糖尿病腎症の治療が変わる [医療小文]
変わる糖尿病腎症の概念、治療も変わる?
山田 悟 北里研究所病院糖尿病センター長。
研究の背景:蛋白尿陰性で腎不全に至る糖尿病の存在がクローズアップ
私が学生の頃、糖尿病腎症とは、
①無徴候(あるいは糸球体過剰濾過)
②アルブミン尿
③蛋白尿
④腎不全
⑤透析―という進展段階をたどるとされていた。
しかし世界的には、最近その概念が大きく変わりつつある。
実際、2015年までdiabetic nephropathy(直訳すれば糖尿病糸球体症)という用語を用いていた米国糖尿病学会(ADA)は、2016年以降はdiabetic kidney disease〔直訳すれば糖尿病腎臓病。最近、糖尿病性腎臓病(DKD)の訳語が定着〕と用語を変更し、糖尿病に関連する腎臓病の重要な部分は糸球体の変化にあるが、腎臓全体の変化に目を向けなければならないとしている。
すなわち、蛋白尿が陰性でも腎不全→透析に至る糖尿病患者の存在を認識しなくてはならないのである。
このような患者は、レニン・アンジオテンシン系阻害薬の普及と降圧管理の厳格化により、一度生じた蛋白尿が陰性化しているだけで、本来の典型的なnephropathy(糸球体症)の進展段階を経て、腎不全・透析になっている症例を見ているだけなのかもしれない。
しかし、アルブミン尿や蛋白尿といった糸球体の問題を生じずに尿細管の障害などから腎不全・透析になっている患者の存在を否定できないし、そもそもアルブミン尿が陰性であるというだけでは、腎不全への進展を予防し切れるわけではないのである。
こうした中、糖尿病における推算糸球体濾過量(eGFR)の自然史を見て、その危険因子の同定を試みたコホート研究の結果がADAの機関誌Diabetes Care(2018年6月1日オンライン版)に報告された。
大変に興味深く、ご紹介したい。
研究のポイント1:ARIC研究の1万5,517人でeGFRの自然経過を観察
本研究は、米国で実施されているAtherosclerosis Risk In Communities(ARIC)研究の一環として行われたものである。
ARICはその名の通り、アテローム性動脈硬化の危険因子を検討するコホート研究であり、30年に近い歴史を持っている。
今回は、第1回訪問(1987~89年)から第5回訪問(2011~13年)での採血のうち、第3回訪問を除いてなされた血中クレアチニン(Cr)の測定結果を用いることとした。
コホート全体1万5,792人のうち、ベースラインのeGFRが15mL/分/1.73m2未満であったり、eGFRのデータがなかったりするなどの理由で一部を除外し、1万5,517人を解析の対象とした。
また、第1回訪問における耐糖能により、①非糖尿病②未診断糖尿病③診断済み糖尿病―の3群に分け、各群におけるeGFRの経年変化を追った。
3群の特徴は表1のようなもので、糖尿病の2群には、非糖尿病群に比較して、やや高齢、高血圧や冠動脈疾患既往がある、BMIが大きい、HDL-Cが低い、世帯収入が低い、学歴が低い、といった特徴が見られた。
研究のポイント2:糖尿病患者のeGFR低下速度は非糖尿病より速かった
eGFRの経年変化を見ると、糖尿病の有無にかかわわらず低下していた。
しかし、糖尿病の状態によってその低下速度は異なり、さまざまな因子※で調整後の1年当たりの数値としては、非糖尿病群-1.4mL/分/1.73m2、未診断糖尿病群-1.8mL/分/1.73m2、診断済み糖尿病群-2.5mL/分/1.73m2であった。
各群での低下速度の10パーセンタイル、25パ―センタイル、50パーセンタイル(中央値)、75パーセンタイル、90パーセンタイル値を調べた。
診断済み糖尿病群において、より速くeGFRを低下させる因子を検討したところ、6因子が統計学的に見いだされた。
それを各種因子※で調整したところ、右側の6因子となった。なお、Apolipoprotein L1(APOL1)遺伝子は黒人において慢性腎臓病(CKD)の発症リスクに関わることが以前から指摘されている。
私の考察:糸球体症であれ腎臓病であれ、なすべき治療は変わらない
今回の研究では、共変数として取り上げられていないものとして以下の2つが挙げられる。
このことこそ、この10年での糖尿病による腎臓合併症(=DKD)の理解の変化を物語っていると思う。
その1つが、蛋白尿、アルブミン尿である。
実は、ARIC研究においては、10年前にCKDの発症(eGFR<60mL/分/1.73m2)に対して、アルブミン尿や網膜症の有無にかかわらず、HbA1cが関与していることが示されていた。
だからこそ、今回の検討では共変数にしなかったのであろう。
そしてもう1つ、取り上げられなかったのが、蛋白質摂取量である。
実は、これについてもARIC研究では2017年に蛋白質摂取量の多寡がeGFRの変化にかかわっていないことを報告している。
さればこそ、今回の検討においてやはり共変数にしなかったのであろう。
先ごろ刊行された『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』では2つのメタ解析を理由に蛋白質摂取制限を推奨している。
しかし、蛋白質摂取制限の有効性に否定的であったPanらのメタ解析をなぜ採用しなかったのかについて記載はない。
また、有名なMDRD試験において示された極端な蛋白質摂取制限による死亡率上昇の懸念についても注意喚起がない。
今後の真摯なる批判的吟味が必要な領域といえよう。
一方、今回の検討においても、修飾可能なeGFR低下の危険因子として見いだされたのは、血圧管理、血糖管理、喫煙の3項目であった(人種や遺伝子多型は変更不可能な因子であり、糖尿病治療薬は過去の血糖管理の状況の悪さの反映と思われる)。
よって、糖尿病による腎臓合併症の理解が変化しようとも、われわれが日常臨床でなすべき治療は変わらないようである。
なお、日本人糖尿病50人および日本人腎硬化症50人での、eGFRとアルブミン尿の末期腎不全(透析・移植)に至るまでの推移を示した日本大学のデータでは、やはり糖尿病ではアルブミン尿の方が先行しやすいことが示されている。
①無徴候(あるいは糸球体過剰濾過)②アルブミン尿③蛋白尿④腎不全⑤透析―という進展段階の理解は、少なくともわが国においてはなお成立する。
わが国における糖尿病腎症の病期分類や腎症に対する理解は、なお変更せずとも大丈夫なのかもしれない。
※この研究においては共変数として以下の項目が検討された
自己申告:年齢、性、人種、冠動脈疾患の既往、喫煙状況、世帯収入、学歴、高血圧治療薬の有無、糖尿病治療薬の有無
診察室測定:身長、体重、血圧
採血指標:APOL1遺伝子多型、HbA1c、1,5-AG
「MedicalTribune 」2018年06月28日 による。
山田 悟 北里研究所病院糖尿病センター長。
研究の背景:蛋白尿陰性で腎不全に至る糖尿病の存在がクローズアップ
私が学生の頃、糖尿病腎症とは、
①無徴候(あるいは糸球体過剰濾過)
②アルブミン尿
③蛋白尿
④腎不全
⑤透析―という進展段階をたどるとされていた。
しかし世界的には、最近その概念が大きく変わりつつある。
実際、2015年までdiabetic nephropathy(直訳すれば糖尿病糸球体症)という用語を用いていた米国糖尿病学会(ADA)は、2016年以降はdiabetic kidney disease〔直訳すれば糖尿病腎臓病。最近、糖尿病性腎臓病(DKD)の訳語が定着〕と用語を変更し、糖尿病に関連する腎臓病の重要な部分は糸球体の変化にあるが、腎臓全体の変化に目を向けなければならないとしている。
すなわち、蛋白尿が陰性でも腎不全→透析に至る糖尿病患者の存在を認識しなくてはならないのである。
このような患者は、レニン・アンジオテンシン系阻害薬の普及と降圧管理の厳格化により、一度生じた蛋白尿が陰性化しているだけで、本来の典型的なnephropathy(糸球体症)の進展段階を経て、腎不全・透析になっている症例を見ているだけなのかもしれない。
しかし、アルブミン尿や蛋白尿といった糸球体の問題を生じずに尿細管の障害などから腎不全・透析になっている患者の存在を否定できないし、そもそもアルブミン尿が陰性であるというだけでは、腎不全への進展を予防し切れるわけではないのである。
こうした中、糖尿病における推算糸球体濾過量(eGFR)の自然史を見て、その危険因子の同定を試みたコホート研究の結果がADAの機関誌Diabetes Care(2018年6月1日オンライン版)に報告された。
大変に興味深く、ご紹介したい。
研究のポイント1:ARIC研究の1万5,517人でeGFRの自然経過を観察
本研究は、米国で実施されているAtherosclerosis Risk In Communities(ARIC)研究の一環として行われたものである。
ARICはその名の通り、アテローム性動脈硬化の危険因子を検討するコホート研究であり、30年に近い歴史を持っている。
今回は、第1回訪問(1987~89年)から第5回訪問(2011~13年)での採血のうち、第3回訪問を除いてなされた血中クレアチニン(Cr)の測定結果を用いることとした。
コホート全体1万5,792人のうち、ベースラインのeGFRが15mL/分/1.73m2未満であったり、eGFRのデータがなかったりするなどの理由で一部を除外し、1万5,517人を解析の対象とした。
また、第1回訪問における耐糖能により、①非糖尿病②未診断糖尿病③診断済み糖尿病―の3群に分け、各群におけるeGFRの経年変化を追った。
3群の特徴は表1のようなもので、糖尿病の2群には、非糖尿病群に比較して、やや高齢、高血圧や冠動脈疾患既往がある、BMIが大きい、HDL-Cが低い、世帯収入が低い、学歴が低い、といった特徴が見られた。
研究のポイント2:糖尿病患者のeGFR低下速度は非糖尿病より速かった
eGFRの経年変化を見ると、糖尿病の有無にかかわわらず低下していた。
しかし、糖尿病の状態によってその低下速度は異なり、さまざまな因子※で調整後の1年当たりの数値としては、非糖尿病群-1.4mL/分/1.73m2、未診断糖尿病群-1.8mL/分/1.73m2、診断済み糖尿病群-2.5mL/分/1.73m2であった。
各群での低下速度の10パーセンタイル、25パ―センタイル、50パーセンタイル(中央値)、75パーセンタイル、90パーセンタイル値を調べた。
診断済み糖尿病群において、より速くeGFRを低下させる因子を検討したところ、6因子が統計学的に見いだされた。
それを各種因子※で調整したところ、右側の6因子となった。なお、Apolipoprotein L1(APOL1)遺伝子は黒人において慢性腎臓病(CKD)の発症リスクに関わることが以前から指摘されている。
私の考察:糸球体症であれ腎臓病であれ、なすべき治療は変わらない
今回の研究では、共変数として取り上げられていないものとして以下の2つが挙げられる。
このことこそ、この10年での糖尿病による腎臓合併症(=DKD)の理解の変化を物語っていると思う。
その1つが、蛋白尿、アルブミン尿である。
実は、ARIC研究においては、10年前にCKDの発症(eGFR<60mL/分/1.73m2)に対して、アルブミン尿や網膜症の有無にかかわらず、HbA1cが関与していることが示されていた。
だからこそ、今回の検討では共変数にしなかったのであろう。
そしてもう1つ、取り上げられなかったのが、蛋白質摂取量である。
実は、これについてもARIC研究では2017年に蛋白質摂取量の多寡がeGFRの変化にかかわっていないことを報告している。
さればこそ、今回の検討においてやはり共変数にしなかったのであろう。
先ごろ刊行された『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018』では2つのメタ解析を理由に蛋白質摂取制限を推奨している。
しかし、蛋白質摂取制限の有効性に否定的であったPanらのメタ解析をなぜ採用しなかったのかについて記載はない。
また、有名なMDRD試験において示された極端な蛋白質摂取制限による死亡率上昇の懸念についても注意喚起がない。
今後の真摯なる批判的吟味が必要な領域といえよう。
一方、今回の検討においても、修飾可能なeGFR低下の危険因子として見いだされたのは、血圧管理、血糖管理、喫煙の3項目であった(人種や遺伝子多型は変更不可能な因子であり、糖尿病治療薬は過去の血糖管理の状況の悪さの反映と思われる)。
よって、糖尿病による腎臓合併症の理解が変化しようとも、われわれが日常臨床でなすべき治療は変わらないようである。
なお、日本人糖尿病50人および日本人腎硬化症50人での、eGFRとアルブミン尿の末期腎不全(透析・移植)に至るまでの推移を示した日本大学のデータでは、やはり糖尿病ではアルブミン尿の方が先行しやすいことが示されている。
①無徴候(あるいは糸球体過剰濾過)②アルブミン尿③蛋白尿④腎不全⑤透析―という進展段階の理解は、少なくともわが国においてはなお成立する。
わが国における糖尿病腎症の病期分類や腎症に対する理解は、なお変更せずとも大丈夫なのかもしれない。
※この研究においては共変数として以下の項目が検討された
自己申告:年齢、性、人種、冠動脈疾患の既往、喫煙状況、世帯収入、学歴、高血圧治療薬の有無、糖尿病治療薬の有無
診察室測定:身長、体重、血圧
採血指標:APOL1遺伝子多型、HbA1c、1,5-AG
「MedicalTribune 」2018年06月28日 による。
アルブミン尿と高血圧 [健康短信]
アルブミン尿、慢性腎臓病、高血圧症
高血圧症の推定患者数は約4000万人。
あらゆる生活習慣病のなかで断トツに多い。
その約4割に腎臓病が潜んでいることが、国内初の大規模調査で分かった。
大日本住友製薬は、全国の病・医院の医師の協力を得て、通院治療中の高血圧患者約9000人の尿検査を行った。
結果、腎機能の低下を示す「アルブミン尿」陽性が43%の人に認められた。
(注・アルブミンは単純たんぱく質の一種。通常の尿検査で測定するのは「たんぱく尿」のみ)。
調査を監修した渡辺毅・福島県立医科大主任教授のコメント。
「尿中アルブミンの測定は慢性腎臓病の予知因子─いわば隠れ腎臓病を的確に見つける方法として有用です。
アルブミン尿陽性とされた人たちに共通する主な危険因子は、年齢、高血圧、喫煙、糖尿病でした。
年齢はどうにもなりませんから、たばこを止める。
血圧を下げる。
血糖値をコントロールし、脂質異常症(善玉コレステロールが低く、悪玉と中性脂肪が高い)を改善する。
日常生活の注意としては風邪、下痢、胃腸炎などを起こさないことです」
高血圧症の推定患者数は約4000万人。
あらゆる生活習慣病のなかで断トツに多い。
その約4割に腎臓病が潜んでいることが、国内初の大規模調査で分かった。
大日本住友製薬は、全国の病・医院の医師の協力を得て、通院治療中の高血圧患者約9000人の尿検査を行った。
結果、腎機能の低下を示す「アルブミン尿」陽性が43%の人に認められた。
(注・アルブミンは単純たんぱく質の一種。通常の尿検査で測定するのは「たんぱく尿」のみ)。
調査を監修した渡辺毅・福島県立医科大主任教授のコメント。
「尿中アルブミンの測定は慢性腎臓病の予知因子─いわば隠れ腎臓病を的確に見つける方法として有用です。
アルブミン尿陽性とされた人たちに共通する主な危険因子は、年齢、高血圧、喫煙、糖尿病でした。
年齢はどうにもなりませんから、たばこを止める。
血圧を下げる。
血糖値をコントロールし、脂質異常症(善玉コレステロールが低く、悪玉と中性脂肪が高い)を改善する。
日常生活の注意としては風邪、下痢、胃腸炎などを起こさないことです」
「賢臓(けんぞう)」の危険な特徴 [医療小文]
賢い働き者=腎臓
腎臓は小さいながらも大変な働き者で、しかも非常に賢い臓器なので「腎臓は賢臓(けんぞう)だ」といわれる。
「腎(じん)」と「賢(けん)」、字もよく似ているが、腎臓のすばらしい働きはまさに「賢臓」。
大きさはにぎりこぶしぐらい。重さはおよそ120グラム─左右合わせて250グラム。
胃の後ろの辺、背骨の両側にある。
左右二つあるが、二つなければ生きていけないということはない。
それどころか、片方の腎臓の3分の1に働きが落ちても生きていける。
それほど予備能力の大きい臓器だが、それが裏目に出て、透析寸前になるまで異常に気づきにくいのが、腎臓の危険な特徴だ。
腎臓は三つ、大きな働きをしている。
一つは尿を作る働き。
血液を濾過(ろか)して、体に不要の老廃物を尿として排せつする。
濾過されてきれいになった血液は、体に戻って再循環する。
二つめは環境調整。
体内の水分の調節、血圧の調節、塩分の調節、体液の濃度と量の調節、血液の酸性・アルカリ性のバランスの調節。
三つめは、ホルモンをつくって分泌する内分泌的機能。
血圧の維持に重要なレニン、赤血球の産生を刺激するエリスロポエチン、骨をつくるビタミンDを活性化する。
腎臓と血圧
腎臓の機能は加齢に伴って低下する。
70歳以上の男性の約30%、女性の約50%が、腎機能60%未満の慢性腎臓病の基準に合致するといわれる。
慢性腎臓病の人の多くが高血圧を合併している。
高血圧は腎臓病を進行させ、腎臓病は高血圧を悪化させる。
高血圧の人は、血圧測定に加え、ときどき尿検査をして、腎臓への気配りが大切だ。「毎日血圧、ときどき尿検査」を──。
腎臓病は初期には無症状だ。
進行を防ぐ決め手は早期発見・早期治療。これしかない。
腎臓と貧血
腎臓は尿をつくり、老廃物を排せつし、体の中のミネラルや酸性度を一定に保ち、ビタミンDを活性化し、血圧を調節するホルモン(レニン)や造血に関与するホルモン(エリスロポエチン)を分泌するなど多種多様な働きをしている。
だから腎臓の機能が慢性的に低下する慢性腎臓病(CKD)になると、体にさまざまな異常が生じる。
最近、とりわけ貧血の重要性が注目されている。
貧血は血液中のヘモグロビン(赤血球に含まれる酸素を運ぶたんぱく質)が足りない状態だが、赤血球の産生を刺激するエリスロポエチンの90%は腎臓でつくられるので、CKDになると、貧血(腎性貧血)が起こる。
腎機能が60%以下になると、貧血の程度が強くなり、腎臓病を進行させ、心血管病を悪化させることが明らかにされている。
腎性貧血はエリスロポエチン製剤で治療できる。
「この製剤を注射するとヘモグロビンが上昇し、腎機能の低下が抑えられるだけでなく、心血管病の防止にもつながる可能性がある」と、専門家は解説している。
腎臓は小さいながらも大変な働き者で、しかも非常に賢い臓器なので「腎臓は賢臓(けんぞう)だ」といわれる。
「腎(じん)」と「賢(けん)」、字もよく似ているが、腎臓のすばらしい働きはまさに「賢臓」。
大きさはにぎりこぶしぐらい。重さはおよそ120グラム─左右合わせて250グラム。
胃の後ろの辺、背骨の両側にある。
左右二つあるが、二つなければ生きていけないということはない。
それどころか、片方の腎臓の3分の1に働きが落ちても生きていける。
それほど予備能力の大きい臓器だが、それが裏目に出て、透析寸前になるまで異常に気づきにくいのが、腎臓の危険な特徴だ。
腎臓は三つ、大きな働きをしている。
一つは尿を作る働き。
血液を濾過(ろか)して、体に不要の老廃物を尿として排せつする。
濾過されてきれいになった血液は、体に戻って再循環する。
二つめは環境調整。
体内の水分の調節、血圧の調節、塩分の調節、体液の濃度と量の調節、血液の酸性・アルカリ性のバランスの調節。
三つめは、ホルモンをつくって分泌する内分泌的機能。
血圧の維持に重要なレニン、赤血球の産生を刺激するエリスロポエチン、骨をつくるビタミンDを活性化する。
腎臓と血圧
腎臓の機能は加齢に伴って低下する。
70歳以上の男性の約30%、女性の約50%が、腎機能60%未満の慢性腎臓病の基準に合致するといわれる。
慢性腎臓病の人の多くが高血圧を合併している。
高血圧は腎臓病を進行させ、腎臓病は高血圧を悪化させる。
高血圧の人は、血圧測定に加え、ときどき尿検査をして、腎臓への気配りが大切だ。「毎日血圧、ときどき尿検査」を──。
腎臓病は初期には無症状だ。
進行を防ぐ決め手は早期発見・早期治療。これしかない。
腎臓と貧血
腎臓は尿をつくり、老廃物を排せつし、体の中のミネラルや酸性度を一定に保ち、ビタミンDを活性化し、血圧を調節するホルモン(レニン)や造血に関与するホルモン(エリスロポエチン)を分泌するなど多種多様な働きをしている。
だから腎臓の機能が慢性的に低下する慢性腎臓病(CKD)になると、体にさまざまな異常が生じる。
最近、とりわけ貧血の重要性が注目されている。
貧血は血液中のヘモグロビン(赤血球に含まれる酸素を運ぶたんぱく質)が足りない状態だが、赤血球の産生を刺激するエリスロポエチンの90%は腎臓でつくられるので、CKDになると、貧血(腎性貧血)が起こる。
腎機能が60%以下になると、貧血の程度が強くなり、腎臓病を進行させ、心血管病を悪化させることが明らかにされている。
腎性貧血はエリスロポエチン製剤で治療できる。
「この製剤を注射するとヘモグロビンが上昇し、腎機能の低下が抑えられるだけでなく、心血管病の防止にもつながる可能性がある」と、専門家は解説している。
透析直前の「隠れ腎臓病」 [医療小文]
隠れ腎臓病
世界の腎臓病関連の学会が、腎機能の低下が慢性的に続いて、やがて透析が必要となる腎臓病をひとまとめに「慢性腎臓病(CKD=クロニック・キドニー・ディジーズ)」と呼ぶことに決めたのは、2002年。
2006年からは3月の第2木曜日を「世界腎臓デー」として、CKDの早期発見・早期治療の啓発運動を展開している。
日本腎臓学会は、国内のCKD患者は1330万人、ただちに治療が必要な人だけでも600万人と推定している。
CKDは、「隠れ腎臓病」と呼ばれるように自覚症状が表れにくく、病院に来たときはもう「透析直前」ということさえある。
怖いのはそれだけではない。
CKDがあると、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが高まり、貧血も起こる。
CKDの発見からそうした病気の初期異常が見つかることも少なくない。
CKD早期発見の第一条件は、毎年必ず健診を受けること。
潜血と尿たんぱくを調べる尿検査は簡便でかなり正確だ。
だが、それでは異常が見つからないケースもある。
糖尿病や高血圧の人、これらの病気にかかっている家族をもつ50歳以上の人、貧血の疑いのある人は、より詳しい「KEEP」という検診を受けたほうがよい。
早期発見プログラム、KEEP
腎臓は、体の老廃物を尿として排せつし、体の水分(体液)量とミネラルを一定に保ち、血圧を調節するホルモンや造血に関与するホルモンを分泌するなど、生命維持に不可欠な役割を担っている。
だから神さまはちゃんと二つ用意し、一つがダメになっても、もう一つのほうで(それも機能が3分の1に低下しても)生きていけるようにしてくださっている。
ところが、その大きな予備能力が裏目に出て、機能がかなり低下しても自覚症状が表れず、診断されたときは透析か腎移植しか選択肢がないことも多い。
この慢性腎臓病を早く見つける簡便な方法が検尿だが、完全ではない。腎機能が下がっていても、たんぱく尿が出ないケースがあるからだ。
完全を期すには腎臓病早期発見プログラム(KEEP)という検診を受けること。
通常の尿検査では検出できない微量のアルブミン(単純たんぱく)をチェックし、血液検査の値と身長・体重などから腎機能を総合的に評価できる。
検診は無料。心配な人はKEEP参加医療施設へ─。
CKDの段階
慢性腎臓病(CKD)は、病気がかなり進行するまで症状が表れないので「隠れ腎臓病」と呼ばれる。
おおまかな目安としては、腎機能が、
60~90%=ほとんど無症状。たんぱく尿、潜血が認められる。
30~60%=むくみが見られ、血清クレアチニン値が上がる。
15~30%=疲れやすく、貧血、血中のカルシウム低下が認められる。
15%未満=吐き気・食欲低下、息切れなどが起こる。末期腎不全の状態。
10%以下=透析が開始される。
CKDは早期発見、早期治療によって進行を防ぐことができる。
原因となっている病気(糖尿病性腎炎、慢性腎炎、高血圧など)の治療とともに大切なのは、生活習慣の改善だ。
食事では塩分とカロリーの摂取量を抑える。
塩分は1日6グラム未満にし、カロリーは体重や活動量によって設定される適正量を守る。
たばこも腎機能に影響を及ぼし、たんぱく尿をふやす。
適度の運動を続ける習慣も大切だ。
以前は腎臓病の人は運動が禁止されたが、現在は運動によって腎機能の低下が進むことはないと分かっている。
世界の腎臓病関連の学会が、腎機能の低下が慢性的に続いて、やがて透析が必要となる腎臓病をひとまとめに「慢性腎臓病(CKD=クロニック・キドニー・ディジーズ)」と呼ぶことに決めたのは、2002年。
2006年からは3月の第2木曜日を「世界腎臓デー」として、CKDの早期発見・早期治療の啓発運動を展開している。
日本腎臓学会は、国内のCKD患者は1330万人、ただちに治療が必要な人だけでも600万人と推定している。
CKDは、「隠れ腎臓病」と呼ばれるように自覚症状が表れにくく、病院に来たときはもう「透析直前」ということさえある。
怖いのはそれだけではない。
CKDがあると、心筋梗塞や脳卒中の発症リスクが高まり、貧血も起こる。
CKDの発見からそうした病気の初期異常が見つかることも少なくない。
CKD早期発見の第一条件は、毎年必ず健診を受けること。
潜血と尿たんぱくを調べる尿検査は簡便でかなり正確だ。
だが、それでは異常が見つからないケースもある。
糖尿病や高血圧の人、これらの病気にかかっている家族をもつ50歳以上の人、貧血の疑いのある人は、より詳しい「KEEP」という検診を受けたほうがよい。
早期発見プログラム、KEEP
腎臓は、体の老廃物を尿として排せつし、体の水分(体液)量とミネラルを一定に保ち、血圧を調節するホルモンや造血に関与するホルモンを分泌するなど、生命維持に不可欠な役割を担っている。
だから神さまはちゃんと二つ用意し、一つがダメになっても、もう一つのほうで(それも機能が3分の1に低下しても)生きていけるようにしてくださっている。
ところが、その大きな予備能力が裏目に出て、機能がかなり低下しても自覚症状が表れず、診断されたときは透析か腎移植しか選択肢がないことも多い。
この慢性腎臓病を早く見つける簡便な方法が検尿だが、完全ではない。腎機能が下がっていても、たんぱく尿が出ないケースがあるからだ。
完全を期すには腎臓病早期発見プログラム(KEEP)という検診を受けること。
通常の尿検査では検出できない微量のアルブミン(単純たんぱく)をチェックし、血液検査の値と身長・体重などから腎機能を総合的に評価できる。
検診は無料。心配な人はKEEP参加医療施設へ─。
CKDの段階
慢性腎臓病(CKD)は、病気がかなり進行するまで症状が表れないので「隠れ腎臓病」と呼ばれる。
おおまかな目安としては、腎機能が、
60~90%=ほとんど無症状。たんぱく尿、潜血が認められる。
30~60%=むくみが見られ、血清クレアチニン値が上がる。
15~30%=疲れやすく、貧血、血中のカルシウム低下が認められる。
15%未満=吐き気・食欲低下、息切れなどが起こる。末期腎不全の状態。
10%以下=透析が開始される。
CKDは早期発見、早期治療によって進行を防ぐことができる。
原因となっている病気(糖尿病性腎炎、慢性腎炎、高血圧など)の治療とともに大切なのは、生活習慣の改善だ。
食事では塩分とカロリーの摂取量を抑える。
塩分は1日6グラム未満にし、カロリーは体重や活動量によって設定される適正量を守る。
たばこも腎機能に影響を及ぼし、たんぱく尿をふやす。
適度の運動を続ける習慣も大切だ。
以前は腎臓病の人は運動が禁止されたが、現在は運動によって腎機能の低下が進むことはないと分かっている。
コイン型電池の誤飲にはハチミツを [健康短信]
電池誤飲時は受診前に蜂蜜を
乳幼児のボタン型電池の誤飲は重篤な消化管障害を引き起こすが、蜂蜜の摂取により食道組織の損傷が軽減する可能性があると米国の研究グループが「Laryngoscope(喉頭鏡)」」(2018年6月11日オンライン版)に報告した。
コイン型リチウム電池の誤飲が重症化のリスク因子
日常臨床において乳幼児の異物誤飲に遭遇する頻度は高く、中でもボタン型電池の誤飲は放電によるアルカリ性液の生成や電池の破損によるアルカリ性内容物の漏出などにより、組織損傷を引き起こすリスクが高い。
近年は、従来のボタン型電池よりも直径が大きく電圧が高いコイン型のリチウム電池が普及しているが、コイン型はボタン型と比べて食道に停滞しやすい。
また、リチウム電池は高電圧の放電により急速にアルカリ性液を産生し、誤飲後2時間という短い時間で重篤な組織損傷を引き起こす可能性がある。
結果、声帯麻痺、食道穿孔、気管や大血管といった隣接組織への瘻孔形成、縦隔膜炎、脊椎炎の発症に加え、敗血症や出血により死亡に至る恐れもある。
米国では、電池の誤飲による重症例の増加が報告されており、コイン型リチウム電池は重症化のリスク因子の1つとされている。
日本小児外科学会は、公式サイトでリチウム電池の誤飲について警告を発している
蜂蜜の灌流によりブタの食道組織の損傷が軽減
研究グループはブタから採取した食道組織を用いて、in vitro(試験管内)およびin vivo(生体内)での検討を行った。
in vitroの検討では、ブタから採取した食道組織を検体としてコイン型リチウム電池(3V-CR2032BB)を曝露させ、生理食塩水、蜂蜜、スクラルファート含有製剤、リンゴジュース、オレンジジュース、スポーツドリンク、メープルシロップ、模擬唾液を用いて検体を断続的に計120分間灌流した後、検体のpHを測定した。
その結果、蜂蜜およびスクラルファート含有薬剤の灌流により組織のアルカリ化が有意に抑制されていた。
In vivoの検討では、ブタの生体の食道組織にコイン型リチウム電池を曝露させ、生理食塩水、蜂蜜、スクラルファート含有製剤を断続的に計60分間灌流した後、組織を切除して10%ホルマリンで固定して検討した。
結果、潰瘍面積に差はなかったが、蜂蜜とスクラルファート含有製剤の灌流により有意に組織のアルカリ化が抑制されていた。
HE染色による評価では、壊死組織および肉芽組織の面積、筋層に達する損傷は、蜂蜜とスクラルファート含有製剤の灌流により有意に抑制されていた。
コイン型リチウム電池の誤飲時には、内視鏡的除去施行までの組織損傷を抑制することが求められる。
研究グループは、
「蜂蜜は多くの家庭に常備されている食材であり、粘性による物理的障壁としての作用に加え、弱酸性であることからアルカリ化を中和する作用を有する。
受診前の蜂蜜の摂取は、食道組織の損傷を抑制できる可能性がある」と結論している。
ただし、蜂蜜には乳児ボツリヌス症のリスクがある。
「1歳未満の乳児には禁忌であり、アレルギーにも注意が必要」と付言している。(安部重範)
「Medical Tribune」6月22日による。
乳幼児のボタン型電池の誤飲は重篤な消化管障害を引き起こすが、蜂蜜の摂取により食道組織の損傷が軽減する可能性があると米国の研究グループが「Laryngoscope(喉頭鏡)」」(2018年6月11日オンライン版)に報告した。
コイン型リチウム電池の誤飲が重症化のリスク因子
日常臨床において乳幼児の異物誤飲に遭遇する頻度は高く、中でもボタン型電池の誤飲は放電によるアルカリ性液の生成や電池の破損によるアルカリ性内容物の漏出などにより、組織損傷を引き起こすリスクが高い。
近年は、従来のボタン型電池よりも直径が大きく電圧が高いコイン型のリチウム電池が普及しているが、コイン型はボタン型と比べて食道に停滞しやすい。
また、リチウム電池は高電圧の放電により急速にアルカリ性液を産生し、誤飲後2時間という短い時間で重篤な組織損傷を引き起こす可能性がある。
結果、声帯麻痺、食道穿孔、気管や大血管といった隣接組織への瘻孔形成、縦隔膜炎、脊椎炎の発症に加え、敗血症や出血により死亡に至る恐れもある。
米国では、電池の誤飲による重症例の増加が報告されており、コイン型リチウム電池は重症化のリスク因子の1つとされている。
日本小児外科学会は、公式サイトでリチウム電池の誤飲について警告を発している
蜂蜜の灌流によりブタの食道組織の損傷が軽減
研究グループはブタから採取した食道組織を用いて、in vitro(試験管内)およびin vivo(生体内)での検討を行った。
in vitroの検討では、ブタから採取した食道組織を検体としてコイン型リチウム電池(3V-CR2032BB)を曝露させ、生理食塩水、蜂蜜、スクラルファート含有製剤、リンゴジュース、オレンジジュース、スポーツドリンク、メープルシロップ、模擬唾液を用いて検体を断続的に計120分間灌流した後、検体のpHを測定した。
その結果、蜂蜜およびスクラルファート含有薬剤の灌流により組織のアルカリ化が有意に抑制されていた。
In vivoの検討では、ブタの生体の食道組織にコイン型リチウム電池を曝露させ、生理食塩水、蜂蜜、スクラルファート含有製剤を断続的に計60分間灌流した後、組織を切除して10%ホルマリンで固定して検討した。
結果、潰瘍面積に差はなかったが、蜂蜜とスクラルファート含有製剤の灌流により有意に組織のアルカリ化が抑制されていた。
HE染色による評価では、壊死組織および肉芽組織の面積、筋層に達する損傷は、蜂蜜とスクラルファート含有製剤の灌流により有意に抑制されていた。
コイン型リチウム電池の誤飲時には、内視鏡的除去施行までの組織損傷を抑制することが求められる。
研究グループは、
「蜂蜜は多くの家庭に常備されている食材であり、粘性による物理的障壁としての作用に加え、弱酸性であることからアルカリ化を中和する作用を有する。
受診前の蜂蜜の摂取は、食道組織の損傷を抑制できる可能性がある」と結論している。
ただし、蜂蜜には乳児ボツリヌス症のリスクがある。
「1歳未満の乳児には禁忌であり、アレルギーにも注意が必要」と付言している。(安部重範)
「Medical Tribune」6月22日による。
今度こそ「卒煙」、禁煙外来へ! [健康短信]
禁煙外来の受診が成功の秘訣 今度こそ「卒煙」しよう!
「たばこは体に悪い」とわかっていても、やめられないという人も多いのではないでしょうか。
自力で禁煙した場合の成功率が5~8%程度であるのに対し、禁煙外来を受診して薬を用いると70%の人が禁煙できるといわれています。
禁煙治療の方法を知り、「卒煙」をめざしましょう。
たばこを簡単にやめられないのはなぜ?
たばこに含まれるニコチンは、脳に作用してドパミンという快感をもたらす物質を放出しますが、喫煙を続けていると、脳はニコチンのない状態ではドパミンが出にくくなります。
そのため、ニコチンが切れると、落ち着かない、イライラする、気分が沈む、集中力が低下するといった症状があらわれ、たばこを吸わずにはいられなくなります。
また、喫煙をすることで口寂しさを紛らわせたり、気分転換をしたりすることが習慣になると、心理的にもたばこに依存するようになります。
これが「ニコチン依存症」という病気です。
あなたのニコチン依存度は?
下の質問に「はい(1点)」「いいえ(0点)」で答えてみましょう。
正確な判定をするには医師の診断を受ける必要がありますが、合計点が5点以上の場合は、ニコチン依存症の可能性が高いと言えます。
問1.自分が吸うつもりよりも、ずっと多くたばこを吸ってしまうことがありましたか。
問2.禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか。
問3.禁煙したり本数を減らそうとしたときに、たばこがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか。
問4.禁煙したり本数を減らそうとしたときに、次のどれかがありましたか。
【イライラ・神経質・落ち着かない・集中しにくい・ゆううつ・頭痛・眠気・胃のむかつき・脈が遅い・手のふるえ・食欲または体重増加】
問5.問4でうかがった症状を消すために、またたばこを吸い始めることがありましたか。
問6.重い病気にかかったときに、たばこはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。
問7.たばこのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。
問8.たばこのために自分に精神的問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。
問9.自分はたばこに依存していると感じることがありましたか。
問10.たばこが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか。
たばこの害を知って禁煙につなげよう
たばこの煙には、ニコチンや一酸化炭素など約250種類の有害物質や、ヒ素やダイオキシン類など70種類以上の発がん性物質が含まれています。
喫煙をすると、これらの物質が血液を通じて全身に運ばれるため、がん、心疾患、脳血管疾患をはじめ、2型糖尿病や歯周病など、さまざまな病気の発症リスクが高まります。
がんに関しては、肺がんのみならず、全身のがんのリスクが増加します。
がんによる死亡率は、非喫煙者と比べると男性では2.0倍、女性では1.6倍になるとの報告も。
特に男性の場合、肺がんでは4.5倍、咽頭がんでは32.5倍も死亡率が高くなります。
体にダメージを与え、寿命を縮めるおそれも
ニコチンには強力な血管収縮作用があるため、喫煙者の心筋梗塞や狭心症による死亡率は非喫煙者の1.6倍、脳梗塞の発症率は1.9倍、くも膜下出血の発症率は2.9倍に。
呼吸器への影響も大きく、肺胞が壊れて正常な呼吸ができなくなるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の原因は、90%以上が喫煙によるものだといわれています。
また、若い頃から喫煙を続けると、男性は8年、女性は10年、寿命が短くなるという報告もあります。
メンタルへの影響としては、パニック障害や睡眠障害、うつや自殺のリスクも高くなることが明らかになっています。
「たばこは体に悪い」とわかっていても、やめられないという人も多いのではないでしょうか。
自力で禁煙した場合の成功率が5~8%程度であるのに対し、禁煙外来を受診して薬を用いると70%の人が禁煙できるといわれています。
禁煙治療の方法を知り、「卒煙」をめざしましょう。
たばこを簡単にやめられないのはなぜ?
たばこに含まれるニコチンは、脳に作用してドパミンという快感をもたらす物質を放出しますが、喫煙を続けていると、脳はニコチンのない状態ではドパミンが出にくくなります。
そのため、ニコチンが切れると、落ち着かない、イライラする、気分が沈む、集中力が低下するといった症状があらわれ、たばこを吸わずにはいられなくなります。
また、喫煙をすることで口寂しさを紛らわせたり、気分転換をしたりすることが習慣になると、心理的にもたばこに依存するようになります。
これが「ニコチン依存症」という病気です。
あなたのニコチン依存度は?
下の質問に「はい(1点)」「いいえ(0点)」で答えてみましょう。
正確な判定をするには医師の診断を受ける必要がありますが、合計点が5点以上の場合は、ニコチン依存症の可能性が高いと言えます。
問1.自分が吸うつもりよりも、ずっと多くたばこを吸ってしまうことがありましたか。
問2.禁煙や本数を減らそうと試みて、できなかったことがありましたか。
問3.禁煙したり本数を減らそうとしたときに、たばこがほしくてほしくてたまらなくなることがありましたか。
問4.禁煙したり本数を減らそうとしたときに、次のどれかがありましたか。
【イライラ・神経質・落ち着かない・集中しにくい・ゆううつ・頭痛・眠気・胃のむかつき・脈が遅い・手のふるえ・食欲または体重増加】
問5.問4でうかがった症状を消すために、またたばこを吸い始めることがありましたか。
問6.重い病気にかかったときに、たばこはよくないとわかっているのに吸うことがありましたか。
問7.たばこのために自分に健康問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。
問8.たばこのために自分に精神的問題が起きているとわかっていても、吸うことがありましたか。
問9.自分はたばこに依存していると感じることがありましたか。
問10.たばこが吸えないような仕事やつきあいを避けることが何度かありましたか。
たばこの害を知って禁煙につなげよう
たばこの煙には、ニコチンや一酸化炭素など約250種類の有害物質や、ヒ素やダイオキシン類など70種類以上の発がん性物質が含まれています。
喫煙をすると、これらの物質が血液を通じて全身に運ばれるため、がん、心疾患、脳血管疾患をはじめ、2型糖尿病や歯周病など、さまざまな病気の発症リスクが高まります。
がんに関しては、肺がんのみならず、全身のがんのリスクが増加します。
がんによる死亡率は、非喫煙者と比べると男性では2.0倍、女性では1.6倍になるとの報告も。
特に男性の場合、肺がんでは4.5倍、咽頭がんでは32.5倍も死亡率が高くなります。
体にダメージを与え、寿命を縮めるおそれも
ニコチンには強力な血管収縮作用があるため、喫煙者の心筋梗塞や狭心症による死亡率は非喫煙者の1.6倍、脳梗塞の発症率は1.9倍、くも膜下出血の発症率は2.9倍に。
呼吸器への影響も大きく、肺胞が壊れて正常な呼吸ができなくなるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の原因は、90%以上が喫煙によるものだといわれています。
また、若い頃から喫煙を続けると、男性は8年、女性は10年、寿命が短くなるという報告もあります。
メンタルへの影響としては、パニック障害や睡眠障害、うつや自殺のリスクも高くなることが明らかになっています。
受動喫煙の害→卒煙の方法 [健康短信]
見過ごせない! 受動喫煙の害
たばこの副流煙(たばこの先から出る煙)には、主流煙(喫煙者が吸う煙)よりも多くの有害物質が含まれており、ニコチンは主流煙の2.8倍、発がん性物質であるジメチルニトロソアミンは最大で129倍にもなります。
厚生労働省の発表では、副流煙や喫煙者が吐き出した煙、たばこのにおいが染みついたカーテンや家具などから有害物質を吸い込む「受動喫煙」による病気で、年間に1万5000人が死亡しています。
子どもの場合はSIDS(乳幼児突然死症候群)やぜんそくを引き起こすおそれもあり、妊婦では低体重児出産のリスクが高まります。
これらの被害は、喫煙スペースを分ける「分煙」では完全に防ぐことはできないため、社会全体で禁煙に取り組むことが必要です。
また、電子たばこや加熱式たばこのニコチン含有量は、従来のたばこの約80%でそれほど変わらないため、当然、受動喫煙の害もあります。
「禁煙補助薬」と「禁煙指導」の二つが柱
禁煙外来では、ニコチン切れの症状を抑える禁煙補助薬を用いながら、禁煙指導を受けます。
3カ月で5回受診するのが一般的ですが、一部の健康保険組合が連携する医療機関では、PCやスマホでの診察が受けられる場合に限り、遠隔診療も認められるようになりました。
禁煙補助薬(貼り薬か飲み薬)を選択
禁煙補助薬には、貼り薬の「ニコチンパッチ」と、飲み薬の「バレニクリン」があります。
市販薬の「ニコチンガム」は、保険が適用されず自費購入となります。
■「今日から1本も吸わない!」という人は「ニコチンパッチ」
1日1回、腕などに貼り、ニコチンを皮膚から吸収させて「たばこを吸いたい」という気持ちを抑えます。
パッチを徐々に小さいサイズに替えていくことで、2か月程度でパッチなしでの禁煙が可能に。薬局などで、医師の処方箋がなくても購入できます。
■「今日から禁煙は無理!」という人は「バレニクリン」
バレニクリンはニコチンに似た作用をもつ飲み薬ですが、ドパミンの放出量は少ないので依存は起こりません。
脳内でニコチンの作用部位にバレニクリンが結合すると、その部位にはニコチンが作用できなくなるため、たばこを吸っても「おいしい」と感じなくなります。
1日1錠から服用を始め、1週間かけて量を増やしていくので、服用開始から1週間は喫煙してもかまいません。
禁煙指導で習慣や未練を断ち切る
禁煙外来では、初診時にたばこへの依存度をチェックし、問診で禁煙する目的などを確認したうえで「禁煙宣言書」にサインをします。
その後は、禁煙に役立つ具体的なアドバイスを受けることができます。
<環境を整備する>「自宅にある灰皿やライターを捨てる」「いつも吸っていた場所に物を置いて封鎖する」など、生活の中でたばこを吸いやすい環境をなくします。
<代償行動を決める>「ガムを噛む」「飴をなめる」「飲み物を飲む」、または「深呼吸をする」「体を動かす」「音楽を聴く」など、たばこを吸いたくなったときに代わりにする行動を前もって決めておきます。
「たばこを吸う」という動作をしないことが重要なので、疑似たばこ(たばこの形をしたスティックなど)を吸うのは避けましょう。
<行動パターンを変える>食後の一服が習慣になっていたのであれば、「食後すぐに席を立つ」「食後ゆっくり歯みがきをする」などして、「食後にたばこを吸う」という行動パターンを変更します。
これらの方法により禁煙を続けていくと、吐く息に含まれる一酸化炭素の濃度が下がっていきます。
禁煙へのモチベーションを維持するために、多くの医療機関では受診のたびに呼気の測定を行い、禁煙の成果を数字で確認できるようにしています。
再喫煙を防ぐには
飲み会の席などで「1本くらいなら」と吸ったことがきっかけで、再喫煙に至るケースが多く見られます。
禁煙してしばらくの間は、喫煙可能な店に行くのは控えた方がよいでしょう。
また、家族や同僚に禁煙することを宣言しておくと、外食時は完全禁煙の店にするなど協力も得られやすくなります。
また、「たばこはおいしい」という記憶は、再喫煙を招く原因になります。
禁煙外来で「たばこはおいしくない」と感じる経験をしておくことも重要です。
たばこは吸っている本人だけではなく、周囲の人々の健康にも悪影響を及ぼすもの。たばこへの執着を断ち切り、「禁煙」ではなく「卒煙」することをめざしましょう。
禁煙治療は保険診療が可能です
禁煙治療では「1日当たりの喫煙本数×喫煙年数=200以上」であることが保険診療の条件となりますが、35歳未満であれば、この条件に当てはまらなくても保険診療の対象になります。
3割負担の場合、3か月間の治療費の目安は、診察料や薬代など合わせて1万3000~2万円程度(1日約230円)です。
なお、過去に保険診療により禁煙治療を受けた人が再び治療を受ける場合は、前回の治療の初回診察日から1年が経つまでは自由診療(全額自己負担)となります。
監修:村松弘康(中央内科クリニック院長、東京慈恵医科大学非常勤講師)
「みんなの健康ライブラリー」より (C)保健同人社
たばこの副流煙(たばこの先から出る煙)には、主流煙(喫煙者が吸う煙)よりも多くの有害物質が含まれており、ニコチンは主流煙の2.8倍、発がん性物質であるジメチルニトロソアミンは最大で129倍にもなります。
厚生労働省の発表では、副流煙や喫煙者が吐き出した煙、たばこのにおいが染みついたカーテンや家具などから有害物質を吸い込む「受動喫煙」による病気で、年間に1万5000人が死亡しています。
子どもの場合はSIDS(乳幼児突然死症候群)やぜんそくを引き起こすおそれもあり、妊婦では低体重児出産のリスクが高まります。
これらの被害は、喫煙スペースを分ける「分煙」では完全に防ぐことはできないため、社会全体で禁煙に取り組むことが必要です。
また、電子たばこや加熱式たばこのニコチン含有量は、従来のたばこの約80%でそれほど変わらないため、当然、受動喫煙の害もあります。
「禁煙補助薬」と「禁煙指導」の二つが柱
禁煙外来では、ニコチン切れの症状を抑える禁煙補助薬を用いながら、禁煙指導を受けます。
3カ月で5回受診するのが一般的ですが、一部の健康保険組合が連携する医療機関では、PCやスマホでの診察が受けられる場合に限り、遠隔診療も認められるようになりました。
禁煙補助薬(貼り薬か飲み薬)を選択
禁煙補助薬には、貼り薬の「ニコチンパッチ」と、飲み薬の「バレニクリン」があります。
市販薬の「ニコチンガム」は、保険が適用されず自費購入となります。
■「今日から1本も吸わない!」という人は「ニコチンパッチ」
1日1回、腕などに貼り、ニコチンを皮膚から吸収させて「たばこを吸いたい」という気持ちを抑えます。
パッチを徐々に小さいサイズに替えていくことで、2か月程度でパッチなしでの禁煙が可能に。薬局などで、医師の処方箋がなくても購入できます。
■「今日から禁煙は無理!」という人は「バレニクリン」
バレニクリンはニコチンに似た作用をもつ飲み薬ですが、ドパミンの放出量は少ないので依存は起こりません。
脳内でニコチンの作用部位にバレニクリンが結合すると、その部位にはニコチンが作用できなくなるため、たばこを吸っても「おいしい」と感じなくなります。
1日1錠から服用を始め、1週間かけて量を増やしていくので、服用開始から1週間は喫煙してもかまいません。
禁煙指導で習慣や未練を断ち切る
禁煙外来では、初診時にたばこへの依存度をチェックし、問診で禁煙する目的などを確認したうえで「禁煙宣言書」にサインをします。
その後は、禁煙に役立つ具体的なアドバイスを受けることができます。
<環境を整備する>「自宅にある灰皿やライターを捨てる」「いつも吸っていた場所に物を置いて封鎖する」など、生活の中でたばこを吸いやすい環境をなくします。
<代償行動を決める>「ガムを噛む」「飴をなめる」「飲み物を飲む」、または「深呼吸をする」「体を動かす」「音楽を聴く」など、たばこを吸いたくなったときに代わりにする行動を前もって決めておきます。
「たばこを吸う」という動作をしないことが重要なので、疑似たばこ(たばこの形をしたスティックなど)を吸うのは避けましょう。
<行動パターンを変える>食後の一服が習慣になっていたのであれば、「食後すぐに席を立つ」「食後ゆっくり歯みがきをする」などして、「食後にたばこを吸う」という行動パターンを変更します。
これらの方法により禁煙を続けていくと、吐く息に含まれる一酸化炭素の濃度が下がっていきます。
禁煙へのモチベーションを維持するために、多くの医療機関では受診のたびに呼気の測定を行い、禁煙の成果を数字で確認できるようにしています。
再喫煙を防ぐには
飲み会の席などで「1本くらいなら」と吸ったことがきっかけで、再喫煙に至るケースが多く見られます。
禁煙してしばらくの間は、喫煙可能な店に行くのは控えた方がよいでしょう。
また、家族や同僚に禁煙することを宣言しておくと、外食時は完全禁煙の店にするなど協力も得られやすくなります。
また、「たばこはおいしい」という記憶は、再喫煙を招く原因になります。
禁煙外来で「たばこはおいしくない」と感じる経験をしておくことも重要です。
たばこは吸っている本人だけではなく、周囲の人々の健康にも悪影響を及ぼすもの。たばこへの執着を断ち切り、「禁煙」ではなく「卒煙」することをめざしましょう。
禁煙治療は保険診療が可能です
禁煙治療では「1日当たりの喫煙本数×喫煙年数=200以上」であることが保険診療の条件となりますが、35歳未満であれば、この条件に当てはまらなくても保険診療の対象になります。
3割負担の場合、3か月間の治療費の目安は、診察料や薬代など合わせて1万3000~2万円程度(1日約230円)です。
なお、過去に保険診療により禁煙治療を受けた人が再び治療を受ける場合は、前回の治療の初回診察日から1年が経つまでは自由診療(全額自己負担)となります。
監修:村松弘康(中央内科クリニック院長、東京慈恵医科大学非常勤講師)
「みんなの健康ライブラリー」より (C)保健同人社
たばこ、やめませんか! [健康短信]
受動喫煙意識調査
たばこでいちばんの問題は、言うまでもなく受動喫煙による健康被害だ。
喫煙者本人が健康を害するのは、いわば自己責任、冷たくきめつければ自業自得だ。
自分でもそれを承知で吸っているわけだから、はたでとやかく口出しするのは、よけいなお節介だろう。
しかし、人に迷惑をかけてはいけない。最低、最悪である。
たばこの先から発生する副流煙には、喫煙者自身が吸い込む主流煙よりも多くの有害な化学物質が含まれている。
受動喫煙で、肺がんや心筋梗塞やぜんそくのリスクが高まるのはよく知られているが、最近の疫学調査では糖尿病にもなりやすいことがわかった。
糖を処理するインスリンをつくる膵臓の働きが悪くなり、インスリンが効きにくくもなるためのようだ。
繰り返すが、たばこでいちばんの問題は、受動喫煙である。
たばこのみ本人もそのことはよくわかっているようだ。
たばこ、やめませんか!
製薬会社のファイザーが行った意識調査では、
喫煙者の83.5%が、自分のたばこの煙が周囲の人に与える影響を気にしており、 85.6%が、周囲に人がいるところでは「たばこを控える」と回答している。
この調査は、47都道府県9400人(各都道府県喫煙者・非喫煙者/各100人、計200人)を対象に、インターネットで行った。
たばこの煙で不快な思いをした場合、
「吸うのをやめてほしいとハッキリ言う」人は、わずか3.8%。
「言いたいが我慢する」「その場を立ち去る」人が92.5%とほとんどだ。
傍若無人のたばこのみが、遠慮深い人たちに黙認されているわけである。
そうした状景を減らす最も効果的な施策は、人の集まる場所での喫煙を制限する「受動喫煙防止条例」だろう。
すでに同条例が制定されている神奈川県と兵庫県以外の回答者9000人に、
「受動喫煙防止条例のような公的ルールを、お住まいの都道府県に設けることに賛成ですか?」という質問に、
3570人(39.7%)が「賛成」、
3194人(35.5%)が「どちらかといえば賛成」と回答している。
喫煙者に限定しても、「賛成」が14.9%、「どちらかといえば賛成」が40.0%と、半数以上が条例の制定に肯定的である。
肺の生活習慣病
たばこがつくる病気といえば、肺がん。これは昔からよく知られている。
いま世界的な大問題は、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)だ。
有害な空気を吸い込むことによって、空気の通り道の気道(気管支)や酸素の交換を行う肺(肺胞)などに障害が生じ、呼吸がうまくできなくなる病気。
最大の原因が長期間の喫煙習慣であることから、肺の生活習慣病といわれる。
WHO(世界保健機関)調査では、高所得国における死因の第5位、低・中所得国では第6位だ。
2020年には心疾患、脳卒中に次ぐ第3位になると予測されている。
2000年に行われた大規模疫学調査によれば、日本人の有病率は8.6%、40歳以上の約530万が罹患していると推定される。
だが厚生労働省の2008年の患者調査によると、医療機関でCOPDと診断された患者数は17万3000人に過ぎない。
この病気の初期は自覚症状が少なく、ゆっくりと進行するため病気に気づいていない人が多いためである。
代表的な症状は、息切れだ。
階段や坂道の上がりで息を切らし、同年代の人と一緒に歩いていて、歩くペースが遅れがちになる。
せきとたんがしつこく続き、病気が進むと口すぼめ呼吸をし、胸の前後の幅が増大してビヤだる状になる。
まず禁煙!
どんな病気でもそうだが、COPDの治療も、早く始めるほど、よい。
①40歳以上で、たばこを吸っているか、吸っていた人(長期喫煙者の7人に1人がCOPDになるといわれている)。
② せき、たんがしつこく続く。
③ 階段を上るとき息切れがする人は、ぜひ「肺機能検査」を──。
息をいっぱい吸って、吐き出すだけの簡単な検査だ。
治療は、まずたばこをやめること。
禁煙外来や禁煙教室のある病院を受診し、禁煙を助ける薬を用いるのも一法だ。
たばこをきっぱりやめて適切な治療を受ければ、病気の進行を遅らせ、せきやたん、息切れなどの自覚症状を抑えることができる。
治療は、気管支を広げる気管支拡張薬になるが、症状によっていくつかの薬を組み合わせて用いる。
とにかく、早く診察を受け、根気よく治療を続けることが何よりも大切。
ある専門医はこう言っている。
「何年か先に、健康な人に近い生活を楽しめるか、ほとんどベッドの上で過ごすか。それはあなた次第です。
たばこでいちばんの問題は、言うまでもなく受動喫煙による健康被害だ。
喫煙者本人が健康を害するのは、いわば自己責任、冷たくきめつければ自業自得だ。
自分でもそれを承知で吸っているわけだから、はたでとやかく口出しするのは、よけいなお節介だろう。
しかし、人に迷惑をかけてはいけない。最低、最悪である。
たばこの先から発生する副流煙には、喫煙者自身が吸い込む主流煙よりも多くの有害な化学物質が含まれている。
受動喫煙で、肺がんや心筋梗塞やぜんそくのリスクが高まるのはよく知られているが、最近の疫学調査では糖尿病にもなりやすいことがわかった。
糖を処理するインスリンをつくる膵臓の働きが悪くなり、インスリンが効きにくくもなるためのようだ。
繰り返すが、たばこでいちばんの問題は、受動喫煙である。
たばこのみ本人もそのことはよくわかっているようだ。
たばこ、やめませんか!
製薬会社のファイザーが行った意識調査では、
喫煙者の83.5%が、自分のたばこの煙が周囲の人に与える影響を気にしており、 85.6%が、周囲に人がいるところでは「たばこを控える」と回答している。
この調査は、47都道府県9400人(各都道府県喫煙者・非喫煙者/各100人、計200人)を対象に、インターネットで行った。
たばこの煙で不快な思いをした場合、
「吸うのをやめてほしいとハッキリ言う」人は、わずか3.8%。
「言いたいが我慢する」「その場を立ち去る」人が92.5%とほとんどだ。
傍若無人のたばこのみが、遠慮深い人たちに黙認されているわけである。
そうした状景を減らす最も効果的な施策は、人の集まる場所での喫煙を制限する「受動喫煙防止条例」だろう。
すでに同条例が制定されている神奈川県と兵庫県以外の回答者9000人に、
「受動喫煙防止条例のような公的ルールを、お住まいの都道府県に設けることに賛成ですか?」という質問に、
3570人(39.7%)が「賛成」、
3194人(35.5%)が「どちらかといえば賛成」と回答している。
喫煙者に限定しても、「賛成」が14.9%、「どちらかといえば賛成」が40.0%と、半数以上が条例の制定に肯定的である。
肺の生活習慣病
たばこがつくる病気といえば、肺がん。これは昔からよく知られている。
いま世界的な大問題は、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患(COPD)だ。
有害な空気を吸い込むことによって、空気の通り道の気道(気管支)や酸素の交換を行う肺(肺胞)などに障害が生じ、呼吸がうまくできなくなる病気。
最大の原因が長期間の喫煙習慣であることから、肺の生活習慣病といわれる。
WHO(世界保健機関)調査では、高所得国における死因の第5位、低・中所得国では第6位だ。
2020年には心疾患、脳卒中に次ぐ第3位になると予測されている。
2000年に行われた大規模疫学調査によれば、日本人の有病率は8.6%、40歳以上の約530万が罹患していると推定される。
だが厚生労働省の2008年の患者調査によると、医療機関でCOPDと診断された患者数は17万3000人に過ぎない。
この病気の初期は自覚症状が少なく、ゆっくりと進行するため病気に気づいていない人が多いためである。
代表的な症状は、息切れだ。
階段や坂道の上がりで息を切らし、同年代の人と一緒に歩いていて、歩くペースが遅れがちになる。
せきとたんがしつこく続き、病気が進むと口すぼめ呼吸をし、胸の前後の幅が増大してビヤだる状になる。
まず禁煙!
どんな病気でもそうだが、COPDの治療も、早く始めるほど、よい。
①40歳以上で、たばこを吸っているか、吸っていた人(長期喫煙者の7人に1人がCOPDになるといわれている)。
② せき、たんがしつこく続く。
③ 階段を上るとき息切れがする人は、ぜひ「肺機能検査」を──。
息をいっぱい吸って、吐き出すだけの簡単な検査だ。
治療は、まずたばこをやめること。
禁煙外来や禁煙教室のある病院を受診し、禁煙を助ける薬を用いるのも一法だ。
たばこをきっぱりやめて適切な治療を受ければ、病気の進行を遅らせ、せきやたん、息切れなどの自覚症状を抑えることができる。
治療は、気管支を広げる気管支拡張薬になるが、症状によっていくつかの薬を組み合わせて用いる。
とにかく、早く診察を受け、根気よく治療を続けることが何よりも大切。
ある専門医はこう言っている。
「何年か先に、健康な人に近い生活を楽しめるか、ほとんどベッドの上で過ごすか。それはあなた次第です。
「キレやすい人」ネコ好き、ご用心! [医療小文]
「キレやすい人」はトキソプラズマ感染率が高い?
谷口恭 / 太融寺町谷口医院院長
知っていますか? 意外に多い動物からうつる病気
人間の感情や行動が寄生虫のトキソプラズマに支配されている可能性が高い、と言われたらあなたはどう思うでしょうか。
安物のSF小説じゃあるまいし……、と一笑に付す人もいるでしょう。今回はそう感じた人にこそ読んでもらいたい内容です。
「キレやすい人」で高いトキソプラズマ感染率
まずは、「キレやすい人」はトキソプラズマに感染しているかもしれない、という研究を紹介します。
「間欠性爆発性障害(intermittent explosive disorder、以下IED)」と呼ばれる精神疾患があります。
精神疾患分類の手引として世界的に有名なDSM-5では、
「秩序破壊的・衝動制御・素行症群」に含まれています。
あまり聞きなれない疾患ですが、米国では1600万人もが罹患(りかん)していると言われています。
症状としては、特にストレスなどがたまっているわけでもないのに、突然キレだし、他人に理不尽な言動をとります。
ときに衝動的に物を破壊したり、他人や動物にけがをさせたりすることもあるやっかいな疾患です。
これは私の個人的見解ですが、診断がついておらず、本人も病識がないだけで、日本でも罹患している人は少なくないと思います。
米国の罹患者数を考えると、日本人のうち100万人くらいは該当するかもしれません。
そのIEDの原因がトキソプラズマかもしれないという報告があります。
研究の対象者は合計358人の成人で、内訳はIED患者が110人、他の精神疾患が138人、健常者が110人です。
トキソプラズマ抗体陽性率は、健常者9.1%、他の精神疾患が16.7%、IED群では21.8%です。
「攻撃性(Aggression)」のスコア、「衝動性(Impulsivity)」のスコアを統計学的に解析すると、IED患者では有意にトキソプラズマ感染率が高くなっています。
トキソプラズマ感染と自傷行為の関係
次に紹介するのは、トキソプラズマに感染した女性は自傷行為や自殺をしやすい、という衝撃的な研究です。
医学誌「The Journal of Nervous and Mental Disease(神経・精神障害のジャーナル)」2011年7月号に掲載された論文「女性のトキソプラズマ感染と自殺率」で、ヨーロッパ諸国20カ国での調査を解析した結果、トキソプラズマ陽性率と自殺率が有意に相関していることが報告されました。
さらに、医学誌「Arch Gen Psychiatry(一般精神医学のアーカイブ)」12年11月号(オンライン版は7月2日)に「母親のトキソプラズマ感染と自傷について」という論文が掲載されました。
この研究の対象者はデンマークで生まれ、1992~95年の間に出産した4万5788人の女性です。
結果、トキソプラズマに感染していた母親は、感染していない母親に比べて自傷行為のリスクが1.53倍、自殺企図は1.81倍、自殺はなんと2.05倍にもなるという結果が出ました。
さらに興味深いことに、トキソプラズマの抗体価が高ければリスクも高くなったのです。
抗体価が高いということは、それだけ体内のトキソプラズマが“活動”している可能性が高いことを示しています。
この研究は世界中のマスコミに注目され物議を醸しました。
なんと、論文のオンライン版が発表された同日の夜には英国の新聞「The Telegraph」が「“猫好き女子”は自殺しやすい」(原文は「'Cat ladies' more likely to commit suicide, scientists claim」というタイトルで、かわいい白猫3匹がうつっている写真を掲載し、大衆をあおりました。
この報道は少々行き過ぎたようで、英国民保健サービス(NHS)は翌日の7月3日、この記事に惑わされないようにとの解説をウェブサイトで公開し、注意を促しました。
デンマークのこの研究は、トキソプラズマが女性の自傷行為や自殺を引き起こしたことを証明しているわけではないからです。
人間の精神への影響を指摘する多数の論文
ですが、トキソプラズマが人間の精神に影響を及ぼしていることを指摘する論文は多数あります。
罹患者が多く昔から知られている割にはいまだ原因がわかっていない統合失調症もトキソプラズマとの関連が指摘されています。
統合失調症の患者と健常者の62人ずつを比較検討したイランの研究では、トキソプラズマの感染率は健常者で37.1%であったのに対し、統合失調症患者では67.77%と有意に高値を示しました。
現在のところ、なぜトキソプラズマが人間の精神に影響を与えるのかはっきりしたことは分かっていませんが、マウスを用いた興味深い日本の研究があります。
トキソプラズマToxoplasma gondiiは、単細胞の原虫です。世界中でみられます。
人に寄生して、トキソプラズマ症という感染症を起こします。
帯広畜産大学の西川義文教授らは、トキソプラズマに感染させたマウスでは大脳皮質に障害が起こり、神経伝達物質のドーパミンの消費が増加し、記憶に関連する扁桃(へんとう)体でセロトニンが減少することを突き止め、医学誌に発表しました。
西川教授はさらに、トキソプラズマに対する免疫応答がうつ症状の発症を誘導することを明らかにし、医学誌で報告しています。
ここまでくれば「事実は“SF小説”よりも奇なり」ということを認めたくならないでしょうか?
少なくとも、今後の研究に注目したい、あるいは自分自身のトキソプラズマ抗体を調べてみよう、と思った人もいるのではないでしょうか。
谷口恭 / 太融寺町谷口医院院長
知っていますか? 意外に多い動物からうつる病気
人間の感情や行動が寄生虫のトキソプラズマに支配されている可能性が高い、と言われたらあなたはどう思うでしょうか。
安物のSF小説じゃあるまいし……、と一笑に付す人もいるでしょう。今回はそう感じた人にこそ読んでもらいたい内容です。
「キレやすい人」で高いトキソプラズマ感染率
まずは、「キレやすい人」はトキソプラズマに感染しているかもしれない、という研究を紹介します。
「間欠性爆発性障害(intermittent explosive disorder、以下IED)」と呼ばれる精神疾患があります。
精神疾患分類の手引として世界的に有名なDSM-5では、
「秩序破壊的・衝動制御・素行症群」に含まれています。
あまり聞きなれない疾患ですが、米国では1600万人もが罹患(りかん)していると言われています。
症状としては、特にストレスなどがたまっているわけでもないのに、突然キレだし、他人に理不尽な言動をとります。
ときに衝動的に物を破壊したり、他人や動物にけがをさせたりすることもあるやっかいな疾患です。
これは私の個人的見解ですが、診断がついておらず、本人も病識がないだけで、日本でも罹患している人は少なくないと思います。
米国の罹患者数を考えると、日本人のうち100万人くらいは該当するかもしれません。
そのIEDの原因がトキソプラズマかもしれないという報告があります。
研究の対象者は合計358人の成人で、内訳はIED患者が110人、他の精神疾患が138人、健常者が110人です。
トキソプラズマ抗体陽性率は、健常者9.1%、他の精神疾患が16.7%、IED群では21.8%です。
「攻撃性(Aggression)」のスコア、「衝動性(Impulsivity)」のスコアを統計学的に解析すると、IED患者では有意にトキソプラズマ感染率が高くなっています。
トキソプラズマ感染と自傷行為の関係
次に紹介するのは、トキソプラズマに感染した女性は自傷行為や自殺をしやすい、という衝撃的な研究です。
医学誌「The Journal of Nervous and Mental Disease(神経・精神障害のジャーナル)」2011年7月号に掲載された論文「女性のトキソプラズマ感染と自殺率」で、ヨーロッパ諸国20カ国での調査を解析した結果、トキソプラズマ陽性率と自殺率が有意に相関していることが報告されました。
さらに、医学誌「Arch Gen Psychiatry(一般精神医学のアーカイブ)」12年11月号(オンライン版は7月2日)に「母親のトキソプラズマ感染と自傷について」という論文が掲載されました。
この研究の対象者はデンマークで生まれ、1992~95年の間に出産した4万5788人の女性です。
結果、トキソプラズマに感染していた母親は、感染していない母親に比べて自傷行為のリスクが1.53倍、自殺企図は1.81倍、自殺はなんと2.05倍にもなるという結果が出ました。
さらに興味深いことに、トキソプラズマの抗体価が高ければリスクも高くなったのです。
抗体価が高いということは、それだけ体内のトキソプラズマが“活動”している可能性が高いことを示しています。
この研究は世界中のマスコミに注目され物議を醸しました。
なんと、論文のオンライン版が発表された同日の夜には英国の新聞「The Telegraph」が「“猫好き女子”は自殺しやすい」(原文は「'Cat ladies' more likely to commit suicide, scientists claim」というタイトルで、かわいい白猫3匹がうつっている写真を掲載し、大衆をあおりました。
この報道は少々行き過ぎたようで、英国民保健サービス(NHS)は翌日の7月3日、この記事に惑わされないようにとの解説をウェブサイトで公開し、注意を促しました。
デンマークのこの研究は、トキソプラズマが女性の自傷行為や自殺を引き起こしたことを証明しているわけではないからです。
人間の精神への影響を指摘する多数の論文
ですが、トキソプラズマが人間の精神に影響を及ぼしていることを指摘する論文は多数あります。
罹患者が多く昔から知られている割にはいまだ原因がわかっていない統合失調症もトキソプラズマとの関連が指摘されています。
統合失調症の患者と健常者の62人ずつを比較検討したイランの研究では、トキソプラズマの感染率は健常者で37.1%であったのに対し、統合失調症患者では67.77%と有意に高値を示しました。
現在のところ、なぜトキソプラズマが人間の精神に影響を与えるのかはっきりしたことは分かっていませんが、マウスを用いた興味深い日本の研究があります。
トキソプラズマToxoplasma gondiiは、単細胞の原虫です。世界中でみられます。
人に寄生して、トキソプラズマ症という感染症を起こします。
帯広畜産大学の西川義文教授らは、トキソプラズマに感染させたマウスでは大脳皮質に障害が起こり、神経伝達物質のドーパミンの消費が増加し、記憶に関連する扁桃(へんとう)体でセロトニンが減少することを突き止め、医学誌に発表しました。
西川教授はさらに、トキソプラズマに対する免疫応答がうつ症状の発症を誘導することを明らかにし、医学誌で報告しています。
ここまでくれば「事実は“SF小説”よりも奇なり」ということを認めたくならないでしょうか?
少なくとも、今後の研究に注目したい、あるいは自分自身のトキソプラズマ抗体を調べてみよう、と思った人もいるのではないでしょうか。
SNS経験はうつ病に効く? [健康短信]
SNS上の楽しい経験はうつ病リスクを低減しない?
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などのソーシャルメディア上で、ネガティブな発言に接する経験が多い人は、うつ病になりやすい可能性のあることが、米国の約1200人の大学生を対象とした調査で明らかになった。
一方で、オンライン上で楽しい経験をしても、うつ病のリスクはほとんど低減しないことも示された。
詳細は「Depression and Anxiety(うつ病と不安)」6月6日号に掲載された。
調査の対象は、2016年に、米ウエストバージニア大学に通う18~30歳の学生1179人。
平均年齢は20歳で、女性が62%、白人が72%を占め、約半数が独身だった。
参加者には、ソーシャルメディア上でポジティブあるいはネガティブな発言や情報に接する頻度を尋ねた上で、質問票の回答から抑うつ症状の有無を評価した。
研究者らによれば、一般にソーシャルメディアを利用する人の約83%はこの年齢層が占めるという。
結果、ソーシャルメディア上でネガティブな発言に接する経験の頻度が10%増えると、抑うつ症状が現れるリスクは有意に上昇することがわかった。
一方、ポジティブで楽しい経験の頻度が10%増えても、抑うつ症状が現れるリスクは4%減る程度にとどまっていた。
研究を行った米ピッツバーグ大学メディア・テクノロジー・健康研究センターのBrian Primack氏は、
「ネガティブな経験がうつ病につながることは当然で、これはソーシャルメディアに限ったことではない。
ただ、ポジティブな経験による影響力はネガティブな経験によるものを上回ると予想していたため、楽しい経験をしてもうつ病リスクはそれほど低減しないという結果には驚かされた」と話す。
また、この結果についてPrimack氏は、ネガティブな出来事はポジティブなものよりも脳に多大な印象を与える「ネガティブバイアス」が影響した可能性を指摘している。
「いいね!」や大げさな誕生日のお祝いメッセージなど一見、肯定的な情報があふれかえるオンライン上の架空の世界では、特にこうしたネガティブバイアスに陥りやすいという。
さらに、同氏は「既に抑うつ状態にある人は、オンライン上の発言や情報を否定的に捉えやすい」と指摘する。
個人の性格や精神状態も重要で、普段から疎外感を感じている人はこうした悪循環に陥りやすいとしている。
では、うつ病のリスクを下げるには、どのような対策が考えられるのか?
Primack氏は、ソーシャルメディアの使用を控える以外に、精神科医に相談してオンライン上のネガティブな経験からの回復力を養うことを挙げている。
専門家の一人で、米コロンビア大学医療センター精神科教授のPhilip Muskin氏も、
「ある一部の性格的な特性や障害を持つ人は些細(ささい)な出来事にも敏感で、過剰に反応してしまうことがある」として、ソーシャルメディアを使用していて否定的な感情を抱くことが増えてきたら、心理療法を試してみることを勧めている。
(HealthDay News 2018年6月7日)Copyright 2018 HealthDay. All rights reserved.
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などのソーシャルメディア上で、ネガティブな発言に接する経験が多い人は、うつ病になりやすい可能性のあることが、米国の約1200人の大学生を対象とした調査で明らかになった。
一方で、オンライン上で楽しい経験をしても、うつ病のリスクはほとんど低減しないことも示された。
詳細は「Depression and Anxiety(うつ病と不安)」6月6日号に掲載された。
調査の対象は、2016年に、米ウエストバージニア大学に通う18~30歳の学生1179人。
平均年齢は20歳で、女性が62%、白人が72%を占め、約半数が独身だった。
参加者には、ソーシャルメディア上でポジティブあるいはネガティブな発言や情報に接する頻度を尋ねた上で、質問票の回答から抑うつ症状の有無を評価した。
研究者らによれば、一般にソーシャルメディアを利用する人の約83%はこの年齢層が占めるという。
結果、ソーシャルメディア上でネガティブな発言に接する経験の頻度が10%増えると、抑うつ症状が現れるリスクは有意に上昇することがわかった。
一方、ポジティブで楽しい経験の頻度が10%増えても、抑うつ症状が現れるリスクは4%減る程度にとどまっていた。
研究を行った米ピッツバーグ大学メディア・テクノロジー・健康研究センターのBrian Primack氏は、
「ネガティブな経験がうつ病につながることは当然で、これはソーシャルメディアに限ったことではない。
ただ、ポジティブな経験による影響力はネガティブな経験によるものを上回ると予想していたため、楽しい経験をしてもうつ病リスクはそれほど低減しないという結果には驚かされた」と話す。
また、この結果についてPrimack氏は、ネガティブな出来事はポジティブなものよりも脳に多大な印象を与える「ネガティブバイアス」が影響した可能性を指摘している。
「いいね!」や大げさな誕生日のお祝いメッセージなど一見、肯定的な情報があふれかえるオンライン上の架空の世界では、特にこうしたネガティブバイアスに陥りやすいという。
さらに、同氏は「既に抑うつ状態にある人は、オンライン上の発言や情報を否定的に捉えやすい」と指摘する。
個人の性格や精神状態も重要で、普段から疎外感を感じている人はこうした悪循環に陥りやすいとしている。
では、うつ病のリスクを下げるには、どのような対策が考えられるのか?
Primack氏は、ソーシャルメディアの使用を控える以外に、精神科医に相談してオンライン上のネガティブな経験からの回復力を養うことを挙げている。
専門家の一人で、米コロンビア大学医療センター精神科教授のPhilip Muskin氏も、
「ある一部の性格的な特性や障害を持つ人は些細(ささい)な出来事にも敏感で、過剰に反応してしまうことがある」として、ソーシャルメディアを使用していて否定的な感情を抱くことが増えてきたら、心理療法を試してみることを勧めている。
(HealthDay News 2018年6月7日)Copyright 2018 HealthDay. All rights reserved.