猫とトキソプラズマ [医学・医療・雑感小文]
尻なめた舌でわが口なめる猫 好意謝するに余りあれども 寒川猫持
寒川氏は「歌人・目医者」で「猫持」はむろん筆名。
軽妙な筆致のエッセイ集が何冊もある。
「犬と違って、猫が飼い主をなめるのは余程のことである。
アイ・ラブ・ユーの印である。
なるべく黙ってなめてもらうことにしているが、尻をなめた舌で口を、となると話は別である。
猫のウンチにはトキソプラズマという原虫がいる。
そんなものを口移しされたのではたまらない」と、猫持先生。
トキソプラズマは、哺乳類や鳥類に寄生する原虫。
最終的に(「終宿主」という)ネコの体内で生殖し、糞便中にオーシスト<胞嚢体(ほうのうたい)>というタマゴみたいなモノが出てくる。
また、ブタやヒツジなどの筋肉の中にはオーシストを膜状の袋<包嚢(ほうのう)>でくるんだシスト<嚢子(のうし)>が寄生している。
人間には多くのばあい猫糞(ねこばば)の中のオーシストや、豚肉などの中のシストから感染する。
人間にうつったトキソプラズマは、普通は何の症状も現れない(不顕性感染という)が、まれに発病すると発熱、発疹(しん)、リンパ節炎(ぐりぐり)、肺炎、脳炎、脈絡網膜炎(目の病気)などを起こす。
妊娠中の女性が初めて感染すると、胎児にも感染して、流産や死産をひき起こし、これを免れたばあいでも水頭症、小頭症、脈絡網膜炎などの赤ちゃんが生まれる(先天性トキソプラズマ症)。
矢野明彦・千葉大学医学部教授(寄生虫学)の調査によると、過去3年間に全国で19人の新生児がトキソプラズマに感染し、9人が水頭症などにかかり、うち2人が死亡、残りの7人も重い障害が残った。
ほかの10人は妊娠中の検査でトキソプラズマの感染がわかり、治療するなどして新生児の発症はなかった。
成人のトキソプラズマ症同様、この先天性トキソプラズマ症も、以前はめったにみられない病気だったのだが、近年ややふえているのは、日本人にはびこっている「超清潔症候群」のせいだと、『笑うカイチュウ』などの著者、東京医科歯科大学の藤田紘一郎名誉教授(寄生虫学)は言っている。
「トキソプラズマは、ネコの便から感染するというので、ネコが悪者扱いされているが、感染経路はネコよりもむしろ加熱の不十分な豚肉のほうが多い。
それにしても感染率は下がっているし、仮に感染してもどうってことはない。
問題は、妊婦が妊娠中に初めて感染すると、母親は大丈夫だけど胎児に感染して、新生児に重大な影響が出ることです。
子どものうちにかかっていたら何でもない病気なのに、感染率が下がってくると、妊婦が初めて感染する率はそれだけ上がる。
感染率が下がったぶん、逆に胎児に行く発症率はふえている、という妙な時代になっている。
猫の糞(ふん)なんかこわがらないで、妊娠年齢になる前にうつっといたほうがいいんですよ」と、藤田紘一郎教授。
近年、トキソプラズマ症がややふえている理由は、ペットブームのせいではないか、と矢野教授は指摘している。
「飼い猫のフンなどに含まれたトキソプラズマがソファーなどに付着、空気中に舞い上がったものが口から入ることが考えられる」そうだ。
なお、猫から人にうつる感染症猫から人にうつる感染症としては、他にパスツレラ症、猫ひっかき病などがある。
寒川氏は「歌人・目医者」で「猫持」はむろん筆名。
軽妙な筆致のエッセイ集が何冊もある。
「犬と違って、猫が飼い主をなめるのは余程のことである。
アイ・ラブ・ユーの印である。
なるべく黙ってなめてもらうことにしているが、尻をなめた舌で口を、となると話は別である。
猫のウンチにはトキソプラズマという原虫がいる。
そんなものを口移しされたのではたまらない」と、猫持先生。
トキソプラズマは、哺乳類や鳥類に寄生する原虫。
最終的に(「終宿主」という)ネコの体内で生殖し、糞便中にオーシスト<胞嚢体(ほうのうたい)>というタマゴみたいなモノが出てくる。
また、ブタやヒツジなどの筋肉の中にはオーシストを膜状の袋<包嚢(ほうのう)>でくるんだシスト<嚢子(のうし)>が寄生している。
人間には多くのばあい猫糞(ねこばば)の中のオーシストや、豚肉などの中のシストから感染する。
人間にうつったトキソプラズマは、普通は何の症状も現れない(不顕性感染という)が、まれに発病すると発熱、発疹(しん)、リンパ節炎(ぐりぐり)、肺炎、脳炎、脈絡網膜炎(目の病気)などを起こす。
妊娠中の女性が初めて感染すると、胎児にも感染して、流産や死産をひき起こし、これを免れたばあいでも水頭症、小頭症、脈絡網膜炎などの赤ちゃんが生まれる(先天性トキソプラズマ症)。
矢野明彦・千葉大学医学部教授(寄生虫学)の調査によると、過去3年間に全国で19人の新生児がトキソプラズマに感染し、9人が水頭症などにかかり、うち2人が死亡、残りの7人も重い障害が残った。
ほかの10人は妊娠中の検査でトキソプラズマの感染がわかり、治療するなどして新生児の発症はなかった。
成人のトキソプラズマ症同様、この先天性トキソプラズマ症も、以前はめったにみられない病気だったのだが、近年ややふえているのは、日本人にはびこっている「超清潔症候群」のせいだと、『笑うカイチュウ』などの著者、東京医科歯科大学の藤田紘一郎名誉教授(寄生虫学)は言っている。
「トキソプラズマは、ネコの便から感染するというので、ネコが悪者扱いされているが、感染経路はネコよりもむしろ加熱の不十分な豚肉のほうが多い。
それにしても感染率は下がっているし、仮に感染してもどうってことはない。
問題は、妊婦が妊娠中に初めて感染すると、母親は大丈夫だけど胎児に感染して、新生児に重大な影響が出ることです。
子どものうちにかかっていたら何でもない病気なのに、感染率が下がってくると、妊婦が初めて感染する率はそれだけ上がる。
感染率が下がったぶん、逆に胎児に行く発症率はふえている、という妙な時代になっている。
猫の糞(ふん)なんかこわがらないで、妊娠年齢になる前にうつっといたほうがいいんですよ」と、藤田紘一郎教授。
近年、トキソプラズマ症がややふえている理由は、ペットブームのせいではないか、と矢野教授は指摘している。
「飼い猫のフンなどに含まれたトキソプラズマがソファーなどに付着、空気中に舞い上がったものが口から入ることが考えられる」そうだ。
なお、猫から人にうつる感染症猫から人にうつる感染症としては、他にパスツレラ症、猫ひっかき病などがある。
酒と認知症 [医学・医療・雑感小文]
遅咲きの梅と早咲きの桃の共演に間なしに桜の開花が始まる。
そこへもってきて、
ともかくも 卒業したる めでたさよ 富安風生
「コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
『サヨナラ』ダケガ人生ダ」
(井伏鱒二「厄除け詩集 勧酒」)
というわけで、飲もう、飲もう、飲むべし、
三月や酒進むこと進むこと 稲畑廣太郎
てな、折も折、新聞の「海外短信」でこんな記事を読んだ。
「慢性的な大量飲酒、認知症との関連が明らかに」
慢性的な大量飲酒は、あらゆる種類の認知症、特に早期発症型の認知症の主要な危険因子であることが、公衆衛生に関する専門誌「ランセット・パブリック・ヘルス」に発表された研究論文で明らかになった。
研究者らがフランスの早期発症型認知症の5万7000件以上の症例を調査した結果、半分を優に超える数がアルコール関連、またはアルコール乱用の診断が追加されたものであることが判明した。
全体として、アルコール摂取障害は、あらゆる種類の認知症でリスクが3倍高くなることに関連づけられた。
従来の研究では、認知機能に対するアルコールの影響については結論が出ていなかった。
一部の研究では、少量から中量の飲酒には利点がある可能性を示しているが、他の研究では、大量飲酒は認知症のリスクを上昇させると結論づけている。
世界保健機関(WHO)は「慢性過剰飲酒」の定義として、男性で基準量の6杯かそれ以上である1日当たり純アルコール60グラム以上(アルコールドリンク約6杯以上に相当)、女性で40グラム以上としている。
今回の調査では、研究者らは2008年から2013年に認知症と診断されたフランスの成人100万人以上の医療記録を精査した。
結果、アルコールとの関連が統計学的に明白であることが示されたため、論文著者は検査の実施や大量飲酒への介入、アルコール依存症治療などを提案している。
これまでの研究でも、大量飲酒や喫煙と、うつ病、学歴の低さは、認知症の危険因子としての関連性が確立されている。
今回の研究は、フランス全土の病院の6年間にわたる患者の退院記録に基づいたもので、稀な認知症と関連する疾病の患者や若年の精神障害の人々は対象者から除外されている。
研究論文の主著者Michael Schwarzinger氏は、
「認知症の原因としてのアルコール摂取障害が負う割合は、これまで考えられていたよりずっと大きい。
認知症とアルコール使用障害との関連については引き続き検証する必要があるが、アルコールが脳の構造や機能に永続的なダメージを与えた結果ではないか」と考察。
さらに、アルコール使用障害によってリスクが高まるとされている高血圧や糖尿病、脳卒中、心房細動、心不全は血管性認知症のリスクを上昇させる可能性もあること、多量飲酒者に多くみられる喫煙や抑うつ、低学歴も認知症のリスク因子であることを指摘している。
その上で、「アルコール使用障害に起因した認知症は予想以上に多い。
したがって、多量飲酒が全ての型の認知症の主要なリスク因子であることを認識しておく必要がある」と強調。
アルコール飲料を入手しにくくするほか、増税や広告および販売への規制といった対策を講じるとともに、アルコール使用障害の早期発見と早期治療を推し進める必要性を訴えている。
英エクセター大学医学部Clive Balland教授は、
「極めて重要な研究結果」と高く評価。
「今回の研究では、アルコール使用障害、そしておそらくは飲酒が認知症を予防する上で修正可能なリスク因子であることが示された。
このエビデンスは極めて強固なものだ。われわれは、アルコール使用障害や飲酒は認知症に関連するという明確なメッセージを人々に伝え、対策を進める必要がある」と訴えている
そこへもってきて、
ともかくも 卒業したる めでたさよ 富安風生
「コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
『サヨナラ』ダケガ人生ダ」
(井伏鱒二「厄除け詩集 勧酒」)
というわけで、飲もう、飲もう、飲むべし、
三月や酒進むこと進むこと 稲畑廣太郎
てな、折も折、新聞の「海外短信」でこんな記事を読んだ。
「慢性的な大量飲酒、認知症との関連が明らかに」
慢性的な大量飲酒は、あらゆる種類の認知症、特に早期発症型の認知症の主要な危険因子であることが、公衆衛生に関する専門誌「ランセット・パブリック・ヘルス」に発表された研究論文で明らかになった。
研究者らがフランスの早期発症型認知症の5万7000件以上の症例を調査した結果、半分を優に超える数がアルコール関連、またはアルコール乱用の診断が追加されたものであることが判明した。
全体として、アルコール摂取障害は、あらゆる種類の認知症でリスクが3倍高くなることに関連づけられた。
従来の研究では、認知機能に対するアルコールの影響については結論が出ていなかった。
一部の研究では、少量から中量の飲酒には利点がある可能性を示しているが、他の研究では、大量飲酒は認知症のリスクを上昇させると結論づけている。
世界保健機関(WHO)は「慢性過剰飲酒」の定義として、男性で基準量の6杯かそれ以上である1日当たり純アルコール60グラム以上(アルコールドリンク約6杯以上に相当)、女性で40グラム以上としている。
今回の調査では、研究者らは2008年から2013年に認知症と診断されたフランスの成人100万人以上の医療記録を精査した。
結果、アルコールとの関連が統計学的に明白であることが示されたため、論文著者は検査の実施や大量飲酒への介入、アルコール依存症治療などを提案している。
これまでの研究でも、大量飲酒や喫煙と、うつ病、学歴の低さは、認知症の危険因子としての関連性が確立されている。
今回の研究は、フランス全土の病院の6年間にわたる患者の退院記録に基づいたもので、稀な認知症と関連する疾病の患者や若年の精神障害の人々は対象者から除外されている。
研究論文の主著者Michael Schwarzinger氏は、
「認知症の原因としてのアルコール摂取障害が負う割合は、これまで考えられていたよりずっと大きい。
認知症とアルコール使用障害との関連については引き続き検証する必要があるが、アルコールが脳の構造や機能に永続的なダメージを与えた結果ではないか」と考察。
さらに、アルコール使用障害によってリスクが高まるとされている高血圧や糖尿病、脳卒中、心房細動、心不全は血管性認知症のリスクを上昇させる可能性もあること、多量飲酒者に多くみられる喫煙や抑うつ、低学歴も認知症のリスク因子であることを指摘している。
その上で、「アルコール使用障害に起因した認知症は予想以上に多い。
したがって、多量飲酒が全ての型の認知症の主要なリスク因子であることを認識しておく必要がある」と強調。
アルコール飲料を入手しにくくするほか、増税や広告および販売への規制といった対策を講じるとともに、アルコール使用障害の早期発見と早期治療を推し進める必要性を訴えている。
英エクセター大学医学部Clive Balland教授は、
「極めて重要な研究結果」と高く評価。
「今回の研究では、アルコール使用障害、そしておそらくは飲酒が認知症を予防する上で修正可能なリスク因子であることが示された。
このエビデンスは極めて強固なものだ。われわれは、アルコール使用障害や飲酒は認知症に関連するという明確なメッセージを人々に伝え、対策を進める必要がある」と訴えている