高TG血症を伴わない場合はLDL-Cとの差が+30 mg/dLより小さくなる可能性を念頭においてリスクを評価する。

 出典:日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」

 これまでの健診結果から計算してみよう

 Non-HDLコレステロールは、これまでの血液検査の結果から自分で計算することもできます。

 たとえば、次の例を見てみましょう。

 206mg/dL(総コレステロール)-49mg/dL( HDLコレステロール)=157mg/dL(Non-HDLコレステロール) この値を、前項の「脂質異常症の診断基準」に照らし合わせます。

 Aさんは、LDLコレステロールの数値に問題はないものの、Non-HDLコレステロールの値を見ると「境界域高Non-HDLコレステロール血症」の診断となることがわかります。

 脂質異常症と診断されたら、医師の指導のもと食事や運動を中心とした生活習慣の改善を行います。

 食事療法や運動療法で十分に改善されなかったり、動脈硬化のリスクが高いと判断されたりした場合は、薬による治療を行います。

生活習慣の改善で動脈硬化を防ぐ

 動脈硬化による心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な病気を防ぐには、毎日の生活習慣を見直すことが大切です。

 やめるべき習慣と、取り入れるべき習慣を次に紹介します。

<やめるべき生活習慣>

●たばこ:喫煙により、動脈硬化のリスクが高まることがわかっています。喫煙者は今すぐ禁煙しましょう。たばこを吸わない人も、受動喫煙に注意しましょう。

●食べ過ぎ:食事は腹八分目をこころがけ、適正体重を維持してください。

●油のとり過ぎ:肉の脂身(飽和脂肪酸)や油脂をとり過ぎると、血中の脂質が増えます。

 また、バターやラード(飽和脂肪酸)、マーガリンやショートニング(トランス脂肪酸)はLDL(悪玉)コレステロールを増やすので注意しましょう。油は、不飽和脂肪酸のオリーブ油がお勧めです。

●糖質のとり過ぎ:血糖値が上がると、血管の内側が傷つき、動脈硬化のリスクが高まります。
 甘い飲み物やお菓子をとり過ぎないようにします。

●お酒の飲み過ぎ:アルコールの過剰摂取は、中性脂肪を増やします。1日あたりビールなら中瓶1本、日本酒なら1合を目安にしてください。

<取り入れるべき生活習慣>

○和食中心の食生活:和食は、野菜、海藻、大豆製品など、食物繊維の豊富な食材の料理です。

 食物繊維には、LDL(悪玉)コレステロールを下げる働きがあるので、主食は白米より玄米を選ぶと、より多くの食物繊維をとることができます。

 また、和食によく使われる青魚には中性脂肪を低下させる多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれています。だしを利かせて調理すると、減塩もしやすくなります。

○適度な運動:1日の活動量を増やすことで、HDLコレステロール(善玉)を増やす効果が期待できます。日常生活の中で、歩いたり体を動かしたりする機会をたくさん作るようにしましょう。

監修:平野勉(昭和大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学部門主任教授)
「みんなの健康ライブラリー」2018年1月掲載より (C)保健同人社

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脳梗塞の原因、新概念 [医療小文]

 新規の概念atrial cardiopathyが登場
 橋本 洋一郎(熊本市民病院神経内科 日本脳卒中学会理事)

 脳梗塞の3分の1は原因不明であり、潜因性脳梗塞と呼ばれている。

 潜因性脳梗塞の多くは塞栓性と考えられ、その原因として無症候性心房細動が示唆されているが、脳梗塞発症後3年以内に心房細動が見つかるのは3分の1未満である。

 心房細動が発生する前にatrial cardiopathyが存在し、それが血栓塞栓症を引き起こす可能性があることを示唆する新たな証拠が出てきている。

 Atrial cardiopathyは異常心房基質(abnormal atrial substrate)を有し、左房心内膜の異常から左房内血栓を来しやすくなる病態を指す。

 Cardiovascular Health Study(CHS)では、atrial cardiopathyの幾つかのマーカーと虚血性脳卒中のリスクについて検討が行われた(Stroke 2018; 49: 980-986)。

 研究のポイント:いくつかのatrial cardiopathyのマーカーが脳梗塞リスクと有意に関連

 CHSでは、地域に居住する65歳以上の成人を前向きに登録。脳卒中や心房細動歴がある症例は除外した。

 Atrial cardiopathyのマーカーとして、偶然に発見された心房細動(最初の10年は毎年12誘導心電図検査を行い、外来や入院のメディケアデータから確認されたものを含む)とともに、ベースラインの心電図V1誘導のP-wave terminal force(PTFV1、心電図V1誘導でのP波の終末部の下方偏向)、心エコーでの左房径、N末端プロB 型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)を検討した。

 主要評価項目は虚血性脳卒中の発症とした。

 ベースラインで脳卒中や心房細動がなく、全てのatrial cardiopathyに関するマーカーのデータが得られた3,723例を、中央値で12.9年追跡した。その結果、585例(15.7%)が虚血性脳卒中を発症した。

 虚血性脳卒中発症と有意に関連したのは、PTFV1〔PTFV1が1000μV*ms 増加した場合のハザード比(HR)1.04、95%CI1.03~1.16〕、対数変換したNT-proBNP(NT-proBNPが倍増した場合のHR1.09、同CI1.03~1.16)、偶然に発見された心房細動(HR2.04、 同1.67~2.48)であったが、左房径は有意ではなかった(左房径が1cm拡張した場合のHR0.96、同0.84~1.10)。

 臨床的に明らかな心房細動に加えて、異常心房基質のマーカーはその後の虚血性脳卒中発症と関連している。この結果は、左房内血栓に起因する血栓塞栓症の原因となる心房疾患は心房細動以外に複数存在する可能性があるという仮説と整合性がある。

 私の考察:新規概念に基づき、脳梗塞の初発・再発予防の再考が必要

 脳梗塞をTOAST分類(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症、その他の原因の脳梗塞、潜因性脳梗塞)で分けると、約3分の1が潜因性脳梗塞(原因不明の脳梗塞)に分類される(Stroke 1993; 24: 35-41)。

 TOAST分類では塞栓源として表に示すような心疾患を提示している。既存の方法による塞栓源の探索は限界に達している。

 心房細動は全身性血管危険因子のマーカー1つのであり、これまで心臓のリズム(心房細動は左房機能不全のマーカー)だけが強調されてきたが、atrial cardiopathyを示唆する別のバイオマーカーに注目すべき時代となってきている。

 今回の論文の著者Kamelらは、2016年に血栓塞栓性脳梗塞のモデルを提唱している。

 その他のマーカーとしてNT-proBNP、心電図でのPTFV1、心エコーでの左房拡大などが注目されている。

 心房細動を含めたこれらのマーカーは、高齢者、高血圧、脂質異常症、冠動脈疾患を合併する頻度が高いが、卵円孔開存症の合併は少ない。本研究では虚血性脳卒中発症と有意に関連したのは、PTFV1、NT-proBNP、偶然に発見された心房細動であったが、左房径は有意ではなかった。

 以前、熊本市民病院在籍していた伊藤康幸氏(国保水俣市立総合医療センター神経内科部長)のデータによると、当院に2011年3月~14年9月に入院した脳梗塞および一過性脳虚血発作(TIA)患者 898例の内訳は、TIA11.3%、ラクナ梗塞12.3%、アテローム血栓性脳梗塞20.5%、心原性脳塞栓症24.1%、その他の原因による脳梗塞13.6%、潜因性脳梗塞18.4%であった。

 潜因性脳梗塞のほとんどが塞栓源不明脳塞栓症 (ESUS:embolic stroke of undetermined source)であった。226例(25.0%)で心房細動が確認されたが、潜因性脳梗塞が18.4%存在し、この中に心房細動がまだ隠れているのであろうと考えていた。

 心房細動の発見時期については、脳梗塞/TIAの発症前に分かっていたものが148例(65.5%)、発症後の入院中に発見できたものが78例(34.5%)であった。

 過去の報告でも、心房細動と脳梗塞を併発した患者の3分の1は、脳梗塞を発症するまで心房細動が明らかになっていない(Stroke 2016; 47: 895-900、Circulation 2014; 129: 2094-2099)。

 そのため、潜因性脳梗塞(そのほとんどがESUS)の原因を徹底的に検索しても不明なまま、チームで検討した上で抗血小板薬あるいは抗凝固薬のどちらかを投与し、退院や転院せざるをえない症例が多いのが現状である。

 近年、脳卒中発症前に分かっている心房細動(cardiogenic AF)と、脳卒中発症後に見つかる心房細動(atrial fibrillation detected after stroke and TIA:AFDAS、neurogenic AF)は異なるとの考えが提唱されている(Curr Opin Neurol 2017; 30: 28-37)。

 前述の通り、脳梗塞が心房細動を引き起こすこともあるという考え方である。

 脳梗塞後の初期の心臓モニタリングでは、70%以上で入院3日目に心房細動が診断されている(Stroke 2016; 47: 895-900)。

 AFDASを伴った患者で発作性に起こる心房細動の95%以上は、持続時間が30秒未満である。

 当然、無症候性心房細動が多くを占めている。

 また潜因性脳梗塞では長期の心電図モニタリングでも心房細動は3年間で3分の1でしか見つからない。

 心房細動患者の脳梗塞リスクを層別化するためにCHADS2スコアが登場したが、心房細動が存在すれば必ず脳梗塞を来すわけではない。

 もちろん、心房細動以外のバイオマーカーが存在しても脳梗塞が必発するわけではない。

 これらのマーカーが存在した場合でもCHADS2スコアが高値の潜因性脳梗塞、特にESUSでは抗凝固薬が必要かもしれない。

 現時点でESUSには直接経口抗凝固薬(DOAC)は使えないのでワルファリンしか選択肢かないが、ESUSに対するDOACの効果を検討する臨床試験でアスピリンに対する優越性が示されれば使用可能になる。

 高齢者の原因不明の脳梗塞では、心房細動やがんの探索などを積極的に行ってきたが、脳梗塞の2〜3割は原因不明という状況を打破するためには、"atrial cardiopathy"という新たな概念を取り入れて、脳梗塞の発症予防や再発予防を再考する時期に来ているのかもしれない。

 心房内に血栓ができやすい病態であるatrial cardiopathyや異常心房基質を簡便に検出できるマーカーが開発されることに期待したい。

「Medical Tribune」2018年05月16日
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西城秀樹さん、脳梗塞と急性心不全、なぜ? [医療小文]

西城秀樹さん死去。

2018年4月25日、自宅で家族団欒の席で倒れて緊急入院し、懸命の治療が行われたが、5月16日23時53分、急性心不全のため神奈川県横浜市内の病院で死去。63歳。

医師の見解 脳梗塞と急性心不全は「関係あるとみるのが自然」(スポニチ)

 2度の脳梗塞を乗り越えた西城さんだが、死因は急性心不全だった。

 2つの病気の因果関係について、医療ジャーナリストで医師の森田豊氏は、

「63歳という若い年齢からも、2つの病気があったというよりは、関係があるとみるのが自然だ」と指摘した。

 急性心不全の原因としては心筋梗塞、不整脈、弁膜症などがある。

「中でも、脳梗塞を2度起こした西城さんは、やはり血栓ができて冠動脈に詰まりが生じた心筋梗塞ではないでしょうか」と分析した。

 元々、西城さんは血液が濃くなる「二次性多血症」で、血液が詰まりやすい体質だった。

 脳梗塞、心筋梗塞の原因は老化や生活習慣による動脈硬化が主で、日本人の4人に1人が動脈硬化による心臓や脳の病気で亡くなっている。

 森田氏は「脳梗塞の後、本人も医師も薬や生活習慣の見直しで再発防止に努めていたと思う。

 具体的には禁煙禁酒、適度な運動、食生活の改善など。しかし、それよりも血管の病の進行が強かったのではないか」と語った。

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飲酒と糖尿病リスクの関係 [医療小文]

週3~4回の飲酒で糖尿病リスクが最低に

適度な飲酒は2型糖尿病リスク低下との関連が報告されている。

が、飲酒パターンとの関係についてはほとんど知られていない。

デンマーク・National Institute of Public Health University(国立公衆衛生大学)のCharlotte Holst氏らは、2007~08年に健康診査を受けた18歳以上の男女7万人のデータを解析。

週3~4回の飲酒が糖尿病の最低リスクと関連することが示唆されたと、「Diabetologia(糖尿病)」オンライン版)に報告した。

男性は週14ドリンク、女性は週9ドリンクで40~50%リスク減

Holst氏らは、健康診査データを用いて、一般的なデンマーク人男女の飲酒パターンと糖尿病リスクとの関連を調べた。

解析対象は、糖尿病歴のない(妊婦および過去6カ月以内の経産婦は除外)7万551人(18~98歳)で、男性2万8,704人と女性4万1,847人。

自記式調査票を用いて、飲酒パターンから週当たりの平均アルコール摂取量を算出。

糖尿病の診断情報はデンマークの全国登録データから入手した。

平均4.9年の追跡期間中、男性859例と女性887例が糖尿病を発症した。

男女とも週間飲酒量と糖尿病リスクにはU字型関係が認められた。

糖尿病リスクの最も低い飲酒パターンは、男性は週14ドリンク、女性は週9ドリンク。

交絡因子および週間平均アルコール消費量調整後も、軽度~中等度の飲酒は糖尿病リスク低下と有意に関連しており、週1回の飲酒と比べて、週3~4回の飲酒では男性で27%、女性で32%、リスクが減少した。

ドリンク(基準飲酒量):飲酒量を純アルコールに換算する〔飲酒量(mL) × 酒のアルコール濃度 × 0.8〕表示法。

世界保健機関(WHO)では1ドリンク=10gと定義、日本も同基準を採用。

デンマークは12gとしている。

ビール(5%) 500mL 缶1本はアルコール20g=2ドリンク、ワイン(12%)グラス1杯(120mL)はアルコール12g=1ドリンクとなる。
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